真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「頭脳は?」「大人」「体は?」「大人の事情で大人」「人はそれを成人男性という」


それでは、どうぞ。


第十二話 大人から子供に

俺の宝物庫にはいろいろなものが入っている。

風呂桶やら着替えといった生活用品から、秘薬や宝具までその数は数え切れない。

 

「・・・これは・・・」

 

ある日見つけた秘薬。

それは、ギルガメッシュも使用していた若返りの秘薬。

あの子ギルに変貌する薬である。

その霊薬を見て、俺は疑問に思った。

・・・俺が飲むと、どうなるのか? 

まず一つ目の仮説は、俺の少年期に戻る、と言うもの。

これが一番可能性としては高い。

二つ目は、原作の子ギルが出てくる可能性。

多分可能性は低いだろう。

 

「どっちなんだろう。凄く気になる」

 

ええっと、なになに・・・? 

うわ、ラベルに用法、用量がきちんと書いてある・・・。

まぁ、ぐいっと飲み干せばいいんだろう? 

 

「む、ぐっ、ぐっ・・・ぷはぁっ! 不味い!」

 

ぱぁん、と床にビンを叩きつける。

ありえないほどに不味い! なんだこれ! 飲み干したことを後悔した! 

 

「う、お・・・おおおおおお・・・?」

 

・・・

 

桃香が街へ出ると、子供たちのはしゃぐ声が耳に入ってきた。

 

「あれ、今日は新しい子がいるのかな」

 

子供たちの中に、いつもは見ないような少年が一人混ざっていることに気づいた。

たまに桃香も子供たちの中に混ざるため、いつもは見ない子供がいればすぐに分かる。

その少年は子供たちの輪の中で、中心となっていた。

 

「なぁなぁ、次は何するー!?」

 

「そうだなぁ・・・あ、そうだ。これはボクのところの遊びなんだけど・・・」

 

会話を聞いているだけでも、彼らが楽しそうに遊んでいることが分かる。

 

「でも・・・あんな子、この街にいたんだなぁ」

 

彼の服装は街の子供と同じようなものだ。

しかし、彼の髪は金色。あんな色をしているのはなかなか珍しい。

 

「ふふ、でも、みんな楽しそう」

 

少年を中心にして、なにやら球を蹴り合う遊びを始めたようだ。

みんなが笑顔になって遊んでいるのを見て、自然と笑顔になる桃香であった。

 

・・・

 

「あら?」

 

北郷一刀は、華琳と共に街を歩いていた。

その際、華琳が何かを見つけ、立ち止まった。

 

「ん? どうした、華琳」

 

「・・・ねえ、あの子供・・・」

 

「え?」

 

そう言って華琳が指差したのは、金髪の少年。

何人かの少年少女と遊んでいるようだが、見た目も動きも人目を引く。

 

「凄いな・・・あんな子供なのに、動きが違う」

 

間近で春蘭や霞の動きを見てきたため、一刀も身体の動かし方である程度の実力を見て取れるようになっていた。

そんな一刀の目から見て、少年の動きは一般人とはかけ離れているように見える。

 

「ええ。・・・いいわね、あれ」

 

「いいわねって・・・まさか、武将として雇うわけじゃないだろうな・・・?」

 

「何言ってるの。当たり前じゃない。良い人材は、それをきちんと使いこなせる主の下へ行くべきなのよ」

 

そう言って、少年の下へと向かっていく華琳。

放っておくわけにも行かないので、一刀も後を追う。

 

「あなた、今ちょっといいかしら?」

 

「はい? ・・・ええっと、ごめん、みんな。ボク、抜けるね」

 

華琳と一刀に気づいたのか、少年はこちらに振り向き、二人が誰なのかを確認すると少年たちに別れを告げた。

 

「おう! またな、亞茶!」

 

「うん、また。・・・それで、何か御用でしょうか」

 

再び二人に視線を戻した少年は、人懐っこい笑顔を浮かべ、首を傾げる。

 

「あなた、名前は?」

 

「亞茶です」

 

「そう。亞茶、あなた、私の下で働く気はない?」

 

「曹操様の下で、ですか?」

 

「ええ。あなたの身のこなしは回りの子供より・・・いいえ、そこらの兵士よりも洗練されていた。あなたなら、すぐに一角の将となれるわ」

 

「うーん、褒められて悪い気はしませんが・・・申し訳ありません。お断りさせていただきます」

 

悩んだ表情を見せた少年・・・亞茶が、申し訳なさそうにそう言った。

 

「・・・そう。理由を聞いても?」

 

「はい。ボクには、すでに使えている主がいますので」

 

「その主の名前は?」

 

華琳が亞茶にそう聞くと、彼はぶつぶつと何かを呟いた後に

 

「すみません、明かすことはできません」

 

そう断言した。

表情は笑顔であったが、その身に纏う空気はただの少年のものではなかった。

一刀はその重圧に冷や汗を流す。この子、本当に子供か、と心の中で戦慄していると、華琳が笑みを浮かべながら口を開く。

覇王と称された彼女は、このぐらいの威圧なら跳ね除ける胆力を持っているのだ。

 

「へえ、本当に面白そうね、あなた。まぁいいわ。いずれあなたの主も突き止めてあげる」

 

「ええ、楽しみにしています」

 

亞茶がそういうと、ふっと重圧が消える。

それでは、と別れを告げると、彼は人ごみの中へと走っていった。

 

「それでは、頑張ってください、お兄さん」

 

「えっ?」

 

最後に、意味深な一言を残して。

 

「・・・確かに、凄い子だったなぁ」

 

「ええ。・・・ふふ、絶対に突き止めてやるんだから」

 

「か、華琳・・・?」

 

静かに燃える華琳を何とかなだめていた一刀には、去り際の一言のことなど、すでに頭にはなかった。

 

・・・

 

天下三分によって一時の平和が訪れたといっても、犯罪がなくなったわけではない。

酒に酔った荒くれ者たちが暴れたり、店主を脅して金を強請り取る強盗がいたりする。

そんな中、街に出た武将たちはちょくちょくそんな犯罪者たちを懲らしめたりしているのだが、犯罪がなくなることはない。

今日も、ある一つの飯店の前で、騒ぎが起きていた。

 

「おらおらぁ! この娘がどうなってもいいのかぁ!」

 

「くっ・・・卑怯な!」

 

男が少女を人質に、金を要求しているのだ。

刃物をちらつかせ、少女の首筋に当てる男。

そんな状態では、駆けつけた警備隊も、たまたま近くにいた雪蓮と蓮華も、手を出せずにいた。

 

「・・・隙がないわね。ああいうのは、どこかに付け入る隙があるものだけど」

 

「お姉さま・・・」

 

「待つのよ。焦ると判断を誤るわ」

 

「その通りですね、お姉さん方」

 

「だれっ!?」

 

背後から聞こえる声に振り返ると、そこには金髪の少年が笑顔で立っていた。

 

「こんにちわ! ボクの名前は亞茶、といいます」

 

「そ、そう。私は孫策。・・・あなた、今は離れてたほうがいいわよ。ここは危ないから」

 

雪蓮がそう言って注意するも、少年は聞いていないかのように一歩前に出る。

 

「こらっ、お前・・・」

 

「ああん? なんだ、てめえは」

 

蓮華が止めようと手を伸ばすが、後少しのところで届かなかった。

少年は男の前に出ると、二倍はあるであろう男を見上げながら、怖気づいた様子もなく口を開いた。

 

「こんにちわ、おじさん。・・・その娘、ボクの友達なんですよ。離してもらえませんか?」

 

「はっ。離せるものか。ガキ、てめえはすっこんでろ」

 

少年の言葉は、にべもなく切って捨てられた。

それでも、少年は表情を変えない。

 

「・・・そうですか。確か、あなたの要求はお金、でしたよね?」

 

「あぁ、そうだ。金さえ持ってくれば、ちゃあんと後で嬢ちゃんは返してやるよ」

 

そう言った男の顔を見て、雪蓮は男にそんな気はないのだということを読み取った。

最後まであの少女を人質に、どこかへ逃げた後に処理するつもりなのだろう。

ここから出すわけには行かない。いっそ、打って出るか。

そんな考えが頭をよぎり始めたそのとき、少年・・・亞茶が、懐から袋を取り出した。

その中から一つ、金を取り出す。

 

「この袋には、すべてお金が入っています。これならば、しばらくは暮らしていけるでしょう」

 

「おお! お前、いいとこの坊ちゃんだったのか? ・・・まぁいい。それさえくれれば、お友達は離してやる」

 

「ええ、差し上げます・・・よっ!」

 

亞茶は袋の口を紐で縛ると、上へと放り投げた。

突然の出来事に、全員の視線が袋へと注がれる。

・・・そう、人質を取っていた男でさえも、数瞬、袋へ視線を向けた。

 

「ふっ!」

 

少年には、その数瞬の隙だけで十分だった。

小柄な体躯を弾丸のように加速させた亞茶は、男の手から刃物を奪い、少女を男から引き離す。

 

「なっ、しま」

 

「遅いですよ、おじさん!」

 

刃物を地面に捨てた亞茶は、たん、と地面を蹴って跳び上がる。

そのまま男の顔の前まで跳んだ亞茶は、回し蹴りを男に決めた。

振りぬかれた足は男の顎に当たり、脳を揺らす。

大男、と称されても問題ない巨体が、後ろ向きに倒れる。

 

「・・んー、やっぱりリーチは前のほうがいいですね。わざわざ飛び上がらずとも、拳で狙えますし」

 

どこからか取り出した縄で男を縛りながら、思案顔で何かを呟く亞茶。

男を縛り終えた後、助け出した少女のもとへと向かい、優しく声を掛ける。

 

「大丈夫だったかな。怪我とかしてないといいんだけど」

 

「あ、ありがとね、亞茶くん」

 

涙目ではあるが、もう恐怖は感じていないらしい。

泣き笑いのような表情で、少女は答えた。

 

「なら良かった。・・・お兄さん方、何してるんですか。ほら、早くおじさんを連行しないと」

 

「へ? あ、ああっ。よし、連行するぞ!」

 

「は、はっ!」

 

ようやく正気に戻った警備兵が、縛られた男を連行していく。

 

「・・・あなた、凄いのね」

 

「いえいえ、友達が危険だったので」

 

「えへへ、ありがとね、亞茶くんっ」

 

腕に抱きついてきている少女の頭を撫でながら、雪蓮の言葉に答える亞茶。

 

「ふふ、えらいわね。・・・ねえあなた、呉に来ない?」

 

「ええっと、それは・・・」

 

「もちろん、私のところで将として働かない? ってこと」

 

「ちょ、ちょっと姉さま!? いきなりなにを・・・」

 

「申し訳ありません。お断りします」

 

「そ? ・・・まぁいいわ。別に今は魏や蜀と戦ってるわけでもないし」

 

意外とあっさり引いた雪蓮。

その落差に蓮華が違和感を抱いていると、雪蓮はしれっと爆弾を落とした。

 

「それに、シャオと蓮華の夫には、ギルがいるしねぇ」

 

「姉さまっ!」

 

顔を真っ赤にして雪蓮に詰め寄る蓮華。

二人が騒いでいる間に、少年は人ごみにまぎれていく。

 

「さーて、後会ってないのは・・・っと」

 

・・・

 

朱里と雛里は、詠、ねね、と共にギルを探していた。

今日が休みなのは知っていたが、温泉についての質問がいくつかあったためだ。

時間もあまりとらせないつもりだったし、すぐに解決するかと思ったのだが・・・。

 

「うーん、いませんねぇ、ギルさん」

 

「・・・あいつ、どこに行ったのかしら」

 

城内をくまなく探した四人は、一同にうーん、と悩んでいた。

部屋にはいない、兵士たちにも見かけたら探していたと伝えてほしいと言ってあるが、いまだに誰も会っていないと聞く。

 

「・・・後は、政務室くらいですね。今日はお休みだから、いないと思っていましたが」

 

「桃香あたりに頼まれれば、あやつも断らないでしょうからなー」

 

「あわわ・・・羨ましいなぁ」

 

「? 雛里ちゃん?」

 

雛里はぼそり、と呟いたつもりだったのだが、朱里にはしっかりと聞こえていたらしい。

朱里は雛里に顔を向けてどうしたの、とでも言いたげに名前を呼んだ。

 

「へっ? あっ、な、なんでもないのっ」

 

「そ、そう? ならいいんだけど」

 

慌てる雛里に、なんでもないと本人が言っているなら、あまりしつこくするべきじゃないと判断して切り上げる。

そして、思考はすぐにギルの行方へと移っていく。

 

「あれだけの存在感を放つ方ですから、これだけ回っていないのであれば、街のほうに行っているのかもしれませんね」

 

「そうですなー・・・。取りあえず、政務室を確認してから、なのです」

 

「そうね。・・・まったくもう」

 

政務室の前へとたどり着く四人。

ノックをすると、中からはどうぞー、と声が聞こえてくる。

 

「失礼します。あの、ギルさん・・・は・・・?」

 

「どうしたのよ、朱里」

 

「・・・あの、誰ですか?」

 

そう言って朱里は目線をまっすぐに向けたまま質問する。

詠たちも後から部屋の中に入ってきて、そこにいる人物を確認する。

いつもいる桃香や愛紗ではなく、そこには・・・

 

「こんにちわ」

 

笑顔で手を振っている、金髪の少年がいた。

そんな異常な状況に、四人は驚いた。

見たこともない少年が、兵士たちの警備の目をくぐり、城内を巡回して警戒しているアサシンすら抜けて、政務室で座っている。

その状態が異常といわずして何と言うのか。

 

「まさか、侵入者っ!?」

 

「あ、大丈夫ですよ。危害を加える気はありませんから」

 

「・・・信用できると思ってるの?」

 

「まぁ、されるとは思ってませんが、危害を加える気ならもう四人とも生きてませんよ?」

 

そう言ってにこりと笑う少年。だが、その目は笑っていなかった。

 

「確かに、ここまで誰にも見つからずにやってきた時点で相当な実力者でしょうね。・・・私たちでは、太刀打ちできないぐらいに」

 

「ま、そりゃそうね。・・・で、何が狙いなわけ?」

 

「んー・・・取りあえず皆さんに会って話せただけで目的は達してるんですよねぇ。・・・と、言うわけで」

 

そう言って少年は窓を開け放ち

 

「それではみなさん、お元気でっ」

 

「なっ」

 

「飛び降りたっ!?」

 

慌てて四人が窓に駆け寄り、下を確認するが、すでに少年の姿はどこにもなかった。

 

「・・・な、なんだったんでしょうか・・・?」

 

「とにかく、早急に他の将たちにも伝えねばなりませぬぞー!」

 

「はい。あれほどまでの実力者がいるのなら、英霊の皆さんの力も借りないといけないかもしれませんね」

 

「恋みたいな化け物・・・とは思いたくないけど」

 

四人は急いで桃香たちを探すことにした。

あの少年が何を考えているのかは分からないが、何か対策を取らねばならないだろう。

 

・・・

 

「ん? お前、どこから来たんだ?」

 

「はい? ・・・これはこれは。お姉さん、こんにちわ」

 

「ん、ああ、こんにちわ。・・・それで、お前は誰だ? 見たことのない顔だが・・・」

 

春蘭は目の前に立つ少年を見つめながら、首を傾げる。

 

「ふぅむ・・・誰かの子供か? 迷子なら、私が案内してやるが」

 

「あはは、大丈夫ですよ、お姉さん。お城の中は熟知してるので、完璧です」

 

「そ、そうか。完璧か」

 

「ええ。・・・あ、そうだ」

 

そう言って、少年は饅頭を一つ、春蘭へ渡す。

 

「これ、さっきいただいたものなんですけど、ボク一人じゃ食べ切れなくて。お手伝いしてもらっていいですか?」

 

「む、むぅ。それなら、いただこう」

 

「いただいてください」

 

「はむっ。・・・おお、旨いな!」

 

「それは良かった。・・・それでは、ボクはこれで」

 

「ああ! 饅頭、ありがとなー!」

 

「いえいえ」

 

そう言って去っていった少年を見送り、春蘭はいいやつだったなぁ、と呟きながらその場を後にした。

 

・・・

 

城内は、騒然としていた。

正体不明の少年が侵入していることを知らされた武将たちは、全員でその少年を追っていた。

城内は武将たちが、街には兵士たちが動員されており、かなりの大事になっていることが見て取れる。

 

「あちゃー、やりすぎましたかね。今度の大人のボクは不思議なことにいい人っぽいので自重してるつもりだったんですけど」

 

少年は、やっぱり世界が特殊だからですかねー、とやりすぎたか、と言っている割には反省の色のない言葉を吐いていた。

今彼がいるのは、中庭の東屋である。

そこで優雅にカップを傾ける。中には何故か紅茶が入っている。

 

「んー、後会ってないのは・・・マスターは最後にするとして」

 

「へぇ、誰かに会うのが目的かしら?」

 

「そうなんです・・・よ・・・?」

 

紅茶と考え事に集中しすぎたらしく、いつの間にか少年の周りを武将たちが囲んでいた。

 

「あちゃー、久しぶりすぎて気抜いてましたかね」

 

「・・・侵入者の癖に、優雅に茶を飲んでいるとはね。少し驚きだけれど。・・・たいした根性だと褒めるべきかしら」

 

「まぁ、このくらいでしたら物の数にもなりませんので、別にいいかなー、とか思ってたり」

 

その言葉に、何人かの武将の堪忍袋の緒が切れた。

 

「きさま! 先ほどの饅頭はおとりだったのか!」

 

「あはは、あれは本当に単純におすそ分けですよ。美味しかったでしょう?」

 

「うむ、旨かった!」

 

「・・・春蘭、あなた、正体も知らぬ人間から物を貰っていたの?」

 

「華琳様・・・す、すみません」

 

ああ、またか、とため息が漏れる。

 

「まぁいいわ。取りあえず、この三国の将を物の数にもならぬ、といったこと、後悔させてあげましょうか」

 

「ふふ、久しぶりにわくわくしてきたわ!」

 

「子供とはいえ実力者・・・容赦はせぬぞ!」

 

華琳、雪蓮、愛紗の三人がそう言ったと同時に、春蘭たちが少年に向かって駆ける。

将たちに囲まれ、威圧感をぶつけられても涼しい顔をしていた少年に、すでに容赦する気はないらしい。

朱里たちの言葉もあり、英霊の一人を出し抜くほどの実力者だと思われているのもあるのだろう。

 

「・・・あちゃー、これはほんとに、大人のボクに悪いことしたなぁ・・・」

 

がたん、と椅子から飛び降り、包囲網を跳んで脱出する。

ふわりと着地した少年は、武将たちの方へと振り向く。

その顔には、呆れのような感情が浮かんでいた。

 

「でも、気づかないあなたたちも悪いですよね。今度の大人のボクはボクに性格近いと思うんだけどなー」

 

どうあっても気づかれないってなんか呪いっぽくないですか? ボク、幸運高いんだけどなー、と呟きながら、少年は懐に手を持っていく。

 

「何を言っている!」

 

「・・・しかし、あの身のこなし・・・恋並かも知れぬな」

 

「あはは! 男でまだあんなのがいたのね! 楽しみだわ・・・!」

 

「・・・勝手にヒートアップしてるとこ悪いんですけど、そろそろ終わらせようと思います」

 

「何を・・・!」

 

不敵な笑みを浮かべて立ち尽くす少年に様々な武器が迫る。

刃や矢が迫る中、少年はただ口角を上げて笑い。

 

「それじゃ、返しますね、大人のボク」

 

迫る凶刃や矢は、空中に浮かぶ剣や槍や盾に防がれた。

 

「・・・なんだこりゃ。おいおい、子ギルが何かやらかしたか?」

 

その中央で、元の姿に戻ったギルガメッシュが、エアを構えて愛紗の青龍偃月刀を防いでいた。

全員もれなく驚愕の表情を浮かべている。

 

「あーっと、子ギルが何かしたのなら謝るから、みんな、武器を収めてくれないかなぁ・・・」

 

「え、え・・・」

 

「ぎ、ギル殿?」

 

「こ、子供がギルでギルが子供で・・・?」

 

・・・

 

かくかくしかじかと事情を説明される。

・・・なるほど、原作子ギルになったらしいな。

しっかし、まさか正体を明かさずに動いていたとは・・・俺の偽名の亞茶を使ってたし・・・。

ふぅ、使ってみて分かったが、あれで若返っている間は意識がなくなるみたいだ。

 

「なるほどね、若返りの妙薬とは、ほんとに何でもあるのね、その宝物庫」

 

「ああ・・・。俺もびっくりしてるところだ」

 

あんなに不味かったのもびっくりだよなぁ・・・。

 

「も、申し訳ありませんギル殿! あれだけ似通っていたのに、ギル殿だと気づかなかったとは・・・不覚です・・・!」

 

「あぁ、多分それは仕方ないよ。宝具か何かでごまかしてたんだろ。そういうのいくつかあるし」

 

しょんぼりとしている愛紗をそう言って励ます。

 

「にしても面白いわねぇ・・・あ、そうだ、それ、祭とかに飲ませたらどうなるかしらね?」

 

「ほほう? 策殿、儂がなんですと?」

 

「とか、ってどういう意味かしらね、雪蓮ちゃん?」

 

「そうじゃのう。とか、の中に誰が入っておるのか、聞いてみたいのう?」

 

「あ、あははー・・・じゃねっ!」

 

祭、紫苑、桔梗に詰め寄られて、冷や汗を流しながら逃げる雪蓮。

・・・あーあ、余計な事言うから。

 

「はわわ・・・ご、ごめんなさいギルさん。・・・私たちが、早とちりしたばかりに」

 

「いいって。不用意にあんなの飲んだ俺にも責任はあるし」

 

しゃがんで朱里と視線の高さをあわせつつ、親指で涙をふき取る。

雛里からも同じように謝られたので、頭をくしゃくしゃと撫でて励ます。

 

「気にしてないって。な?」

 

「あわわ・・・はい・・・」

 

「・・・ふん」

 

「あー、詠。・・・怒ってる?」

 

「怒ってないわよ!」

 

あ、怒ってるな、これ。

ねねも同じような状況だし・・・。

 

「詠、ごめんな。今度埋め合わせするから」

 

「べ、別にそんなのいらないわよっ!」

 

「ねねもすまないな」

 

「・・・まぁ、わざとではないようですから、別に許してやってもいいのです」

 

「本当かっ!? ありがとな」

 

「わわっ、ば、バカッ! 降ろすのですー!」

 

嬉しさのあまり思わずねねを抱き上げてしまった。

降ろすのです、とか言ってる割には嬉しそうなので、しばらくやってあげよう。

 

「・・・もう、ばか」

 

後で、詠にはきちんと謝っておかないとなぁ・・・。

 

・・・

 

「・・・って事があったんだよ」

 

「そんなことが・・・子供姿のギルさん・・・ちょっと見てみたかったです」

 

「・・・もう一度あの薬は飲みたくないなぁ」

 

「ふふ。残念です」

 

騒ぎのせいで集まった将に謝り、街で子ギルを捜索していた兵にも謝った後ふらふらと城内を歩いていると、月を見つけた。

声をかけると、今から休憩なので一緒にお茶をどうですか、と誘われ、月と詠の部屋でこうしてお茶をご馳走になっている。

そして、月に今までの顛末を聞かせると、先ほどのような反応が返ってきた、と言うわけである。

 

「あ、もう一杯どうですか?」

 

「うん、貰うよ」

 

とぽとぽと湯飲みにお茶が注がれる。

ふぅ、ようやく一息つけた気分だ・・・。

・・・ちなみに、その夜はふてくされた詠が納得するまで相手させられました。

翌朝、腰が痛いと涙目になっている詠を見て失笑してしまったのは、仕方のないことだと思う。

 

・・・

 

あの騒動の翌日、俺はちょっとした用事で呉の屋敷へときていた。

 

「えーっと、亞莎はどこにいるかな」

 

呉の軍師であれば誰でもいいのだが、冥琳は雪連とどこかへ言ったらしく、不在だった。

ならば、と穏を探すと、本を読んでいたらしく、目が合った瞬間に襲われかけたので逃げてきた。

あれはしばらく近づいてはいけない。

と言うわけで、消去法で残り一人の軍師、亞莎を探しているのだが・・・見つからん。

 

「あれ? ギルさんじゃないですか。どうしたんですか?」

 

「あ、明命。亞莎、知らないか? この書類、渡したいんだけど」

 

朱里から預けられたこの書類には、人口の推移が書いてある。

本当は朱里が自分で渡しにいく予定だったのだが、用事ができて行けなくなった。

それでどうしようかと困っているところに俺が通りかかり、やることもなく暇だったので、代わりにいくことになったのだ。

この後魏の軍師にも渡しに行かなくてはならないので、あまり時間も掛けられないのだが・・・。

 

「亞莎ですか? んー・・・。あっ! もしかしたら・・・」

 

何かに気づいたかのように周りをきょろきょろと見回す明命。

 

「っ!」

 

「そこっ!」

 

誰かの息を呑むような声に反応した明命は、軽い足取りで声の方向へと走っていく。

・・・どうしたんだろうか。もしや、侵入者とか? 

 

「あーうー・・・はーなーしーてー・・・」

 

「やっぱり隠れてたのね」

 

「お、亞莎」

 

廊下の曲がり角から再び現れた明命は、亞莎を引きずってきた。

 

「ギルさん、亞莎です! どうぞっ」

 

「ふぁっ・・・ギル様・・・!」

 

ようやく顔を上げた亞莎。

 

「よかった。ようやく見つかったな。この書類なんだけど・・・」

 

「あ、あの、ご、ごめんなさーい!」

 

「受け取ってほし・・・って、逃げられた・・・?」

 

俺が近づいたとたん、亞莎は凄いスピードで走り去ってしまった。

 

「・・・うぅむ、俺、嫌われてるのか・・・?」

 

「あ、いえ! 多分、その逆だと思います!」

 

「逆・・・? 好かれてるとは思えない反応だったんだが」

 

明命の顔を見る限り嘘ではないようだが・・・。

 

「・・・仕方がない。天の鎖(エルキドゥ)!」

 

背後から伸びる鎖が、亞莎を絡め取る。

もちろん痛くしないように調整はしている。

 

「よっと。捕まえた」

 

引き寄せた亞莎をキャッチすると、驚きすぎてフリーズしてしまっているらしい。

取りあえずおろしてあげないと。

 

「うぅぅ・・・」

 

「大丈夫か、亞莎。できる限り優しくしたつもりだが・・・怪我でも」

 

「い、いえっ! 全然大丈夫ですっ」

 

「そ、そうか」

 

亞莎の勢いに少し驚いたが、とりあえずは用件を済ませないと。

宝物庫から書類を取り出し、説明するべく口を開く。

 

「これ、朱里からのお届け物で、人口の推移表だって。新しい政策も書いてあって、一応機密扱いみたいだから直接渡さないと駄目らしくて」

 

「あ、は、はい・・・」

 

そう言って書類を受け取る亞莎。

・・・だけど、何故か頑なにこちらを見ない。

 

「なぁ、俺って何かしたかな」

 

「い、いえ! ギル様が悪いわけではないのです! ・・・そ、その、ギル様がとても輝いて見えたので・・・」

 

・・・これは予想外だ。

あの金色の鎧を着けているときに聞けば納得できるが、この普段着のときに言われるとは。

 

「か、輝いてる? 俺が?」

 

「は、はい。この近さですと、ギル様の眩しさに耐えられなくて・・・!」

 

先ほども思わず逃げてしまったのです、と顔をそらしたまま答えてくれた。

・・・なるほどねえ。

 

「ふふ、ギルさん、嫌われてるわけじゃないって、信じてくれました?」

 

背後から明命に声をかけられた。

・・・振り返らずとも分かる。この声色は、きっと笑っているのだろう。

 

「ああ、これでようやく納得いったよ。・・・だけど、輝いてるって言われたのはびっくりしたなぁ」

 

「あうう・・・すみません・・・」

 

「謝ることはないよ。・・・まぁ、追々慣れてもらうしかないかなぁ」

 

くしゃりと亞莎の頭を撫でる。

先ほどの騒ぎで帽子を落としてしまったようで、こうして直接頭を撫でてあげられたのだ。

 

「まぁ、嫌われてないってわかってよかったよ」

 

「そ、そんなはずありません! ギル様は天よりいらっしゃった偉大なる英雄様! 嫌いになるなんて、ありえないです!」

 

「・・・そこまで言われると、ちょっと恥ずかしいが・・・。ま、それを聞けただけでよかったよ」

 

そういいながら、亞莎の帽子を拾って被せてやる。

 

「明命、ありがとな」

 

「ひゃいっ!? わ、私は何もしてないですよっ!?」

 

「ほら、亞莎を連れてきてくれただろ?」

 

お礼は建前で、明命の黒髪さらさらストレートヘアーを撫でたかっただけなんだけど。

さてと、次は魏の屋敷だ。・・・気が重い。

 

・・・

 

明命と亞莎に別れを告げ、俺は呉の屋敷を後にした。

次は魏の屋敷・・・なんだけど・・・。

 

「おはようございますッス、兄貴!」

 

「ん、ああ、おはよう」

 

魏の屋敷の周りを巡回していた兵士に挨拶を返す。

む、彼は以前の龍討伐で一緒だった兵士じゃないか。

この特徴的な語尾と呼び方はおそらくそうだろう。

 

「なぁ、今日は屋敷に程昱と郭嘉はいるか?」

 

「ええっと、郭嘉様は先ほど出かけられたッス! 程昱様は・・・ちょっとわかんないッスね。あ、荀彧様ならいるッスよ」

 

「・・・そうか」

 

できればそっちに会わずに済ませたかったのだが・・・。

 

「分かった。桂花・・・荀彧は、どこにいる?」

 

「多分書庫ッスね」

 

「ん、分かった。頑張れよ」

 

「兄貴こそ、頑張ってくださいッス!」

 

「ああ、頑張るよ・・・」

 

取りあえず、書庫への道を歩きつつ、風を探すか。

最後まで希望は捨てちゃ駄目だもんな! 

 

「・・・神はいないのか!」

 

書庫にたどり着くまで、風どころか誰にも会わなかった。

なんだこれ。俺魏の人たちに嫌われてるのかな。

・・・取りあえず、こんなところで足踏みしているのも時間の無駄だろう。

もう心を決めていくしかない。

 

「お邪魔しまーす」

 

「・・・げ」

 

扉を開け、書庫に足を踏み入れると、すぐに目的の人物はいた。

こちらを見た瞬間にいやそうな顔をされた。・・・んな顔されても・・・。

 

「桂花、お前に渡すもの」

 

「喋りかけないでくれる? アンタみたいなのに話しかけられたら、それだけで妊娠するわ」

 

「があるんだけど・・・」

 

・・・くぅ、どれだけ男嫌いなんだ、こいつ。

 

「・・・妊娠しねえよ。なんだ、まだ赤壁のこと根に持ってるのか」

 

「くっ・・・! 思い出させないでよ。あああ、寒気がする・・・何なのよ!」

 

「すっげえ理不尽・・・」

 

俺は多分怒っても良いと思う。

だけどなぁ。こういう娘は意地っ張りだし、嫌ってる対象に何か言われても改めることはないだろう。

 

「・・・まぁいいや。取りあえず、この書類を受け取ってくれ」

 

「いやよ。あんたが触ったものなんか触れないわ」

 

そう言ってそっぽを向いた桂花。

・・・ぷつん、と何かが切れた音がした。

 

「・・・天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「きゃあっ!?」

 

四方から伸びた鎖が、桂花をぐるぐる巻きにする。

 

「ふ、ふふふふふ・・・もう我慢の限界だ」

 

「な、なによ! 何するのよ! こんなことして、許されると思ってるの!?」

 

「許されようと許されまいと知ったことか! 王の財宝(ゲートオブバビロン)! 開け宝物庫!」

 

空中に歪みができる。

いつも出てくるのは無数の武器だが、今回は・・・。

 

「筆・・・?」

 

桂花が首を傾げる。

俺はそんな桂花を気にすることなく筆を近づけていく。

 

「ま・・・まさかアンタ・・・!」

 

「それ、こちょこちょ・・・」

 

「あ、あははっ! なにす・・・あはははははは!」

 

無数の筆が桂花の肌をくすぐる。

くすぐられている桂花を見上げながら、ある程度すっきりするのを感じる。

桂花の呼吸が苦しくならないうちにおろす。

 

「く、くぅ・・・!」

 

「はっはっは! いやぁ、面白かったぞ、桂花」

 

「笑うな!」

 

取りあえず溜飲は下がったので書類を渡す。

今度は桂花も罵倒してくることなく受け取ってくれたので、まぁよしとしよう。

 

「それじゃあな、桂花」

 

「ふんっ。さっさと帰りなさいよ!」

 

「今日はこれで許したけど・・・次は・・・ふっふっふ」

 

「な、なによ! なんなのよっ! ・・・ちょっと、中途半端なところで帰らないでよ! ちゃんと全部言ってから帰りなさいよー!」

 

・・・




「桂花って意外と押しに弱いんだな」「まぁ、華琳とのプレイがプレイだからなぁ・・・」


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