あれからなのはとユーノの二人は時空管理局が見つけたジュエルシードの反応を元にジュエルシードの回収を始めていた。
管理局が介入してきたことによって、今までよりも回収しやすくなったが、なのはが現場に来た時によっては、既にフェイトに回収されていた事もあった。
また管理局がジュエルシードを探してくれるようになったため、今まで自力で探す必要はなくなり、ここ最近になるとなのはの家周辺でジュエルシードの反応が無くなったこともあってか、のんびりできる時間が大幅に増えていた。もっとも、そののんびりできる時間をアリサやすずかと遊ぶ為には使わず、魔法や能力、剣術の特訓に使ってしまい、一昔前のなのはに少し戻っただけに近いのだが……
《なのは……のんびりできるようになったのだから、もう少し時間を有意義に使おうよ……》
《有意義にって言われても、ユーノ君が来る前はいつもこんな感じで特訓していたから、私としては有意義に使っているつもりなのだけど……》
現在、なのはは学校が終わって家の自室で魔導書を片手に持ちながら術式を覚えていた。
この魔導書はユーノが誰かに助けを求めていた数日前に、紫から貰った物の一つで、かなりの昔に記された年代物だった。ユーノも一度読ませて貰おうとしたが、言語がラテン語で書かれている為に読むことすらできなかった。
余談だが、なのはは最初に魔法を使えることを知って、紫から魔導書を最初に頂いたときもラテン語の魔導書で、まだ日本語も完璧と言い切れない状態でのラテン語の翻訳をしていたというのは別の話。
その時の事を多少言うのであれば、人里にいる歴史教師に日本語を教えて貰い、物凄く短時間で覚えていたなんていうことをなのははしていたという事だろうか。教えていた教師からは、物覚えのいいなのはを見て逆に驚かされたとか――
「で、必要なものは……って、材料が高すぎるよ!! なんで、キャビアを材料に使う魔導書なんかあるの!?」
良さそうな魔法を見つけたと思って、使用材料を見てみたら、どうみても高級料理に使われているチョウザメの卵――要するにキャビアが必要と書かれていて、なのはは魔導書を思わず叩きつけていた。よくよく見ると、他の魔法に使う材料も高級食材や、見つけにくい材料を要求している物ばかりで、紫がこの魔導書を渡してきた理由がようやく理解してしまった。
「ふ、ふふふふ……なぜ渡してくる時に紫さんが笑みを浮かべていたのかようやく解ったの」
《な、なのは……どうしたの?》
物凄く怖い笑みを浮かべているなのはを見て、ユーノは思わず引いてしまった。そしてなのはは能力で空間に裂け目を作り、右腕をその中に突っ込んだ。そして何かを引っ張り出すかのように引きだした。
「痛い痛い!! いきなり何なのよ!?」
なのはが能力で繋げた先は幻想郷にある紫が暮らしている家で、そこから紫の耳をなのはは引っ張っていたのだ。普通であれば紫の耳を引っ張ったくらいで紫を持ってくることは不可能だが、自分の腕を魔法で強化し、抵抗すれば耳が千切れるくらいの力で引っ張っていた。
ユーノはその状況を見て、唖然としていたが、先ほどなのはが高級料理に使われたりするものを材料にしていると聴いていたので、すぐに状況を把握でき、唖然から呆然と表情が変わっていた。
「もう、あんなに耳を引っ張られたら腫れちゃうじゃないのよ」
「あんな魔導書を渡してきてよく言えますね。とりあえず理由を聴いても?」
「……あ、今更気づいたの? てっきり気づいているもの……って刀を取り出さないで!!」
なのはは魔法で机にあった小太刀を、魔法で手に持ち、無言のまま鞘から小太刀を取り出そうとした。しかしわざと慌てている紫を見ながら、なのははため息を吐き始めた。
「……どうせ私の反応を見てみたいからとか言うのでしょ?」
「確かにその通りよ。というか、わたくしとしては既に見ているものだと思って、敢えて文句を言って来ないと思っていましたのに……」
「正直貰ってからのんびり読む時間なんて、ついこないだまでなかったら仕方ないの。時間があったらとっくに言っているの」
「……なるほど、この前の一件と関係しているのですわね」
「それ、わざと言っているの? 悪いけどそう簡単に紫さんの思い通りの反応をするとは思わないように。確かに私が悪かったけども……」
「あら、つまらない」
この前の一件というのは、なのはが境界の狭間でジュエルシードを封印したことを指していて、なのはが謝る光景そう何度も弄られるわけにはいかないとなのはは、その話題が来るだろうと予測し、その返答もある程度考えていた。数年も紫と知り合っていれば、紫の性格を詳しく知ることになるし、どこを弄ってくるかある程度予想できた。
性格的に律儀で真面目な所がある妖夢であれば、普通に謝って弄られた所だろうが。
「それで、新たな魔導書はあるの?」
「一応、その魔導書が高級材料ばかり求められることに気づかれたときのために用意した魔導書ならあるわよ。すぐに文句言ってこなかったから探さないといけないけども」
「なら今すぐ――って言いたかったけど、まだ今度でいいです。というか、今すぐ帰って欲しいの」
「それはどういう――」
紫が何かを言い終える前に、なのはは能力で紫を元にいた紫の家へ強制的に帰すことにした。後で紫の能力で覗いてくるだろうが、管理局に紫の存在を知られないために、咄嗟で対応しただけでまだ良かっただろうと、なのはは思った。
そしてタイミングを計ったかのように、ユーノがなのはの片に乗り、数秒もせずになのはの目の前に画面が現れ、画面の中にいる女性――リンディ・ハラオウンは慌てているかのような顔をしていた。
『なのはさん、至急アースラに来てください!!』
なのはが咄嗟に紫を幻想郷に帰した理由は、なのはと紫が話している最中に、ユーノからの念話で管理局から連絡が来ていると知ったからだ。管理局から連絡が着ているという事は、ジュエルシードが反応したから回収をお願いされるくらいなので、早急に対応しなければ危険になる可能性があるということもあって、最優先で行動するようにしていた。
なのははすぐさま立ち上がり、ユーノの転移魔法でアースラへと移動することにした――
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「それで、今度はどこにジュエルシードが!!」
アースラに着くと、すぐさま管制室へ向かい、状況把握する事を最優先にした。
「なのはさん、来ましたね!! まずはこちらを見てください!!」
「なっ!? なんて無茶なことを!!」
なのはとユーノはリンディに言われて管制室に映されていた画面を見始めたが、それを見たユーノは無茶な行動をしているフェイトの動きを見て、思わず驚いていた。
なぜならフェイトは、ここ最近残り六つのジュエルシードが見つからないとなってきたので、海の中に残りすべてあると考えて纏めて強制発動して封印しようとしていたのだ。その結果、ジュエルシードを中心に竜巻が発生し、海は荒れ狂っていた。それによってフェイトへ負担が大きく掛かってしまい、このままいけば封印する前にフェイトが倒れてしまうだろうと、魔導師であれば解ってしまい、なのはも持たないだろうと予想できてしまった。
「……それで、私が呼ばれたのは解ったけど、どうすればいいの?」
「なのははフェイト・テスタロッサが倒れるまで待機してもらいたい。このままいけば、フェイト・テスタロッサは負担がのしかかって倒れるだろうからな」
確かに組織的に動くのであれば、クロノが言った選択肢もありだろう。フェイトが倒れたところを狙って、ジュエルシードを封印すれば全て管理局が手に入れられるから。
しかしなのはは、それでいいのかと自問する。確かにその方法は最適とまではいかないが、一つの手であるだろうが、そう簡単にいくものだろうかとなのはは考えてしまう。
確かにこのアースラにたくさんの管理局員がいるし、全員で突入すれば封印することは可能だろう。しかし、その結果かなりの負傷者が出てしまうだろう。組織としては間違ってないが、フェイトを操作している黒幕がまだ解らない状況で、その作戦を決行することは後が危険に繋がってしまう可能性が考えられる。
そして何より、このままフェイトが倒れる光景を見ていろというのもなのは個人としても納得がいかなかったので、管理局の指示に従わないと結論づけた。
「――悪いけど、その作戦なら私は勝手に行動する」
「なっ!? 何言っているのか解っているのかっ!? このままいけば確実に――」
「確かに確実に封印することは出来るだろうね。だけど一つ忘れていないかな? まだ、フェイトちゃんを指示している人間の素性が解らないっていうことに――」
「っ!?」
その言葉はクロノに限らず、管制室にいた人間全員が驚いていた。確かにフェイトを動かしている人物を調べている最中であり、ジュエルシードの封印に総動員使うのは後に大きく響くだろう。フェイトにジュエルシードを持っていかれていることを考えれば、結局のところ戦わなければならなくなり、その時のために戦力保持をしておいた方が最善だ。ならばこの場はフェイトと協力して、ジュエルシードを封印することだけを考えた方が最適だった。
「解りました。至急、なのはとユーノ、そしてクロノ執務官はジュエルシードの封印に向かって」
「なっ、艦長!!」
「クロノ執務官、なのはさんが言った通り最善を考えるべきです。仮にもあなたは執務官でしょう。現場指揮権があるあなたが意固地になってしまえば、見えてくる答えも見えなくなります」
「……解りました」
クロノは渋々であったが、リンディに従うことにして、なのはとユーノの二人と共に転送台に乗って、現場へ向かうことになった――
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その頃、フェイト・テスタロッサはクロノが言っていた通り、ジュエルシードを六つも纏めて強制発動したことにより、封印するために大きく負担が掛かっていた。
「フェイト!! このままではフェイトが!!」
「解ってる!! だけど封印しなければ……」
フェイトの使い魔であるアルフはこのまま続けばフェイトが負担に耐えられずに倒れてしまう――そう思ってフェイトをやめさせようとするが、フェイトはやめようとする気配が無かった。
どうにかしなければとアルフは思い、何か手段を探るがこれといっていい手段が咄嗟に浮かぶわけがなかった。
一方のフェイトは、とにかく一つずつジュエルシードを封印していこうと、フェイトは六つある内の一つの竜巻へ向かった。纏めて封印せずに、一つずつ封印した方が負担軽減になるからだ。
しかし、それは一つのことに集中してしまうという欠点が起きてしまい、周囲の意識が欠けてしまうという問題がある。案の定フェイトは一つの竜巻に集中してしまい、周りが見えなくなっていた――
「フェイト後ろ!!」
「っ!? しまっ――」
背後から別の竜巻が近づいてきていることにすくに気づけず、アルフはそれ以外の竜巻を一つずつ見ていたので、フェイトに近づいていることに気づかなかった――
「リリカルマジカルっ――!!」
フェイトが竜巻に巻き込まれることを覚悟していた刹那、まるで天使のような格好をしているように見えた少女こと、高町なのはが現れた――