〝白〟達の記録   作:白結雪羽

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とにかく何か書きたい(書けるとは言ってない)




…つらいなあ。


〝3人〟のある日常

 

 

 

 

「チッ。どこに隠れて……ッ!」

「クリアリングが甘いな」

 

 

 隠れ場所は予め可能な限り潰していった筈だった。しかし、それでも全てを潰せたかと言えばそうではない。現に彼女はこうして背後を取られ銃口を突き付けられている。

 

 

「ああっ!?」

 

 

 そして無情にも放たれた弾丸は彼女に反撃の猶予も与えぬままその小さな体を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 ――――丁度その時、笛の音が鳴り響き双方の動きが停止する。

 

 

「うがああああまた負けたあ!! ちょっと『総督』強すぎじゃない!? 武器と時間にまで制限(ハンデ)付けてるのに!」

 

 

 画面に映される『lose』の文字に、全体的にピンクの少女――ナフェは薄板の向かい側に居る対戦相手に叫んだ。手元にあるのは某ゲーム会社の家庭用据え置きゲーム機のやや大きめなコントローラー。やっているのは一時期巷で一世を風靡した愛らしくも小憎らしいイカ達が駆け回るTPSゲーム。

 そんなゲームで彼是十五連敗中の彼女、それは叫びたくもなるだろう。

 

 一方で、対戦相手の全体的に白い『総督』と呼ばれた少女は揺り篭型の椅子に全身を預けたまま澄まし顔で向かいの敗者に告げた。

 

 

「ナフェ、それは少し違う。私が強いのではない、君が弱いのだ」

「そこは普通逆じゃないの!? いやそれはそれで腹立つけどさっ!」

 

 

 どちらにせよ負け続けてる事実は変わらないのでナフェの憤りはただ空回りするだけだった。

 

 そんな彼女を置いて、白の少女――シング・ホワイトはパチンッと指を鳴らして膝上のコントローラーに、正面のゲーム機本体とディスプレイを『部屋』に送り込んだ。それを見てナフェは不満そうに頬を膨らます。

 

 

「なにもうお終いなの? 勝ち逃げとかマジありえないんだけど。……あ、もしかして次は勝てる自信が無いからって怖じ気づいちゃった? キャハハ、あーそれなら仕方ないっかー? 総督はその辺り貪欲だからねぇ? ナフェちゃんとぉーっても優しいから許してあげよっかなー?」

「とても一勝すら出来なかった者の言う台詞ではないな。お前のそのポジティブさにはほとほと感心するぞ」

「アハハ。口調に反して感情的に私の首狩っきろうとしてる総督程じゃないですってばぁ」

 

 

 人の神経を逆撫でするような軽口で答え続けるナフェ。ただ、いつの間にか(うなじ)に割りと洒落にならないレベルで食い込まされてる〝大鎌〟に冷や汗が止まらなかった。

 

 

(やっば調子乗り過ぎちゃったかも……。ナフェちゃんチョーピーンチ!)

「安心しろ。今一度上下関係を刷り込んでやるだけだ」

「いやぁ、その刷り込むべき所が今にもチョキンッてされそうなんですけどぉ? っていうかこれもう入り始めてますよね? メッチャ痛いし、さっきから頚椎機構コツコツって鳴ってるんだけど? やるならやるで一思いにやってくれない!? この鬼! 悪魔! 総督! いつからそんな悪趣味になっちゃったの!? ……あ、最初からか。あれまナフェちゃんってばうっか――」

 

 

 ゴトリと床に落ちる生首。それと同時に崩れ落ち首から夥しい量の血を垂れ流す小さな体。そしてそれを冷めた双眸で見下ろすシング。

 少なくとも憎まれ口を叩きあえる関係の二人が成すにはあまりにも唐突で凄惨な状況が出来上がってしまった。

 

 それに『彼』は思わず溜め息を零す。

 

 

『なんていうか……飽きないね、二人とも』

「ふむ、どのように表現するべきか。既に五万と繰り返してきたやり取りだが……こう胸がすくと言えばいいか? ナフェを手にかけるという行為が妙に癖になってきているようで――」

『ふ・ざ・け・ん・な!! いっつもいっつもそんなクソみたいな性癖に殺されてる私の身にもなってみろっての!! というか何度〝殺るな〟って言えば分かるのかなあ!? 私も暇だから仕方なく付き合ってあげてるけど痛いものは痛いし、そこまで許容した覚えはない!!』

 

 

 淡々と内心を暴露するシングに既に事切れた筈のナフェの絶叫が噛みつく。

 倒れていた彼女の体は気付けば独りでに立ち上がっており、転がっていた自身の頭部をあるべき位置へと戻す。すると瞬く間に二つの切断面は一つに繋がり、間の抜けていた彼女の表情も直ぐに殺気を伴って睨みを効かした。

 第三者が見ればサイコホラーもいいところな光景だ。

 

 

「しかしナフェ、考えてもみろ。既にお前が殺される事は確定事項なのだから少しは学習してはどうだ? ……ああ、いや。お前は(おつむ)だけは昔から残念だったな」

「よーしナフェちゃん怒っちゃったぞー♪ こんの欲濡れ希死念慮者(ドヘンタイ)が……この才色兼備な姦策家様との格の違いってやつを教えて――カヒュッ!?」

 

 

 その華奢な腕を身の丈に迫る三爪の巨手に変貌させて……と恰好付けるも束の間喉から血飛沫をあげ倒れるナフェ。そんな彼女にヤレヤレと謂わんばかりに肩を竦めるシング。

 ここまでくるとホラーを通り越してなんとも喜劇的な状況だった。

 

 そうしてまた、()()()()()()『彼』は苦笑を漏らしつつ呟く。

 

 

『……本当、厭きないね』

「お互いにな、フフ」

 

 

 不憫な娘(ナフェ)が二度目の復活をしている中、何処からともなくティーセットを取り出しつつ彼女は愉しそうに微笑んだ。そして漆黒の(そら)浮かぶ〝青い星〟を仰ぎ見る。

 

 

 

 

 

 ――残存人類2039人。彼等が生に足掻く最中、彼女達(侵略者)は今日も戯れに時を過ごしていく。

 

 

 


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