真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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遅くなりました。

悪いのは軍議に参加すると袁紹さんをおちょくり続ける主人公のせい。


第四十三話 In my defence -金城鉄壁-

 私達の予想したとおり、袁紹殿は曹操殿と共同で反董卓連合を立ち上げた。その檄文に応えた諸侯たちは、一様に洛陽へ向けて進軍を開始した。

 発案が曹操でも、橋瑁の公文書偽造でも事に少し驚いたのは完全に余談だろう。

 

 何はともあれ、私達徐州勢も洛陽へ向かう事になったのだが、少し出発が遅れる事となった。

 州牧様が倒れた事で動揺した徐州の官吏達を落ち着けるため、州牧様が健在であると各郡に通達を出して動揺が抑えられた事を確認できるまでは身動きが取れなかったからだ。

 まあ兵が少なくなった途端、州府に向けて全力前進してくる粗忽者がいないとも限らないので、可能な限り徐州の情勢を安定させるのは必須だろう。

 あまり疑いすぎるのも良くないのだろうが、董卓殿達が後方撹乱を行う可能性が捨てきれないというのもある。足元に火を点けて身動きを取れなくするのは、敵に援軍を許さないための常套戦術である。三国志において、最も曹操に苦渋を味あわせたと言っても過言ではない賈文和が相手となるのだ。友人を疑う事になるわけだが、謀略を仕掛けられることを最大限警戒するべきだ。

 彼女は白紙の手紙を送る事で私に何かを伝えようとはしているようだが、一時的にせよ敵対する事には変わりはないのだから、徐州は荒らされないように打てる手は打っておく。あの手紙自体が罠の可能性は流石に無いとは思いたいところではあるけど……。

 

 それと並行して、私は徐州から洛陽へ向かうメンバーを選定した。

 何だかんだで、選んだ顔ぶれは私の知り合いばかりになった。顔見知りの方が頼みやすいのだから仕方がないと思っている。

 国相(趙昱)様を筆頭に、補佐として県長である(糜芳)(徐盛)の二人。その下には子義(太史慈)天明(羊祜)藍里(諸葛瑾)(歩騭)(歩錬師)の兄妹。うむ、見事に知り合いばかりだ。

 何が起こるか分からない以上、ある程度の対応能力を持つ人物以外は選定できなかったという裴景がある。

 あとは、人格が保証できる事。連合軍に合流するまでの間に、立ち寄った場所で略奪なんかの問題を起こさないような性格も選考基準に入れた。兵が独断で行うなら首を落とすだけだが、率いる将が一緒になってやるとなると問題が大きくなる。個人的危険人物筆頭は窄融。偏見であるのは自覚しているが。

 

 本当は(臧覇)も連れて行きたいのだが、あいつには治安維持のために琅邪国内を走り回ってもらう必要があったため、琅邪国に残ってもらう事にした。

 あいつの今の地位は琅邪国の騎都尉。郡丞を経験した事のある子義を除けば、私達の周りで一番の出世頭だったりする。いやー、戦場に出る度、戦功を稼ぐ稼ぐ。西涼の戦いで朝廷でも覚えがめでたくなったため、割ととんとん拍子で出世をしている。まあ、それを見て謙が少し焦ってもいるようだが。

 

 

 莒県は丞である(孫乾)さんが私の代理を務め、伯侯(杜幾)子布(張昭)子綱(張紘)の三人が補佐に回る。いずれもよほどの事が無い限りは問題を解決できる事だろう。

 折衝が重要になる他勢力との連合であるから、空さんを連れて行こうか最後まで迷った。渉外に力を発揮してくれる人だから、交渉が多く発生する事が見込まれる今回の様なケースで手伝ってもらえれば、色々と助かる部分も多かっただろう。しかし、莒県の県長と県尉が居なくなる上に、丞まで不在となるのはまずいと判断した。軍事が主な目的となるので、戦闘指揮ができない空さんを連れて行くのをためらったというのも勿論ある。

 

 悠と遥の兄妹は、漢瑜(陳珪)様の差し金で同行する事になった。元龍(陳登)が病み上がりで動く事ができないので、その代理という事なのだろう。

 軍事にも他勢力との間の調整にも力を発揮してくれるであろう。正直ありがたい。空さんを残していくという判断の決め手となったのも、二人が同行する事が確定したからだ。二人に加えて私と藍里も交渉役に回れば、渉外担当が足りなくなる事は無いだろうと思う。

 いざとなれば天明にもお願いする。人見知りの気があるので、嫌がるかもしれないが。

 元龍の病に関しては、生魚を食する事を止めさせれば寄生虫に再度感染する事もないだろうし、必ず食材を熱した料理を食わせるように漢瑜様に入れ知恵はしておいた。これで再発しなければ万々歳だ。

 くっくっく、覚悟しておけ元龍。こんなところでみすみすと死なせはしない。史実において曹操にも死を惜しまれたその才、徐州のために使い尽くしてもらう。

 

 姉さん(糜竺)は自分も連れていけとごねはしなかった。ええ。いつもと違う反応に、何か悪い物を食べたかと問い質してしまい、激怒されましたよ。

どうも空さんと天明が何か吹き込んだ結果、不承不承残る事に同意してくれたようだ。二人に何を言ったのかと問い質しても、二人とも曖昧に笑うばかりで内容は教えてくれなかった。気になる。

 

 そんな愉快な事やらを慌ただしくこなしているうちにあっという間に出発日を迎え、私たちは馬上の人となった。道中においては大きな問題は起きずに、順調に反董卓連合の合流地点へ辿り着く事ができた。

 小さい問題ならば、飼い猫を連れてこれずにペットロス気味な遥を天明と二人でなだめたり、調理を失敗した兵士を相手に子義が殺気を向けてビビらせたのを説教したり、兵達の慰安のために持ってきた酒を盗み飲みしていた国相様をしばいたりと色々と発生していたのだが、特筆するような内容でも無いので割愛する。

 さらにどうでも良い事ではあるが、遥が飼っている猫は二匹いる。猫を飼いたいと望んだ彼女に、王虎が産んだ子を譲ったのだ。そこまでは良い。大事にしてくれるだろう里親が見つかった事は喜ばしい事だ。

 しかし、名前が『大虎』『小虎』であるのは問題があると思うんだ。何とか止めようとしたが押しきられてしまった。大虎が小虎を苛めたりしないよう、二匹の面倒を公平に見るようによく言い含めておいた。よく分からない、という顔をしながらも頷いた遥を信じる事にしよう。

 

 到着してすぐに袁紹殿(徐州宛ての檄文は袁紹殿から届いたので)へ使者を出したところ、これから軍議を開始するので出席するようにとのお達しが来た。

 まだ日は暮れていないのだが悠長に軍議を開いていて良いのか、という疑問が頭をよぎるが、まあ突っ込む必要は無いのだろう。遅れてきた私達が到着する時になっても、合流地点に変更が無かった事を考えると、おそらく当初の目論みだったであろう汜水関の早期突破は潰えているだろうし。攻撃部隊も適当なところで切り上げて戻ってきたのだろう。

 

「それじゃ、挨拶がてら軍議に顔を出してくる事にする。 県長の二人のどちらかは一緒に来い」

「麟。 任せて良いか?」

 

 謙がこちらに役目を振ってこようとしたが、断らせてもらった。

 

「あー、悪い。 ちょっと戦場を視察しておきたい。 何度か行き来した事があるから地形なんかは頭に入ってはいるけど、何か変わった部分が無いかを確かめておきたい」

「それは仕方ないか。 じゃあ俺が出ます」

 

 特に揉める事なく、すんなりと決まった。申し訳ないが任せた。

 

「それじゃ文嚮、ついてきな。 あと一人くらいなら連れてけると思うけど誰か行きたいか?」

「藍里出れば? 朱里も多分顔を出すだろうし」

「……そうですね。 国相様、同行させて頂きます」

「よし、決まった。 子方は陣地の設営を怠けて、さっさと視察に出ろ。 他は設営で良いな?」

「武芸に自信の無い私が護衛無しとか、扱いが悪すぎる件」

 

 怠ける言うな。情報収集も十分大事な仕事だ。

 さらっと聞き流しそうになったが、護衛無しで偵察して来いって余裕で遭遇戦で討死(うちじに)する未来が予想できるんだが。

 

「それならいつもどおり、私が護衛に付きます。 多少は安心でしょう」

「今回徐州から出征した面子の中では、子義は武勇で最上位に位置するんだが……。 お前さんが護衛について駄目なんだったら、他の人間が付いても駄目だろうよ」

 

 太史慈が護衛で付いていれば、呂布クラスが来なければ死ぬ事はないだろう。

 ちなみに順番としては、子義>謙>>越えられない壁>>私≒悠>国相様>天明>遥となる。

 

「じゃあ、設営は悠が指揮を取って。 並行して天明は物資の確認。 食料だけじゃなくて木材なんかの資材系も忘れないように」

 

 こういう実務部分に関しては国相様よりも私の方が分かっているので、代わりに指示を出していく。

 

「それから、状況次第ではありますが、もしかしたら面倒な事を提案してもらうかもしれません」

「度が過ぎなければ構わないが……何をするつもりだ?」

「んー。 一言で言うのは難しいのですが」

 

 そう前置きした後、私はやろうと考えている事を口にした。絶句する顔が並ぶ中、一人腹を抱えて爆笑している国相様が印象的だった。

 

 ・・・

 

 宣言通り私と子義は再び馬上の人となり、主戦場である汜水関前に来た。流石に相手の弓が届く位置までは繰り出さず、射程ギリギリを保ちながらだが。

 二人で軽口を叩きながら、ゆっくりと見て回る。

 

「無事に許可を取る事もできたし、万々歳ってところかな。 国相様は面白そうだと判断すると多少の無茶は許してくれるのは楽で良いな」

「ふむ。 確かに説明を受ければ有効だというのは分かるのですが、受け入れられないのでは? 却下を受ける可能性が高そうなのですが」

「んー。 まあ、そうなる可能性は十分あるね」

 

 確かに嫌がる人間は多そうだよなぁ。ただ、現在優勢に戦いを進めている董卓軍が汜水関から打って出てくる可能性はないんだし、色々と揺さぶりとして仕掛けてもばちは当たるまい。

 

「まあ、視察の結果次第だね。 もしかしたらまったく気にしないでも大丈夫なのかもしれないし」

「それが一番ではありますね。 ただ、先ほどから感じるこの臭いを鑑みるに、どうやら必要となりそうですが」

「そうだよなぁ。 ……だんだんきつくなってくると思うけど、子義は平気?」

「不快には思いますが、問題ありません。 何、万の大群に一人で突っ込む事に比べれば何と言う事はありません」

「例えが物騒過ぎる上に、いまいち分かり辛いんだが。 というか、万ではなく千なら何とかなるのか?」

「相手次第ではありますが、雑兵相手ならば造作もありませんね」

「……疑うわけじゃないけど、凄まじいな。 しかし、声を大にして自らの武芸を誇るのは、武将にとっては当然の事なのか?」

「当然でしょう。 武をもって身を立てようという者が、(みだ)りに己を貶めるわけにはいかないでしょう」

 

『何を当たり前の事を言っているんだ』という目で見られる。しかし、武で身を立てられない私としては、それは当たり前の事では無い。一騎討ちよりも伏兵を使って奇襲する事を好むので、頷く事はできない。

 しょうがないんだよ。前世で鬼島津の活躍を寝物語に聞いて育ったら、一騎討ちよりも奇襲と伏兵の凄みに魅せられる。

 

「まあ、それは良いとしてだ。 話は変わるけど、陣中の様子をどう見た?」

「・・・士気が大いに下がっていますね。 至るところで兵士同士の諍いが起こっていたように見えました」

 

 武勇自慢をさらっと流された事が不服なのか、こちらを軽く睨み付けながらも私からの問いかけにそう答えた。真面目だねぇ。

 

「まあ、それが問題だよね。 パッと見ただけでも、暗い顔とかイラついた顔とかが大半を占めていたし」

「それもやむを得ないのでは? 思うような戦いはできておらずに火を見るより明らかな劣勢ですし、攻略の目処も立っていないみたいようですので」

 

 子義の言葉を受けて、汜水関の方向へ目を向ける。

 わざわざ目を凝らさずとも、その威容は目に入ってくる。改めて言う事でもないが、やはり巨大だ。

 そして、連合軍の物とおぼしき大量の屍も異様な存在感を放っている。近づかずとも目にできるほどの屍の山、山、山。決して目にしていて気分の良い物では無い。

 先ほどから漂ってくるこの腐臭の原因でもある。私達の到着が遅れている事を考慮すると、最初の戦いで出来た死体は軽く半月以上そのまま捨て置かれている事になる。以津真天(いつまで)が群れになって訪れそうな光景だ。

 戦闘狂である子義でも流石に感じる事があったのか、少し痛ましそうにその光景を見つめていた。

 

「……これだけ犠牲を払っても、まだ城門どころか最初の堀を越えられていない。 軍全体の士気が落ちてもおかしくはないでしょうね」

「詳報を見なくちゃ分からないけど、無策で突っ込んでいるわけではないと思うんだよ。 それでもこれだけの被害が出ているんだから、どれだけ堅固な防御をしているんだか。 けど、これで提案をする事が確定したね」

 

 城門前には遊撃を目的としている思われる敵陣があり、さらにその前には空堀が何重にも作られている。

 堀を越えようとする敵には城壁から射撃を行って消耗を強いて、越えてきた相手は遊撃部隊で蹴散らす。単純ではあるけど非常に効果的な防御方法と言えるだろう。堅実、と言い換えても良いかもしれない。

 堀で衝車や井蘭車も城門、城壁前に取り付くのが困難だろうし、少数の兵だけが堀を越えても汜水関内に侵入する事が困難だ。汜水関を越えられるだけの大きさをした梯子(はしご)を持って堀を越えるのもきついだろうしなぁ。

 

 私はそこまで考えた後、汜水関にはためく軍旗を確認する。

『董』の字が一番大きいのは当然だろう。総大将であり、言葉通りの旗印なのだから。それ以外では『華』『張』『賈』『牛』『徐』の旗が見える。

 城外に布陣している集団は『姜』の旗を掲げている。

 

『呂』の旗が無い事を幸運と思うべきか? それにしたって……金城鉄壁にも程があるだろ。

 

「軍旗を見るに、董卓軍揃い踏みといったところでしょうか。 音に聞く武の極みたる呂奉先殿の旗が見当たらないのが残念ですが、なかなかの顔ぶれと言えますよね。 敵方としても、この一戦はそれだけの戦力を揃えるに値すると考えたのでしょう。 堅固な拠点で防衛する強者達。 それを如何に打ち破り洛陽まで迫るのか! ふふ、考えるだけでも心躍り、激しく闘争心が猛ってくるではありませんか!!」

 

 戦闘狂が吼える声を聞きながら、この陣容が守る汜水関をどうした物かなぁ、と心中で溜め息を吐くのだった。




最後まで読み頂きありがとうございます。

前書きにも書きましたが、延々と袁紹さんを弄り続ける内容となって話が進みそうになかったので軍議には出せませんでしたw
何とか落ち着かないかと頑張ったんですが、無理だったんで丸々1話分を破棄しました。

・発案者
正史では橋瑁、演義では曹操が発案者。
恋姫では月を追い落とそうと考えた麗羽が首謀者だった記憶が。

・遅刻
しばらく徐州内の戦力が減少するので、問題が発生しないように弛んだ箍を閉め直してました。
それに時間がかかったため遅刻。

・賈文和
張繍の奇襲、虚誘掩殺の二つで曹操を大敗させています。
しかし個人的に曹操が一番嫌だと思ったのは、拒否できないタイミングでの張繍の降伏だったのではないかと考えています。
長男と腹心を殺した連中を受け入れざるを得ない状況を見極めて、一番高値で受け入れられる時機に降伏って、相当嫌らしいかと。

・親友と妹の入れ知恵
『旦那が帰ってくるのを健気に待つ奥さんの方が麟君は好きなんじゃないかなぁ?』
『確かにお兄ちゃん、出征の度にわがままを言うお姉ちゃんの説得が面倒だってぼやいてたよ』
『そのうち愛想を尽かされるんじゃない? 私としては麟君と添い遂げられる可能性が上がるから望むところだけど』
『結婚できた後の事を考えて、健気に待つ女を演じてみても良いんじゃないかな?』
だいたいこんな感じ。

・ペットロス
可愛がっていればいるほど陥りやすくなる心の病。
島津家伝統の猫時計として、飼い猫達を連れて来ても良かったんですが、そうとは知らない諸侯の兵に捕まって猫鍋にされてもおかしくはないので置いてくる事にしました。

・大虎と小虎
二宮の変の元凶が大虎。巻き込まれた方が小虎。
錬師がこの名前をつけるのは色々と不穏。

・武勇の格付け
謙のすぐ後ろに臧洪がいるはず。名前は出てきてませんが、天明にくっついて出征しています。

・提案
大した内容でも無いですが、引っ張ります。
あ、敵の死体を串刺しにして晒すとかでは無いですw

・鬼島津の活躍を寝物語に
なにそれこわい。
ただし郷土の英雄には違いないでしょうし、そういう家系が有っても良いですよね?
眠る前に殺伐とした話ばかりを聞く事になるでしょうがw

・汜水関
一騎打ちに負けてグダグダになりさえしなければ、割りと長く保持できるだろうと考えています。
詠ちゃんが最前線に来た事で、出撃したがる華雄を張遼が本気で止めさせています。原作蜀ルートみたいに、いきなり華雄を見捨てて汜水関失陥の原因とはなりません。流石にあの張遼はアホすぎるので知力上方修正。
空堀作って、城外にも布陣をして守りは更にアップ。大阪城の冬の陣の様相を呈しております。真田丸が無いのはもっけの幸い。

・以津真天
以日本の妖怪。屍を葬らず、野に晒したままにしていると訪れる妖怪。いつまで、いつまで、という鳴き声で無く鳥の姿をしている。
私が初めて知ったのは、地獄先生ぬーべーだったなぁ。

・『董』の旗
董卓が汜水関に居る事を示しているのではなく、将達が董卓軍に所属している事を示すために掲げています。

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