真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

1 / 86
というわけで、続編スタートでございます。
設定の上塗りなどの所為で矛盾が出てくると思いますが、そこはスルーしていただくかそっと作者に教えていただけると嬉しいです。

それでは、どうぞ。


第一話 聖杯戦争が再開した後に

街には桜が咲き誇る。平行世界が融合し、サーヴァント六体が復活を果たした。

五胡への対応も終わり、少しは落ち着いたなぁ、と少し感慨深くなってくる。

ちなみに、同じ四日間を繰り返すんじゃないか、という心配はもう無い。すでに一ヶ月以上が経っているが、ループする気配が無いからだ。

後、さらっと言われたためにスルーしかけていたが、シャオのところにいったバーサーカーも違和感無く受け入れられていた。

どうやら、シャオがバーサーカーを妙に気に入ったらしく、肩に乗って突撃(ロース)しているのをたまに見る。・・・あれ、イリヤ? 

やはりロリっ娘には往々にしてバーサーカーが割り当てられる運命なのだろうか。

ちなみに、俺もサーヴァントであり、シャオの婿(予定)であるらしいので、呉の人たちから信頼されて真名を預けてもらっている。

 

「・・・お、ここだ」

 

目的地に到着すると同時に思考をいったん切り替える。

今日ははじめての三国会議。考え事をしながら臨むわけにはいかないからな。

 

「あ、ギルさん。おはようございます」

 

「おはよう、朱里」

 

部屋に入り、一番近かった朱里の隣に並ぶ。いつ見てもうちの軍師たちは可愛いなぁ。

そんな風に和んでいると、一刀が入ってくる。

天の御使いである一刀は、三国の平和の象徴として天下三分の要となっている。

まぁ、原作と同じく彼は形だけのトップではあるが、それでも彼の存在は重要だ。

最初は俺が一刀の立場に着くという案も出たらしいが、受肉したとはいえサーヴァントなので、いろいろと不都合も出てくる。

そのために天の御使いとはいえただの人間である一刀に白羽の矢が立ったのだ。

それに、俺は目立つより裏方のほうが似合っている。ま、本音を言えばそんな面倒くさそうな立場には就きたくないという願望も混ざっているのだが。

 

「遅いわよ、一刀。・・・さて、これで全員そろったわね。はじめましょう」

 

こうして、初めての三国会議が始まった。

 

・・・

 

会議の後、月も詠も侍女の仕事のため暇をもてあました俺は、市場へと足を伸ばした。

うんうん、貨幣の統一はうまく言っているようだ。

こんななりでも中身は現代人ということで、それを知っている一刀から相談されたこの貨幣統一の案。

纏め上げるのは面倒だったが、こうして成果が出てくれるのは嬉しいものである。

 

「それにしても、活気が良いなぁ・・・ん?」

 

なんだろう。見なかったことにしたいものが二つ落ちてる・・・。

 

「あ、ギル様。良いところに」

 

「・・・これ、どうしたんだ?」

 

俺に気づいて声をかけてきた警備隊の人間に聞いてみる。

 

「その・・・俺もさっき見つけたばかりなのですが・・・どう見てもその・・・あの人なので、どうしようかと」

 

「だよなぁ・・・。下手に連れて行って、雪蓮あたりに会わせたら・・・」

 

「やめてください。胃が痛くなってきます」

 

「分かった。俺が面倒見ておくよ」

 

「本当ですか!?」

 

本当に嬉しそうにそういった彼は、それではよろしくお願いします、と言って去っていった。

近づいてみると、ぐぅ、と腹が鳴ったのが聞こえたので、取り合えずどこか食事のとれるところに行こうと二人を抱えた。

うわ、軽いな・・・。

 

・・・

 

「がつがつがつ!」

 

「はむはむはむ!」

 

おーおー、良い食べっぷりだ。

 

「店主、まだ食べそうなんでいくつか追加」

 

「おうよ! 任せなぁ!」

 

俺が厨房へ声をかけると、店主の親父が元気な返事を返してくれる。

拾った二人の横には大量の皿が積み重ねられており、かなりの量を食べたことをあらわしている。

周りの客はその食べっぷりに興味津々のようだ。良い食べっぷりだもんな。

 

「はふはふはふ」

 

「もぐもぐもぐ」

 

「あいよ、追加お待ち!」

 

新しく追加された料理に手を伸ばす二人。ふむ、そろそろ満足してきたころかな? 

 

「はふー、おなかいっぱいなのじゃー!」

 

「そうですねー。おいしかったですよー」

 

「それは良かった。・・・で、そろそろ話を聞いても良いか?」

 

皿を片付けてもらいながら、二人・・・袁術と張勲から話を聞く。

なんでも、領土を追い出された後に傭兵団を組織し、賞金稼ぎをしながら放浪していたらしい。

だけど、だんだんと金が無くなり、しばらく食事を取れないままほとんど迷子のように荒野を歩いていて、何とか街には着いたものの、ものを買う金が無く、流石に倒れた、とのこと。

・・・ふむ、なるほど

 

「じゃあ、二人とも」

 

「なにかの?」

 

「なんでしょー」

 

「俺が保護してやるよ。袁術・・・はともかく、張勲。少しは兵も動かせるだろ? ちょっと手伝ってくれれば、衣食住は保障するし、働き次第では給与も出す」

 

「うーん、魅力的ですねー」

 

「また倒れたくは無いだろ? 安全も保障できるしな」

 

「・・・むー、そですね、分かりました。お世話になります。美羽さまも、それで良いですか?」

 

「む? うむ、くるしゅうないのだ!」

 

「というわけなので、これからよろしくお願いしますね。・・・えーと」

 

「ああ、俺はギル。蜀の将だ」

 

「ぎる? ・・・ギルってあの・・・金色の将の・・・?」

 

「・・・なんだその二つ名」

 

「袁紹さんと同じような金色鎧の癖に、その能力は桁違い。噂では、三国全ての将を相手にして大立ち回りをこなしたとか・・・」

 

「・・・ちょっと誇張されてるけど、おおむねそんな感じだ」

 

三国全ての将って・・・無理だろ、あれは。

 

「うーん、これは結構なところにお世話になることになっちゃいましたねぇ」

 

「はは。ま、諦めてくれ。・・・さて、そろそろ城に案内したいんだけど」

 

「あ、分かりましたー」

 

「店主、お金はここに」

 

「へい! ・・・ん? ちょっとギル様! こんなにいただけません!」

 

「迷惑料込みだよ。それじゃ、お邪魔したねー」

 

「ほわー、自然にこういうことできる人っているんですねぇ」

 

「七乃?」

 

「はーい。なんでしょうかー?」

 

「何をぶつぶついっておるのじゃ?」

 

「あははー、ちょっと感動してただけですよー」

 

その後、城に行けば雪蓮がいることを伝えると、二人ともガクブルしていた。

・・・小動物っぽくて和むなぁ。もうちょっといじめたくなる。

 

・・・

 

「ここを使ってくれ」

 

「おおー! ふかふかなのじゃ!」

 

「喜んでいただけて何よりだ」

 

「うむ! お主には世話になりっぱなしじゃのう。何かお礼をしたいのじゃが・・・」

 

「いいよ、そんなこと」

 

「そうじゃ! お主を妾の夫にしてやろうかの」

 

話を聞かない娘だなぁ・・・。

でも、ちょっと嬉しいかな。あれだな、娘に「わたしねー、おおきくなったらぱぱとけっこんするのー」といわれた気分かな。まだ娘いないけど。

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

「うむうむ。よきにはからうのじゃ。それでは、おぬしのことはこれから主様と呼んでやるのじゃ。ありがたく思うのじゃ」

 

「おー、いいね」

 

「うむ! 主様も妾のことは真名の美羽と呼んで良いのじゃ!」

 

「美羽、か。うん、そう呼ばせてもらおう。あと、張勲」

 

「あら、美羽様の旦那様なのですから、七乃で結構ですわ、ご主人様っ」

 

「そう? じゃあ、七乃。みんなに紹介したいし、軍師たちのところに行こうか」

 

「分かりましたー」

 

こうして、美羽と七乃を拾った。後でそのことを詠に相談すると、頭を抱えられたのは言うまでも無いことだろう。

 

・・・

 

「主様! おきてたも!」

 

「・・・ん? 美羽?」

 

真夜中。俺は美羽にたたき起こされた。

 

「なんだよ、こんな真夜中に」

 

「あ、私が説明しますね」

 

「頼む」

 

七乃の説明によると、何でも六つ巴で実戦形式の大規模演習を行うらしい。その中の一つの勢力になったのだが、どう考えても勝てないため助力を求めに来たらしい。

 

「妾の夫は強いと聞いての。・・・だめかの?」

 

「・・・いや、別にそれは良いんだけど。みんなから許可は取ってある?」

 

「えーっと、美羽さまが蜀の王に許可を取りに行ったらしいですよ?」

 

「・・・一人で?」

 

「お一人で」

 

「すごいな、この子。・・・あ、月にも許可取った?」

 

「む? そやつは誰なのじゃ?」

 

「俺の主なんだけどさ、その子は蜀に属してるんだ。だから、他の陣営に行くならそっちにも許可とってほしいんだけど・・・」

 

「あ、それなら大丈夫ですよ」

 

「ほんとか?」

 

「ええ。美羽さまが劉備さんのところに行ってる間に場内の兵士たちに話を聞いていたら、あなたの主の話が聞けまして。ついでなんで許可とっておきました」

 

「すごいな、七乃」

 

「美羽さまのおもしろ・・・雄姿を見るためならば、頑張りますよ?」

 

「・・・うん、まぁいいや。取り合えず、明け四つから戦闘開始なんだろ? なら、いろいろと準備しないとな」

 

「あ、兵たちは表に並ばせてあるので」

 

「へえ、じゃあすぐに出立しようか」

 

「はいっ。ほら、美羽さまいきますよ」

 

「うむっ。苦しゅうないのだ!」

 

こうして、俺は袁術陣営として美羽の陣営で動くこととなった。

 

・・・

 

取り合えず、本陣に美羽、その補佐に七乃、そして将が俺だけという最悪な状況下で蜀魏呉の三国に勝つには、やはり漁夫の利しかありえないだろう。

まず俺は美羽を説き伏せ、山の中で残り一国になるまで待機することにした。

山に隠れる前にはきちんと各国の間諜を撒いておいた。

俺がいることすら露見してはいないだろう。それほどまでに徹底した。

後は美羽と七乃を何とかなだめながら、山の中で待機することに。

・・・暇だし、放った間諜からの報告でも見てるかな。

えーっと、蜀は先鋒に恋と鈴々、翠の三人か。右翼には愛紗と蒲公英で左翼は星と焔耶が担当。

中軍には桔梗と紫苑の二人を配置し、詠とねねは騎馬隊を率いての遊撃担当。そして本陣にはやっぱり桃香が配置され、朱里がその補佐についている。

そして戦闘狂の雪蓮率いる呉は先鋒に思春と明命が。そして祭が魏を警戒するような動きを見せており、さらに亞沙が武官として参戦するらしい。

冥琳と穏の軍師二大巨頭は雪蓮が突き進む道を切り開く役割になったらしい。そして、蓮華は本陣の守備についたとのこと。

で、優勝候補筆頭の魏。

当然というかなんというか、夏候惇が先鋒につき、さらに霞まで先鋒になったらしい。

右翼は夏候淵と郭嘉が。左翼は許緒と典韋が担当している。

楽進たち魏の三羽烏は遊撃隊に。その補佐は程昱になったとのこと。

本陣には華琳と一刀が陣取っている。

 

「・・・ふぅむ」

 

そんな風に状況を分析していると、伝令から蜀が魏呉にはさまれたと報告を受けた。

 

「へえ、そうなったのか」

 

なら、蜀が最初に落ちて、次に呉がおちるな。で、最後まで残った魏を損害なしの袁術軍で蹂躙すればいいかな。

・・・とりあえず、最低限の警戒だけして、後の兵士たちは休憩させることにした。変に緊張させていざというとき動けなかったら困るしな。

 

「交代で最低限の警戒だけして、後は休憩してていい。そう伝えてくれるか」

 

「はっ」

 

伝令がわき目も振らずに走っていく。

よし、後は美羽に少しだけはちみつを与え、七乃を上手にいなしてすごせばいいな。

 

・・・

 

戦いが始まる少し前。詠ちゃんから、気になることを聞いた。

 

「え?」

 

「・・・だから、今日の演習を見学してもらおうとギルの部屋にいったんだけど・・・もぬけの殻だったの」

 

そこで、詠ちゃんと月ちゃんはお城の人間にお兄さんを見なかったか聞いて回ったらしい。

すると、ある兵士さんから、詠ちゃんが部屋を訪ねる少し前にお兄さんがどこかへ言ったという話が聞けた。

 

「もしかしたら、他の陣営にいるのかも」

 

「えー・・・さすがに、宝具使うのは自重するよね?」

 

「・・・宝具を自重したって、元々の能力が高いんだから意味ないわよ」

 

た、確かに。

恋ちゃんと宝具を使わずに素で勝てるお兄さんが、この戦いで現れたりしたら・・・

 

「それにしても・・・どこについてるんだろうね、お兄さん」

 

「さぁ? ・・・でもま、魏の北郷に頼まれたりとか、呉の小連に引っ張られたりとか、袁紹か袁術に無理やり連れて行かれたか、白蓮になきつかれたか・・・」

 

「あ、あははー。全部鮮明に想像できちゃうところが怖いよねぇ・・・」

 

怒りのこもった詠ちゃんの言葉に、私は苦笑いを返すしかなかった。

・・・って、あれ? 怒りがこもって・・・? 

 

「もしかして、詠ちゃん・・・。蜀以外にお兄さんがついちゃったから嫉妬してるの?」

 

私がそういうと、詠ちゃんは一瞬きょとんとした後、耳まで真っ赤にしてあたふたし始めた。

 

「ち、ちがっ、あ、あのねぇっ、ボクは別にギルがどうとかそういうことをいってるんじゃなくて、他の所についたら勝率が下がっちゃうって話を・・・!」

 

「うんうん、わかってるよ、詠ちゃん」

 

「わ、わかってないわよね!?」

 

・・・それにしても、どこにいったんだろ、お兄さん。

できたら、私の隣にいてほしかったんだけどなぁ。

 

・・・

 

蜀が脱落した後、魏は呉へと食らいついた。

しばらくすると呉の左翼は魏の勢いに負け、壊滅した。

右翼と合流した本陣も、新たに投入された夏候惇によって壊滅させられ、呉の牙門旗が倒れた。

 

「呉が落ちた! 袁術軍、戦闘準備!」

 

テキパキと戦闘準備を終わらせ、整列する袁術軍の兵士たちに、赤い槍(ゲイボルグの原典)を掲げながら声を上げる。

 

「行くぞ、みんな! 魏は勝利したものと思い込んでおり、油断している! その隙を突き、俺たちは奇襲をかける!」

 

「応!」

 

「俺たちが目指すのは魏の牙門旗のみ! それ以外は無視していい! 最低限の隊列を維持していれば、後は勢いに任せてしまってかまわん!」

 

練度が低い袁術軍の兵士たちに多くを抱えさせては、もしかすると魏に逆襲されて負けるかもしれないと考えた俺は、簡単な指示だけを与えることにした。

 

「ただし、油断して死なないように! それだけは注意しろ!」

 

「応!!」

 

「行くぞ! 突撃ぃー!」

 

「おーっ!」

 

突撃の銅鑼を鳴らしながら、袁術軍は山から駆け下りる。

 

「うはははーっ、行くのじゃー! 蹴散らすのじゃー!」

 

馬に乗った七乃と、七乃の前に相乗りしている美羽の前を駆けつつ、赤い槍(ゲイボルグの原典)で魏の兵士たちをなぎ払う。

 

「貴様はっ!」

 

「セイヤッ」

 

野性の勘なのか、魏の誰よりも早く立ち直った夏候惇が華琳と俺の間に立ちふさがる。

だが、戦いの後でさすがに疲れているのか、俺の一撃でその大剣を弾き飛ばされてしまう。

その後すぐに腕に巻かれた布を回収し、戦闘不能扱いにする。

 

「すまんな」

 

「なんだとっ・・・!」

 

夏候惇の横をすり抜け、いまだ若干の硬直を見せる夏候淵に向かう。

彼女の弓の腕は確かだからな。ここでつぶしておかなければ、馬上の二人が危ない。

 

「うははははーっ! 妾の強さを見せ付けるのじゃー!」

 

「きゃーんっ、お嬢様さいこーっ!」

 

背後でコントを繰り広げている美羽たちをスルーしつつ、夏候淵へと駆けていく。

 

「くっ・・・!」

 

「二人目っ!」

 

ろくな反撃もできずに夏候淵の布も回収し、兵士を蹴散らしながら華琳の元まで向かう。

・・・そういえば、どっちの牙門旗をとればいいんだろうか。華琳? 一刀? 

 

「・・・両方倒せばいいか」

 

「く、まさかそっちについていたとはね」

 

「マジかよっ!」

 

「マジだよ、すまんね!」

 

華琳が絶を薙いでくるが、赤い槍(ゲイボルグの原典)で簡単に弾いてしまえた。

やっぱり華琳も疲れてるんだなぁ。俺がサーヴァントであることを差し引いても、流石に二つの大軍を相手にした後の疲れは響いているらしい。

 

「うははははーっ! やっぱり妾は最強なのじゃーっ!」

 

「よっ、流石お嬢様! 自分の手柄でもないのにそんなにえらそうにできるなんてっ! そこに痺れる憧れるうっ」

 

「もっと褒めてたもー!」

 

一刀は・・・まぁ、対応できないよな。

夏候惇と華琳は特別だろう。あんなに早く立ち直るのは流石としか言いようがない。

 

「よし、魏の牙門旗は奪ったぞ。袁術軍の勝利だ!」

 

「うははははは~っ!」

 

「よっ、流石ご主人様ですねっ」

 

ふー、終わったかー。

 

「お疲れ、華琳、一刀」

 

「・・・まさか、そっちについてたなんてね」

 

「え? 聞いてなかったのか?」

 

「袁術が桃香に『妾の夫も参戦させてよいかの?』とかいってきたから、どんなのが出てくるかと思って面白半分に許可したのだけど・・・」

 

「あー、夫云々は無視していいぞ」

 

「でしょうね」

 

はぁ、とため息をつく華琳から目をそらし、一刀に視線を向ける。

 

「一刀も、お疲れ様」

 

「あー、なんていうか、気が抜けた」

 

「はは」

 

「ギルならともかく・・・袁術に負けたっていうのは認めたくないなぁ・・・」

 

「ま、ショックだろうなぁ」

 

俺に気づいた蜀や呉の面々がこちらに近づいてくるのが見える。

あ、愛紗とか詠とか完璧に怒ってるなぁ・・・。

 

「あなたも大変ね。・・・ま、一応同情しておくわ」

 

「ありがとさん」

 

・・・

 

「そういえばお兄さん」

 

「なんだ、桃香」

 

ある日の政務で、唐突に桃香が話しかけてきた。

 

「七人の英霊さんの中で、一番強いのって誰なの? やっぱりお兄さん?」

 

「・・・ふーむ」

 

そうだなぁ、桃香にはいろいろと説明しておいたほうがいいかもなぁ。

俺はいったん筆をおく。

 

「ちょっと休憩しようか。ゆっくり話したいし」

 

「うん、お願い」

 

えーと、まずは何から説明するべきか。

 

「まず、七つのクラス・・・役割の事は説明してたよな?」

 

「うんっ。剣士さんとか、それぞれの特徴があるんだよね?」

 

「そのとおり。剣士は最優、槍兵は最速、狂戦士は最強、なんて風にそれぞれ秀でるところがあるんだ」

 

他は知らないけど。何だろう、アーチャーは・・・最善? ライダーは最多、キャスターは最賢、アサシンは最悪・・・かなぁ。

 

「後は、地理とか相性とかマスターからの魔力供給とか英霊本人の人格で強弱は変わってくるから、単純に誰が強いとかははっきりできないなぁ」

 

まぁ、英霊の中で、という縛りならばネイキッド英雄王が一番強いんだけど。

そういうことじゃないよなぁ。

 

「うーん、いろいろ難しいんだねぇ。・・・じゃあ、何もない荒野で、みんなが全力をだせるってなったら、七人の中で一番なのは?」

 

「それだったらやっぱり俺かなぁ。王の財宝(ゲートオブバビロン)と乖離剣エアの天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)があるから、本気で全力なら、すべての英霊に打ち勝てると思うな」

 

「へー! へー! お兄さんってやっぱり強いんだー!」

 

「まぁ、仮にも英雄王だしな。で、次に狂戦士の武蔵坊弁慶、三番はやっぱり最優の英霊、剣士の劉備だな」

 

「はうはう、私とは大違いだよね、正刃さん・・・」

 

「うーん、まぁ、英霊と人間は比べられないからなぁ」

 

うんうんと頷きながら話を続ける。

 

「三国の将の人たちが天下一品武闘会をやるみたいだけど、ギルさんだったら出場者全員に勝てそうだよねー」

 

「んー、そういう公式な仕合とかだと宝具を自重しないといけないから、恋あたりに負けると思うなぁ」

 

「あ、そっか。・・・うーん、むつかしいなぁ」

 

「難しいって・・・桃香は俺に武闘会に出てほしいのか?」

 

「え、えへへー。お兄さんが闘ってるところ、最近見ないから・・・」

 

「いいじゃないか、平和ってことだし」

 

「えー。お兄さんのかっこいいところ見たいのにー」

 

ぶーぶー、とこちらにブーイングを飛ばす桃香に苦笑しつつ

 

「俺の闘ってるところを見たいならたまにセイバーたちと模擬戦してるからそれを見にくれば?」

 

と言ってみたが、いつやってるかわからないじゃない、と返されてしまった。

・・・そりゃそうか。いちいち桃香に報告なんてしてないし、始まるのはいつも唐突にだしな。

 

「・・・じゃ、諦めるしかないな」

 

「うぅー・・・」

 

「ほら、そろそろ休憩終わり。俺たち二人しかいないんだし、さっさと終わらせちゃおうぜ」

 

「・・・うん」

 

・・・若干元気のないように見える桃香が気になったが、ま、すぐに戻るだろうと思い直し、政務に意識を戻した。

 

・・・

 

「へぅ、す、すごいね、詠ちゃん」

 

「う、こんなにおっきいの・・・?」

 

「その本に書いてある中では、腕ほどの太さのもあるとか・・・」

 

「あわわ・・・は、入るのかな・・・」

 

今日は珍しく侍女のお仕事がお休みのため、同じくお休みだった詠ちゃんと朱里ちゃん、雛里ちゃんと私の四人で、朱里ちゃんたちの持ってきた艶本を見ています。

四人で読んだ感想を話し合ったりしていると、突然扉が叩かれました。

 

「月、いるかー?」

 

「ぎ、ギルさんっ・・・!?」

 

「はわわ、本を隠さないと・・・!」

 

「あわわ、とりあえず寝台の下に・・・!」

 

少しばたばたした後、扉の向こうにいるギルさんにどうぞ、と声をかけました。

 

「入るぞー。お、詠。朱里に雛里もいるのか」

 

「あ、はい。今日は軍師の皆さんで討論をしていたんです。私は聞いてるだけなんですけど」

 

「そっか。・・・あ、そうそう。これ」

 

そういってギルさんが渡してくれたのは、磨かれた宝石に紐を通したものでした。

 

「それ、一応持っておいてくれ。持ち主に危機が訪れたときに一瞬で防御結界を展開するっていうものなんだけど」

 

「は、はい。・・・あの、何でそんなものを?」

 

「月にもしものことがあったら嫌だからな。・・・それじゃ、邪魔したな」

 

そういって、私の頭をくしゃっと撫でてから部屋を出て行くギルさん。

へぅ、顔が熱いです・・・。

 

「ふー・・・ギルさんがきちんとのっくしてくれる方で助かりました・・・」

 

「そうね。他のやつらだったらもっと大変なことになってただろうし」

 

「あわわ・・・気を取り直して、読み直しましょう」

 

寝台の下から艶本を取り出し、再び読み始めるみんな。

 

「やっぱり、最初って痛いのかしら」

 

詠ちゃんがつぶやく。

・・・それは、その。

 

「えっと、そうみたいですよ」

 

「あわわ・・・」

 

「・・・痛いけど、そのうち慣れるよ?」

 

あ。

・・・と、思ったときには遅かった。

あわてて自分の口を押さえたけど、三人の目はこちらに向いている。

 

「ゆ、ゆゆゆゆ月っ!? ど、どういうことっ!?」

 

「はわわ・・・月ちゃんは、その、した、んですか?」

 

「あわわ・・・や、やっぱり、ギルさんと・・・?」

 

「へぅ、あの、えっと・・・」

 

じりじりと詰め寄ってくる三人から逃げようと後ずさっていると、壁際まで追い詰められてしまいました。

ど、どうしよう・・・。

別に内緒にしているわけではないけど、やっぱりこういうことを話すのは恥ずかしいです・・・。

 

「ゆーえー! あーそーぼー!」

 

「・・・はぁ、部屋に入る前にはまずノックを・・・おや?」

 

そんなことを考えていると、大声とともに扉が開かれました。

入ってきたのは響ちゃんと孔雀ちゃん。

た、助かった・・・。

 

「・・・おやおや、真昼間から艶本か」

 

「艶本・・・うわ、しかも結構過激なのも・・・」

 

ニヤニヤしながら艶本を見る孔雀ちゃんと、恥ずかしそうにしながらもぺらぺらと中身を読む響ちゃん。

 

「はわわっ! あの、それは・・・!」

 

「あわわっ・・・ええっと・・・!」

 

「ふふ、大丈夫。言いふらすつもりはないよ。・・・そだな、ボクもその読書会に参加させてもらおうかな」

 

「孔雀ちゃん、大胆だねぇ。でも、私も興味あるからちょうどいいかな。私も読むー!」

 

「ど、どうしよう、雛里ちゃん・・・」

 

「と、とりあえず・・・月ちゃんから話を聞きたいな」

 

・・・ぜんぜん助かってなかった・・・!? 

どういうことだい? と二人から事情を聞いた孔雀ちゃんと響ちゃんも興味深そうにこちらへ近づいてきます。

 

「ボクもそういうのはやったことなくてね。経験者の話を是非聞いてみたい」

 

「月ちゃん、一足お先に大人の女になってたんだねー。どんな感じなの?」

 

二人増えて、計五人に詰め寄られてしまいました。

 

「へぅ・・・わ、わかりました・・・お、お話します・・・!」

 

だから、座ってくださいっ。と言って、五人を落ち着かせました。

興味津々と言った表情で椅子に座った五人にお話しするため、緊張しつつ私も椅子に座りました。

 

「えと、初めての時のお話なのですが・・・」

 

・・・




「黄金の将、ギルの評判」「1、鎧が眩しくてちょっとイラッとする」「2、恋人とイチャイチャしててちょっとイラッとする」「3、その上呂布よりも強くてちょっとイラッとする」「完全に私怨じゃないか、それ」

誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。