魔法少女リリカルなのは東方参異伝   作:アリヤ

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第十五話

「どれだけ攻撃したところで、その結界は壊れないよ」

 

 ジュエルシードを閉じ込めている結界を何度も攻撃を仕掛けているフェイトに対して、なのはは確信を持って言った。

 その言葉を聞いたフェイトは一旦攻撃をやめ、なのはの方へ体を向ける。その表情はなのはに敵意を出しており、フェイトが持つデバイスをなのはに向けた。

 

「……あなたが、この結界を?」

「そうだけど……」

「なら、今過ぎこの結界を解除して。この結界がある限り、封印できないでしょう?」

「その通りだけど……今結界を解除すると大変なことになると言いますか……」

 

 人差し指で頬を掻きながら、なのははどこからフェイトに説明すればいいのかという事で悩んでいた。

 最終手段を使うしか今のところ手がない状況で、そのことをフェイトに伝えることはさすがに躊躇いがあり、それ以前にその方法について説明するわけにもいかなかった。

 何かを悩んでいるように思えたフェイトは、何をそこまで悩む必要があるのかと思うが、なのはの方に乗っていたフェレットが先ほどからずっと腕を組んで何かを考えている光景からして、何か問題があるのだろうと推測することはできた。

 なのはが悩んでいる最中、遠目で様子を見ていたアルフがしびれを切らしたのか、フェイトに近づいて何があったのか聴くことにした。

 

「フェイト、一体どうしたんだい? さっきみたいに攻撃を続けないのかい」

「そうしたいところだけど……彼女が言うにはどうやら結界を解除しないと封印することは不可能らしい」

「なら、解除すればいいじゃないか。普通に解除すればいいのではないのかい?」

「それはできない。今この結界を解除してしまうと、なのはが僕に説明された通りなら次元震によってこの世界が確実に滅んでしまう可能性があるから――」

 

 フェイトとアルフの会話に割ってはいてくるかのように、先ほど考えていたユーノがフェイトとアルフの二人に向けて言った。その顔は真面目な表情でもあり、緊迫した状態であることが顔で解るほどだった。

 現在何が起こっているのか未だに理解できていないフェイトとアルフは、結界に閉じ込めたことによって何をしてしまったのかと気になっていると、ユーノが続けて話続けた

 

「この結界は――なのはが言うにはエネルギーを反射するという能力を持っているらしい。反射するという事はジュエルシードから生み出されるエネルギーが結界の中で永遠に増え続けている状態になっている。そんな状態で結界を解除してみたとしたらどうなると思う?」

「――エネルギーが外に出ようとする力が全方向に飛び出してゆき、次元震を発生させかねないと……」

「その通り。すぐに気付けば大きな問題にならなかったけど、すでに数分経ってしまっている。解除したら次元震が起きることは確実だろうね……」

 

 ユーノの説明にフェイトは現在の状況が理解できたが、想像していた以上に危険なことになっていることに気付く。すべての発端を言ってしまえばなのはのせいではあるが、今はそんなことを悠長にしているわけにもいかず、解決策を練ることの方が優先するべきことだった。

 だがこの結界の事についても、一番詳しく知っているのは使用者であるなのはであり、そのなのは本人がすぐに解決しなかったことからして方法が見つかったわけではないという事は想像ついた。

 

「……で、結界を解除できない理由については解ったが、どうやって被害を出さずに阻止するんだい? このままにしておくと尚更解決策が減っていくようなものだろう?」

「アルフの言うとおりだね。悠長にしている時間はないから、とにかく方法を考えないと……」

 

 ユーノの説明の通りであれば、さっさと封印しなければ解決する選択肢が減っていく一方だとフェイトとアルフの二人は思った。

 しかし、この結界の使用者はなのはで、どういう原理の結界であるのかという事はフェイトやアルフ、そしてユーノの三人は詳しく知っていない。なのはが結界について教えたところでなのは以上に詳しくなることはないし、そもそもその結界は魔法ではあるがフェイト達が使う魔法の原理とは違う。そのことについてフェイトとアルフが知っているわけではないが、たとえ結界の中で反射をさせる魔法が、フェイト達が使う魔法にあったとしても、特殊な魔法として扱われ、使用者以外に詳しい人間はいないことには変わりがなかった。

 結局、ほとんどの解決策をなのはに委ねるという方法しかなく、なのは次第だということはなのはもすでに理解していた。しかものんびりしている暇がないという事もあり、なのはは一番使いたくない方法を取らざるを得ず、ため息を吐きながらもその方法で事を済ませることにした。

 

「仕方ないかな……やらかしちゃったのは私だし、怒られちゃうけどやるしかないか……」

「……まさかなのは、さっき言っていたあまりやりたくない方法をするつもりなの?」

「それしか思いつかないからね……本当ならこの能力を使いたくなかったけど、封印するには一番早く終わるから――」

 

 何をするのかなのはから聴いていないユーノは、一体なのはが何をしようとしているのかと不安になりながらもとりあえず様子を伺うことにした。フェイトとアルフも含めて三人がなのはの方へ注目を向けるが、先ほど策があると言ったなのははこれといった動作をするわけでもなく、只々結界に閉じ込めているジュエルシードを見つめていた。

 その直後、なのはの後方にて突如爆発が発生した。ユーノとフェイトとアルフの三人はその爆発した方向へと視線を思わず向けてしまうが、ユーノはすぐになのはの方へと視線を戻し、何をしようとしているのかと思い、説明してもらおうと思った。

 

「なのは、一体何を――」

 

 ユーノがなのはに話しかけようとしたが、すぐに先ほどとは違った異変が起きていて、フェイトとアルフもなのはの方へと視線を戻した時に気付いた。先ほどまであった結界に閉じ込めてあったジュエルシードが結界ごと姿を消していたからだ。

 そして誰もが、先ほどの爆発を起こさせた理由を理解する。あれは誰も見せたくがないために全く関係がない方向で魔法による爆発を起こさせ、ジュエルシードから視線を外すためだったという事を――

 さらにいえば、ジュエルシードの反応までもなくなっていることに気付く。なのはがあの一瞬の間に封印したのかもしれないとフェイトとアルフは思うが、なのはが先ほど説明した通りであれば何事も起こらずにジュエルシードを封印することは不可能なはず。そのことからして、なのはがジュエルシードをどこかに移動させたと考えた。フェイトはなのはにジュエルシードをどこに移動させたのかを答えさせるために、デバイスでなのはの首辺りに構えて聞き出そうとした――

 

「……ジュエルシードをどこに――」

 

 しかし、フェイトの質問は最後まで言えなかった。大きな揺れほどではなかったが、地震みたいなものが発生し、この地震が何を示しているのかユーノはすぐに理解した。

 

「じ、次元震!? でも、次元震にしては揺れが小さい……?」

「……うん、やっぱりあそこに放り投げればそこまで大きな揺れにならないか。これなら封印できるね」

「な、なのは? 一体何をしようとしたの!?」

「単にある場所に移動させて結界を解いただけだよ。あとは、そこに向けてディバインバスターを放つだけ!!」

 

 あまりにも解りやすい返答ではあったが、そのある場所とは一体どこなのか解らないユーノにとって、次元震を抑え込むような場所が存在するのかという事が気になってしまった。一方のフェイトとアルフの二人は今の状況がついていけず、なのはが何をしたことすら理解できていなかった。

 そして、唯一すべて理解できているなのははレイジングハートをカノンモードに変更させ、何もない上空に向けて構え始め、魔力を先端に集め始めた。ユーノもこの状況についていけないでいたため、なのはの様子を見届けることにしか出来なかった。

 

「リリカルマジカル…… ジュエルシード、シリアルXIX―― 封印っ!!」

 

 刹那、なのはの砲撃は上空に向けて放たれる。本当に何をしようとしているのか解らないでいたユーノ達三人ではあったが、なのはが放った砲撃は途中で何かと衝突していることにすぐに気付いた。そしてなのはの砲撃が終わると砲撃が衝突していたあたりからジュエルシードらしきものが落ちていく様子が見えた。

 それを見たフェイトはすぐさまそのジュエルシードがある方向へと移動した。なのははそのフェイトを追いかけることもせず、とりあえず想定していた通りに封印をすることができたことにホッと一息を吐いた。そんなのんびりしているなのはを見たユーノは、このままではフェイトにとられてしまうと思い、なのはに急がせようとした。

 

「な、なのは!! ジュエルシードがとられちゃうよ!!」

「……今回はフェイトちゃんにあげるよ。ユーノ君は怒るかもしれないけど、今回の原因を作ったのは私なんだし、さすがにあのジュエルシードを手に入れるのは気が引けると言いますか……」

 

 実際、なのはが結界に閉じ込めるなんていう行為をしなければ、こんな大事にならずに封印することができただろうという事はユーノも解っていた。それに、結局すべて集めないと意味がないとなのはは考えているだろうから、一つや二つをフェイトに渡したところで問題ないと思っているのだろうと推測し、そんななのはのやり方にユーノは思わずため息を吐きたくなっていた。

 そして、今回の事でユーノは理解した。なのはの行動を一々気にしていたら寿命が絶対に縮みそうで、ユーノが思っている常識はなのはには通用しないという事を覚えていた方がいいと思った。結局何をしたのかいまだに理解できていないが、なのはが視線を逸らさせたことから考慮して、教えるわけにはいかないようなことをしたのだろうと思い、これ以上考えないことにした。聴いたところで話題を逸らされそうな気がし、正確な答えを聴けるとは思えなかったため、なのはが教えてくれるまで待とうと考えていた。

 

「はぁ……解った。それじゃあ、フェイトがジュエルシードを回収したのを確認したら、僕も結界を解除して帰ろうか」

「そうだね。あとなんかごめんね。私の勝手でジュエルシードをフェイトちゃんに渡しちゃって」

「別にいいよ。全部回収しないといけないことには変わりがないからね……」

 

 今後も今回のようなことが起きそうだなとユーノは内心思いつつ、フェイトがジュエルシードを回収したところを確認できたため、結界を解除した。なのはも路地裏に移動して元の私服姿へと戻り、ユーノを方に乗せて家へと足を進めるのだった――

 


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