IS 別人ストーム   作:ネコ削ぎ

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解決教師

 私の瞳に映り込むのは赤色だった。無機質で何も読むことのできないな真っ赤な光だ。

 弟と鈴が戦っているISと姿形に違いはない。

 灰色の装甲の下にはどのような人間がいて何を考えて私の目の前に立つのか。

 人間みたいに見えて人間らしくない外見だから、もしかしたら人なんて隠れてないのかもしれない。

 全世界でISの研究と開発が進められているが、無人機ISが開発されたという情報は一度も耳にしたことがないから有人の可能性の方が高いか。だけど、どこかの国が秘密裡に無人機を完成させたということも考えられるから、判断がつけ辛い。

 まぁ、後者の可能性の方は低いだろう。ISはまだ十年しか経っていない、それも分かっていないことの方が多いモノだ。大元の開発者がいれば別だろうが、残念ながらソイツは世界を混乱させるだけさせてから、言葉足らずの説明書とコアを置いて失踪した。やるだけやって迷惑な輩だ。

 状況が状況だから無人機かどうかの議論はもう止めよう。

 ISが動き出した。横に腕を振るって私と私の隣にいる美生を攻撃してきた。

 世間一般ではISはパワード・スーツと呼ばれているからして、着込めば常人を凌駕する力を得ることができるパワー・アシスト機能の恩恵に与ることができ、生身に対してはパンチ一発が致命傷になりかねなくなる。

 当たらなければどうとでもなる。そう思うかもしれないが、パワー・アシストはパンチのスピードも上昇させてしまうので、狙って避けることは無理に近い。相手が攻撃を外すか、幸運が働いて奇跡的に避けることはできる。運頼みだからほぼ無理だがな。

 私は美生を抱き寄せる。枯れ木のように脆く見える身体に負担をかけないように力加減をして抱きしめると、彼は「うわっ!?」と驚いた。久しぶりにそんな声を聴いた気がする。

 美生を抱きしめた私は足に力を込めて床を蹴って跳んだ。

 普通なら跳んだところで人間の跳躍力は一メートル弱。その手のプロでも二メートル飛べるかどうかの中で、目の前にいるISの攻撃を避けることなどできるはずがない。

 

「え?」

 

 誰かが吐息を漏らしたのが聞こえる。

 風が髪を撫でるのを感じながら私は下を見る。先ほどまで大きく見えたISが小さく見える。

 現在地上から六メートル離れたところにいるのだからISが小さく見えるのは仕方がない。

 一応の為に言っておくが私はただその場でジャンプしただけだ。何か特別なことをしたということもなく足に力を込めて跳んだだけなのだ。それだけで六メートルは跳べてしまう私は異常だと思う。ある意味欠陥人間だ。

 

「とととと飛んでる!?」

 

 真耶の叫び声がここまで聞こえてくる。

 私に抱きしめられている美生は「千冬はぶっ飛んでますねぇ」とのんきに呟いていた。こんな状況を平気で受け入れている彼も十分にぶっ飛んでいる。

 

「パァァイルバンカァァァァアァァァっ!」

 

 地上を見下ろすと正体不明のISの胸から、装甲を突き破るようにして鉄の棒みたいな物が顔を覗かせていた。ISの背後にはシャルロットが居るので十中八九彼女の仕業だ。雄叫びからISの装甲を貫通しているのはパイルバンカーと呼ばれる杭打機だろう。

 そういえば、シャルロットに関する資料の中に彼女が専用機を所持しているという情報が書かれているのを忘れていたな。

 ああも大胆にパイルバンカーで貫いているけど、中に人間が入っていたらどうするつもりなんだろうか。いや、仮にも専用機を持っているんだ、無人機だと見抜いて攻撃したはずだ。してないんだったら後先考えない馬鹿だ。

 

「良かった。勢いでやっちゃったけど人が入ってない」

 

 ……馬鹿だった。落下しながら私はそう思った。

 当たり前のように六メートルの高さを跳ぶのだから、六メートルの位置から落下して無事着地するのを当たり前のようにこなした。昔から朝飯前のようにできることだ。

 

「きひひ。久しぶりにビックリしましたよ」

 

 驚いたようには見えない儚い笑顔を見せる美生。彼は意外に驚くことが少ない。感覚が麻痺しているのかもしれない。

 

「本当に驚いたよ。ヒュンと空高く跳んで行っちゃうんだから」

 

 シャルロットが苦笑しながらやってくる。ISを突き刺したまま担いでやってくる姿に真耶が「ひぃ!?」と後ずさる。

 無人機ISを床に下ろしたシャルロットはISを待機状態に戻して身体を伸ばした。先ほどまでの危機的状況などなかったかのようだ。

 だから私達は全く動かなくなったことで安心して無人機から視線を外してしまった。

 動かなくなったと思っていた無人機ISが素早くその身を起した。

 それに一番最初に気がついたのは私だ。

 次にそれに気づいたのは私の視界にいる誰でもなかった。

 ただ三番目以降に気がついたのは視界にいる誰かだった。

 

「まだ生きて……!」

 

 シャルロットが憎々しげに呟く。すぐにISを展開しようとするが、それよりも早く無人機ISが両腕をこちらに向けてくる。

 今ここでシャルロットがISを展開して行動を起こしたところで遅すぎる。敵の方が一歩早い。それでもシャルロットは動くことを止めない。止める訳にはいかない。

 

「一夏!」

 

 会場全体にハウリング音と共に響き渡る声。突然の大音量に多くが耳を塞いでしまう。

 私とISを展開しているシャルロットを除く全員が動きを止める。不思議なことに再起動した無人機ISも動きを止めていた。

 

「そのような奴に勝てなくてぇ! どうやって千冬さんを守るつもりだ!」

 

 ハウリングを引っ提げて聞こえてくる声は箒のものだった。場所はおそらく会場の放送室だろう。何を以てこんな行動に出ているかは分からない。

 とにかく目の前の無人機ISが動かなくなったことは幸いだ。今を狙うしかない。

 私が動き出す。

 シャルロットも動き出す。

 ハッとなったかどうかは分からないが、無人機ISも動き出そうとする。

 この場にいる誰の動きが一番速いか。それが勝負の分かれ目である。

 私が飛び上がって相手に蹴りを当てる前に。

 シャルロットが瞬時にアサルトライフルを構えて引き金を引くより早く。

 無人機ISの腕の砲口からビームが撃ち出される間もなく。

 どこからともなく伸びてきたレーザーが無人機ISの頭部を焼く。頭部に攻撃を受けたことで相手の動きが鈍った。

 誰の攻撃かを疑問に思いながらも私は止まることなく相手の首に蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。蹴りを入れた時、無人機ISの首が鈍い音を上げて折れた。

 蹴飛ばされて無様に転がっていった無人機ISを今度はシャルロットの射撃が襲いかかる。撃ち出された弾丸がパイルバンカーを受けて脆くなった胸部の装甲を抉っていった。

 射撃が止んだ後に残るのは、今度こそ停止と断言できるほどの惨状を呈した無人機ISの成れの果て。なんというか壊れた機械ほど無残な物はないと思う。

 会場の中央に目を向ければ右肩から袈裟切りにされて機能を停止した無人機ISがいた。あっちの方がまだ原型を留めている。どうやら教師陣は私も含めて加減を知らないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 原型を留めていないモノと原型を綺麗に留めたモノの二機が回収され解析にかけられたが、残念ながら襲撃者の手がかりとなるものも無人機の技術も手に入れることはできなかったそうだ。

 私は解析に加わったわけではないので人伝に聞いただけだ。その情報の真偽も分からずにその結果を受け入れた。興味がない。その一言で情報の吟味のせずに無人機ISのことを終わらせることにした。

 無人機ISを誰が送り込んできたか。

 心当たりがある。一人だけ思いつく人物がいる。むしろ一人しか思いつかない。

 篠ノ之束。

 ISの生みの親で指名手配を受けている人間。

 アレなら今回の事件を起こすことができるだろう。

 ISの生みの親ならどの国を差し置いて無人機なんて新技術を造り上げることができる。

 世界中の頭脳が集まっても解析できないISを作り出したのだから、IS学園の一部をどうこうするなんてお手の物だ。

 篠ノ之束。

 できるだけ面倒事を持ってくるな。


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