「アナタの願いをかなえましょう」
朦朧とする意識の中でそんな声が聞こえてきた。
誰かいるのかと、重くなった頭を音源へと向けると少女が居た。
色白なともすれば病的なほどに白い肌と、真っ青な長い髪。感情の籠っていないような蒼く冷たい瞳。着飾っている物も全てが青く、青系統以外の色はどこにもなかった。服装はよく分からない。見たことのない服だった。
小さな小さな少女は真っ直ぐに私の鼻元まで近づいてきた。私の荒い呼吸に少女の髪がなびく。私の巨体に臆することなく触れてきた。
「アナタの願いをかなえましょう」
瞳と同じく声音にも感情の欠片も籠っていない。機械的に話しているようだ。
「どんな願いもかなえましょう」
ゆっくりと私の頬に手を当てて撫でてくる少女。表情も仮面のように無表情を貫いている。
「アナタの願いは何でしょう?」
それは違和感だらけの状況なのに、不思議と全てを受け入れられている。
「どんな想いも応えましょう」
意識がはっきりとしていないことが原因かもしれない。
「全ては私がかなえましょう」
だから、例え目の前に見える者が幻覚で、聞こえてくる音が幻聴だとしても。
「夢を現実にしてみましょう」
ちょっとした夢心地で想いを口にするのも悪くないかもしれない。
「それがアナタの願いなら」
どうせ私はもう死ぬのだから。
「ちょっと、おかしなことを言ってみますね」
日本人離れした褐色の肌をした女性が笑った。
真っ赤な短い髪と綺麗な宝石のような赤い眼。太陽みたいに暖かい笑顔。
「例えば、キミの願いを一つだけ私が実現させてあげられるとしたら、何を望みますか?」
赤い修道服を着ているけど、もしかして宗教の勧誘か何かなのかな?
「別に変な勧誘じゃないですよ。そういうことを取っ払って、単純に考えてみましょうか」
単純に考える?
「そう、単純だ。キミが今一番にかなえたい夢や願いは何かなってこと」
今かなえたい願い? うーん。ある事にはあるけど、あれは……どうしようかな?
軽快なステップを踏んで近づいてきた真っ赤な女性。
「さてと、そろそろキミの答えを聞かせてもらいましょうかしら」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
「ハロー」
ああああああああああああああ……あ?
「ずいぶんと辛そうな顔してるじゃん。状況から見てまさしく死ぬ一歩手前って奴だな」
変な奴が声をかけてきた。こっちは死にそうなほどの痛みに襲われてるっていうのに、ムカつく笑顔なんか浮かべてムカつく。
「そんな顔で見んなよ。このアタシが来てやったんだ。コーエーに思えって話だぞ」
何言ってんのコイツ。もしかしてどうしようもない馬鹿?
「辛そうな顔だったのに、今はアタシの事を馬鹿にしたような顔になってんよ。帰るぞ」
勝手に帰っちゃえよ。お前なんか知らない。
「良いのかよ? アタシならオマエを救ってやれるのによぉ」
……は?
「まぁ、半ば強引に救うんだけどな」