真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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四十五話投稿です。

長くなりそうだったので二分割。
結果、五〇〇〇字に届かないくらいの長さに。
これはこれで丁度良い長さかな。

-2014/7/19 2:00修正-
感想欄でご指摘頂いた、地の分で雪蓮さんと呼んでいたのを孫策さんに修正


第四十五話 Get This Party Started -悪巧み①-

 義兄さん(糜芳)に痺れた足を弄り回された後も、私は引き続き徐州勢の天幕にお邪魔している。私を悶絶させてくれた義兄さんの事は一つ知恵を借りる事で許す事にした。

 (スカート)姿で暴れた事で乙女の下着を見られる事になったのですから、この条件は大変寛大であると感謝してもらいたい物です、ええ。

 そうして知恵を借りた結果、私は頭を悩ませる事になっているのだが今は割愛する。

 

 さて私が足を弄られている頃に一度高唐勢の陣地へ戻っていた黄里(諸葛均)は、(趙雲)さんを連れて戻ってきた。義兄さんが言っていた冗談を笑い飛ばせる人、という条件では一番の適任だろう。雛里(鳳統)ちゃんでは人見知りしてしまうだろうし。

 義兄さんと星さんが顔を合わせた時に一悶着あったわけだが、それも今は割愛しよう。

 

 さて、徐州勢の陣地には義兄さん達が招いた『お客様』、つまり二つの勢力の中心人物達が集っている。呉郡太守である孫堅様。それからそのご息女と配下。涼州牧馬騰様の名代を務めるご息女とその配下の方々だ。

 とは言っても、どちらの勢力も当主その人は今私達が居る天幕の中にはいない。涼州からはそもそも馬騰様が出陣されていないし、孫堅様はここではなく別の天幕にいる。

 なぜ別の天幕にいるのかというと、孫策さんに向けて『話がまとまらないので酒でも飲んで遊んでおけ』(孫堅様談)と仰られたので、義兄さんが主人(ホスト)役を務める別の天幕が急遽設けられる事になったのだ。孫策さんとしても、面倒な話を聞かずにお酒を飲めるという事で喜んでいた。……孫家はそれで良いのでしょうか?

 趙昱様が主人役を務める天幕には、それぞれの勢力の代表者と護衛、参謀が中に入った。

 残りの全員は、義兄さんが主人役を務める天幕にいる。

 可能であれば私達も趙昱様の天幕に行きたかったのだが、義兄さんに止められた。勢力が小さく見劣りするというのもあるが、高唐勢の代表者として見なされて、何かしらの盟約を結んだ場合に独断専行を桃香(劉備)様達に咎められるかもしれないと義兄さんに指摘されたからだ。桃香様や一刀様はともかく、愛紗(関羽)さん達に誤解された場合にそれを解くのは非常に骨が折れる事が予想できたので、大人しく従う事にした。今日はあくまで顔見せだけにしておき、後日正式に代表者同士で顔を合わせる。その方針に黄里と星さんも賛同したので、私達はこちらの天幕へお邪魔する事になった。

 

 こちらの天幕にいる顔を見渡すと、見事に女性ばかりとなっていた。

 孫家からは、この天幕が設けられる事になった原因である孫策さんと、お目付け役を仰せつかった妹である孫権さん。それから護衛役として甘寧さんがこの場にいる。

 南部の人間らしい露出度の高い服装で少し小麦色の肌を惜しげもなく晒し、女性の私から見ても健康的な魅力を放っている。

 ……孫家の姉妹と自分の体を比べた時に、黒い感情が芽生えかけたが黙殺する。これから私も(あし)の様ににょきにょきと成長していくはずだ。羨ましがる必要などない。多分、きっと。

 逆に趙昱様の天幕へ入っていったのは、当主である孫堅様。それから、参謀である周瑜さんと護衛として黄蓋様が付いていっている。あのお三方の体つきも……いや、何も言うまい。

 

 西涼勢からは、馬岱さんがこちらの天幕に来ている。当主代理である馬超さんと参謀の韓遂さん、護衛の鳳徳さんが趙昱さんの天幕の方だ。

 馬岱さんは最初こそ勢力で一人だけしか天幕の中に居ないので少し気まずそうだったが、すぐに慣れたようで既に場に馴染んで義兄さんや孫策さんと話している。物怖じしない性格をしているのだろう。

 

 徐州勢は、義兄さんと羊祜さんと(歩錬師)ちゃん。藍里お姉ちゃん(諸葛瑾)と太史慈さんは趙昱さんの天幕にいる。

 悠さんは他の同僚達と陣地内の見回りの指揮だそうだ。久しぶりに顔を見たかったので少し残念に思う。

 

「さて、それじゃこっちでも飲み始めるとしようか。 分かっていると思うけど、情報や意見の交換以上の話は出来ないからね」

「面倒だし、こっちはこっちで協力して動く事を決めちゃえば良いんじゃないのー?」

 

 早くも机の上に置かれた一番近い瓶から自分の杯にお酒を注いで、口を付け始めている孫策さんは、義兄さんへ向けてそう口にした。

 

「お前、乾杯する前に……まあ良いか。 協力しあう事を前提として動き方を決めても良いけど、仮にあっちの話が物別れになった場合、こっちでどんなに話を進めたとしても覆るだろ。 あくまで認識を合わせる事に注力した方が徒労感は少なくて済むし、話を進める必要はないだろ」

「まるで決裂する事が決まっているような言い様だな」

 

 孫策さんへ返答をした義兄さんの言葉に孫権さんが絡んだ。

 

「決まっている、とまでは思ってないよ。精々五分五分と言ったところじゃないかな? 特に韓遂殿、涼州勢に対しては喧嘩売ってるのか?っていう招き方をしてるわけだし」

「正直あれは無いなー、と思いましたよ……。 叔母様(韓遂)は笑ってるだけだったけど」

「大丈夫だよ、子泰(馬岱)殿。 一番ありえんと思ってたのは私だから。 いやー孟起(馬超)殿に殺されるかと思った」

「国相様の無茶振りが凄まじかったよね……。 お兄ちゃんも国相様を止めるなり、誘い方変えるなりすれば良いのに」

「止めて辞める人じゃないし、結局その後顔を合わせるんだから誘い方変えても仕方がないでしょ? どうせその辺りの話題は出すんだから」

「あの、どういう呼び方をしたんですか?」

 

 義兄さん達が口々にそう言うのを聞いて、興味が沸いてそう質問をしてしまった。

 

「『涼州の乱での話をしながら酒を飲まないか?』と」

「はわわ! どう考えても韓遂さんに喧嘩を売ってますよ!?」

 

 韓遂さんは負けた側なんだから、勝った徐州勢からそういう誘われ方をされたら確かに怒ると思う。というか、その招き方でよくここに来ましたね?

 

文約(韓遂)殿はともかく、孟起殿が怒り心頭だったね。 むしろ、文約殿が来てくれる事を決めたわけだし、あまり怒っていないようだったけど」

「叔母様、あの戦いは負けるべくして負けたと言ってたからなー。 『血気に逸る事なく、隙無くば牽制に努めよ』っていう言いつけを華雄さんが破ったから負けたっていう認識持ってたし」

「んぐっんぐっ。 ぷはぁ。 そもそもあそこで華雄に隊を率いさせたのが間違いだったんじゃない? 明らかに役者が役に見合っていないでしょ。 麟、おかわり」

「自分で注げ。 華雄が涼州勢に加わらずに正面の汜水関に陣取っているのも、韓遂殿が華雄に責任を追求して仲違いしたからなんじゃない?」

 

 言われたとおりに孫策さんは自分で二杯目を自分で注ぐ。隣の星さんもそれを見て、自分も酒瓶に手を伸ばそうかどうかを迷っているように見える。

 主の勧め無く、お酒を注いで良いのかが分からないのだろう。

 そういった意味では孫策さんの行動は酷く無礼に映るが、義兄さんに気にする素振りがなく、親しい間柄であるからこそ許されるのだろう。

 私がそんな事を考えている間にも、義兄さん達は会話を続けている。

 

「乱が終わった後に、叔母様と丁々発止やりあってたから。 別動隊を敗走させたわけなんですけど、『軍勢をぶつけ合い、武を競い合う事さえできれば負ける事はなかった!』の一点張りで責任を認めようとしなくて結局出奔しちゃいました」

「そもそも、負ける可能性のある正攻法で競ってもらえると考えている時点でおかしいだろ。 まあ、その結果涼州から出奔、董卓勢と合流されて現在苦労していると」

「あはは、返す言葉もありません。 けど、おかしいんですよね。 華雄さんの性格を考えれば、挑発すれば簡単に乗って出撃してきそうな物なんだけど。 何度か悪戯を仕掛けた事があるんですけど、簡単に引っ掛かってたんですよね」

「思慮深くなったって事? そんなに短い時間で人の(さが)が変わるかしら?」

「そういう推測や知っている情報の共有をするのが、情報と意見交換の主旨なわけだ。 全員の知識を共有しておくのは軍議にも繋がる話だから、協力する事が決定したらまず話す事になる。 軍議じゃないからって無駄話をするってわけじゃないぞ」

 

 義兄さんのその言葉に肩を竦めた孫策さんに苦笑しながら、義兄さんは自分の杯にお酒を注いだ。

 華雄が挑発に引っ掛からなかった理由は確かに気になる。何せ最初に挑発に失敗したのは私達高唐勢だ。

 私や雛里ちゃんは挑発で華雄を野戦に引きずり込む事ができると判断した。それを足掛かりに汜水関を落とす算段だったのだが、それが上手く行かなかったために正攻法で攻城をする事になってしまった。

 その結果、大きい被害を出している。

 

「まあ話を戻すけど、身内である文約殿を馬鹿にされたと感じて、怒り心頭になってる馬家当主代理の孟起殿次第で同盟締結も破談も有りえる。 文約殿自身は気にした素振りが無かったから、もしかしたら荒ぶる孟起殿を上手い事諌めて順当に決まるかもしれないけどね」

 

 つまりは馬超さんと韓遂さんの力関係次第という事か。当主代理と当主の腹心、どちらの方が主導権を握っているかという。お二人の仲の良さは一体どの程度の物なのだろう?

 それも涼州勢と今後付き合いをしていく上では重要な情報になるだろう。

 

「あ、もう一名飲み始めちゃってるけど、乾杯しようか。 そこの瓶に酒が入ってるから自分達で好きに注いで。 右から順番に酒が強いから、自分の限界は弁えた上で飲むように」

「ほう、酒の種類がそれぞれ異なるのですか」

「甘いのやら、強いのやら色々あるから自分で飲み比べるのが早いですよ」

「ほほう、それは楽しみですな」

 

 では私も、と良いながら星さんも杯に酒を注いだ。それを皮切りに私を含めた全員がそれぞれ空の杯を満たしていく。

 

「では、遅ればせながら始めようか。 酒量は自分で調整するようにね。 倒れても介抱するつもりはないから。 それじゃ、乾杯」

 

 ……いや、介抱はしましょうよ。

 心中でそうツッコミを入れながらも、私も義兄さんの乾杯の声に唱和を重ねた。




最後までお読み頂きありがとうございます。

・乙女の下着
そりゃ、スカートで暴れたら見えるよねぇ。
義妹の下着なわけだし、目にした麟も気まずい。見られた朱里も気まずい。まさにLose-Loseな関係。

・知恵を借りる、および一悶着
朱里視点の幕間で書く予定です。
汜水関が落ち着いたらかなぁ。

・天幕が二つ
総勢二十人近くを一つの場面に登場させるとか、作者の力量ではとてもできない……!
よって、こちらも二分割。それでも、天幕内に居るはずの全員が発言をする事ができていない。

・朱里達の立ち位置
情報提供役。その「報酬」として、他勢力の重臣や当主の血縁者と顔を繋ぐ機会を設ける事ができたと考えて頂ければ。何で情報提供役として珍重されているのかは次回に語ります。

・葦の様ににょきにょきと
伸びると良いねぇ。なお、成長してしまうと属性が一つ無くなり、キャラが薄くなってしまう可能性が。

・黒い感情
ただし、思春の姿を見て少し漂白される。
確か蒲公英は小さいけど無いわけではなかった。
わざわざいたしている画像を見て確認したなんてとても言えない。

・話す内容
情報、意見の交換は一般的に軍議で最初に話す内容。
協力して動くかどうかに関わらず、しておけば有用なためそれを最初に話し合った方が良いだろうという判断です。

・馬岱の字
捏造設定。
岱は泰山の意味らしいので、泰に尊称であるらしい子を付けました。

・華雄
あの負け方じゃ、そりゃ仲違いするわな……。

・介抱はしない
ただし、アルハラも厳禁。無理に飲ませようとすると、陶器製の杯が頭目掛けて投げつけられます。


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