魔法少女リリカルなのは東方参異伝   作:アリヤ

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第二十二話

『艦長、出撃準備が出来ました』

「解りました。これより、プレシア・テスタロッサを時空管理法違反、及び管理局官制への攻撃容疑として、彼女の拠点へ出撃する命令を下します!! 総員、気を引き締めるように!!」

『了解っ!!』

「現場の指揮権はクロノ・ハラオウン執務官に任せます。準備する管理局員はクロノ執務官に従うこと。よろしいですね」

『了解っ!!』

 

 なのはとフェイトが戦闘を開始して数分経過していた頃、ようやく出撃準備が整った時空管理局は、出撃する管理局員を一ヶ所に集めていた。そしてクロノに現場指揮権を与え、なのはから貰っていた座標に向かおうとしていた。

 この時のメンバーに管理局員ではないユーノが紛れ込んでいるが、ユーノも準備するメンバーに含まれているため、問題はなかった。

 そして、出撃する管理局員全員が居る場所に、巨大な魔法陣が展開され、数分もしない間にその場から居なくなり、目的地へ出撃していった――

 

「総員、気を引き締めて突き進めっ!!」

「クロノ執務官!! あれをっ!!」

 

 プレシア・テスタロッサがいる拠点に着くと、クロノは即座に管理局員に指示を出した。

 しかしその内の一人が、目の前で誰かが戦っていることに気づき、即座にクロノに伝えられた。クロノも言われた通りに前を見ると、そこにはフェイトの使い魔であるアルフと、狐の耳をした使い魔らしき人物が戦っていた。そしてその奥では無数の空間を出現させては、そこから魔法射撃を幾度も放つなのはと、それを間一髪で何度も避けているフェイトの姿があった。

 戦況的に見れば明らかになのはの方が優勢だった。使い魔同士?の戦いもアルフの方がダメージを受けていて、仲間だと思われる使い魔?は無傷だった。

 それに、なのはの周りには破壊されただろう傀儡兵が散らばっている状態で、なのはに倒されたものだろうと想像出来た。ある程度把握したところで、クロノは即座に指示を出した――

 

「よし、今が突入するチャンスだ。総員突き進む――」

「う、うわぁあああああっ!!」

 

 クロノが突撃命令を出そうとした刹那、一部の管理局員が吹っ飛ばされた。突然のことにクロノは驚くが、クロノは即座に原因である方向へ振り向いた。そこにはプレシアが召喚した傀儡兵がいつの間にか現れていて、どうやらプレシアもそう簡単に侵入を許すつもりはないとクロノは思った。近くにいた管理局員が傀儡兵を倒そうとするが、何度も魔法を打ち放しても、ダメージを与えているとは思えなかった。そして、攻撃していた管理局員も傀儡兵の反撃にあってしまい、吹っ飛ばされていた。

 しかも、傀儡兵はさらに召喚されていき、気づいたらクロノ達は傀儡兵によって囲まれていた。

 

「くっ、そう簡単に通してくれないか……」

「クロノ執務官……どうしましょうか。このままではっ!?」

「とにかく、今は耐え抜くことを優先しろ!! その間に、何か策を考えるっ!!」

「わ、解りました!!」

 

 咄嗟に策が浮かばなかったので、クロノは耐え抜くことを最優先にする事にした――

 

 

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「くっ、強いっ!!」

 

 フェイトは今までなのはを自分よりも優れているとは内心思ってはいたが、ここまで差があるとは思っていなかった。

 なのはの背後に回り込みたいが、そんな余裕すら与えず、避けるのが精一杯な状況だった。謎の空間を出現させ、そこから放たれる魔法はフェイトに予測できず、肉眼で見て反射的に避けられるまでしか出来なかった。今まで手加減していたなのはと違い、確実に早く終わらせようとしているような感じだった。

 

「……まだ避けるの。なら、これならどう!!」

 

 先ほどよりも謎の空間をさらに増やし、倍以上の魔法射撃でフェイトに放っていった。ここまで来ると一つ一つ避けられないと感じていたフェイトは逃げるようにスピードをあげて、その場に立ち止まらないようにした。もちろんなのはもフェイトの避け方を見て、予測して放つようにしたが、フェイトは垂直に方向転換するなどのような方法で予測されないように避けていった。

 しかし、このままでは避けているだけで状況的に不利なことは変わりがないとフェイトは思い、どうにかしてなのはに近寄る方法を模索した。この状況が続くと考えると立ち止まるなんていうことは難しく、近接魔法でなのはを倒す方法しか、フェイトにはなかった。

 

「……よそ見していると、私の居場所も把握できなるよ」

「っ!? しまっ――」

 

 対策を考えていたフェイトの前に、突如謎の空間を使って移動してきたなのはが現れ、思わず驚いてしまい、対応が遅れてしまった。そんなフェイトをなのはは見逃すつもりはなかったので、なのはは魔法射撃をフェイトに放った。避ける暇もなかったフェイトは直撃を受けることになり、そのまま地面に落下していった――

 

「フェイト!! くっ、」

「戦っている最中によそ見出来るなんて、かなり余裕だね」

 

 アルフはフェイトが落下していくところを見ていたので、思わず叫んでしまったが、それによって久遠を無視することになってしまい、久遠による蹴りをまともに受けてしまった。

 久遠はアルフと戦ってからというもの、アルフに対して苛立ちを覚えていた。アルフは確かに久遠を倒そうとしてはいるが、それにしては本気が感じられないのだ。これでは久遠でも快く戦える気にもならず、それなのに主であるフェイトを心配しているのは理解できず、苛立ちをさらに増していくだけだった。フェイトの心配をしていて戦えるような状態ではないということは、アルフの雰囲気から想像できているので、本気で戦ってこないアルフを見て思わず怒りを覚えそうになったのだ。

 

「……あんたとの戦いはつまらない」

「な、なんだとっ!?」

「最初は主を心配しるからという理由で、気が散って集中出来ないと思ったけど、戦ってそうではないと気づいたから。本気で阻止してくるなら解るけど、こんなふざけた戦いはつまらないと答える以外に何があるというの?」

「くっ……」

 

 図星だった。アルフはなのはが侵入してこなければ、フェイトを守るためにプレシアに対して攻撃していたからだ。これ以上、フェイトに傷をつけないようにするために――

 だからこそ、アルフにとってフェイトと共に先を通させない意味がないのだ。フェイトが母親であるプレシアのために従っているから、その使い魔であるアルフも同じように、侵入を防いでいるだけなのだ。

 

「それに、主が行っているから従っているだけというなら、あんたは愚かよ。この辺は私もよく解らないけどさ、主を正しい方向に促すのも、使い魔の役目ではないの?」

「……確かにあんたの言う通りだね。後でプレシアを叩きのめすつもりでいたというのに、あたしは何をやっているんだか……」

 

 アルフは久遠に言われて、ようやく気づいた。自分が、あまりにも意味がないことをしていたのかと――

 

「なんだ、元々実行しようとしていたのね」

「まぁね。目を覚ましてくれてありがとうよ。えっと……」

「久遠よ。あんたは?」

「アルフだ。使い魔同士、よろしくな」

「使い魔ではないのだけど、こちらこそよろしく」

 

 久遠とアルフは握手しようとしたが、アルフは握手する寸前で手を引いてしまった。久遠は思わず首を傾げたが、すぐに自分の体質によるものだと気づき、思わず苦笑してしまった。

 

「……忘れてた。私って微弱に電気を帯びているから、動物に避けられるのだよね」

「そういうことか…… あんたも大変なんだな」

「おかけで動物には逃げられるし、なのはと会うまでは一人ぼっちだったから、一人なのは慣れているのだけど……」

 

 久遠の場合、同じ狐の動物でも逃げられるので、妖怪になった時はかなり辛い日々を過ごしていた。なのはと会う前までは、ある狐妖怪を除いて仲良くなれなかった。何年も生きていると慣れてはいたが、やはり避けられるのは今でも辛かった。

 

「まぁ、あたしは久遠に触れないけど、これからもよろしくな」

「っ!? えぇ、よろしく!!」

 

 使い魔であろうと元は動物なので、久遠に触ることが出来ないのに、好意的に受けられたことは、久遠にとって最も嬉しいことだった。嬉しすぎて、涙を流しそうになったくらいだ。

 

「さて久遠、あたしたちはあそこに集まっている傀儡兵を蹴散らそうか!!」

「そうね。見た感じなのはの仲間っぽいし、先に救う方がよろしそうね。足を引っ張らないでねアルフ」

「それはこっちのセリフだっ!!」

 

 久遠とアルフの二人は、クロノ達が居る管理局員たちを救うために、向かっていった――

 

 

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「やはり使えない使い魔ね」

 

 プレシアは久遠とアルフの会話を見ていて、アルフが裏切ったことに思わず舌打ちしていた。フェイトも一度も優勢な状況を作れておらず、一方的になのはから攻撃されている状況なので、プレシア的にはよろしくない状態だった。

 このような状況になるのはプレシアとしても予想外だ。傀儡兵をたった一人によって倒され、さらに久遠とかいう使い魔なのかよく解ない出現によって、想定外な状況だった。

 特になのはだ。今の今まで、本気を出さずにジュエルシードを回収していたこともあって、あれがなのはの実力だと思い込んでいたことが失敗に繋がっていた。魔力的にはフェイトと変わらないが、実力が余りにもかけ離れていた。あの管理外世界で、なにをすれば実力を手に入れられるのか、プレシアには解らなかったが、なのはがここに来られることだけは避けたい事だった。

 

「悠長にしている場合ではないね。少ないけど、これで行くしかないわ」

 

 プレシアはフェイトから回収していたジュエルシードを持ち、全てを発動させて目的地に行く準備を始めようとしていた。

 

『……フェイトちゃん、一つだけ聴いていいかな?』

 

 プレシアがジュエルシードを発動しようとしていた丁度その時、なのはがフェイトに話しかけるところが聞こえてきた。いつもならばフェイトのことを話されても気にしないところだが、何故気になってしまって、手を止めてなのはとフェイトが映っている映像を見ていた。

 映像にはフェイトを見下すかのようになのはが見ていて、一方のフェイトはなのはに一撃を受けた後だったので、立ち上がろうとしている状況だった。

 

『どうして、酷い仕打ちをする母親に従うの? 鞭で叩かれるような痕などを付けられてながらも、母親に従う理由が私には解らない』

『それは……』

『確かに、母親だからという理由で従うのは別に問題ないよ。それでもフェイトちゃんが母親を愛しているというなら。だけどフェイトちゃんの母親は仕打ちからして、フェイトちゃんを愛しているとは思えない』

『っ、そんなことはっ!!』

『ない、とでも言うの? はっきり言っちゃうけどさ、ジュエルシードという危険な物を娘一人に頼むなんて、娘と思ってないよ。それこそ、駒とか人形にしか……』

『ち、ちがう!! 母さんは私のことを――』

『……そう。あくまで母親を信じるというのね。なら本人に聴きこっか。どうせ、私が来てからずっと見ていたのでしょうからね』

 

 完全に気づかれていたと、プレシアは思った。なのはがそのように思ったのは、傀儡兵の出現やフェイトがなのはの前に現れたことからある程度推測していたからだ。

 この場所に来てから、なのはは冷静に落ち着いていて、状況からしてプレシアが見ていると思ったのだ。ちなみに、冷静になったとはいうが、それでもプレシアやフェイトに対して、怒っていることには変わりがなかった。

 そしてプレシアは見られていることに気づかれたのをしって、なのはとフェイトが見える位置に、プレシアが映っている画面を表示させた。

 

「えぇ、その子の言うとおりよ。フェイト、あなたなんか生まれたときから大嫌いだったわ」

『っ、』

 

 フェイトは母親からそのようなことを言われ、驚いてデバイスから手を放してしまった。落としたデバイスが地面に落ちて起こる音が響くが、プレシアは特に気にせずに話し続けた。

 

「せっかくアリシアのDNAと記憶を与えたというのに、出来上がったのはアリシアの姿をしただけの出来損ない」

『…………』

「だけど、そんな家族ごっこも今日でおしまい。あなたなんか、私には要らないわ!!」

『そ、そんな……』

 

 その言葉を最後に、プレシアは画面を切った。すでに準備が終えているジュエルシードを全て発動させるためだ。

 

「さぁ、行きましょうか」

「行くってどこに?」

「それは――っ、だれ――」

 

 プレシアは最後まで言葉が言えなかった。なぜなら、先ほどまで画面越しで話していたなのはによって、魔法射撃を放たれて吹き飛ばされていたから――

 


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