「それで、なのはさんは勝手に敵地に乗り込んだということですか」
「はい、またしてもぶち切れて一人で……」
「……とはいえ、しっかりと座標データを渡して来たのですよね。ぶち切れたのに冷静なのは良いとして……」
アースラと連絡が繋がったユーノとクロノは一旦アースラへ帰還する事にして、状況報告をリンディに伝えていた。
「しかし、一体なぜなのはさんはぶち切れるようなことになったのでしょうか」
「多分、フェイト・テスタロッサが呟いた『母さん』という言葉がきっかけでしょう。実の母親が、目的のために自分の娘を利用していることに切れたのかと……」
「母親……っ!? エイミィ、テスタロッサという名前を調べなさい!! 確か、テスタロッサという名前で有名人が一人居たはずです!!」
「わ、解りましたっ!!」
突然指示されたことにエイミィ・リミエッタは即座にテスタロッサという名前で検索をかけ、たった一人だけ一致来た人物をすぐさま表示させた。
「見つけました!!」
「プレシア・テスタロッサ……確か行方不明になっている人物――」
リンディはエイミィが移した人物の姿を見て、どういう人物か思い出していた。エイミィはリンディの言葉を肯定しながら、プレシア・テスタロッサの経歴を読み始めた。
「プレシア・テスタロッサは、嘗て優秀な魔導師として有名でしたが、26年前に自ら開発した次元航行エネルギー駆動炉――ヒュードラの使用に失敗し、中規模次元震を起こしています。その後、地方へと異動された後に、突然行方不明となって現在に繋がります」
「そう考えると、フェイト・テスタロッサはプレシアの娘になるのか?」
「クロノの言うとおり……だけど、プレシアの娘にフェイト・テスタロッサという名前は残ってない」
「それは当然だ。20年くらい前に行方不明になっていることからして、管理局側にある筈がない」
「でも、フェイト・テスタロッサと瓜二つの娘がプレシアに存在していたとしたら?」
エイミィは話しつつも、ある画像を表示させた。その画像にはフェイトと容姿がそっくりな少女が笑顔を見せていて、それを見ていたユーノ、リンディ、クロノの三人は驚愕した。エイミィは驚愕している三人を気にせずに、話し続けた。
「――アリシア・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサの娘で、プレシアが行っていた実験に巻き込まれて5歳で死亡。その以後、プレシアは性格が一変したと、プレシアの知人は言っているくらい、アリシアを溺愛していたらしい。解ったことは以上です」
「……エイミィ、このままプレシア・テスタロッサについて更に調べなさい」
「解りました、リンディ提督」
「クロノ執務官とユーノさんは準備が整い次第、なのはさんが残していった座標に移動し、プレシア・テスタロッサの確保をお願いします」
「はいっ!!」
「これより、こちらから反撃にでます。総員、指定の指示に従いなさい」
『了解っ!!』
リンディの言葉によって、アースラにいる全員が忙しくなり、プレシア・テスタロッサがいるだろう敵地に向かう準備を始めた。
これでリンディが心配することは、独断で行動したなのはだけとなり、無茶をしないことを祈るしかなかった――
「……なのはさん、あまり無理だけはしないようにしていれば良いのですが……」
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「なぜ暴走を止めたジュエルシードを回収せず、盗られるようなことをしたのっ!!」
「あがっ、ご、ごめんなさい……」
フェイトは自分の母親であるプレシア・テスタロッサが怒っていると知り、すぐにプレシアがいる次元間渡航を可能にする、時の庭園へと戻ってきていた。
しかし、プレシアが取った行動はフェイトを向かい入れるということはせず、魔法で拘束させて鞭を叩きつけていた。
「……何でだよ。あれはどう考えたって問題ない選択肢であったじゃないか」
その外ではアルフが主であるフェイトを待っていたが、プレシアの理不尽に等しい仕打ちに、プレシアを恨みながらもフェイトが心配していた。
しかし、その様子はフェイトとアルフが知っている魔力反応を感知したことで一変した。先ほどまでフェイトを鞭で叩いていたプレシアだったが、フェイトとアルフ以外の魔力反応を感知したことによって、フェイトへ叩きつける行為を止めた。
「どういうこと。探知されないように管理局には先手打って場所を特定されないようにしたはず。まさか、私の魔力を頼りに探知したとでも言うの」
プレシアはすぐに時の庭園内に設置していたカメラで侵入者の正体を探った。すると、カメラに映っていた人物が、管理局が来る前からジュエルシードを回収していた高町なのはだと知り、プレシアは思わず驚いた。彼女はジュエルシードが落ちた世界の出身だと考えていたこともあって、魔力は多いが魔力による逆探知をされるほどの魔法を使えるとは考えもしていなかったのだ。
「くっ」
プレシアは想定外の事態だったが、すぐに自分の魔法で、なのはがいる周辺に傀儡兵を大量に召喚した。これでなんとか時間稼ぎはできるだろうと思い、フェイトの拘束を解いて指示をした。
「フェイト、今すぐあの侵入者を始末しに行きなさい」
「……はい、解りました」
フェイトは鞭で叩かれていた後を残しながらも、おぼつかない足で部屋を後した。
「フェイトっ!!」
「……アルフ、急いであの子の所に向かうよ」
「駄目だよ!! 少しは安静にしてないと――」
「母さんの命令だから、お願い」
部屋を後にしてすぐにアルフに体を借りながらも、アルフにお願いした。アルフは扉の先にいるだろうプレシアを睨みつつも、フェイトのお願いに従い、なのはがいる場所へと向かった。
「さて、状況は……っ!?」
一方、フェイトが部屋を後にしたことを確認したプレシアは、なのはの状況がどうなっいるか確認するが、その状況を見て思わず驚いた。なぜなら、あれほど囲んでいた傀儡兵が地面に倒れていて、無傷の姿でなのはが立っていたからだ。一体何をしたのか様子を見ていなかったので解らなかったが、状況から察するに傀儡兵では歯が立たないと知った。
傀儡兵と言っても、プレシアの魔法で召喚したものだ。普通の管理局員であれば一体倒すだけでも時間をかなり要するというのに、なのははそれを数分で大量の傀儡兵を倒してしまったのだ。ジュエルシードを回収する時はそこまで力があるとプレシアは思っていなかったため、このままではフェイトを戦わせたところで勝てないとすぐに理解してしまった。
管理外世界出身なのに、フェイトと同年代で、戦いなれているなのはを見てプレシアはなのはに恐怖した。しかし攻撃を止めるわけにはいかない。このまま進行されたらこの場所にたどり着かれるし、この奥にある『アレ』を見られる可能性が考えられた。だからプレシアはなのはの周りに傀儡兵を再度召喚させ、時間稼ぎするしかなかった。
しかし、ここでまたプレシアは驚くことになる。先ほどはフェイトに指示していたこともあって見ていなかったが、今度はプレシアの目で確認する事ができた。
なのはは再度傀儡兵が召喚されたことを確認すると、溜め息を吐いたような動きをして、その直後になのはの周りに数多の空間を作り上げた。そしてその空間から無数の魔法射撃が乱射され、一瞬にして傀儡兵を倒してしまったのだ。
「な、なんなのあの子。変な能力を使うと思ったら、今度はそこから放たれた魔法で傀儡兵を一撃で……」
せめて戦い方を見てフェイトがうまく回り込めるようにアドバイスしようとも考えられたか、あの様子からしてまだ隠し持っている技がいくつかあるだろうと推測できてしまった。調べようにも傀儡兵が簡単に倒されてしまう以上、確認する手段がプレシアにはなかった。
『……面倒だね。このまま目的地まで飛ぼうかな? それにしても禍々しい場所だこと、そう思わないフェイトちゃん』
なのはが目的地といったとき、プレシアは嫌な予感がした。自分の魔力を頼って時の庭園に来たとすれば、その目的地というのはプレシアを指していることになる。言葉からしてプレシアに一気に近づけることができると言っているようなもので、フェイトが来る前に自分の所へ移動してくると想像してしまったのだ。
しかし、そこは運が良かった。どうやらなのははフェイトがこちらに近づいてきていることに気づき、移動してくることはなかったからだ。丁度良いタイミングでフェイトが来てくれたことに、プレシアは安堵するが、状況が変わったわけでもないので、安心するのはまだ早かった。
『……その傷、やはりフェイトちゃんのお母さんに付けられたものかな?』
『っ、それはあんたに――』
『私はアルフさんに聴いているわけはない。どうなのフェイトちゃん』
『わ、私は……』
フェイトは言おうか一瞬迷うが、プレシアにやられたことを言いたくないと思い、何も言わなかった。しかし、答えようとしない様子をみて、なのははフェイトがフェイトの母親を庇おうとしていると感じ、溜め息を混ぜながらも話を続けることにした。
『――そう、何も言いたくないならいいよ。その代わり、私も本気出してこの先に行かせてもらうからっ!!』
その直後、なのははフェイトとアルフ、そしてプレシアも知らない魔法陣をなのはの前に発動させた。
『この魔法、久しぶりに使う魔法だし、あの
『なっ、何を――』
『簡単だよ。状況的に二対一だから、私が一人――いや一匹か。とにかく一匹くらい呼んでも構わないでしょっ!!』
『まさか、いつものフェレットをっ!?』
『ユーノ君? ユーノ君だったら既に連れてくるよ。今か呼ぶのは使い魔でも式神でもない、妖怪だけど私の相棒っ!!』
刹那、魔法陣から人型をした女性が地面から現れ始めた。巫女服姿をしていて、頭は黄色に近くて狐耳をしており、彼女の周りには電気が帯びていた。
彼女が姿を完全に現すと、魔法陣が消え、そしてその彼女は後ろにいたなのはに向かって飛びついていった――
『な、なのは~っ!!』
『ちょっ、くーちゃん!! いきなり抱きつかないでっ!! っていうか電気帯びているからせめて抑えてっ!!』
いきなり抱きつかれたなのはは、抱きつかれると思っていなかったので、予想外の行動をされたことに思わず衝撃を抑えることを考えてなく、後ろに倒れそうになるがなんとか押さえ込んだ。
なのはにくーちゃんと言われた彼女は、なのはに言われて、自分が電気を帯びていた状態だったことに気づき、すぐさま抑え込んだ。しかし、なのはに抱きつく行動は止めず、さすがに場所と空気を読んでも欲しかったなのはは思わず彼女の頭を叩いた。
『ちょっとは場所と状況を把握してから抱きついてよっ!!』
『きゅぅ……だって、なのはに会うの久しぶりだったから――』
『だってくーちゃんは妖怪でしょっ!! 私の家だとすぐに気づかれちゃうから仕方ないのっ!! 前に幻想郷で暮らせば私に会えるって言ったのに、くーちゃんが断ることにしたでしょ!!』
『だって、神社に居たものだからその神に好かれちゃって、現人神ならぬ
『……未だに謎だけど、なぜ妖怪が現人神――現狐神になっているの?』
『それは私も知らないよ。まぁ、そのおかげで霊力使えるし』
『自分のことだよね!? というか、いつなったのか私知らないのだけどっ!?』
『前回会ったときに言ったよ。気づいたらなってたって』
『それも自分のことなのに、なぜ知ってないのっ!?』
さっきまでのシリアスはどこにいった。と思うくらいになのはと彼女の会話にフェイトとアルフ、それとその様子を見ていたプレシアは二人の会話に割り込むどころか、どうすればいいのか解らなくなっていた。
一方のなのはは、彼女の巫女服姿を見るのは二度目だが、未だに違和感を覚えていた。しかし、今は呑気に話している場合ではないと思い出し、即座に空気を入れ換えた。
『……くーちゃん、話したいことは色々とありますけど、今は後にしてもいいかな?』
『……どうやらそのようですね。それで、私はあそこにいる人型の犬を倒せばいいわけ?』
『そういうことだからお願いね』
『……というか、なのはなら倒せたのでは?』
『倒せたかもしれないけど、あの子と二人きりでお話したかったから――』
『そのために私が呼ばれたのね……まぁ、なのはだからいいし、久しぶりに戦えるから楽しみ』
呼ばれた理由が釈然としなかったが、なのはに呼ばれたら絶対に従うつもりだったので、なのはの命令に乗り気で従った。
フェイトとアルフはなのはたちの会話を聴いて、仕掛けてくると察し、それぞれ戦闘態勢に切り替えた。
そして、くーちゃんこと久遠が最初に動き出したことを境に、戦いの火蓋を切られた――