まったく、アイズはいつまでたっても甘えん坊です。私と一緒でなければ眠れないなど、将来が少し不安になります。
とはいえ、そんなアイズを可愛く思っている私もそんなことは言えたものではないでしょうけど……。
アイズと私は常に一緒。私はアイズの目でもある。かつて、私を大好きと言ってくれ、そして、その身を呈して私を救ってくれた、私の恩人であり、最愛の親友。
両親に先立たれ、家も潰される寸前という逃げ出したくなる状況の私のためにずっと尽くしてくれた、私の自慢の友。それがアイズ。
アイズとの出会いは、まだ両親が健在であったときに出かけた先だった。たまたま具合が悪そうなアイズを見つけ、大丈夫かと声をかけたのがはじまり。そういえば、そのときはアイズは名前すら持っていなかった。一日を生きるために、死にそうになる子供。そんな現実を見て、知り、理解したときの私の衝撃は凄まじいものがありました。
なにかとアイズを気にかけ、時間を見つけては家を抜け出し、アイズと遊ぶ日々。それは私の幼い頃の思い出の中で、一番多い記憶です。
アイズ・ファミリアという名前をつけたのもそのころです。アイズは私が、ファミリアは本人が考えました。
彼女の瞳はとても綺麗な琥珀色で、その目が印象的だったためEYES(瞳)と名付けました。そのときのアイズの喜びようは今でも覚えています。そして家名にファミリア、とつけたアイズの心境は、察して余りあるものです。
きっと、姉妹とはこういうものなのでしょう。私はどこか妹ができたみたいで嬉しかったし、アイズも私をセシィと呼び、慕ってくれています。打算もなにもなく、ただ好きだから、という理由で側にいてくれる、そんなアイズに救われたことは少なくありません。
そして、私がアイズの目を奪った。
アイズは、それを気にしていないと言っているけど、私にはわかる。アイズは、ずっと見たがっていた。空を、花を、風景を、そして、私を。
それがわかるから、アイズには申し訳ない気持ちでいっぱいになる。アイズがもう二度と視力が戻る見込みがないと言われたとき、本人ではなく私のほうがショックを受けてしまった。むしろ、泣き喚く私を、恨んでも当然のアイズ本人が慰めてくれた。あのときほど情けないときはなかった。
だから、そんな情けない私は、…………世界最強になるという決意をした。
そう、それが、アイズに報いるための、“手段”。
アイズと共に目指す夢の近道。
そのために、私とアイズはインフィニットストラトスという存在を利用する。
女尊男婢を生み出したこの発明、今度は、それを使って、…………を、救う。
私たちに負を与えたIS。しかし、私たちはそのISを使って、多くのものを救ってみせよう。
だから、手始めにこのIS学園で。
私とアイズで、最強の座をいただくといたしましょう。
なので………首を洗って待っていてくださいね。楯無生徒会長殿……。
私は、アイズほど容赦はしませんから。
***
始業式も終わり、長ったらしい挨拶を聴き終えた私たちはこれからの学び舎となる校舎、その一室である一組の教室へとやってきました。設備も学校としては最上級だろう、カレイドマテリアル社の本社並の設備に、よくもまぁここまでお金をかけたものだと、半ば呆れながらも自身の席で教師を待っています。
時間を持て余したので、隣に座るアイズの手のひらに指を這わせる。
目の見えないアイズへのコミュニケーション手段のひとつであり、ただのじゃれあいでもある。くすぐったそうに、それでも嬉しそうに時折指を絡めてくるアイズの口元は笑みを浮かべている。まったく可愛らしいですね。
そんな風にアイズとじゃれながらあらためて教室内を見渡してみると、当然のことながら女生徒の多さが目についてしまいます。まぁ、操縦者は女性しかいなかったのだから当然でしょう。
しかし、そんな中で注目を集めている存在がいる。彼が、織斑一夏さん、ですか。
可哀想に、ここまで異性に囲まれるというのはさぞや居心地が悪いでしょう。まるで、動物園にいるパンダのようですわ。
実際に目で見るとわかりますが、やはり似ていますわね。世界最強の女、ブリュンヒルデの織斑千冬。この学園の教員であり、彼の姉。そして世界に名を轟かす、IS操縦者の最高峰の人物。
映像資料で見ましたが、たしかに恐ろしいまでの戦闘力、刀のみで世界を獲ったその実力は、きっと今の私では勝つことは難しいでしょう。しかし、数年もあれば追いつける目処はすでに立っていますし、仮に戦ったとしても、今でもアイズと二人ならばまず間違いなく勝利できるでしょう。
とはいえ、そうそう戦う機会などありませんし、最強の証明がしたいわけでもありません。最強であることは、ただ単に都合がいいから、それ以上の理由のない私にとって、IS戦はそれほどこだわるものではありません。まぁ、それでもプライドが少なからずあるので、負けるつもりなど毛頭ありませんが。
おや、来たようですね。担任は山田先生……、いえ、副担任と言っていますね、では担任は誰でしょうか。
そうしているとお約束の自己紹介がはじまった。これだけ多種多様の多国籍の人間が集まったクラスというのもこの学園の特色のひとつでしょう。しかし、皆さん日本語がお上手ですね、たしかに日本人が多いとはいえ、私やアイズをはじめ、おおくの異国の人間がいるにもかかわらず、多国の会合において共通語として使われることの多い英語ではなく、日本語をこれほど習得されているのは皆さん流石のエリートといったところでしょうか。まぁ、この学園が日本に建っている以上、日本語の学習も必須のようなものなのでしょう。
私とアイズも、カレイドマテリアル社で習いましたし、研究者には日本人の方もいらっしゃいました。おかげで発音に至るまで完璧と太鼓判を押されています。ことわざなどの慣用表現はこれから覚えていけばいいでしょうし。
おっと、アイズの番ですか。さて、なんて言うのでしょう。
「はじめましてアイズ・ファミリアです。イギリスからきました。カレイドマテリアル社に所属しています。すぐにわかることなのでこの機会に言いますが、ボクは目が見えません。なので、皆さんには少なくないご迷惑をおかけすると思いますが、これからのここでの生活を楽しみたいと思います」
あら、思っていたより普通ですね、この子のことだからもっと変なことを言うかと思いましたが。
「ボクの目的はこの学園最強になることです。これからよろしくお願いします」
…………最後の最後で言っちゃいましたね。楯無さんと戦って意欲が湧いたのでしょうか。
おや、織斑さんの番ですね。あらあら、やはり緊張なさっているようですね。仕方ありませんけど、同情してしまいますね。………む。
「…………」
すっと視線だけ後ろに向けると、そこにはたった今教室に入ってきたと思しき女性がいました。黒髪に黒いスーツ、ナイフのように鋭い視線と雰囲気、……なるほど、写真で見るより迫力があるじゃないですか、ブリュンヒルデの織斑千冬さん。そのような自然体でまったく気配を悟らせないとは、悪趣味な気もしますが、クラスは自己紹介の真っ最中、それを考慮して入ってきたのでしょう。もちろん横にいるアイズも気づいている。アイズは気配察知は私よりも上、きっと私よりも、おそらく教室に入る前から気づいていたのでしょう。
彼女は織斑さん………二人とも織斑ですね、一夏さんでいいでしょう。彼に強烈な一撃を加えていた。これが日本の熱血指導というものでしょうか?
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠一五才を一六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。………いいな?」
これはまたなんとも。
周囲の生徒たちは歓声を上げているが、なかなかな人物ではありませんか。反感は覚えませんが、ちょっと悪戯心で反抗してみたくなりますね。アイズはこういった方を困らせることが無自覚に得意ですし、たしかにここでの生活は退屈しそうにありませんね。
その後もコントのような光景が続き、私の番となりました。さて、私の決意表明をしておくといたしましょう。
「はじめまして。イギリス代表候補生を務めております、セシリア・オルコットと申します。アイズ・ファミリアとは旧知の仲で、彼女と共にカレイドマテリアル社に所属させていただいております。なので、彼女がなにか問題を起こした際は私までお願いいたします」
「セシィ、それってどういう意味?」
「あなたは、もう少し自身の天然を自覚するべきです。………まぁ、こんな子ではありますが、皆さんもよくしてやってください」
なんだかアイズの保護者みたいなことを言ってしまいましたが、まぁそれも間違いではないのでよしとしましょう。
「そして私の目的、それはこの学園で最強となることです。このクラスの誰よりも、生徒会長よりも、そして、そこにおられるブリュンヒルデよりも」
おや、織斑先生が少し眉を動かしましたね。自身が引き合いに出されるとは思っていなかったようですね。
「私こそが最強であると、いずれ、皆さんに示しましょう」
力の誇示など趣味ではありませんが、それが、私の決意。この学園にきた理由、そのひとつなのだから。
この物語の最強はセッシーですが、原作キャラも軒並み強化されています。