魔法少女リリカルなのは東方参異伝   作:アリヤ

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第十八話

「そ、そういえば、わざわざバリアジャケットを着ている必要はないだろう」

「それもそうだね。ところで、なんか私を避けてる?」

「い、いや、そういうわけではないのだが……」

 

 なんか歯切れが悪いなとなのはは思いつつも、バリアジャケットを解除しながらクロノと話しかけた。

 クロノの歯切れが悪いのは事実で、先ほどなのはをぶち切れさせたことによる怯えから来ていた。冷酷で容赦ないなのはの姿を初対面として見てしまったこともあり、怒らせたくないということから、無意識に言葉を気にしながらなのはと話していた。流石になのはもクロノの話し方は初対面ながらも違和感を覚えるくらいで、どうしたのかと疑問に思ってしまうほどだった。

 

「そこのフェレットも、人間の姿にならないか」

「……あぁ、一ヶ月くらいこの姿で居ることが殆どだったから忘れてた」

「……ユーノ君、流石にそのフェレット姿でいることが当たり前だと思うのは解るけど、元の姿があったことを忘れるのはどうかと思うよ。温泉の時みたいな未遂事件が起こっても良いと思っているのであれば別に気にしないけど……」

「わ、解ったからなのは、そんな変人みたいな見方をするのは止めて!!」

 

 ユーノはなのはの肩から降りて人間である元の姿へと戻ることにした。なのはは魔法の事情を話す時に一度だけ見ていたので驚きはしなかったが、やはりいつもフェレット姿でいたことから、多少の違和感を覚えていた。しかし、表情に表さず、何故か特に気にしない振りをして、そのままクロノについて行くように歩いていった。

 

「着いたぞ。くれぐれも失礼がないように頼むよ」

「それを君が言うと、説得力がないんだけどね」

 

 なのはの言葉にクロノは反論したかったが、今は急いでいることもあり、実際なのはが言ったことは事実なだめ、心の中で抑えた。

 そしてクロノが扉の前に立つと、自動的に扉が開き、その先に見えたのは――周りの壁を除いて広い和室だった。

 流石に日本人であるなのはにとってこの光景は予想外にも程があった。もっと会議室みたいなイメージをしていたからこそ、まさかの和室――しかも宴会を行うような場所に驚きを隠せなかった。

 そしてその中央に、緑髪をした女性――リンディ・ハラオウンが正座して待っていた。

 なのはたちはリンディが待つ所まで移動し、リンディの正面になのは、なのはの左隣にユーノ、リンディの右隣でユーノの正面にクロノが座る形となり、それぞれ正座した。

 

「改めまして、時空管理局艦長、リンディ・ハラオウンです」

「えっと……高町なのはです」

「ユーノ・スクライアでで、

「なのはさんにユーノさんですね」

 

 リンディは名前を確認すると、リンディの前に置いてあった茶碗で、抹茶を挽きたてた後から、なんと角砂糖を茶碗の中に入れ始めた。その光景になのはは唖然としまうが、リンディはお構いなしに茶碗を口に近づけて飲み始めた。

 

「さて、とりあえずあなた達がロストロギア、ジュエルシードを集めている理由を最初に聴いてもよろしいかしら?」

「それはユーノ君から聴いた方がよろしいと思います。私はユーノ君の手伝いと、この世界を守るために回収しているだけなので」

「解りました。それならユーノさん、説明お願いできますか?」

「解りました」

 

 ユーノはジュエルシードを回収するまでの経緯を話し始めた。

 管理局に輸送する筈だったジュエルシードが、何らかの影響でこの世界に散らばってしまったこと。ユーノはそのことに責任を感じてしまい、ジュエルシードを回収しようとするが、ユーノ一人ではどうする事も出来ず、ユーノの助けを聴いていたはが駆けつけて、二人でジュエルシードを回収する事になったことを――

 

「なるのどね。責任を感じる必要もないのに、一人で回収しようとするなんて……」

「だが実力からして無謀に等しい。な、なのはさんが手伝わなければどうなっていたか……」

 

 クロノの発言はなのはも同意したいところだったが、それよりも自分に対するクロノの反応にやはり違和感しかなく、

どうして自分に対しては少し畏まった話し方なのかどうしても気になってしまった。

 

「……さて、大体の事情は解りましたわ。ですが、ジュエルシードというものはロストロギアであるため、この前みたいな次元震を起こされても困ります。まぁ、あの次元震の反応はなんか変でしたが」

 

 リンディの言葉に、なのはは思わず苦笑した表情が浮かんでしまった。ジュエルシードを封印するために空間を歪ませて、歪ませた空間で封印したと知られたら驚愕するだろう。ユーノに教えてしまったが、様子を見る限り黙ってくれるそうだ。

 

「兎に角、本日を持ちまして、ジュエルシードの回収は私たち時空管理局が全権を持ちます。あなたたちは何も気にせずに平穏な日常に戻っても大丈夫ですよ」

「……胡散臭い」

「なのはさん? どうかしました」

「胡散臭いって言ったんです。私、師匠のせいで胡散臭いことには敏感なもので、リンディさんが何かしら企んでいる事はすぐに想像出来てしまうもので」

「さ、流石に艦長でもそのような企みは……艦長?」

 

 流石になのはであろうとリンディがそのようなことを企んでいないだろうと、クロノは反論しようとしたが、リンディは何かを考えていた。

 そしてなにかを諦めたかのように、リンディは話し始めた。

 

「……そのなのはさんが言う師匠という人物に会ってみたいですね」

「にゃははは。正直それはおすすめできないですね。企むことに関しては誰よりもずば抜けていますから」

「兎に角、解りましたわ。本当ならばあなた達の意志で手伝わさせてもらう形にしたかったのですが、時空管理局からお願いする形でお願いします」

「解りました。これからもよろしくお願いします」

 

 やはり、結局手伝わせるつもりでいたのかとなのはは思ったが、師匠と違って隠し通さないだけ良いと思った。それにリンディと話をして、抹茶の件を除いて好印象ではあったので、なのはは了承する事にした。

 しかし、そのことに黙っていなかったのはクロノだった――

 

「なっ、艦長!! どういう事ですか!?」

「元々手伝って貰うつもりでしたし、見破られていたのであれば、こちらからお願いするしかないでしょう」

「聴きたいことはそこではありません!! どうして手伝わせるつもりでいたことについて聴きたいのです!!」

「簡単なことよ。今回の事件は私たちのメンバーだけで解決するのは難しいと判断しただけ。フェイトと言ったあの子の後ろには、絶対に誰かが存在すると考えた結果ね」

 

 リンディの言葉にクロノは驚いたが、確かにそれならなのはに手伝いを求めた理由を理解できたしまった。

 クロノが最初に言いたいことはなのはもなんとなく解っていた。ジュエルシードを回収するのに、何故赤の他人の手助けをお願いするのか、クロノは解らなかったのだろう。クロノはこのジュエルシードを回収にあたって、詳しく状況把握が出来ていないからこそ、そのような発言をしたのだろうとなのはは思った。

 相手はフェイトだけであれば、確かになのはの力を借りずになんとかする事は出来るかもしれないが、フェイト単独でジュエルシードを集めているとはなのはとユーノ、そしてリンディは思っていなかった。背後に誰か存在する――その可能性が高いからこそ、リンディはなのはの手助けをして貰いたく、なのはもそのような理由だと予想していた。伊達に幻想郷で平和に暮らしていたわけではなく、敵の状況把握することを忘れたことはなく、その判断から出た結果を元に、リンディがなのはに手伝いを求めてくると考えたわけだ。

 

「兎に角、次のジュエルシードの反応があるまで、なのはさんとユーノさんには少し休んで貰います。多少の休憩は必要でしょう」

「はい、解りました」

 

 なのはは了承したが、多分休みを貰ったとしても魔法の練習や剣術の特訓するんだろうな……と、ユーノは苦笑しながらなのはを見ていた。一ヶ月近くの付き合いだが、その間だけでもなのはの性格をある程度理解してしまっていた。止めたところで言うことを聴いてくれないだろうから、ユーノは既に諦めていた。

 

「ん? ユーノ君、私に何か付いてる?」

「何でもないよ。とりあえず、帰ろうか」

「あ、二人とも待ちなさい。まだ一つだけ質問したいことがあるのだけど」

 

 なのはとユーノの二人が立ち上がろうとすると、突然リンディから声を掛けられた。

 なのはとユーノはまだ話したいことがあるのだろうかと、首を傾げながらリンディの方に顔を向けた。

 

「まだ、話すことがあるのでしょうか?」

「正確にはなのはさんに質問がありまして、多分ユーノさんは知っていることだと思われますし、一緒に居ても構わないかと」

「僕が知っていると思われること……あっ」

 

 リンディの言葉で、ユーノは理解してしまった。ユーノも管理局が現れた事によって気にしていなかったが、今思うとなのははとんでもないことをしていたことに気づいた。なのはは未だに何のことが理解していないようだが、ユーノは完全に忘れていると気づいた。だって、あの時なのははクロノにぶち切れて、クロノに一瞬で近づいたのだから――

 

「なのはさん、あの時クロノにどのようにして近づいたのですか? 突然、空間をねじ開けて移動したように思えたのですけど……」

「……あっ」

 

 リンディに言われて、なのはは自分の失態にようやく気づいた。ぶち切れて能力を使用しないことを、あの時完全に忘れていたのだ。

 またしてもなのはのうっかりが発動してしまい、しかも今回は管理局に見られるという失態をしてしまった。完全に説明しなければならない状況になってしまったので、なのはは観念して自分の能力と、ユーノに知られてから元々話す予定だった、もう一つの魔法について話すことにした。

 

「……解りました。ですけど、このことはここの中で留めて貰えないでしょうか。いろいろと面倒事になってしまいますので」

「内容によりますけど、とりあえずは了承しておきます」

「ありがとうございます。それで、リンディさんが見た能力についてですが、私は空間を歪めて様々な場所に移動する事が出来ます。ちなみにこれは、スフィア弾みたいな攻撃なども能力を使って移動させることが可能です」

「……なるほど。一応移動範囲も教えていただけますか?」

「試したことはないですけど、多分次元世界を渡ることは可能です」

 

 能力の使い方としては普通の方法だが、使い方次第で様々な使い方が出来ることについては言わなかった。というより、なのは自身が能力について把握しきれていない理由もあり、解りやすく説明できる移動能力だということを説明しておけば問題ないとなのはは考えたのだ。

 それに、移動能力とだけ伝えておけば、万が一能力の情報が流出したとしても完全になのはの能力について知られる訳ではないと判断したからという理由もあった。

 

「……聴いている限りでは、移動能力ということですね」

「その認識で大丈夫です」

「……確かに、能力を持っているというだけでなのはさんが狙われることは捨て切れません。解りました、なのはさんの能力については管理局上層部に伝えないことを誓いましょう」

「ありがとうございます!!」

 

 上層部に伝えられない約束をしてもらえただけ、なのはは少しだけ安心できた。

 

「ちなみにですが、他に伝えておく事はありますか?」

「今のところは大丈夫です」

「そうですか。ではクロノ、二人を送りなさい」

「解りました。二人とも行くぞ」

 

 なのはとユーノはクロノに送って貰う形でクロノの後について行った。

 その後、クロノの転移魔法で地球に移動し、そこでクロノと別れてなのはとユーノは家へそのまま帰ることにした。

 

《そういえばなのは、もう一つの魔法については管理局に伝えても良かったのでは? ジュエルシードを回収するときにも使っていることだし》

《教えても良かったのだけど、言われたときに伝えばいいかなって思って。使わずに済むかもしれないし》

 

 クロノと別れた後、なのはとフェレット姿に戻ったユーノは念話で話し始めた。

 内容はなのはが使うもう一つの魔法についてで、ユーノが言った通り、なのはが持つ能力よりは隠しておく必要はなかった。二種類の魔法を使えると管理局に知られたら驚愕するだろうが、もう一つの魔法については管理局としても周知されている魔法であることは、ユーノに知られた時に解っているため、そこまで隠しておく理由はなかった。単に、管理局にまだ知られてないから教えなかった、というだけの理由だった。

 

《まぁ、なのはがそれで良いということなら僕からは言わないけど》

《多分、これからも両方の魔法は気にせずに使うつもりだから、知られるとは思うけどね》

 

 その後、なのはとユーノは魔法や能力の話から、他愛もない会話を繰り返しながら、なのはの家へと帰って行くのだった――

 




後、五話程度で終わればいいな……

そうしたらあの子を登場させられるのに……

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