真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「お風呂でやりたい放題」「えっ」「えっ」「えっ」「い、いや、玩具の話だよ?」「・・・ついにギルがおかしくなったのかと・・・」「お前俺と同じ現代人だったよね・・・?」


それでは、どうぞ。


第十話 みんなでお風呂に

弓の練習で疲れた身体を動かしながら、厨房へと向かう。

昼飯を食べてから今までぶっ続けだったので、疲れと同時に空腹もやってきた。

取り合えず何か食べて、それからゆっくり寝よう。

政務はほとんど片付けたから明日は暇だし、いつもより多めに寝ても大丈夫なはず。

とにかく、今はささっと晩飯を食べて眠りたい。

明日の午後には給湯装置も出来るらしいし、風呂はそのときでいいだろう。

 

「・・・おや?」

 

厨房を覗いてみると、何故か蓮華とシャオの姿が。

食事をしているわけではなく、エプロン姿でお玉を持って調理の真っ最中らしかった。

 

「おーい、蓮華、シャオ」

 

「ぎ、ギルっ!? なんでここに!?」

 

「あ、ギルーっ。ねえねえ、今お料理の練習中なんだけど、味見してかない?」

 

「こらっ、シャオ!」

 

「えー、いいじゃん、食べてもらおうよー!」

 

「ちょっとまて。今料理の練習してたのか?」

 

俺がそう聞くと、シャオはにっこりと笑ってうんっ、と首肯した。

蓮華も少し恥ずかしそうに首肯したため、間違いではないようだ。

 

「・・・それにしても、これは・・・」

 

「あのねっ、これはその、ちょっと違くて・・・!」

 

「ねえ聞いてよっ。お姉ちゃんったら華琳に教わったこととかすっぽり忘れて料理するから、大変なんだよー!?」

 

「変な事言わないの!」

 

「なによー。ほんとのことじゃない!」

 

わーきゃーと言い合いを始めた二人をいったんスルーして、台所をちらっと観察。

切ったネギなどの材料が散乱しており、いくつか失敗作らしき作品が並べられている。

 

「・・・で、何でいきなり料理なんか始めようと思ったんだ?」

 

まぁまぁ、と二人を落ち着かせてから事情を聞くことに。

二人は大人しく椅子に座り、シャオが始めに口を開いた。

 

「花嫁修業よ!」

 

「花嫁修業?」

 

「そ! だってシャオはギルのお嫁さんになるんだし、お料理くらい出来ないとね!」

 

「わ、私も一応花嫁修業だが・・・その、姉さまが言うには、私もギルのお嫁さんになるかもしれないからって・・・」

 

「・・・シャオはともかく、蓮華もか? 俺、初耳だぞ」

 

と言うか、シャオを嫁としてもらうことも了承してないんだけど。

何故かとんとん拍子で勝手に進んでいってるが、どうすればいいんだろう。

 

「私は姉さまの後を継がなきゃならないし、まだ早いって言ったんだけど・・・あ、ぎ、ギルがいやだって訳ではなくて・・・!」

 

「あー、うん、大丈夫だ蓮華。雪蓮の性格はわかってるつもりだから。多分、シャオと競わせたら面白そうだなー、とか思ってるんだろう」

 

ほんとにいやって訳じゃないのよ!? とあたふたする蓮華をなだめて落ち着かせる。

蓮華は真面目な娘だから、多分上と下の姉妹の挟み撃ちを食らって引くに引けなくなったんだろう。

 

「そうだ、味見して欲しいとか言ってたな。ちょうど腹も減ってるし、二人の料理食べてみたいな」

 

「わかった! 今すぐ用意するから、ちょっと待っててね?」

 

「その・・・私のも、用意するわね」

 

そう言って二人は再び台所へと立ち、かちゃかちゃと料理の準備をする。

そして、俺の前へと運ばれてきたのは、チャーハンと麻婆豆腐。

どちらも少し不恰好ではあるが、美味しそうな匂いは漂ってくる。

ちなみに、チャーハンはシャオ、麻婆豆腐は蓮華が持ってきた。

 

「そ、その、今日初めて料理したから、ちょっと自信はないんだけど・・・」

 

「ついさっきまで華琳に教わって作ってたものだから、多分美味しいよー!」

 

「へえ、今日初めて作ったにしては上手じゃないか。凄いな」

 

「そんな・・・華琳の教え方が上手かっただけよ」

 

「でも、作ったのは蓮華自身だろ? ちゃんと身についてきてるってことじゃないか」

 

「そ、そうか。・・・ありがとう」

 

「もー! お姉ちゃんと喋ってばかりじゃなくて、料理食べてよー!」

 

俺と蓮華が話しているところに割り込んでそう叫ぶシャオ。

まぁ、確かに飯はさめないうちに食べたほうがいいだろうな。

 

「分かったよ。じゃあ、こっちのチャーハンから」

 

「うん。召し上がれっ」

 

レンゲで掬って一口。

・・・ん、少し焦げてるところもあるけど、不味いってほどじゃない。

と言うか、シャオの身体で中華なべを振れたのが不思議なんだけど・・・。

まぁ、鈴々がアレだけの怪力を持っているんだし、小柄イコール非力って訳じゃないからな、この世界。

 

「美味しいよ、シャオ。これなら完璧にチャーハンを作れる日も近いな」

 

「本当っ!? ありがとうっ!」

 

そう言って俺の元へと飛び込んでくるシャオ。

食器を倒さないようにシャオを受け止める。

 

「こ、こらシャオっ! 危ないじゃない!」

 

「へへーん。ちゃんとギルが受け止めてくれるから危なくないもーん」

 

「だからって・・・!」

 

いきなり飛び込んできたシャオと、いきなりの出来事に怒った蓮華が言い合いを始めそうになるが、それを手で制す。

 

「あー、待った待った。奇跡的に怪我もしなかったから大丈夫だよ。な、蓮華」

 

「そうだけど・・・」

 

「シャオ。これからはこういう危ないことしたら駄目だからな」

 

「はーい。・・・ごめんね、ギル」

 

少し反省したように返事をするシャオ。

うんうん、きちんと謝れる子はいい子になるぞ。

 

「よし。じゃあ、次は蓮華の麻婆豆腐食べようかな」

 

「ど、どうぞ」

 

シャオを地面に下ろしながらそういうと、蓮華は俺の前へ料理を置いてくれた。

またレンゲで掬って口に運ぶ。おお、熱々で美味しいじゃないか。

少し水っぽい感じもするが、今日初めて作ったにしては上出来だ。

二人ともこのまま頑張ればとても料理上手になるだろう。うぅむ、見事に胃から捕まえられそうである。

 

「うん、こっちも美味しいな。これならすぐに上手くなるよ」

 

「そ、そうかしら・・・」

 

「ああ。俺が保障するって。良いお嫁さんになるよ」

 

「っ!? ・・・そ、そう」

 

恥ずかしそうに顔を真っ赤にする蓮華。褒められなれてないんだろうか。

いつもは男言葉の蓮華がここまで柔らかい言葉を使うってことは相当恥ずかしいんだろうな。

こんなことを言っては何だが、とても可愛いものである。

 

「ほら、二人も一緒に食べようぜ」

 

せっかく作ったんだし、みんなで食べたほうが美味しいだろう。

俺の提案に、二人はすぐに返事を返してくれた。

三人で卓について、料理の練習中に起きた出来事なんかを聞きながら食べていると、すぐに料理はなくなった。

 

「ごちそうさま。さて、後は片付けだな」

 

「うぅ、ごめんなさい」

 

食事中、食べさせてもらったお礼と言うことで台所の片づけを手伝う、と言ったところ、蓮華に猛反対された。

散らかしたのは私たちだから、私たちで片付ける、とかそもそも味見のはずだったんだから、ギルがお礼をする必要はない、とか。

美味しいものを食べさせてもらったし、味見とか関係なくお礼したいんだ、と言って何とか納得させたがな。

 

「よし、取り合えず材料の欠片を集めて、こぼれた汁を拭こう」

 

そういいつつ、ジャケットを脱いで厨房にある余ったエプロンを身に着ける。

こういう作業のときには服が汚れるかもしれないからな。

取り合えず俺は崑崙の周りの欠片を集めたり、飛び散ったりこぼれたりした汁をふき取る。

蓮華とシャオの二人もせっせと作業しているようだ。この分なら、十分も掛からずに後片付けは終わるだろう。

・・・にしても、シャオがこうも片付けに精を出すとは思わなかった。

いつものわがまま姫っぷりはなりを潜めているし・・・。もしかしたら、今日の花嫁修業で大人に一歩近づいたのかもしれない。

後で褒めてあげないとな。

 

・・・

 

「おわったー!」

 

「ふぅ、終わりね」

 

「よっし、ご苦労さん」

 

予想通り十分足らずで片づけを終えた俺たち。

先ほどまでの惨状から一転し、きちんとした厨房へと戻っている。

 

「火の元は大丈夫だよな? ・・・うん、大丈夫だ。さ、帰ろうか」

 

「うんっ。・・・ねえねえ、シャオ、ギルのお嫁さんになれるかなぁ?」

 

厨房から出た瞬間に、シャオが腕に抱きついてそんなことを聞いてくる。

・・・うぅむ。料理は美味しかったし、片付けのときの手際も悪くなかった。

現状でこれならば、シャオはまだまだ伸びしろがあるんだし、将来はもしかしたら良妻賢母となるのかもしれない。

 

「・・・そうだな、なれるかもな」

 

「ほんとっ!? やったー!」

 

今は、まだまだ足りないところがあるけど、これから先が楽しみだな。

そんな風に思いながら受け答えをしていると、シャオとは反対側を歩いている蓮華が、俺のジャケットの袖を掴んで引っ張ってくる。

 

「どうした?」

 

「あ、あの・・・私は、どうかしら・・・?」

 

どうかしらって・・・ああ、そうか。蓮華も花嫁修業のために料理してたんだよな。

そりゃあ、花嫁になれるかどうかは気になるか。

 

「ああ、ばっちりだ。俺だったらすぐに貰いたいくらいだよ」

 

「そっ、そう? ・・・ふふ、ありがとう、ギル」

 

蓮華はその猫のような瞳を細めてそっと笑った。

袖を握ってくるという行動もあいまって、凄くドキッとした。

ええい、孫家の姉妹は可愛すぎるだろ! 何だこの姉妹。

いたって冷静そうに装いながら、どういたしまして、と返す。

 

「駄目だよギルっ。ギルのお嫁さんはシャオなんだから!」

 

「まだ決まったわけではないでしょうっ」

 

「だってギルに会ったのはシャオのほうが早いし、その分有利なんだから」

 

俺を挟んで姉妹喧嘩をする二人を微笑ましく思いながら、呉の屋敷へと向かう。

道中は常にどちらかから話しかけられていたので、一切暇しなかった。

二人を屋敷まで送り届けたあと、一人で街を歩くときの寂しさがいつもの倍ぐらいに感じるくらいだった。

 

「さってと・・・予想外に遅くなっちゃったな。ちょっと急ぐか」

 

恋と全力で戦った日の次くらいに疲れた。

帰ったら真っ先に寝台に飛び込もうと思いながら自室の扉を開ける。

 

「あ、お帰りなさい、ギルさん」

 

「お帰り。遅かったじゃない。何やってたのよ」

 

「・・・月。それに詠も。何か用か?」

 

「何も用はないけど・・・用がなきゃ、あんたの部屋にきちゃ駄目なの・・・?」

 

そう言って上目遣いになりながら俺の目を見つめてくる詠。

・・・むむ、確かにそうだな。

 

「えへへ、ご迷惑かと思いましたが、お邪魔してました」

 

「ん、全然構わないよ。・・・ごめんな、詠」

 

謝りながら詠の頭を撫でる。

詠は、ん、と気持ちよさそうに声を上げる。

 

「・・・別に気にしてないわ」

 

頭から手を離すと、詠はその部分を手で押さえて不機嫌そうにそっぽを向く。

不機嫌そう、とはいっても耳まで真っ赤にしているので多分照れ隠しだろう。

二人が座っている寝台に上がり、仰向けに倒れこむと、両隣に二人が寄り添ってくる。

 

「・・・ギルさんのにおいがします」

 

「こっちは月の匂いがするよ」

 

「へぅ・・・今日お風呂入ってないから臭いかもしれないです・・・」

 

「はは、大丈夫。全然そんなことはないよ」

 

強いて言えば少し汗のにおいがするくらいだが、その程度は全く気にならない。

・・・と言うか、女子って問答無用で良い匂いするからずるいと思う。

今となりに寝てる月も詠も、風呂に入ってないとは思えないほど良い匂いがする。

 

「詠も良い匂いするなー」

 

「ちょっ、ばっ、髪の匂い嗅ぐなばかっ」

 

「ふははー、諦めろー」

 

「何棒読みで言って・・・あ、ちょっとどこ触ってるのよ!」

 

「太もも」

 

「答えるなっ」

 

どこ触ってるんだといわれたから答えたら怒られた・・・。

理不尽な気がしなくもないが、まぁ詠が恥ずかしがり屋のツン子だっていうのは前から知ってるし、別に気にすることでもあるまい。

これだけ疲れてるんだ。最後の最後まで疲れきってやる。

 

「あ、ギルさん・・・その、するんですか?」

 

服の中に手を入れられながら、月が潤んだ瞳でそう聞いてくる。

すべすべと柔らかいお腹を撫で回していると、月はくすぐったそうに身をよじる。

もしかしたら俺以上に疲れてるかもしれないと思っていやか? と尋ねてみるが、いいえ、と返してくれた。

 

「えへへ。また私と詠ちゃんを一緒に、なんですね」

 

「うぅ・・・せめてお風呂には入っておきたかった・・・」

 

そんな詠の独白を聞かなかったふりをして、俺は二人の肌へと手を伸ばした。

大丈夫。明日にはいつでも風呂に入れるようになってるはずだから。

 

・・・

 

「・・・朝か」

 

朝日が目に入ると自然に目が覚める。眠気はない。

・・・早起きしすぎたらしい。早朝訓練をしている兵士の声すら聞こえない。

まぁ、健康的でいいとは思うが。

 

「・・・月も詠も、幸せそうに寝てるなぁ」

 

隣ではハイニーソックスとガーターベルトだけを身に着けた二人がすぅすぅと寝息を立てて眠っている。

月と詠に抱きつかれている腕をゆっくりとはずし、起こさないように寝台から降りる。

疲れは取れてるから十分眠れたということだろう。背伸びをすれば、背骨がぱきぽきと気持ちの良い音を立てる。

 

「ふぅ。・・・ちょっと早いけど、朝飯を食べに行くか」

 

二人に布団を掛けなおして、少し乱れている髪を直してから、部屋を出る。

あー、朝日が目にまぶしい・・・。

 

「お、ギルじゃねえか」

 

「ん? ・・・多喜か。どうしたんだ、こんな朝早くから」

 

「そりゃこっちの台詞だぜ。ギルがいっつも起きてくるの、もうちょい後だろ」

 

「あー、なんだか目が覚めてな。眠くないから二度寝もできないし」

 

「つまり暇ってことか」

 

「・・・そういうことになるな」

 

「んじゃ、俺と一緒に走るか?」

 

「走る?」

 

多喜の説明によると、ライダーの採取の間暇なので森の周りを走っていたら走ることにハマッてしまったらしい。

 

「で、どうする?」

 

「んー、そうだな、俺も一緒に走ろうかな」

 

「おう、了解。さっさと着替えてこいよ。運動用の服くらいあるだろ?」

 

「あるけど・・・」

 

そういいつつ宝物庫の服と今の服を交換する。

 

「一瞬で着替えられるから、今すぐでも大丈夫だぜ」

 

「・・・英霊ってずりぃなぁ」

 

「まぁまぁ。ほら、行こうぜ」

 

「あいよ」

 

城壁の上へと向かっている途中、見張りの兵以外の兵には一切出会わなかった。

見張りの兵は俺を見て驚きだす始末だし、いかにこの時間に出歩く人間が珍しいことが分かる。

多喜は見張りの兵と仲が良いらしい。まぁ、城壁ランニングの度に話しかけてるらしいから、仲良くなるのも当然か。

実はこいつ、初対面の人間とも数時間後には一緒に酒飲んでるぐらいに人当たりが良い。

多喜は街の警邏の仕事をしているのだが、店で暴れている暴漢とすら打ち解けて自首させるように導いたことも多々ある。

敵対している奴とすら仲良くなる多喜が、見張りの兵と仲良くならないほうがおかしいのだ。

 

「よっしゃ、まず軽く五周くらい行くか」

 

「五周? 大丈夫なのか、多喜」

 

「あん? 大丈夫に決まってるだろ。最初はきつかったけどな。今は余裕もって走れるぜ」

 

・・・一体何時からやってるんだろ。

 

「よっしゃ! 行くぜ」

 

掛け声と共に走り出す多喜を追うように俺も走り出す。

一定のリズムを崩さずに走る多喜を見て、走り慣れてるなぁと感心する。

かく言う俺もここに来た当初より体力はついている。

ついていけなくなることはないだろうが、ペースは一定に保っていこう。

規則正しい呼吸で走り続ける多喜と共に城壁の上を五周走りきる。

 

「よっしゃ、調子いいからこのまま街を走るか!」

 

そう言って城壁をおり始める多喜。

城壁を走るだけじゃなかったのかと驚きながらもついていくと、宣言どおり街の中を走り始める。

仕事の都合上朝が早い人たちが出てくる時間帯になったからか、まばらながらも人が活動を始めているようだ。

街の人とも仲が良いらしい。おはようさん、とか頑張れー、と多喜に声を掛ける人がかなりいる。

 

「人気だなー、多喜は」

 

「はっ、そうか、ふっ、ねぇ、ふっ」

 

呼吸の合間に言葉を織り交ぜるようにして喋る多喜。

警邏の人間も声を掛けられることはあるだろうが、それと比べても多喜の人気は高いほうだろう。

大体多喜の警邏ルートとは違う場所の人と仲が良いのは驚くしかないだろう。

 

「・・・これも、多喜の才能かもしれないな・・・」

 

破天荒な多喜がなんだかんだいって受け入れられているのは、こういう人当たりの良さとかがあるのかもしれない、と思った朝だった。

・・・ちなみに、この後街の裏路地すべてを走ってから早朝ランニングは終了となった。

今まで知らなかった裏路地のルートやらを教えてもらえたのはラッキーだったな。今度街の散歩でもするときにゆっくりと見るとしよう。

 

・・・

 

ランニングの後、軽く汗を飛ばして服を着替える。

まぁ、後で風呂に入れるとなればこのくらいは我慢できるな。

甲賀が作業している給湯装置設置予定地に向かう。

城の風呂場の後ろに建てられた小屋の中に入ると、中では甲賀が宝具を組み込んでいるところだった。

 

「おはよう、甲賀」

 

「む、ギル。・・・もう朝になったか」

 

「・・・もしかして、徹夜か?」

 

「結果的にはそうなるな。そう心配そうな顔をするな。慣れているから苦ではない」

 

こちらを振り返った甲賀にそういわれ、心配そうな顔をしてたか、と顔を触りながら呟く。

それから少しだけ装置を組み込むために手を動かしていた甲賀だが、装置が完成したのか、蓋らしきものを取り付けてから立ち上がる。

 

「これで完成だ。理論上はこれで動くはずだが、なにぶん宝具を弄ったのは初めてでな。不具合が出るかもしれん」

 

「ありがとう、甲賀。・・・で、操作を教えてもらいたいんだけど」

 

いくつかスイッチらしきものがついているが、俺では全く理解できない。

つまみらしきものがついているので、それで温度調整をするのだろうと推測できるだけだ。

 

「ああ、元よりそのつもりだ。いいか、このボタンで・・・」

 

甲賀の説明によって給湯装置の使い方は理解した。

と言っても、大まかに分けて、お湯を沸かす、温度を調節する、あとは給湯を開始、停止させる機能があるというだけだ。

後は故障したときに甲賀が弄る用の機能がついているだけなので、覚えやすくて助かる。

 

「取り合えず入ってみるか。一刀を呼んで来い」

 

「了解。ちょっと待っててくれ」

 

「ああ。俺は最終的な調整をランサーとやっておくから、別に急がなくても良い」

 

小屋を出る直前にそう声を掛けられつつ、俺は一刀を探しに城へと向かう。

この時間なら、多分城のほうにいるだろう。

 

「・・・やっぱり」

 

「え? ・・・あ、ギル」

 

俺の声に気づいた一刀がこちらに振り返り、駆け寄ってくる。

幸い一人のようだ。連れ出しやすい。

 

「給湯装置が完成したらしくてな。実験ついでに風呂に入ろうかと思って」

 

「ほんとか!? いやー、ちょうど入りたいと思ってたんだよなー」

 

そう言ってにっこり笑う一刀をつれて再び城内の浴場へ。

入り口にはランサーの複製が立っており、すでに脱衣所で甲賀が待っていると伝えてくれた。

 

「ありがと。それじゃあ、入らせてもらうよ」

 

「はっ。ごゆっくりどうぞ!」

 

敬礼をしてくるランサーの複製に手を上げて答えながら、「ゆ」と書かれた暖簾をくぐる。

脱衣所では甲賀とランサーがすでにタオル装備で待っていた。

 

「来たか。大体の調整は終わった。後は入って確かめてみるだけだ」

 

さっさと着替えろ、と目で訴えてくる甲賀に急かされる様に、俺たちは服を脱いで脱衣籠にいれ、タオルを腰に巻く。

先導するように入っていったランサーと甲賀の後ろに続き、浴場へ。

 

「おお」

 

「どうだ? できる限り一刀の設計図に準拠してるつもりだが」

 

以前入った時とは全然違う内装となっている。

いくつか並んで設置されているシャワーとか、口からお湯が出てくるようになっている龍の頭なんかが増設されてある。

壁には富士山の絵が書いてあって、現代日本の銭湯を思い出す内装に替わっていた。

 

「すげー! ここまで無茶な注文して平気かなぁ、とか思ってたけど、かなり再現されてる!」

 

「ああ。俺も一刀の設計図を見たことあるけど、ほとんどこれと一緒だ」

 

「まぁいい。テストもかねてシャワーで身体を洗おう。・・・貴様らから、異常なほど生臭いにおいがする。あと女の甘いにおいも」

 

「うっ」

 

「・・・かたじけない」

 

少し半眼でこちらを睨んでくる甲賀と目を合わせないようにそそくさとシャワーの前まで移動する。

風呂椅子に座ってシャワーの栓をひねる。

 

「お、シャワーだ」

 

楽しそうに一刀がシャワーから流れてくるお湯を身体に受ける。

俺も一刀と同じようにシャワーからのお湯で身体の汚れを流していく。

 

「・・・うわー、なんか向こうで銭湯に行ったときみたいだな」

 

感慨深そうに一刀が呟く。

確かに。こうして両隣に純日本人の外見である一刀と甲賀がいるとどこかの銭湯に着たかのような錯覚を覚える。

 

「ふむ。シャワーに不具合は見られんな」

 

「ええ、こちらも不具合はありません」

 

「次は頑張ってくれた工作忍者たちに入らせてあげてくれよ、甲賀」

 

「ん、元よりそのつもりだ。そのくらいの役得があったほうが良い」

 

男四人が並んで頭を洗い始める。

おー、なんか感動するな、これ。

ちなみにこの排水はこの後下水道を通って川へと戻っていく。

甲賀の話によると一応浄水はするらしいが期待はするな、とのこと。

ふぅむ、しかしこれはいいものだ。

男の意見だけではなく女性の意見も聞きたいので予定通り後で朱里たちにも入ってもらうことにしよう。

 

「そういえば宝具の起動のための魔力ってどうしたんだ?」

 

「霊脈からちょっぱらってきた。近くにいいのがあったからな。少し弄って、宝具が常に発動するくらいの魔力を貰ってる」

 

大元には影響ないから大丈夫だ、と断言する甲賀。

甲賀がそこまで言うなら大丈夫だろう。

 

「さて、頭も身体も洗ってすっきりしたことだし、ついにメインディッシュだ」

 

「おお・・・!」

 

そういいながら立ち上がり、甲賀や一刀が本日のメインディッシュ、浴槽へと歩いていく。

 

・・・

 

「はぁ~」

 

アレから数分。

かぽーん、と魔術によって出された音が浴場内に響く。

このかぽーんという音は五分ごとになるようになっており、入浴中の目安として使えるようになっている。

・・・というか、本当にこの音が出るようにするとは・・・。

 

「いや~、いいねえ、風呂は」

 

満足そうなため息をついた一刀がまた満足そうにそう言った。

再び四人一列に並んで湯に浸かっている俺たちは、頭の上にタオルを乗せながら風呂を堪能していた。

 

「こっちも不具合は無い様だな。・・・うむ、ゆっくり浸かるとするか」

 

しばらくまったりと浸かった後、全員ほくほくとした顔で暖簾をくぐっていた。

 

「大成功だったな。これで城内での風呂の問題は解決したといっても過言ではないな」

 

「ああ。・・・それじゃあ俺は朱里たちに話をつけてくる」

 

「入れるなら夜にしろ。工作忍者たちには日が暮れるまでに入っておけと伝えておく」

 

「分かった。それじゃ、甲賀、ランサー、ありがとな」

 

「ふ、面白そうだと思ったから手伝ったまでだ。礼には及ばん」

 

「また何かあれば是非! 喜んでお手伝いいたします!」

 

「はは、なら、またお言葉に甘えるかもしれないな」

 

そう言ってから三人に改めて別れを告げ、政務室へと歩いた。

 

・・・

 

「はわわ、そうなんですか・・・」

 

「給湯装置にしゃわー・・・。完成したんですね」

 

政務室に行くと朱里と雛里が政務を始めるために準備をしているところだった。

早速話を切り出してみると、今日の夜なら大丈夫です、と二人とも同意してくれた。

 

「よし、じゃあ日が暮れた辺りに迎えに来るから、政務室にいてくれ」

 

「はいっ」

 

「はい・・・!」

 

その後政務の準備を手伝った後、政務室を後にする。

今日は政務の仕事はないし、何より今日はちょっと試すこともある。

日が暮れるまではまだまだ時間があるし、ゆっくりといくかな。

 

「さて、忘れないうちに一つ目はやっておかないと」

 

日が昇っているうちにやるべきことは、大まかに分けて二つある。

一つ目は・・・。

 

「お、こっちか」

 

多喜に今朝教えてもらった裏路地の様々なルートを確認することだ。

こういう通路が放っておかれると、犯罪者なんかが逃走するためや隠れるために使うかもしれない。

・・・まぁ、かなり治安はいいほうなので、そんなことはほとんどないとは思うんだが。

 

「む?」

 

いくつかのルートの安全を確認し、少し狭い隙間を通ると、表通りからは外れた広場に出る。

こんなところがあったのか、と思いながらきょろきょろと回りを見ていると、近くから声が聞こえてくる。

 

「だーかーらー、ギルの好きそうな食べ物を調べて欲しいのよ!」

 

「で、でも・・・私がこっそり忍び寄ってもギル様は気づいてしまわれるんですよぅ」

 

「んもう! 明命もあの黒いのみたいな気配遮断を身につけなさい!」

 

「無茶ですよ! 小蓮さまが直接聞いてはどうですか? ギル様なら、こっそり調べるより簡単に教えてくれそうですよ?」

 

・・・声と会話内容から察するに、ここには明命とシャオがいるらしい。

と言うことは、もしかしてこの広場へ誰も来ないようにバーサーカーに入り口を塞がせていたのか。

うーむ、流石のシャオもこっちのルートから人が来るとは予想していなかったんだろう。俺もこんなところに出るとは予想してなかった。

 

「そんなの意味ないじゃない! 先にギルの好きなものを調べて、それを作れるようになってれば、お姉ちゃんより一歩先にいけるでしょ?」

 

「それは確かにそうですが・・・」

 

先ほどから話を聞いていると、どうやら俺の好きな食べ物を明命に調べさせようとしているらしい。

しかし、明命はその頼みに難色を示している、と。

・・・まぁ、明命はちょっと抜けてるところがあるからなぁ。

猫に目がないところとか。あれは結構致命傷だと思う。

そういえば以前も明命からいろいろ聞かれたりこっそり後を着けられたりしていたのだが、あれもシャオのお願いがらみなんだろうか。

アサシンの気配遮断で慣れている俺はそう言った類の『気配を消そうとする』感覚に敏感になっているのですぐに気づいてしまったのだが。

 

「うぅむ。しかし明命の言うとおり直接聞きにくればいいのに」

 

多分昨日の花嫁修業の一環としてまた料理を食べさせたいと考えてくれているんだろう。

そして、俺に食べさせるのだったら俺の好きな料理のほうが良い、と思いついて明命に調査を依頼、って所か。

直接聞きに来ないのは・・・やはり、サプライズで食べさせてあげたいとか考えてくれているのか・・・? 

そうだとすると、とてつもなく嬉しく感じる。

昨日の一連の流れから、俺の元にシャオが嫁に来るのも悪くないと思っている辺り悪質である。

まさかシャオ、計算済みか・・・!? 

シャオ、恐ろしい子・・・! 

 

「・・・ま、なんにせよこのまま盗み聞きはよくないな」

 

少し遠回りになるが、いったん戻って別ルートから行こう。

そう思って踵を返した瞬間、足元でぱきっ、と音がした。

慌てて足を見てみると、枯れ枝を踏んでしまったらしい。なんて王道な・・・! 

 

「っ! 誰ですか!?」

 

向こうまで響いたのか、明命が俊敏に音の方向・・・つまり、こちらに向けて構えを取る。

 

「バーサーカーの目をかいくぐってここまで来れるなんて・・・相当やるみたいね」

 

これは出て行くべきなんだろうか。

・・・このまま逃げたら後で大変なことになりそうだ。諦めるしかあるまい。

害意がないことを示すために両手を挙げながら二人の前に歩み出る。

 

「あれ? ギルじゃない」

 

「ぎ、ギル様でしたかっ」

 

俺の姿を見た二人の反応は対照的だった。

きょとんとした顔をしつつも冷静な反応を返したシャオと、構えを解いてあたふたと取り乱した明命。

 

「どしたの、こんなところまで。・・・っていうか、どうやってきたの?」

 

「そ、そうですよっ。ここへの入り口は、バーサーカーさんが塞いでくれてるのに・・・」

 

「あーっと、話すと長くなるんだけど・・・」

 

二人に問い詰められ、俺は裏路地の隠しルートのことを話した。

前も話を聞いてたの? と聞かれ、今日この場所を知ったばかりで、話はちょっとしか聞いてない、と返した。

あの話の中身を全部聞いていたとなると少し面倒くさくなりそうだったので、来てすぐに枯れ枝を踏み、会話内容は詳しく聞こえなかった、と言っておいた。

 

「そ。・・・ならいいわ。過程はなんにせよ、あんなところまで通ってシャオに会いに来てくれた、ってことだもんねっ」

 

そう言って俺へと飛び込んでくるシャオを受け止る。

凄いポジティブシンキングだな、と感心しながら頭を撫でてやる。

 

「で、こんなところで何の話をしてたんだ?」

 

立場的には俺は何も知らない人なので、こういっておかないと怪しまれる。

 

「ん、明命とちょっと訓練してたの」

 

「へえ、花嫁修業といい、シャオは意外と頑張り屋さんなんだな」

 

「えへへー。シャオはちゃんと頑張る子なんだからっ」

 

そう言って嬉しそうに飛び跳ねるシャオ。

 

「明命もお疲れ様。シャオはお転婆で大変だったろ?」

 

「あ、えと・・・その、まぁ」

 

「あー! 何よそれ、ひっどーい!」

 

明命が少しだけ視線をそらしながら気まずそうにそう答えると、シャオが頬を膨らませて怒った様に声を上げる。

まぁまぁ、と言ってなだめるように頭を撫でるとすぐに機嫌が戻ったので、多分本気で怒ったわけではないんだろう。

 

「ま、今日の訓練はもういいわ。ねえギル、シャオと明命と三人でどこか行かない?」

 

「わ、私もですかっ!?」

 

「当たり前じゃない。ね、いいでしょ?」

 

「あー・・・」

 

まぁ、二つ目の目的は一人じゃなきゃ駄目、ってことはないから大丈夫だけど・・・。

 

「別にいいけど・・・午後からは俺、別にやることあるから付き合えないぞ?」

 

「あれ、今日はお仕事休みじゃなかった?」

 

「・・・なんで俺の予定把握してるんだ?」

 

「だって、シャオはギルの奥さんになるんだもん。夫の予定くらい把握してないとねっ」

 

「・・・まぁいいや。仕事じゃなくてな。ちょっとした野暮用なんだけど・・・どうせなら一緒に来るか?」

 

「えっ? いいの?」

 

「ああ。多分作業的には単調になるからな。話し相手が欲しいんだよ」

 

「じゃあじゃあ、シャオが話し相手になってあげる」

 

「そっか」

 

「明命も午後は大丈夫よね?」

 

「はいっ。大丈夫ですけど・・・ご迷惑ではないですか?」

 

シャオから俺へと目線を変えて聞いてくる明命。

 

「全然そんなことないよ。むしろ、明命にもきて欲しいな」

 

「あ・・・。は、はいっ!」

 

嬉しそうに返事をして俺の近くへ寄ってきた明命の頭を撫でてやる。

明命は猫好きだが、明命本人は犬っぽい。

撫でると明命の頭に犬の耳と尻に全力で左右に振られる尻尾が見える。

 

「そだ。バーサーカー、戻っていいよー」

 

いつの間にか広場の入り口にまで来ていたバーサーカーにシャオが声を掛ける。

すると足元から粒子になっていくように霊体化していくバーサーカー。

 

「いこっ、ギル」

 

「ああ」

 

シャオは俺の右腕に両腕を絡ませ、明命はニコニコと左隣を歩いている。

・・・さて、ここから近いところは・・・蜀の屋敷か。

 

・・・

 

二つ目のやるべきこと。

それは俺の宝物庫から出てきた一つの宝具・・・地下に眠るものを探し出すという羅針盤だった。

地下にあるものなら有形無形問わず探せて、探す深さはこめた魔力によって変わる。

これならば温泉も突き止められるのではないかと思い、こうして街中を歩いているのだ。

かれこれ一時間は歩いているが、いまだに羅針盤の針はくるくると回るだけで一方向を指さない。

 

「温泉とかってないのかな、この辺」

 

「温泉?」

 

「そう。地面から湧き出るお湯のことをそういうんだけど・・・」

 

見たことないなぁ、とシャオ。明命も見たことがないと答える。

・・・火山とかないから温泉もないのかね。

 

「・・・ここにはないか。次はあっちだ」

 

「あっちね。いこいこっ」

 

「あ、待ってくださいよー!」

 

次は呉の屋敷の近くを調べてみるか。

俺たちは人ごみを掻き分けながら呉の屋敷へと向かう。

羅針盤にいまだ反応は現れず、くるくると回っているだけだ。

流石に街中にはないか、とため息をつきかけたそのとき、前方から声が聞こえてきた。

 

「ぎ、ギル! 偶然ね」

 

顔を上げてみると、そこには思春を連れた蓮華がいた。

 

「蓮華。それに思春も。こんにちわ」

 

「ええ、こんにちわ。・・・その、ギルは何をしてるの?」

 

「おねーちゃんには関係ないでしょー!」

 

「シャオ!? あなた、どうしてギルと・・・!?」

 

「んふふー。ギルが一緒にいて欲しいって言ってくれたの。ねー、ギル?」

 

「ん? ああ、一人で作業するのが心もとないから、話し相手になってくれってシャオと明命に頼んだんだ」

 

「・・・なんだ、そういうこと」

 

「むー、ちょっと正直に言いすぎじゃない」

 

ほっとした様子の蓮華と頬を膨らませるシャオ。

 

「そういえば、蓮華は何してたんだ?」

 

思春を連れて歩いていたってことは、城に何か用事があったとか・・・? 

 

「え、ええと・・・と、特に何もしてないわ。街を歩こうかなって思ってて・・・」

 

「そうなんだ。あ、ちょっと早いけど俺たちと飯でもどうだ? ちょうど終わりにしようと思ってたし」

 

本当はまだまだ余裕があるが、四人もつれての温泉探索は効率が悪いだろう。

それに、まだまだ日暮れまで時間があるといっても余裕は持っておきたい。

早めに朱里たちの元へ行っておいたほうがいいだろうしな。

 

「そ、そうね・・・。ご一緒させてもらおうかしら」

 

「ん、じゃあ行こうか」

 

新たに二人を加えて俺たちは歩き出す。

向かうのは・・・うーん、どこへ行こうかな。

あ、そういえば前に流々が手伝いをしていた店があったな。あそこにしよう。

 

・・・

 

「いただきまーす!」

 

六人がけの席へと案内された俺たち。

俺の両隣にシャオと蓮華が座り、対面に思春と明命が座った。

その後、それぞれの注文を店主に告げる。

時間が中途半端だからか、客は少ない。

そのためかすぐに注文した料理が来て、一番にシャオがレンゲを手に取り、先ほどの挨拶を口にしたのだ。

それに釣られるように残りの四人もいただきます、と声を合わせる。

 

「ギールー」

 

「んー?」

 

「はいっ、あーん」

 

名前を呼ばれて振り向いてみれば、レンゲに乗ったチャーハンを差し出してくるシャオがいた。

 

「ちょっ、シャオ!?」

 

「あーん」

 

あ、美味しい。うむ、この街の飲食店ははずれがないのがいいよな。

 

「ギルっ!?」

 

蓮華がそんな俺たちを見て何故か声を荒げる。

 

「う、うぅ・・・ぎ、ギルっ!」

 

「おお?」

 

急に蓮華に声を掛けられ、少しびっくりする。

振り返ってみると、蓮華もシャオと同じように箸を突き出してきている。

箸には餃子が挟まれており、蓮華の腕が震えているのか、ぷるぷると餃子も震えている。

 

「あ、あーん!」

 

威嚇するような圧迫感と共にそう言い放つ蓮華。

あれ、あーんってもっとこう、和やかな雰囲気で言い放つ台詞じゃなかったか。

この娘、真剣勝負の時かのように気合入ってるんだけど・・・。

 

「あー」

 

取り合えず食べないことには始まらないので餃子をいただく。

おお、肉汁が良い感じに染み出てくる。

 

「ありがとう、蓮華」

 

その後、シャオと蓮華に俺の麻婆豆腐を食べさせた。

二人とも嬉しそうにしていたのでよしとしよう。

全員が食べ終わった後、五人分の料金を払って店から出る。

 

「ぎ、ギル。自分の分は自分で払うわ」

 

「いいっていいって。お金のことなら気にしなくていいから」

 

黄金率のことは言ってあるはずなのだが、やっぱりみんなは遠慮するみたいだ。

俺と良く食べに行く娘たちはあまり気にしないようになったけど、今日初めて一緒に行った蓮華は遠慮するか。

 

「ギル、ごちそうさまでした。お礼に今度はシャオが何か作ってあげるからね!」

 

「ん、どういたしまして。楽しみにしてるよ」

 

「じゃ、じゃあ、私も今度料理を作る!」

 

「そっか。分かった。そっちも楽しみにしておく」

 

「・・・ふん。一応礼は言っておく」

 

「ごちそうさまでしたっ。じゃあじゃあ、私は今度お仕事のお手伝いしますっ」

 

「おう。何かあったら頼むな」

 

「はいっ」

 

その後、四人を呉の屋敷まで送り、城へと向かう。

そろそろ日も暮れそうだ。朱里たちを迎えに行かないと。

 

・・・

 

政務室へとたどり着く。

こんこん、とノックの後、扉を開ける。

 

「朱里、雛里、いるか?」

 

「あ、ギルさん。二人ともいますよ」

 

「あ、あわわ・・・お疲れ様でしゅ」

 

政務室の中では、二人とも書類を片付けている最中だった。

しかしそれももうすぐ終わるだろう。元々の量が少なかったし、二人の処理能力なら完全に日が暮れたぐらいに片付くはずだ。

かといって何もしないのもあれなので、少しくらいは手伝う。

 

「こっちの書類片付けておくよ」

 

「はわわ、すみません」

 

「いいって事よ。二人にも早くシャワーを体験してもらいたいしな」

 

「あわわ・・・楽しみです」

 

そう言って笑う雛里。

女の子だからやはり身だしなみ関係の充実は嬉しいんだろう。

それなら、宝具を使ってまで改築した甲斐があったというもの。

朱里と雛里がどんな反応をするか想像しながら筆を動かしていると、すぐに片付いた。

 

「よっし、終わった」

 

「こちらも終わりましたっ」

 

「こっちもです・・・!」

 

「ん、じゃあ片づけしておくから二人は風呂に入る準備をしてきてくれ」

 

「はわわっ、そんな、お片づけをお任せするなんて・・・」

 

「大丈夫だから。それに、俺が片付けてる間に二人が準備してきたほうが効率がいいだろ?」

 

「あわ・・・確かにそうです・・・」

 

少し渋った二人だが、半分無理やり納得させる形で準備させに向かわせた。

政務の道具を片付けるのぐらい一人でできるし、女の子の準備は往々にして時間が掛かるものだ。

しばらくして準備を終えた二人が戻ってきた。

 

「よし、じゃあいこっか」

 

「はいっ」

 

「はい・・・!」

 

・・・

 

二人と共に風呂場へと到着する。

取り合えず服を脱ぐ前に説明しておかなくてはならないので、服を着たまま浴場へと入る。

 

「はわわ・・・凄く変わっちゃってますっ!」

 

「あわわ・・・見たことがないものが増えてる・・・」

 

龍の口から常に出てくるお湯や、シャワーとカランに二人は興味津々のようだ。

 

「これがシャワー。で、こっちがカラン。ここの栓を右にひねるとシャワー。左にひねるとカラン」

 

実際に出して説明する。

二人は目をぱちくりとさせて驚いているようだ。

 

「す、凄いです。これなら髪の毛や頭が洗いやすくなります・・・!」

 

「桶にお湯を溜めておけるのも便利ですね」

 

自分でも栓をひねって確かめている二人。

 

「それから、こっちはいつでもお湯が張ってある浴槽。川の水をお湯にしてここの龍の口から出て、この床についている穴を通って川に戻る」

 

「川から水を引っ張ってきたんですか!?」

 

「ああ。まぁ、いろいろと手を借りたけどね」

 

甲賀のところの工作忍者とか複製ランサーとか。

彼らがいなければ完成まで数年掛かっていたかもしれない。

 

「よし、説明はこれくらいでいいだろ。後は実際に使ってみてくれ」

 

脱衣所へと戻り、二人にそう告げて俺は脱衣所から出る。

さて、後は二人が出てくるまで待とうかな。

 

・・・

 

脱衣所で衣類をすべて脱ぎ、生まれたての姿となった朱里と雛里の二人は、手ぬぐいだけを持って浴場へと戻ってきていた。

 

「このしゃわーっていうの、凄いよね」

 

「うん。私は髪が長いから、こういうのがあると洗うのが楽になるから嬉しいな」

 

「あ、そっか。雛里ちゃん、かなり髪の毛長いもんね」

 

そんな他愛もない会話をしながらシャワーを使う二人。

しばらくシャワーの便利さを体感した後、常にお湯が張ってあるという浴槽へと向かう。

龍の頭を模した像の口から、どばどばと絶え間なく湯が出てくる様子は、二人の興味を引いた。

 

「近くで見ると、改めて凄いって思っちゃうね」

 

「うん・・・。ギルさん、宝具を使ったって言ってたけど・・・」

 

「川の水をお湯にしたり、水道を整えたり・・・そんな宝具もあるんだね」

 

「・・・今度、ゆっくりお話したいな」

 

「うん。私も」

 

にこやかに会話をしつつ、二人は湯船に身体を沈める。

 

「ほわぁ・・・沸かしたお湯を溜めてるわけじゃないから、お湯が冷めなくて暖かいね」

 

「そうだね。なんだか、疲れが全部溶けちゃうみたい」

 

「ふふ、確かにそんな感じがするね」

 

「早く皆さんにも試してもらいたいね、シャワーとか」

 

「愛紗さんとかは雛里ちゃん見たいに髪が長いから、喜んでくれるかもね」

 

二人の頭の中には、愛紗や翠といった髪が長めの将の姿が何人か浮かぶ。

 

「兵士さんたち用に同じようなものを作れば、兵士さんたちが気分転換できるようになるかもね」

 

「そっか。兵士さんたちは訓練の後とか凄い汗だもんね」

 

「お風呂からあがったら、ギルさんに聞いてみる? 一つしかこういうのは作れないのか、それともいくつか作れるのか」

 

「うん。そうしようっか。・・・でも今は、もうちょっと寛いでいたいかな」

 

「ふふっ・・・。そうだね、朱里ちゃん」

 

途中でいくつか政務関係の案が浮かんできたが、とりあえずは新しい風呂を堪能することにした二人。

二人が風呂から上がったとき、ちょっと入りすぎでのぼせかけていたのは仕方がないことであろう。

 

・・・

 

ふあ、と何度目かのあくびをかみ殺した頃、朱里と雛里の二人が暖簾をくぐって風呂場から出てきた。

お、あがったか、と声を掛けながら立ち上がると、二人はこちらに駆け寄ってくる。

うぅむ、小柄な二人がこうして駆け寄ってくれる姿にはちょっとした感動すら覚えるな。

 

「ギルさんっ、しゃわーの使い勝手は素晴らしかったですっ。髪の毛や身体を洗う時間が短くなって、効率的にお風呂を使えるようになると思います!」

 

「常にお湯が張ってあるというのも素晴らしいと思います・・・! 好きなときに身体を流せるというのは、とっても嬉しいですっ・・・」

 

俺の前に到着すると同時にまくし立てるように話しかけてくる二人。

よっぽど感動したんだろうな。まぁ、俺もできた風呂を見たときは同じようなことを思ったけど。

 

「なるほど。あ、シャワーとかに不具合はなかった? 使いづらいところとか」

 

こういうのは聞いておかないと。

慣れた俺たちでは気づかないような不具合とか使いづらさとかあるかもしれないしな。

・・・なんてことを思って聞いたのだが、杞憂に終わったようだ。

二人はぶんぶんと頭を激しく振って

 

「全然ありません! むしろ使いやすくて戸惑っちゃうくらいでした!」

 

朱里の言葉に頷く雛里。

 

「そっか。なら、他の娘たちにも使ってもらおうかな。そのときは、朱里と雛里に説明役を頼みたいんだけど、いいかな」

 

元々この二人に新しい風呂に入ってもらったのは、不具合や使いづらさを見つけてもらうこととは別に、他の将に説明する役割をしてほしかったからだ。

頭が回る二人なら、説明も分かりやすくやってくれるだろうしな。・・・といっても、シャワーもカランも使い方が複雑って訳じゃないからあまり意味はないかも知れないけど。

ま、日ごろ政務や訓練なんかで一番苦労を掛けているであろう二人だから、こうやってリフレッシュしてくれたのは良かった。

 

「はいっ。任せてください!」

 

「あわわ・・・が、がんばりましゅっ」

 

やっぱり雛里はちょっと緊張してしまうのか、少し噛んでいたものの、それでも力強く頷いてくれた。

 

「それじゃ、湯冷めしないうちに部屋に戻ろうか」

 

二人にそう促して、俺たちは城の通路を歩き始めた。

とりあえず、これからも温泉の捜索は続けよう。

今は宝具を使って擬似的に水道や給湯装置を作っているが、あれは流石に量産できない。

温泉が発掘できれば効能も期待できるしな。よし、明日からも頑張ろう。

 

・・・




「あたふたする蓮華可愛いなぁ」「えっ!? い、いきなり何よ!?」「蓮華っ、蓮華っ、蓮華!」「えっ、えっ?」「蓮華、れーんふぁ!」「う、うぅ・・・」「イジメか!」


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