〝白〟達の記録   作:白結雪羽

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なんというやっつけ感。
うまくまとめたかったが時間とモチベが足りず断念……チュウトハンパイクナイ。

まあ何にせよ琴葉姉妹3周年おめでとう!そして今後もよろしく!




3周年─姉妹のとある誕生日─ by琴葉な妹は苦労するⅢ

 

 

 

「ふんふー、ふんふふーん」

 

 

 時は朝、間もなく9時15分を回ろうかという頃。カチャカチャと軽快な音と共に上機嫌な鼻唄が台所に聞こえてくる。そこには淡い赤色の髪を左右に揺らす一人の少女が、ボウルを片手にその中身を一所懸命かき混ぜていた。

 傍には今作っている物の材料であろう小麦粉や卵、牛乳に、砂糖といった物が所狭しと置いてある。そしてその横には木製のヘラや円形の紙を敷いてある焼き型といった器材が伺えた。

 

 彼女――琴葉茜はただいまホールケーキの製作中である。

 

 

「ごじんのふみをーやきすててー」

 

 

 やや不穏な歌詞を口ずさみ始めたが作業の方は滞りなく進んでいく。生地の基に小麦粉を投入し、ホイッパーからヘラへ持ち飼え更に混ぜ込む。

 それからさらに数分。漸く出来上がった生地の基を型に流し込み、少し表面を整えるとそのままオーブンへと入れようとする。

 

 

「っとと、せやったせやった」

 

 

 そこで茜はハッとしてオーブンの中に入っていた物を先に取り出した。それは香ばしく焼き色を付け、整然と並べられたクッキーだった。事前に余熱を付けておくついでと作っていた物だ。

 落とさないように片手でクッキーの乗ったプレートを引き出し、一方で生地を押し込んでオーブンの設定をする。

 

 

「んー。他は……クリームはもう作っとるし、乗せるもんの確認もし終わっとるし……待つだけやなー」

 

 

 頭の中で工程を整理し現時点でやる事は終えたと、茜はプレートを電子コンロの上に置き一息吐こうと軽く伸びをした。

 

 その時、不意にスカートのポケット内が振動した。

 

 

「んー?」

 

 

 彼女はゆったりとした動作でポケットに仕舞っていた携帯端末を取り出し画面を確認する。そこには着信のマークと、『葵ちゃん』と彼女の双子の妹の名前が表記されていた。

 

 

「葵ちゃん……? どないしたんやろ」

 

 

 つい〝一時間半程前〟に〝学校の制服〟姿で外出した妹の姿を思い出しつつ画面をスライドする。

 

 

「やっほー葵ちゃ

『この馬鹿姉!! 今何処で何やってるの!?』

 

 

 鼓膜を駆け抜けた大きな罵声に堪らず当てていた携帯を放した。まさか第一声で罵られるとは――ウチの妹もとうとう反抗期に入ってしまったのだろうか――と、成長を少し嬉しく思うも哀しい気持ちを抱きながら電話越しの葵を宥めようとする。

 

 

「もー葵ちゃん、いきなり大声出さんといてなー。おまけに貶されてもうて、お姉ちゃんのハートはもうボロボロ

『そんな事はどうでもいいから! ねえ今何処にいるの?』

「葵ちゃんが冷たい……」

 

 

 昨日までお姉ちゃんお姉ちゃんって優しかった葵ちゃんはもう居ないんやね――などと気を落としつつも、茜は実の妹の質問に答えた。

 

 

「んーと、今普通に家に居るけど?」

『家!? なんで!? 今日普通に学校あるからね? 休みじゃないからねっ? さっきホームルームも終わったばかりでもう直ぐに授業始まっちゃうよ! と言うかお姉ちゃん、珍しく朝普通に起きてたよね? 私が「そろそろ時間だよ」って言った時も「ちょっとやる事残っとるから先に行っといてええよー」って言ってたよね!?』

 

 

 葵の言葉を受け黙り込む茜。暫しこめかみをつつき記憶を探ってみた。そして朝のやり取りを思い出したのか「おお」と相槌を打った。

 

 

「そえばもうそんな時間かー。ほな今作ってるもん終わったら学校行くって先生に言っていてくれへん?」

『……もしかしてお昼まで来ないつもり?』

 

 

 実のところ、葵や周囲から見ての茜のマイペースな言動は今に始まった事ではない。最近のものでは、寝坊した葵を置いて寝巻きのまま学校に登校したなんて事もあった。しかもお昼のお弁当だけは用意していたという珍妙な出来事だった。

 その他にも前科が多くあり、葵は茜がどう動くのか気が気でないのだ。

 

 そんな心配性の妹に茜はあくまでのんびりと否定をする。

 

 

「そんな事あらへんよー。ただなー、今オーブンでケーキの生地使っとってあと30分は目を離せんのよねー」

『ケ、ケーキ? なんで朝からそんな物作って――』

「ん、葵ちゃん? 葵ちゃーん」

 

 

 ふと、葵が沈黙した。一体どうしたのかと首を傾げ茜は妹の名前を呼んでみるが、携帯の向こうからは『もしかして……そういう……』との呟きしか聞き取れない。

 

 

『――お姉ちゃん』

 

 

 やがて聞こえてきた葵の声音は先程までの怒ったものではなく、諦めたような、またどこか嬉しそうなものだった。何かを察したようだ。

 

 

「ほいほい、葵ちゃんのお姉ちゃんやでー」

『先生には私から何とか説明しておくから、なるべく早く済ませてね。遅刻はもうしょうがないけど、お昼までには絶対だよ?』

「ん、葵ちゃんのお願いときたら破る訳にもいかんなー」

『それは一度も約束を破った事のない人だけが言える台詞だからね?』

「そかー、そら残念」

『もうっ……あ。そろそろ授業始まっちゃうから、切るね?』

「おーう、またなー。勉強頑張ってなー」

 

 

 茜は掌をヒラヒラと振りながら通話終了ボタンを押す。チラリとオーブンを見てみればまだ『25分』と示されていた。それに次いでリビングに掛けられている時計を覗いてみると、既に9時30分を回っていた。

 

 

「んー、あまり手抜きはしとうないけど……まあ何とかなるかなー」

 

 

 茜と葵の住む家から二人の通う高校までは徒歩で30分程、走れば20分を切れるかどうかの距離がある。茜は運動神経にはそこそこの自信があるので、それよりも早く到着出来るし見積もっても11時までには行けるだろうと考えた。

 でも、とそこで思い直す。その頃合いとなると午前の授業も佳境といった所だ。優しい葵ちゃんはお昼までにはと言ってはいたが、さすがに午前中の授業をすべてすっぽかすというのは常識的に如何なものか。遅刻をしている時点で常識も何もない気がするが、その辺茜には些細な事だった。

 

 

「うーん…………お、せやっ」

 

 

 少々悩んだ末に妙案を思いついたのか、茜は仕舞ったばかりの携帯を取り出すと手早にメールを打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 ──それから数分して、

 

 

「むぅ……ん? おお〝フィーちゃん〟! 来てくれてあんがとなー。で、早速頼みなんやけど、これをウチのクラスに届けてくれへん?」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 通話の切れた携帯を鞄に仕舞って、葵は大きく溜息を吐いた。理由は言わずもがな、大遅刻が確定して尚マイペースに家でケーキ作りに勤しんでる自身の姉だ。

 最初は、以前の寝巻登校騒動に続いてまたやらかしたと茜に対して厳しく叱責するつもりであったのだが、彼女がなぜ朝からケーキ作りをしているのかを考えたら怒るに怒れなくなってしまったのだ。

 

 今日は4月25日。葵と茜、姉妹二人の誕生日である。

 つまり茜は葵の為に誕生日ケーキを作っている所なのだ。自分と姉の誕生日にケーキ作りの事を聞いて何も察せない程葵は鈍感じゃない。ただその実、今朝登校してきた際に彼女の友人である結月ゆかりと弦巻マキ、東北じゅん子の三人から誕生日を祝われプレゼントを渡してくれる約束までしていた為気付かない方が難しかった。

 

 

「茜はなんだって?」

「その、ケーキを作ってるみたいで……来るのはお昼頃になるみたい」

 

 

 朝の出来事を思い返していたら後ろから声を掛けられる。祝いの言葉をくれた友人の一人、マキだった。

 振り向いてみると、彼女の他にもゆかりとじゅん子が葵の様子を案じてか心配そうな表情で立っていた。

 

 

「え。茜さん、まさかケーキを作っていて遅刻を……?」

「もしかして、そのケーキってお二人の誕生日ケーキでしょうか?」

「たぶん、そうですね……はぁ」

 

 

 葵がじゅん子の疑問に答えると、彼女は大変驚いた様子を見せた。その反応に少しばかり違和感を覚える葵だったが、その気掛かりもこの後自分達のクラスの担任に姉の遅刻説明をしなければと思い出し、意識の隅に追いやられてしまう。

 

 

「え、ええっと。茜さんも葵さんと誕生日を祝い合いたくて少し一所懸命になってしまっただけでしょうし。だから、その、あまり責めてあげない方が……」

「あ、いえ。別に責めてたり怒ってるわけじゃ……まあ少し思いはしましたけど。お姉ちゃんが私の為にしてくれてる好意を無碍になんて出来ませんよ。ただ……もう少し考えて行動して欲しいなあ」

 

 

 葵は茜のことを大切に思っている(またそれは茜も同じだろう)。できるなら彼女の意思や思いを尊重してあげたいと思ってるし、もし間違いを犯しているのならそれを窘めて正してあげたいとも思ってる。それ故に日々の苦労とのつり合いがなんとももどかしさを彼女に感じさせるのだった。

 ほんのり赤らんだ頬を隠すように机に突っ伏す葵。そんな彼女をじゅん子は微笑ましく思った。

 

 

「ふふ、本当にお二人は仲のいい姉妹ですね。……少し、羨ましいです」

「そんなことないですっ。と言うか、じゅん子さんときりたんちゃんだってとっても仲が良いじゃないですか」

「……うん、ありがとう」

「「?」」

 

 そんなこんなで、二人の誕生日から始まった話題を広げているうちに校内にチャイムが鳴り響いた。マキが正面の壁時計を見てみれば時刻は9時45分、授業開始の合図のようだった。

 

 

「ほら、授業始まるから皆席に戻った戻った」

「あ、はい。それじゃあ葵さん、また後で」

「同じ教室なんですからそんなに畏まらなくってもいいですって、このやり取りも何回目ですかっ」

「あははは……。あ、そうだ。葵さん、茜さんが来たら二人の誕生日会についてまたお話ししましょうね」

「あー、それもそうですね」

 

 

 最後に軽い約束を交わして、葵は各々席に戻っていく三人の背中を見届ける。そこに丁度教室の扉が開き一時限目の担当の先生が入ってきた。

 

 

 今日は4月25日。琴葉姉妹の生まれた日。妹を思う姉に、姉に振り回されながらも慕う妹。賑やかでハチャメチャな特別な一日はこうして始まった。

 

 

 

 

 




本来ならこの3,4倍の文章になるはずだったのに……折角の誕生日に申し訳ない
モチベとか気が向いたら続きを書こうか(いつも通りだ

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