真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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第四十二話投稿します。

残念ながら週間での更新はならず。

それから、思いついてしまったネタを新規小説として投稿済。


第四十二話 Empty letter -新たな動乱-

 趙国相と共に州牧様の部屋へ入ると、中には三人の人物が居た。

 寝台に横になっている人物は、徐州牧、陶謙恭祖様。五斗米道の導師に診てもらってから、大分顔色が良くなっている。少しやつれているのは、寝込んでいたからであろう。

 

 その横に(はべ)っている長身の女性が別駕従事史、陳羣長文殿。

 史実では魏に仕えて九品官人法を制定し、隋の時代に科挙が行われるまでの間の人材登用の基礎を作り上げた。超優秀な人事のプロフェッショナルと言える人物だ。曹操に推挙した人物も(ことごと)く当たりだったらしいしなぁ。

 この世界では、西涼の乱の頃に豫州から避難して徐州に来ていた事を知り、迷わず州牧様へ登用を勧めた。彼女は元々が清流派の名家の生まれであり、孔融殿から評価をされていたため名は広く知られていたので、あまり徐州内で反対が起きなかったのには正直助かった。

 

 その隣に立つ背の低い小柄な少女は、徐州牧付の主簿、魯粛子敬殿。

 演義においては劉備陣営と孫権陣営の間で板挟みとなる、人が善くてどこか頼りない人物として描かれているが、正史においてはまったく異なる。

 劉備と協調して曹操に当たろうとしていたのは事実であるが、あわよくば荊州全土を併合しようとする劉備を掣肘し続けた。

 さらに荊州で劉備軍と軍事的緊張が起きると、関羽と直接会談して荊州の三郡のうち二郡を返還させる事に成功している。

 軍事手腕においても不足はなく、赤壁では孫権へ降伏を戒めるように説いており、先見の明が有る人物であった事も伺える。

 三国志屈指のオールラウンダーとも言って良い、周瑜無き後の呉の第一人者なのだ。

 演義でああいう役回りだったのは、孫呉の家臣においては珍しく劉備に温かい態度で接している事と、諸葛亮を引き立てるためだったと思うのは邪推だろうか。

 この世界の彼女は史実どおり、郷里において狂児と呼ばれるほどに色々とやらかしていたのだが、話を聞いた長文さんが『面白い』と主簿に抜擢したのだ。

 一本釣りで魯粛とか、見る目が凄いわ人事部長。

 そして子敬殿、すまん。話に聞く限り、貴女が郷里でやってきた事は明らかに私が行った農法とかの模倣だよな。今度しっかりと教える。

 

 しかし、錚々(そうそう)たるメンバーだ。書類の処理を終えて、自宅で思う存分眠っている景興さんも含めれば、内政において隙がまったくない面子といえる。正直、少し(おのの)く。徐州は本当に文官は豊富だよなぁ。

 

「ご無沙汰しております、恭祖様。 お加減が悪いとお伺いしましたが?」

 

 声がかかる前に平伏して、趙国相がそう尋ねる。借りてきた猫のように大人しく、丁寧に州牧様へ接する彼女の姿と先ほどまでの姿とのギャップに少し呆れる。

 

「うむ。 少し体の調子を崩していたが、今は落ち着いておる。 子方の連れてきた医師の治療が効いたようだ」

 

 州牧様は頷きながら、短く言葉をそう返す。

 あのテンションにはついてはいけなかったが、彼は名に恥じぬ名医だったのだろう。色々とツッコミどころの多い掛け声や、暑苦しい性格に目を瞑る必要はあるが。

 景興さんに相談されて、迷わず彼に治療を任せるべきだと進言したのは間違いではなかったのだろう。

 暑苦しい性格だったが。

 

「して、元達。 お主がここに来たのは、いつまでも帰ってこない子方を連れ帰るためか?」

「あー、州牧様。 それでは私が遊んでいただけのように……」

「御意に。 第一の目的はそれとなります」

 

 私の抗議はしれっと無視して、趙国相がそう答える。

 

(……ぞんざいな扱いだなぁ。)

 

 そう心中で苦笑している間にも、お二人の間で会話は続く。

 

「ふむ、第一がそれとなると、他にも理由があると?」

「御意にございます」

 

 私が郯へ移動してから、今までの間に何か発生したという事だろうか?私が出発するまでの間に、特に国相様から言付かった事は無かったわけだし。

 

「古い知り合いの伝手で、洛陽についての続報が手に入りました」

 

 その言葉を聞くや、私を含め室内の人間すべての気配が鋭くなった。

 それもそうだろう。現在洛陽は軍事的緊張状態にある。戒厳令に近いと言って良いだろう。

 

 事の始まりは先帝の崩御から。先帝が後継者を決めないままお隠れになられた事により、後継者争いが勃発したのだ。

 何皇后の実子である弁皇女と、既に身罷られている王美人の娘である協皇女の二人が次代の帝となるために争っているわけだ。うん、もう性別については何も言うまい。

 話に聞くに、彼女達は非常に仲の良い姉妹だったそうなのだが、宦官と外戚の権力争いに巻き込まれてしまったらしい。

 何氏の血族である弁皇女の擁立を何進大将軍の派閥が狙い、それに対抗するように宦官達は協皇女を帝位に付けようとした。ここまでが、今までに洛陽から流れてきた噂となる。

 これは三国志であっても同様の動きであり、あまり大きな驚きはない。

 

「報告せよ」

「はっ。 先帝陛下が死に臨む前に一度だけ目覚められ、上軍校尉である蹇碩へ協皇女殿下を後継とするように遺詔を与えられたとの事です。 ですが、おそらくこれは捏造でしょう」

「ああ。 そんなに都合よく、蹇碩とその派閥の者しか居ない時に陛下が目を覚ます事はあるまいよ。 まして、自分が後ろ楯となっている皇女殿下を立てろなど、あまりにも出来すぎているだろう」

 

 ぐうの音も出ないほどの正論だ。三文芝居というべきだろう。

 私は、何進の動きについて確認するために質問をした。

 

「当然、大将軍閣下は従うわけないですよね?」

「当然だ。 一触即発といったところらしい。 しかも、大将軍閣下の元に袁家の者が付き、毎日閣下に兵を起こすべしと勧めていたらしい」

「火に油を注いでいますね……」

 

 国相様の答えに、長文さんは乾いた笑いを浮かべながらそう言った。うん。確かに火事場に油を注いでいるというのが一番的確な表現だろう。

 火薬庫で火遊びをしている、でも表現としては良さそうか。……三国志演義のように、火薬ってこの世界にあるのかな?

 そんなどうでも良い事を考えていた私を置いてきぼりに、さらに質問が長文殿から飛ぶ。

 

「いたらしい、と過去形で語るという事は実際に何かあったという事でしょうか?」

「四方八方まで火の粉が飛び散る勢いでな。 どうやら、閣下達が兵を起こそうとする動きを掴んだ宦官達が、先手を打って閣下を宮廷に呼び寄せたらしい」

「……まさか、それに応じたのですか?」

 

 その返答を聞いて呆れながらも戦く長文殿。

 それを見て、嫌そうに国相様は頷いた。

 

「そのまさかだ。 応じた結果、あっさりと十常侍に殺されたとの事だ」

「何という軽率さ……」

 

 呆れきった、という表情を浮かべる長文殿に対して、私も同意する。ただし、これは正しい歴史の流れである。

 史実ではこの後、袁紹が仇討ちを宣言して十常侍達宦官の殲滅戦を展開。どさくさに紛れて逃げ出そうとした十常侍の張譲と段珪が二人の皇子を連れ出して洛陽を脱出。しかし逃げ切れないと判断して、皇子達を残して自害するに至ったはずだ。

 その残された皇子達を董卓が保護した後、董卓の暴虐な振る舞いから反董卓連合へ繋がる。

 国相様の話を聞く限り、大体の流れは同じようだ。皇女と皇子の性別の違いが一番大きく、連れ出そうとした十常侍の名前が多少異なるくらいである。

 

「……というのが伝わってきた話です。 ひとまずは董(なにがし)殿が殿下達を保護し、弁皇女を即位させた事により、洛陽の混乱に歯止めがかかったと言ったところでしょうか」

「ふむ。 ……子方。 お主、董家配下の者と繋がりを持っていたな? 今の話を聞いて補足などはあるか?」

「何点か。 まずは董某殿の名ですが、『卓』かと思われます。 『先年兄の董擢殿を亡くし、太守の座をそのまま継いだ』と彼女の腹心から文で伝わってきております」

 

 当時は県長に就任してからようやく仕事に慣れ始めた頃だったので、董擢殿の弔問に行く事ができなかった。

 代わりに、あの辺りが故郷である伯侯を代理として派遣して弔意の使者とした。

 董卓殿と会話こそできなかったが、目にした雰囲気からは暴虐を働きそうな精神の歪みは見受けられなかったそうだ。

 藍里や伯約殿の評価と一致するため、おそらくこの世界の董卓は善性の人物なのだろうと予想できる。

 

「太守としての評判はどうなのでしょう?」

 

 続いて、子敬殿からそう質問をされた。

 

「概ね上々かと。 もしかしたら、民政の手腕は兄である董擢殿より上かもしれません。 軍事の取りまとめに関しては先ほど申し上げました腹心である、賈文和殿が担当しているようです。 黄巾達を相手に被害を出さずに功績を上げている事から、そちらの不安も無いようです」

「ふむ、参謀は問題無いと。 ならば将の質はどうだ?」

「少なくとも一人、姜伯約という良将がいる事を知っています。 前線で戦える武芸の腕を持ちますし、判断能力にも信用をおけるかと。 仮に手綱を放して自由にさせたとしても、ある程度は自身の才覚で戦場を駆け回る事ができるでしょう」

 

 子敬殿の質問から、矢継ぎ早に続けられた州牧様の質問にそう答える。

 しかし、賈駆が後方に控えて作戦を練り、姜維が前線指揮官としてそれを実行する、か。

 ……随分強いな、それ。

 

「ふむ。 飛躍の条件は十分に整っていると見るか?」

 

 州牧様からの質問に、私は首を傾げながら疑問符付きの答えを返した。

 

「地方長官としてならば、でしょうか。 中央の高官達との交渉が満足にできるかは分かりません。 宮廷で政治工作をするには経験が足りないのでは? 民政や軍政と宮廷政治はまったく質が異なりますので」

「ああ、確かにな。 とりあえず高官に媚びて手のひらで転がしておけば済むのと違って、領地経営はひたすら面倒だ」

「国相様の戯れ言は無視して話を続けますが、彼女達に宮廷内の人脈について()てがあるかも分かりません。 ある程度は甘い汁を吸おうと近寄ってくる輩はいるでしょうが、宦官達により不遇をかこわざるを得なかった清流派官吏達が認めようとしないでしょう」

「ようやく日の目を見る事ができ、我が世の春が訪れると思っていたところで、横から主導権を奪われたわけですからね。 妬心により素直に従う事はないでしょう」

 

 長文殿の言うとおり、清流派官吏達は自分達が辣腕を振るう事を夢見ていたはずだ。その機会を横から奪われて黙っているとは思えない。

 家族が清流派に属していた長文殿のその意見は、かなり重い意味を持つ。

 

「それに、袁紹殿も加えた方が良いでしょうか?」

「ですね。 彼女には、大将軍閣下の仇討ちをやってのけたのは自分だという自負があるでしょう。 利害関係が一致する以上、清流派官吏と結び付く可能性が高いです」

 

 子敬殿の言葉に、私は頷きを返す。

 ただし史実において、清流派官吏達と反董卓連合の首魁達が連携した描写は非常に少ない。

 せいぜい清流派の密談の時に、曹操が董卓暗殺を名乗り出た事くらいか?洛陽内にいた官吏達が、内から連合軍へ情報を漏らすなどは特にしていなかった記憶がある。

 司馬朗が官位を返して田舎に帰ったり、荀攸が投獄されたりした事を踏まえると、骨のある人間は軒並み宮廷から去り、董卓に阿諛追従(あゆついしょう)するか、面従腹背の姿勢を取る者が多かったのではないだろうか。董卓が決定的な隙を見せるまでは、危ない橋を渡らなかったのかもしれない。

 

 そういえば、面従腹背といえば王允と貂蝉はこの世界にいるのだろうか?

 絶世の美貌を持つ傾国の美女として名高い貂蝉は、少し見てみたい気がする。何となく、派手な出で立ちをした女性を思い浮かべるのだが。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 

「洛陽で机を並べていた元龍が袁紹殿をこう評していました。『羨望の目で見られる事や、他者からの喝采を好む虚栄心の強い性格』と」

 

 その後に『しかし、目にする者を惹き付ける英雄性を持ち合わせる』と言ってもいた。袁紹殿に人の意見を謙虚に受け入れる器量が備わり、的確な助言を行える者を側におけば、斉の桓公となりうるかもしれない。

 袁紹は三国志におけるキーパーソンの一人だ。官渡で曹操に破れるまでは、河北に一大勢力を築き上げていた。劉備が台頭する前は、曹操最大の好敵手だったと言っても良い。家柄の良さと豊富な財力を背景に、多くの優秀な人材が彼の下に集った。

 そういった人物であるならば、この世界でも英雄性を持ち合わせていてもおかしくは無いか。

 

「『虚栄心が強い』か」

「御意に。 帝を宦官達より救いだし、政を正道に返す。 それを行えれば、大いに人々から喝采を浴びる事ができたでしょうね」

「それを妨げられた、と本気で考えているとすると董卓殿を逆恨みする可能性は大いにあるな」

 

 そう言って、州牧様は溜め息を一つ吐いた。

 まだまだ洛陽の情勢が落ち着きそうもないと理解したからだろう。

 

「それと、おそらくその話に繋がるであろう情報が一つ」

「ふむ。 申せ」

「繋がるであろうって、確定じゃないのか?」

 

 横から飛んできた国相様からの言葉に、私は困った顔を作りながら言葉を返した。

 

「それが、少し特殊でして。 本当に関係があるかは私にも分からないんです。 今回、国相様から洛陽の情勢を事細かにお話し頂けたため、『もしかしてこれも繋がるのか?』という感じなんです」

 

 ちょっと州牧様のお耳に入れておこう、というレベルの話だったのだが、折角なのでここで披露しておく事にする。

 

「私が莒を出る直前に文和殿から文が届きました。 それがこれです」

 

 私は懐から、私宛の私信を取り出し、それを州牧様へお渡しした。

 

「……おい、子方。 何も書かれていないのだが」

 

 文を手に取り、中を確認した州牧様から声がかかる。確かに私が渡したのは白紙だ。しかし、別に中身を入れ換えたわけではない。

 

「最初から、白紙のまま送られてきたのです」

「賈文和が中身を入れ違えただけではないのか?」

 

 訝しげに口にした国相様の言葉に私はかぶりを振った。

 

「その可能性も考えましたが、後で否定しました。 これが届いてから数日後に、伯約殿からも手紙が届いたのですが、そちらも白紙だったんです」

「……一度だけなら偶然かもしれないが、二度続けば故意という事ですか」

「しかも同じ勢力に属する、別々の人物がそれぞれ送ってきたと。 それは間違いなく故意でしょうね」

 

 子敬殿と長文殿がそれぞれ口にする。

 私がわざとだと判断したのも同様の理由だ。

 ついでに言えば、別の日に二通手紙が届くというのも少しおかしい。何故同じ城で寝泊まりしている人間が宛先が同じ手紙をまとめないで、わざわざ別々に出したのか。口も利かないほどに嫌いあっているのならともかく、顔を合わせる機会も多いのだからその時に出す手紙が無いか等を尋ねるだろう。二十一世紀の日本の様に郵便制度が充実しているならともかく、この時代では手紙を送るにも一苦労なのだから。

 あえて、異常性を演出するためにこういう届け方をしたと思うのは邪推だろうか?

 

「しかし、これでは伝えたかった内容が何かまるで分からんな」

「確かにそうですね。 ですが『私に何かを伝えようとした』というのは伝わります。 あと、仮に私の手元に届かずに他人に見られたとしても、用件がまるで伝わりません。 見られてはまずい事を書かざるを得なかったような立場にあるのか、そう推測せずにはいられません。 まあ私に対しては、『自分で察しろ!』という事ではないかと」

「ふむ。 なかなかに愉快な交遊関係を築いているようだな」

 

 どこか感心したようにそう口にする州牧様に私は苦笑する。

 その後に、不意に真面目な表情を作り、言葉を続ける。

 

「しかし、今の国相様の話で俄然(がぜん)重要度が上がりました。 洛陽の動乱の中心人物になりそうな董卓殿に仕える二人からの手紙なわけですし、意味も無くこんな物を送らないでしょう」

「ふむ…。 ならば、真偽を確かめるために洛陽に向かうか?」

 

 州牧様の質問に首肯する。

 

「御意に。 しかし、今すぐには動くつもりはございません。 袁紹殿が動くには、董卓殿と力の差が有りすぎます。 ならば……」

「その差を埋めるために、徒党を組もうとするか。 ふん、道理ではあるな。 それに合流するつもりか?」

「お許しを頂けるならば。 しかし、下手をすれば国を割っての大乱となりかねませんので、その連合に参加するためには一県長での参加は難しいでしょう。 なので、州牧様、国相様のどちらかがお止めになるのであれば、私も留まろうと思います。 あ、ちなみに董卓殿に与するというのは下策です。 まず徐州を叩いて後顧の憂いを無くした上で、洛陽へ進撃するでしょうし。 出征させて頂くにしても、徐州を危機に巻き込む可能性が低い方を選ぶつもりです」

 

 流石に、私の我儘で州の軍事行動を決める訳にはいかない。お二人が止めるようならば、残念であるが反董卓連合の参加を見送るつもりだ。

 長文殿と子敬殿も議論の流れを見守るのに徹するつもりのようだ。

 

 州牧様と国相様はしばらく考えていたようだが、顔を上げて私に尋ねてきた。

 

「子方。 その連合に参加した場合と参加しなかった場合の利点と問題を述べろ」

「参加した利点としては、仮に連合が失敗に終わったとしても、一緒に参加した勢力とある程度協調的に接する事ができるようになるかと。 今後の外交において、有利になると考えられます。 ……ただし、致命的なまでに仲違いをしてしまった場合はその限りではございませんが」

「では参加した場合の問題は?」

「食料や兵を消耗する事でしょう。 徐州の防衛のために集めた物を使用して、それに見合う成果を上げられるとは限りません。 ついでに、しばらく領地を留守にする可能性もありますので、決裁が滞るでしょう」

 

 つらつらと思い付く事を口にしていく。

 それ以外にも、兵が戦死した場合の補償金(遺族年金)の支払いも発生するし、州の財務状況が悪化する可能性が考えられる。

 戦争は酷く金がかかる物なのだ。

 

「逆に参加しなかった場合の利点は、これらの資源を蓄えられる事でしょう。 それだけの物資があれば、新しい開拓村の一つや二つ、簡単に作る事ができるでしょうね」

 

 そう話したら、長文殿と子敬殿の目が無言のまま煌めいた。文官としては、そちらの方に資源を使いたいだろうし当然だろう。私とて、文和殿と伯約殿の事が無ければそちらに賛成したい。

 

「問題点は、顔を合わせる機会を逸する事で、外交で遅れを取る可能性でしょうか。 万が一、徐州に接する領地すべてが、その連合で徐州を攻める密約をした場合に止める手立てが無くなります。 まあ、これは大分極端な例ですが」

 

 史実における徐州がまさにこの状態だった。

 反董卓連合を一緒に戦った事で、曹操と袁紹は結び付きを強めて、それぞれの敵と戦い、飲み込んでいったのだ。徐州は外交的に孤立し、周辺はほぼすべてが敵となった。外交戦で敗北すると、四正面作戦とか平気でやる事になるよね……。

 外交戦で大敗北を喫しながら勝ち残る例もあるにはあるが、歴史的に見て稀だ。

 やってのけたのは、フリードリヒ大帝とか、始皇帝とか、偉人しかいやしねぇ。

 

 大雑把ではあるが、考えられる事はこのくらいだろうか。

 次の瞬間、あっさりと国相様から出征に賛成する声が響いた。

 

「ならば、出征するべきでしょう。 兵と金で他の勢力の歓心を買えるのならば安い物でしょう。 子方が言ったような、外交で孤立する方がまずいですし。 あ、恭祖様は動かずにここに留まってください。 政務もご無理をなさらない程度に。 病から快復したばかりなのですから。 その分、そこに居る二人と景興が死ぬ気で頑張るでしょう」

「「!」」

 

 二人は思いもしない事を聞いたとばかりに顔に驚愕を張り付けた。

 それに気がつかず、州牧様は渋々と言った感じに頷いた。

 

「……倒れて心配をかけた以上は何も言えぬか。 総大将は元達、お主が務める事になるだろうが構わぬか」

「御意に。 ならば、直接采配を振るうのは子方ですな。 琅邪国の官吏と限定すれば、かなり戦上手ですし、何より行く理由も一つ多く抱えています。 粉骨砕身戦うでしょう。 なーに、死んでも骨は拾ってやるよ」

 

 その国相様の言葉を聞いて、長文殿と子敬殿から、『お前何とかしろ』という必死な視線が飛んでくるが無視。

 残念ながら、趙元達という人物と付き合いの長い私には分かる。 ここまで具体的に話を出してきた以上、この人はもう意見を翻すつもりは欠片もないはず。言うだけ無駄、という奴だ。

 

「国相様が出られるという事は、面子は琅邪国からかき集めるおつもりですか?」

「そこも含めてお前が決めて良い。 お前の方が、人の持つ軍事の才能への嗅覚が良いだろうしな」

「御意に」

 

 今度は、『私を連れていけ』という必死な視線を二人から感じるが、再び無視。大丈夫大丈夫、死にはしないって。というより、州牧様付きの官吏をこの状態で動かせるわけないでしょ。

 

(では適当に知り合いに声をかけて行く事にしましょうかね。 戦闘要員以外にも外交役を務められる人物を連れていった方が良いかな)

 

 頭の中で知り合いの顔を思い浮かべながら、恨めしそうな顔をしつつも必死にアピールしてくる二人を華麗に無視するのだった。




最後までお読み頂きありがとうございます。

・魯家の狂児
時勢を見すぎて戦乱に備えて私兵を集めて訓練したり、伝え聞いた麟の農法の真似をしようとして失敗したり。近くに居るんだから、聞いてしまうのが早かった。

・暑苦しい性格
五斗米道信者に共通する性格と思われる。

・弁と協
この世界のルールに従い、何事も無いように女性。
そのうち出てきます。

・洛陽のごたごた
主人公が関われる部分でもありませんし、史実どおりに行われています。
そろそろ袁紹が脱出して、反董卓連合を組もうとするかなー、くらいの時期です。

・董卓、賈駆、姜維
何気に凶悪な性能を発揮するトリオ。
并州軍はまだ合流していないが、この時点で結構強い。

・宮廷工作
コネと袖の下が重要な世界(偏見)
ただ、史実の董卓だったらともかく、月は朝廷で凄く苦労していそう。

・清流派
宦官排斥しようぜ!と訴えてた人達(適当)
党錮の禁で軒並み不遇をかこつ事になった。

・貂蝉
筋肉だるm(ここで文字は途絶えている)

・袁紹
恋姫の袁紹は虚栄心の塊みたいな人物かと思っています。
ただ、何となく憎めないというのはカリスマと言い換える事ができるかもしれない。

・斉の桓公
管仲最大の被害者であり、恩恵を被った人。
管仲の言う事を良く聞いて、片っ端から意見を採用していたら、いつの間にか斉は大国となっており、春秋五覇に数えられるようになった。

・董卓側としての参加
袁紹、袁術(孫家)、曹操から三方向を攻められる。徐州は死ぬ。

・外交
争う前に敵と味方を区別できるようにしておきなさい、という話。
周りが全部敵ならば、まず勝つ事は困難になる。
ちなみに、遠交近攻は外交の基本政策ではあるが、正確には一方向のみとだけ戦うようにした方が戦いやすくなるため、「近交」も同時に必要となる。

・出征メンバー
サイコロでも振って決めるかな!←
陶謙とその下に付いている三役はお留守番が確定です。
あと、元龍も一緒にお留守番。

・出征への賛成
趙昱は洛陽との交渉パイプが軒並み無くなる事を想像すれば、自分がどれだけ徐州にとって無価値かを知っているので、外交的孤立がどれだけまずいかを感覚で理解しています。
陶謙はそこまで考えてはいませんが、三方向、四方向から同時に攻められた場合に防ぐ事が難しいと軍事の経験から理解しています。
なので、その可能性を排除するために、両者共に出征する事を決めました。

ご意見、ご感想等がありましたら記載をお願い致します。

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