魔法少女リリカルなのは東方参異伝   作:アリヤ

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第二十三話

「やはり私の作戦に気づいてなかったか」

「く、一体どうやってここに?」

 

 プレシアはいつの間になのはが此処に来られたのか、気づきもしなかった。

 なのはがどうやって来たかと答えると簡単なことで、能力によって移動しただけに過ぎなかった。

 しかし、なのはは正確にプレシアが居る場所について知らなかった筈で、場所が解らなければ、さすがのなのはでも移動する事は不可能だ。実際、なのはがプレシアの居場所を特定したのは先ほどだった。

 

「……さっきの通話、実は私とフェイトちゃんに視線を集中させるために仕向けてたの。だから言ってしまえば、通話はおびき寄せるための罠っていうわけ」

「けど、それだけではこの場所が解る筈がないわ!!」

「言ったでしょ。おびき寄せるための罠だって。その間に私は自分の能力で、どの辺りにプレシアが居るのか手当たり次第に調べていたの」

「……まさか、傀儡兵に攻撃していた謎の空間を出現させていたものはっ!?」

「その通り!! 私の能力は空間に歪みを作り、別の場所に移動出来る能力!! まぁ、私も自分の能力なのに、詳しく知らないけど」

 

 なのはの言葉を聴いて、プレシアはなのはが何をしていたのか解ってしまった。視線を画面に向けさせることによって、なのはは手当たり次第にプレシアが居るこの場所を能力使って特定していたということに。画面に集中させていれば、プレシアに気づかれずに居場所を調べられると。

 しかし、それは手当たり次第だったこともあって、見つからない可能性だって考えられ、なのはの運が勝ったという形なのだ。一気に近づかれると考えていなかったプレシアだったが、手当たり次第ということはあの場所についてなのはに見られた可能性も考えられた。すぐにこの場所を特定されたなら問題ないと思われるが、なのはから聴かない限り解らなかった。だがプレシアからそのことについて問うことは自殺行為しかなく、平常通りに対応して探っていく手段しか、方法はなかった。

 

「……しかし好都合ね。あなたがここに来てくれたということは、この場所にジュエルシードが全てあるということ」

「いや、管理局に預けている場合もあるから。確かに今は封印したジュエルシードを全て持ち歩いているけども」

「どちらにしても、あなたが残りのジュエルシードを持ち歩いていることには変わりないのでしょ?」

「……残りというより、全てのジュエルシードだけどね」

「何を言って――」

 

 なのはの言葉を聴いて、プレシアは自分がなのはが現れる前にしようとしていたことを思い出した。なのはによって妨害されたが、持っているジュエルシードを上空に浮かばせて発動しようとしていたことに。そしてそのジュエルシードが、どこにも見当たらない事に――

 

「っ!? まさかあなた、先ほど私を吹き飛ばした時にっ!!」

「あ、ようやく気づいた? まだ封印されていた状態だったから、全て回収したから」

 

 本当にこの子は魔法がない世界で普通に過ごしていたのかと、プレシアは思ってしまった。なのはがやることなすことの殆どが隙や無駄な動きがなく、まるで戦い慣れをしているようで、目的の物を回収する際もあっという間に回収していた。こんな人間が普通に暮らしていたとは考えられなかった――

 実際、なのはは何度も死にかけていたことがあり、それらの経験から状況判断能力については九歳という年にしてはずば抜けていた。フェイトと対峙している際はそのような雰囲気を出さなかったが、あれはどのみちジュエルシードを後で回収する事になると予測し、本気を出す必要がなかったからの行動だった。

 だが、すべてのジュエルシードを奪われたとしても、プレシアは諦める訳にはいかなかった。目的のために、何としてでもなのはから奪い返さなければならなかったから――

 

「さて、一旦離れてジュエルシードを置いていった方がいいかな?」

「っ、死になさいっ!!」

 

 なのはがプレシアを気にせずに、この後の行動をどうするか考えていると、プレシアはなのはの頭上に、魔法で生み出した紫電を使い、なのはを殺そうとした。しかし、なのはがわざわざ敵の前で別のことを考えているだけなわけがなく、紫電をなのはの能力によって飲み込まれた。しかし、プレシアとしもそのような行動をしてくるだろうと次の攻撃をしようとするが、先ほどの飲み込まれた紫電が、なのはの能力を使ってプレシアの頭上に現れた。

 

「なっ、何ですって!?」

 

 プレシアは驚きはしたが、すぐに自身を守るために防御魔法を展開した。大魔導師と呼ばれていただけはあり、こういう臨機応変のような事は問題なく対処出来る。しかしプレシアが気になっているのは、防御魔法を解いた直後になのはが攻撃を仕掛けてくる可能性だった。だからこそなのはを見失わないように見続けている必要があった。

 プレシアは即座になのはが立っている方向を見たが、なのははプレシアの方に顔を向けてなく、なぜか誰もいない方へ向けていた。プレシアはなのはが見ている方向が、最も見られたくない場所に繋がっているため、魔法で壁にカモフラージュしている方向だった。

 そしてなのはは、魔法でスフィア弾を一つだけだして、向けていた方向に放った――

 

「っ!? させない!!」

 

 プレシアは即座になのはの放ったスフィア弾を打ち消そうと紫電を放った。先に放ったのはなのはだが、速さ的に紫電の方が速いため、なのはのスフィア弾を簡単に打ち消した。しかし、これが失態だとプレシアは放ってから気づいた。

 なのはのスフィア弾を打ち消したことによって、プレシアが何かを隠そうとしていることに気づかせてしまうような行動をプレシアはしてしまったのだ。明らかにプレシアを狙ったスフィア弾ではなく、確認するために放ったようなものだったので、それを妨害するということは何かあると言っているようなものだった。

 

「……私は周りに散らばっていた魔力を集束させて攻撃をしようとしたときに、私が放った方向の壁より先から、魔力が集束していたがら気になっただけなのだけど、行動からするに何かあるようだね」

「くっ!! でも、私が絶対に阻止してみせるわ」

「忘れてないかな? 私の能力を――」

「っ!? させない!!」

 

 なのはの言葉で悠長にしている場合ではないと気づいたプレシアは速攻でなのはに紫電を放ったが、あまりにもわかりやすい攻撃になのはは魔法で防御しつつも、そのまま能力で足から姿を消していった。

 プレシアは即座に先ほどなのはがスフィア弾を放った方向へ移動した。時すでに遅しだが、なのはに触らせないためにも急いで壁を通り抜けた。

 

「な、なにこれ……」

 

 プレシアが通り抜けてから即座に前を向くと、なのはが目の前の巨大な容器に入れられている――フェイトに似た少女を見て、思わず驚いていた。一体この少女は何者で、フェイトとどういう関係なのかとなのはは思ったが、背後から気配を感じ取れたので、即座に自分を囲むように防御魔法を展開した。

 

「私のアリシアに触らないで!!」

「アリ……シア?」

 

 プレシアの娘ということは、なのはも解るが、それよりも気になったのはプレシアの反応だ。明らかにフェイトとアリシアの反応が違っているし、なぜ同じプレシアの娘なのにこんなにも違うのかとなのはは思ったが、先ほどフェイトに対してプレシアが言い放った言葉を思い出した。

『せっかくアリシアのDNAと記憶を与えたのに――』と――

 

「……まさか、フェイトちゃんってっ!?」

「……気づいてしまったようね。あなたが思った通り、あの子はアリシアのクローン技術で生み出したものよ」

「クローン……」

 

 なのははようやくプレシアがフェイトを嫌っていたのか理解した。フェイトに対して出来損ないと言っていたことからして、アリシアの性格と違いすぎたのだろう。アリシアを生まれ変わらせたいと思ってフェイトが生まれたと考えれば、プレシアが嫌う理由も解らなくなかった。

 そして、なのははこのときプレシアの目的についてもなんとなく理解しまった。ジュエルシードは願いを念じることで発動し、基本的には暴走してしまうが、そのジュエルシードを複数使うことによって、アリシアを蘇らせる手段を探していたのだろうと――

 

「……こんな成功するか解りもしない事に、フェイトちゃんは怪我をしながら集めてたというの」

「そうよ。それのなにが悪いのかしら」

「……そう。よく解ったわ。さっきまでずっと怒りを我慢してましたけど、もう押さえ込む必要もないということに――」

「一体何を――っ!? やめ――」

 

 刹那、なのはは容器ごと能力によって移動させ、アリシアが居た場所には容器を固定していた台が残るだけだった。

 

「さて、これで事件の大元は取り除いたわね。ジュエルシードも回収しましたし、後やることは一つ――」

「……アリシアを、何処にやった!?」

 

 プレシアは怒りに任せてなのはへ飛電を幾つも放った。避けると霧がないと感じたなのはは能力で紫電を移動させるが、それでも間に合わないと思い、一部は避けて対応した。

 しかし、プレシアの攻撃は怒りに任せているからか読みやすく、単調な攻撃になっていたので、なのははプレシアの背後に能力で空間を開け、スフィア弾を密かに出現さけて、能力で移動させた。

 

「っ!?」

 

 だがプレシアは背後から気配を感じ取ったのか、勘で避けていた。しかしそれがなのはの目的だと気づいてなかった。

 プレシアであれば、たとえダメージが少ないスフィア弾でも避けてくれるだろうと、なのはは考えたのだ。スフィア弾一つだけでも、特殊能力が付与されているような魔法も可能だとユーノから聴いていたこともあって、それを利用した方法だった。

 しかし、怒りに任せて攻撃していることからして、プレシアが避けない場合も考えられたが、その場合の方法もなのはは考えていた。方法といっても、避けられた時としようとしていたことは一緒だったりするのだが……

 

「っ、今よ!!」

 

 なのはは一瞬の隙が出来たのを利用し、能力で姿を消した。プレシアがなのはが居たところを見たときには既になのはの姿はなく、プレシアは直ぐに周りを見渡した。

 

「ちっ、どこに行ったっ!!」

 

 プレシアの怒りが静まることはなく、なのはを探すためにすぐに後ろへ振り返って、なのはが逃げた場所を探そうとした。ジュエルシードはすべて奪われ、アリシアもどこかに持って行かれたプレシアにとって、なのはだけは殺してでも捕らえようとしていた。

 

「私は此処よ」

「っ!? 何処に――」

 

 アリシアが居たこの場所から出ようとした刹那、突然なのはの声が聞こえてきて、プレシアはすぐに背後へと振り向こうとした。しかしプレシアが振り返る前に、突然背後から背中に向けて蹴られたような衝撃を受け、そのままうつ伏せになるような形で倒れた。すぐに立ち上がろうとするが、なのははプレシアの上に乗るような形で阻止しようとし、体重的に逃げられると思い、小太刀である御神村正を首筋に近づけた。

 

「……チェックメイト。これで、私の話を聴いてくれるかしら?」

 

 なのはは意味深な笑みを浮かべながらプレシアに言った――

 


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