真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「本屋に行くとトイレに行きたくなる現象」「青木のりこ現象」「その現象って名前あったんだ! のコーナーでしたー」「くじらさんに怒られねえかな・・・」


それでは、どうぞ。


第十五話 メイド達と本屋に

あれからしばらく。

詠に無理やり引っ張られて立ち直らされた俺も加わって、ようやく響も復活させることができた。

いつもの四人に俺と卑弥呼を足した妙な一団となった俺たちは、変に張り切っている卑弥呼のおかげでかなりスムーズに仕事を進めることができた。

そのため、かなり時間が空いたので、みんなで街に繰り出したのだが・・・。

街の視線を独り占めしてしまっている。・・・いや、まぁ理由は分かるんだけど。

 

「えへへ、ギルさんと街に来たのは・・・へぅ、あの時以来ですね」

 

「!? ちょっとギル!? そんなこと聞いてないわよっ!」

 

「お、ギルギル、あっちに良い感じに怪しい店があるよ。行って見ない?」

 

「ちょっと男女。ギルを引っ張っていくんじゃないわよ。わらわと一緒に服を見に行くんだから」

 

「あ、あははー・・・何この状況。・・・むむぅ、この流れ、乗るしかないねっ」

 

「うおっ、響、そこは流れじゃなくて俺の背中だっ」

 

背中に飛び乗ってきた響を支えながら、こっそりとため息をつく。

前回街に来たときのことを思い出しているのか照れている月とそれを問いただしている詠は俺の半歩前を歩いている。

両隣には孔雀と卑弥呼が陣取っており、二人とも左右それぞれの方向へ服の裾を引っ張る。

そして、極めつけは背中に乗る響である。

そりゃ、街の皆さんも気になりますよねぇ。

 

「・・・あー、ほら、取りあえずどこかで落ち着こうぜ。そこでこれからどこ行こうか決めようじゃないか」

 

まさかここまでカオスになるとは思わなかった。

・・・ちょっとだけ、以前の子供たちの騒動を思い出したのは内緒である。

 

・・・

 

昼時だったので、軽食を取れる店へと立ち寄った俺たちは、食後の茶を楽しみながらこれからについて話し合っていた。

やはりと言うかなんというか、みんなそれぞれ行きたい場所は違うようだ。

孔雀は先ほど言っていた良い感じに怪しい店、卑弥呼は服屋、詠は眼鏡を見たいらしい。

月はギルさんとならどこでも楽しいです、と嬉しいことを言ってくれた。

そして、響の行きたいところは・・・。

 

「はぁ? 本屋ぁ?」

 

きょとんとした顔でそう口にした詠は、月にこら、とたしなめられていた。

・・・しかし、意外だな。響が本を読んでいるところなんて見たことないから、本屋に行きたいなんて言い出すとは・・・。

 

「えへへ、やっぱり意外かな」

 

「・・・だね。詠とか・・・後、朱里とか雛里なら分かるけどさ」

 

「でも、みんなで本屋さんに行くのも楽しいかもしれませんね」

 

照れたように頭を掻く響に孔雀と月がそれぞれ返す。

ま、今日のお出かけは最近構って上げられない響のためのようなもんだし、響の行きたいところに付き合ってみようか。

 

「よし、じゃあ本屋にしようか。みんなも良いか?」

 

「はいっ」

 

「んー、いいわよ。ボクも新刊は気になるし」

 

「わらわも構わないわ」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

他の四人も首を縦に振ってくれたので、次の行き先は本屋に決まった。

・・・にしても、響も本を読むんだなぁ。意外と読書家だったりしてな。

 

・・・

 

ぞろぞろと本屋へとやってきた俺たちは、見たい本が別々なため、一旦ばらばらになることにした。

俺と月は特に見たいものもないので、いろいろと冷やかしながらみんなの様子を見て回ることに。

かなり大きい書店なので、みんなすぐに見えなくなってしまった。

 

「・・・月、なんか見たい本とかあるか?」

 

「んーと・・・あ、お料理の本が見てみたいですっ」

 

月はぽん、と手を叩きながら言った。

料理の本って・・・レシピ本みたいなものか。

そういうの売ってるんだなぁ、と呟くと、それを聞いた月が

 

「大戦も終わって、平和になりましたから。こういう本を書いたり見たりする余裕ができた、と言うことではないでしょうか」

 

「・・・なるほど、そういわれるとそうかもな」

 

戦争が続いていた頃は、料理本を書く余裕も見る余裕もなかっただろう。

今なら、山賊やいまだにいる黄巾党の残党との小競り合いはあるものの、大きな戦は無いと言っても良い。

 

「良く見たら、裁縫の指南書とかもあるんだな」

 

『これであなたも大丈夫! 初めてでも作れる12着!』と言う本を手に取る。

・・・なぜ12着。一ヶ月に1着か? 

 

「その人の本は、初心者に優しく書いてあると評判なんですよ。私も、最初はお世話になりました」

 

そういいながら、いくつかの本を手に取る月。

 

「結構出てるんだな、その本の続編」

 

「はい。そのお裁縫の本と書いてる人は一緒なんですけど、こっちは基礎を身につけた後に役立つ本ですね」

 

凄いな、このシリーズ書いてる人。

 

「・・・ほら、それ持つよ」

 

本も重なれば意外と重いのである。月の細腕では長時間持つのは辛いだろう。

 

「あ・・・すみません、お願いします」

 

「いいって事よ。・・・さて、それじゃあみんなの様子を見て回るか」

 

「はいっ」

 

空いた手で月と手を繋ぎながら、俺たちは四人を探しに歩き出した。

 

・・・

 

「・・・むぅ」

 

その頃。詠はとある本の前で唸っていた。

本の題名は『これであなたも大丈夫! 彼を夢中にさせる24の奥義!』である。

・・・もちろん、書いているのは先ほどの裁縫や料理の本を書いた者と同一人物だ。

 

「どうしようかしら・・・」

 

ちらりと目に入って気になったから目を通してみるだけのつもりだったのだが、案外中身が気になってしまったようだ。

立ち読みで済ませようという考えは流石に無い。そこかしこにいる店員にいやな目で見られるだけだし、数少ない本を一人で独占し続けるのも常識的にいけない。

・・・購入するための金はもちろん足りている。だが、買った後、孔雀や卑弥呼あたりに見つかったら・・・

 

「いや、むしろ・・・ギルに見られたほうが不味いわね」

 

そのことを想像しているのか、一人で百面相している詠の周りには、いつの間にか人がいなくなっている。

この状況を見られても不味いことになるという考えは浮かばないらしい。一人で存分に悶えている。

 

「あれ? 詠、何やってるんだ?」

 

「えっ? ・・・あ、ち、違うのよ! 別にアンタに見られたことを考えてたんじゃなくて・・・!」

 

背後から聞こえてきたギルの声に、詠はとっさに本を背中に隠してしまった。

頭の中ではこの場を切り抜けてどうやってこの本を買うかについて思考し始めていた。

ここまで来てしまった以上、この本を買ってしまうらしい。

 

「? ・・・変な詠だな。なんか良い本は見つかったか?」

 

「み、みみみ見つからないわねっ」

 

「そっか。・・・他の三人はどこにいるかな」

 

そう言い放った詠の目はかなり泳いでいた。

ギルは他の三人を探しているためか、あたりを見回しているおかげでそれには気づかなかったようだが、月は親友のおかしな様子をばっちりと見ていた。

 

「・・・そういえば詠ちゃん、新刊が気になるって言ってなかった? あっちの棚にいろいろあったけど、見てこなくていいの?」

 

「えっ? ・・・あ、ああっ、そうね! ボク、ちょっと新刊見てくるっ!」

 

「ん、分かった。俺たちあっちのほううろうろしてるから、選び終わったらおいで」

 

「分かったわっ!」

 

そう言って半ば逃げるように駆け出していく詠。

感謝を伝えるために月の方を見ると・・・。

 

「・・・」

 

ぱくぱくと口だけを動かして何か伝えようとしているようだ。

ええと、と月の口の動きから何を言おうとしているのか推理する詠。

 

「・・・帰ったら詳しく、ね」

 

笑顔の月に手を振ってありがとうと伝え、会計を済ませるために歩調を速めた。

 

・・・

 

「・・・ふむ」

 

詠が本の会計を済ませている頃。

孔雀は一冊の本の前で考え込んでいた。

 

「この作者の本ははずれがないからなぁ。・・・でも、お金がなぁ」

 

宝石魔術ってお金掛かるんだよねぇ、とため息をつきながら財布を閉じる。

今日は諦めよう。そう決心してその場から離れる。

 

「・・・ふぅ、なんだか物悲しいから、ギルに突撃してくるかな」

 

あたりを見回しながら、本人が聞いたら逃げる準備を始めそうな一言を呟く。

次の瞬間、タイミングよくギルが孔雀の前へと現れ、声をかけてきた。

 

「お、孔雀発見」

 

「せいっ!」

 

「なんでっ!?」

 

ギルの声が聞こえてからの孔雀の動きは早かった。

魔力で無駄に強化した脚力で加速し、常人の反応速度を超えた勢いで腹部へ突撃。

隣にいる月に瞬きすらさせないまさに効率的で効果的な魔術運用の例だといえるだろう。

 

「何の意図があってこんなことを・・・」

 

「あ、うん。なんとなく」

 

ぐぅ、とぶつかられた場所をさすりながら聞くギルに、孔雀はしれっと答える。

ギルは何かを言おうとしたが、結局小さく息を吐くだけに留まった。

 

「・・・もういいや。とりあえず、本を落とさなかったことを褒めてくれ」

 

「凄いや! 流石ギル!」

 

「凄いですギルさん!」

 

「息ぴったりだな、二人とも。・・・で、孔雀は何か良さそうなのあったか?」

 

「ん? ・・・今日のところはないかな。ボクはもう大丈夫だから、他の三人を探しにいこうよ」

 

そう言って歩き出す孔雀を追いかけるように二人も歩き始めた。

 

・・・

 

「構わないわ、と言ったものの・・・。わらわは読むより書く方が好きなのよねぇ」

 

一人呟きながら店内を歩く卑弥呼は、適当な本を手に取ったりして冷やかしていた。

筆やらの筆記用具を見に行こうとも思ったが、少し前に買い換えたばかりだと思い直し、とりあえずぶらぶらと店内を歩いている。

 

「・・・にしても人が多いわねぇ。全員わらわにひれ伏さないかしら」

 

そうしたらもっと通りやすいんだけど、とため息をつく。

 

「・・・何を馬鹿なことを言ってるのよ」

 

「は? ・・・って、なんだ、ゴールドぐるぐるドリルじゃない」

 

「あんたねえ・・・。人の名前くらい覚えなさい。華琳よ」

 

こめかみをひくひくと引きつらせながら答える華琳。

あーそうそう、とぞんざいに返した卑弥呼は、華琳の周りを見て口を開く。

 

「で、今日はどうしたのよ? 右目も左目も猫耳も連れてないじゃない」

 

「・・・春蘭は訓練で、秋蘭はそれに付き合ってるわ。桂花は朱里たちと軍師の集まりがあるとかで朝早くからいないわね」

 

「ふーん。あ、あれは? 御使い」

 

「春蘭に連れてかれたわ。・・・まぁ、死にはしないと思うけど」

 

遠くを見ながらそう言った華琳に、卑弥呼は目をそらしながらそんな事言っても説得力ないわよ、と心の中だけで呟いた。

ま、それはどうでもいいんだけどと自分の中で結論を出しながら、卑弥呼は口を開く。

 

「あー、あれはしぶといからねえ。で、アンタは暇になってこんなところまで?」

 

「ええ。午前中はやることがないの。それで、ここにはまだ来たことなかったし、ちょっと寄ってみたのよ」

 

「そ。ま、いいわ。それじゃね」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「あによ」

 

立ち去りかけたところに声をかけられたからか、少しだけ機嫌悪そうに言葉を返す卑弥呼。

そんな卑弥呼の様子に気づいていないのか気づいて無視をしているのか、華琳は普段と同じように言葉を続ける。

 

「あなたは・・・その、一人?」

 

「違うけど?」

 

「・・・そう。ならいいわ。引き止めて悪かったわね」

 

「変なの・・・ん? ・・・ははーん」

 

再び立ち去ろうと踵を返しかけた卑弥呼だが、何かに気づいたのか華琳のほうへ顔だけを向けた。

華琳はうろたえた様子をしつつも、怯まずに言葉を返す。

 

「な、なによ」

 

「寂しいのね? アンタ、友達いなさそうだしなぁ」

 

「ぐっ・・・!」

 

「いいわよぉ? 別に、一緒に回ってあげても」

 

「いいわよ別に! ・・・やめなさいその気味の悪い笑顔!」

 

にたにた、と言う表現がぴったりの笑顔を浮かべる卑弥呼は、華琳の肩に腕を回す。

どうみても酔っ払いが絡んでいるようにしか見えない。

 

「・・・おいおい卑弥呼。街の人に絡むなよ・・・って、華琳?」

 

「ギル、いいところに来たわね。この素面の振りした酔っ払い連れてってくれないかしら」

 

「ちょっと聞きなさいよギル。この子、友達がむぐぅっ」

 

「少し黙ってなさい。ほら、ギル。あなたの連れでしょう? さっさと連れて行ってくれないかしら」

 

ギルは怪訝な顔をしつつも卑弥呼を受け取る。

 

「それじゃ、私はそろそろ城に戻るから」

 

「おう。気をつけろよ」

 

分かってるわよ、と背中越しに言い残して、華琳は去っていった。

 

「・・・と言うか、卑弥呼って華琳と仲良かったんだな」

 

「ん、まぁね。ちょっと前にひょんなことから仲良くなったのよ」

 

「ふぅん。・・・あ、卑弥呼は何か良い本あったか?」

 

「んーん。というか、わらわ読むより書く方が好きなのよ」

 

「え? そうなのか?」

 

「うん。なんせ、書いてるときのわらわは弟ですら近寄らなくなるくらいだから」

 

「・・・それは凄いな」

 

なんだか変な顔をしたギルがそう返すが、卑弥呼はそうかしら? と何でそんな顔をするのか分かっていない様子だ。

 

「まぁいいや。それじゃ、響を探しに行こうか」

 

「そうね。そろそろ良い時間でしょうし」

 

途中で会計を終えて追いついた詠も加え、周りの視線を集めながら五人は響を探して歩き始めた。

 

・・・

 

「ふんふふーん」

 

鼻歌を歌いながら店の中をあてもなく歩く響。

本屋に行きたいと言ったのは何か欲しい本があるから、と言うわけではなく、ただ昔本屋で働いていた頃がふと懐かしくなったので立ち寄ってみたいと思っただけだった。

 

「・・・ま、あの頃いた本屋とは大きさも何もかも違うけどねえ」

 

誰に言うでもなく呟くと、再び鼻歌を歌いながら店内を歩く。

歩いているだけでも楽しいらしく、響の表情はずっと笑顔である。

 

「おっと、そろそろギルさんと合流しないと」

 

そうは言ってみたものの、どこにギルがいるのかは分からない。

とりあえず入り口まで戻ってみよう、とあまり悩まずに決めると、進路を変える。

少し進むと、視界の端になにやら妙なものが見えた。

 

「ありゃ、どうしたのかな?」

 

「ふぇ・・・」

 

しゃがみこんで泣いているらしい少女に近づき、優しく声をかける。

少女は涙目のまま響を見上げ、えぐ、えぐとしゃくりあげる。

 

「迷子かな。・・・誰と一緒に来てたの?」

 

「おかーさん」

 

「そっかー」

 

少女をあやしながら、念話でアサシンへ話しかける。

内容は霊体化してこちらまで来て欲しい、というものだ。

 

「もうちょっとだけ待っててね、すぐに見つけてあげるから」

 

実体化し、気配遮断をしながら本棚の上に潜むアサシンに、子供を捜しているそぶりを見せる母親を探して欲しいと追加でお願いする。

すぐに動き始めたアサシンに、頼んだよ、と心の中で呟いて少女と視線を合わせるためにしゃがむ。

 

「お母さんが見つかるまで、お姉ちゃんと一緒にいようね」

 

「・・・うん」

 

どこから来たのか、お母さんはどんな人か、と話を繋いでいると、アサシンからそれらしき人物を発見した、と報告が来た。

視覚を共有して確認してみると、今しがた女の子から聞いた特徴と一致する。

 

「・・・あれ?」

 

ふと、声が漏れた。

母親だけに注目していたから一瞬分からなかったが、周りにはギルたちもいた。

おそらく子供を捜す母親と出会ったギルたちが一緒に探していたんだろう。

偶然に少しくすりと笑いながらも、よっし、と言って立ち上がる。

 

「お母さん見つけたよ。いこっか!」

 

「ほんと?」

 

「ほんと! こっちだよ!」

 

女の子とはぐれないように手を繋ぎながら、アサシンの反応を目指して歩き始める。

向こうもこちらに向かっていたからか、すぐに母親とギルたちを見つけた。

 

「おかーさん!」

 

「うわっと、走ったら危ないよー・・・って、聞いてないよねえ」

 

女の子は母親に駆け寄り、抱きついた。

隣にいたギルたちもほっとした顔をした後、こちらに気づいたようだ。

おーい、とギルが手を振っているのを見て、響も駆け寄って抱きつく。

 

「おっと。おいおい、響もかよ」

 

「えへへー、いいでしょ。ご褒美だよご褒美」

 

ちらりと少女のほうを見てみると、少女もこちらを見ていたらしく、ばっちり目が合った。

一瞬の間のあと、どちらからともなくくすくすと笑いが漏れる。

 

「本当に、ありがとうございました」

 

「いえいえ、私は偶然その子を見つけただけだし・・・」

 

本屋から出た一行は、先ほどの親子にお礼を言われているところだった。

響は気恥ずかしそうに手を振っているが、顔には笑顔が浮かんでいる。

それでは、と立ち去る母娘に手を振った後、響はギルの手に自分の手を絡めた。

 

「ん? ・・・どうした、響。寂しくなったか?」

 

「・・・んー、ま、そんなとこ」

 

よーっし! それじゃ帰ろうか! と元気な声を出した響は、ギルの手を引きながら半ば走るように城へと向かった。

 

・・・

 

「ふぅ、やっと終わった」

 

「お疲れ様です、ギルさん」

 

「ありがと。さて、風呂に入って寝るかなぁ」

 

仕事が終わり、すっかり日も暮れて真っ暗な中通路を歩きながら独り言のように呟く。

隣を歩く月は、その言葉を聞いて息を呑んだ後

 

「お、お背中を流しましょうかっ!?」

 

なんて言い放った。

あー、それもいいかもしれないなー、と考えながら月の頭を撫でつつ歩いていると、俺の部屋の前に人影が。

あれ? 詠かな。

・・・でも、詠はまだ仕事のはずだし・・・。

 

「あれ、誰かいますね」

 

隣を歩く月も気づいたらしく、前を向いたままそう言った。

月の声で向こうも気づいたらしい。こちらへ歩いてくるのは・・・

 

「あれ、響か」

 

「えへへ、お仕事お疲れ様、ギルさん、月」

 

「ああ、お疲れ。俺の部屋の前にいたみたいだが・・・俺に用か?」

 

「うん。・・・あの、月。ギルさんを少し借りたいんだけど・・・」

 

いつもの元気な様子は鳴りを潜め、伏し目がちに月に声をかける響は、なにやら緊張しているようだった。

・・・まさか、と言う思いが一瞬よぎるが、予想と違う可能性の事を考えてそのことをしまっておいた。

 

「・・・ええ、分かりました。ギルさん、今日はお先に休ませていただきますね」

 

響の言葉に首肯しながら、月は俺にそう伝えてきた。

 

「ん、分かった。すまんな、月」

 

「いえ。・・・響ちゃんのお話、ちゃんと聞いてあげてくださいね?」

 

「ああ。それじゃあ、お休み、月」

 

「はい。おやすみなさい」

 

俺たち二人に挨拶をして、月は自分の部屋へと戻っていった。

できれば送っていきたかったが、流石に響を置いてそんなことはできない。

 

「立ち話もなんだし、入りなよ」

 

扉を開けて響にそう促すと、ゆっくりと頷いた響が部屋の中へと入っていく。

その後ろに続いて部屋に入り、扉を閉めて部屋に灯りを灯す。

寝台に腰掛けると、響が隣に腰を下ろした。

 

「あ、なんか飲むか?」

 

「ううん、いい」

 

「そうか・・・」

 

なんだかしおらしい響と言うのは調子が狂うな・・・。

しばらく響の言葉を待っていると、響は静かに口を開いた。

 

「あ、あの・・・今日は、私のわがままに付き合ってくれてありがと」

 

「ん? ・・・ああ、あれくらいわがままには入らないよ」

 

「えへへ、そう言っていただけると助かります」

 

少しだけおちゃらけた様子で返してきた響は、人差し指で頬を掻きながら続けた。

 

「やっぱりギルさんは優しいねえ」

 

そう言ってそっと身を寄せてくる響。

・・・やっぱり、と推測が確信に変っていくのを感じる。

 

「・・・あの、ギルさんは気づいてるかもしれないけど、私、ギルさんの事が好きです」

 

ああ、と変な納得の声が漏れた。

だが、響はそんな風に考える余裕すら与えてくれないらしい。

すぐに身体を乗り出し、俺に迫りながら口を開く。

 

「えと、お返事いただけますかっ!」

 

こちらに身体を乗り出してきた響に押され、後ろに倒れそうになる。

 

「おい、響お前答え聞く気ないだろ!」

 

押し倒されかけつつも響に返すと、響は笑顔で

 

「もう我慢できないのっ! 返事をどうぞっ!」

 

「うおっ」

 

「きゃっ」

 

ついに押し倒された俺は、寝台に倒れこんだ。

響は俺の上に四つんばいになるようにのしかかってきており、逃がす気はないと態度で示しているようだ。

 

「・・・響、お前の気持ち、受け取らせてもらう」

 

「あ・・・」

 

少し強引だったが、響の元気なところは好きだし、こうして好意をまっすぐに表してくれるのも嬉しかった。

安心させるように、片手で頬を撫でてやると、顔を真っ赤にした響は

 

「は、初めてだから優しくね!? 絶対だよ!?」

 

なんて、まくし立ててきた。

 

「ああ、分かってるって」

 

苦笑しながら、響に口づける。

四つんばいの体勢のままの響の服を脱がせるために、口付けしながら服のボタンに手をかける。

 

・・・




「ああ、並びがばらばらだ。ええっと、一巻がこっち、二巻はその隣、三巻がここで・・・気になると止まんないなぁ」「・・・あの侍女の人、何で店員でもないのに本棚の整理してるんだろ・・・」


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