真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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第三十話投稿します。

前話の続きとなるので、いつもと比べたら少々短め。
四千字で果たして本当に短いのだろうか……。

2014/2/10 0:45修正
いきなりミスw
ボールペンを回す順番を間違えてます。
姉さんが二人居たので、片方を空さんに修正。



第三十話 Ceramic Heart -技術と犠牲-

 マイセン。

 その言葉を聞いて何を連想するだろうか。

 二十一世紀ならば、ドイツにある地方、都市の名前、そしてそこで作られる西洋磁器を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

 西洋磁器は当時ヨーロッパでは作成できなかった東洋の白磁器を再現した事で、ヨーロッパ中で広まる事になった。そして、その名前を持つブランドは、西洋磁器の分野においてトップシェアを三百年もの長期に渡って確保する事になる。もちろん、二十一世紀でも西洋磁器の頂点に君臨している。

 さて、ではその白磁の再現方法を考案した人物はどうなったのだろうか?

 

 

 

「この道具。 加工するのに必要な技術力はおそらく今の中華には無い。 伝え聞く大秦(ローマ)でもおそらく無理だと思う」

 

 まあ、当然だろう。流通に耐え得るボールペンの発明は二十世紀に入ってから。

 何故なら、ペン先のボール自体精密加工が必須。ついでに高粘度インクの存在が不可欠。もちろんそれ以外にも多くの技術が組み合わされて、作成の際に求められる技術力が格段に高い物なのだ。

 まして、これは一般的に流通していた安い物。材質はプラスチックが大部分を占めている。石油製品なんて作れるわけ無いのだから、ますます再現は難しいだろう。

 

 そんなオーバーテクノロジーな逸品を平気で市場に流すなよ……。しかも簡単に出所が分かるとか論外。下手な権力者の目に留まると、幽閉して作るように命じられかねんぞ。

 見たことの無い天の御遣い殿に悪態を付いていると、興味深々といった様子の天明が弄りたそうにしていた。

 好奇心強いな。猫っぽい。

 

「触って良いよ。 ただ、力任せに折り曲げると壊れそうだから、丁寧に扱うようにね」

 

 そう言って、私は紙の切れ端も机の上に置き、ペンを手に取って使い方を説明する。

 

「この部分を押し込むと、書く部分が出てくる。 試し書きはこれにして」

 

 そして、天明にボールペンと紙を手渡す。

 天明はそれを持ってさらさらと書いていく。何やら感動しながら自分の名前を書き続けている。しばらくそうしていたが、満足したのか隣に座る姉さんへボールペンを渡した。

 

 そのまま横に座る人へ渡していき、空さんまで試し書きを終えて私の手元に戻ってきた。

 そのままボールペンを手元で弄びながら口を動かす。

 

「使ってもらったら分かると思うけど、これは非常に便利な道具だよ。 数を揃えれば、多くの筆と墨の職人が首をくくる事になるだろうと簡単に予想できるくらいにね」

 

 そう口にすると、みんな神妙に頷いてくれた。筆と違って墨が垂れず、かすれる事も無い便利さを体感したからだろう。

 

「で、本題なんだけど、その御遣い殿は何でこれを手放したと思う?」

「えーっと、物珍しく、お金になると思ったから?」

「ごめん、聞き方が悪かった」

 

 答えてくれた姉さんに、苦笑いをしながらそう謝る。

 

「物珍しいからお金になりそうだ、だから売った。 多分大元の理由は今姉さんが言ってくれたような感じなんだろうね。 けどそれが事実だとすると、その御遣い殿にとって、これって売り払ってしまって良いくらいの価値しか無いんだよね。 例えば天明がお金に困ったとして、大事にしている飾り布を手放せるかと言うと……」

「無理。 絶対に嫌」

「……例えとしても出すべきじゃ無かったね、ごめん」

 

 例え話だったとしても、あまりにも無神経で不適切な発言となってしまった。きっぱりと拒絶する天明に向けて頭を下げる。

 

「……まあ話を戻すけど、その御遣い殿にとってこれは、代替ができる物って事でしょ」

「まあ、そうなるのかなぁ」

「いよいよ金に困って、虎の子のこれを出したという可能性もあるのでは?」

「だったらその前に色々と他の道具が流通しているはずでしょ。 幽州方面から流れてきた変わった道具は、これ以外に無いよ。 他の人に買い上げられていたとしても、噂くらいは聞こえてくるはずだし」

 

 第一、珍品をあえて欲しがるような人がそういう物を手に入れていたとしたら、絶対に他人に自慢する。そういう人間は、蔵の奥にしまいっぱなしにはしないだろう。

 

「だから、これはきっと彼、もしくは彼女にとっては無くなってしまっても困らないくらいの価値しか無いんだと思う。 そういう国、世界から来たんだろうね」

 

 まあ、おそらく天の国=二十世紀~二十一世紀の日本だろう。

 ボールペンに日本の某有名文房具メーカーの名前がアルファベット名が入っているし。

 

「それを称して天の国と呼ぶのなら、多分そういう世界に住んでいた本物の御遣いになる。 そう考えたんだけど、どう思う?」

 

 四人とも難しい顔をしている。

 まあ、いきなりこんな事を言われても困るか。ただ、わざわざ私に近しい人間かつ官位持ちだけを集めたのだから、警戒だけは促しておこう。どんな人間かも分からないのだから、下手に受け入れて問題を起こされても困る。警戒しすぎたとしても無駄にはならないだろう。

 

「まあ、今は分からなくても問題は無いんだけどね。 ただ、動向くらいはきちんと追った方が無難だろうね」

「まあ、怪しい事この上無いもんね。 あ、麟君は麒麟の化身だろうが、神仙の生まれ変わりであろうが、お姉ちゃんは受け入れるから何も心配する事は無いからね!!」

「うん。 その辺は子供の頃から思い知っているから大丈夫」

 

 姉さんとは十年以上の付き合いがあるのだから、今さら無条件の好意を疑う理由は無い。……まあ、いい加減弟離れしろよと思い続けて早数年なのだが。

 もう私が適当に政略結婚して、強制的に弟離れさせるしかないのだろうか。ただそれをした場合、私は家庭を顧みずに働き続けそうで、奥さんになってくれた人を不幸にする未来しか浮かばない。そんな理由で結婚にも女性との交際にも二の足を踏んでいる。

 

 脇に逸れ始めた思考をかき消し、再度私は口を開いた。

 

「まあそれは良いとして、この筆もどき。 なかなかに興味深いんだよね」

 

 そう言って私はボールペンを分解し始める。そして部品ごとに分けて、机の上に並べていく。壊したのかと思ったのだろう、みんなぎょっと目を剥いてその様子を眺めている。

 

「こうやって幾つかの部品を組み合わせて一つの道具にしているわけだ。 流石にこれだけの小ささに加工する事はできないけど、今の技術力でも真似できそうな物はいくつかある」

 

 まあ、当然前世の記憶でそういう技術も知っているわけだが、折角良い見本としてボールペンがあるのだから、今初めて知った事にさせてもらおう。その方が言い訳する必要が無くて楽だし。

 流石に部品一つ一つ作っていくのは骨が折れるので、職人に再現は任せるつもりだ。その際に、現物を見せながら説明した方が、職人達としても再現をしやすいだろう。

 

「例えば、この筒を開ける時にくるくると回したでしょ? そうしないと、これは開かないんだ。 開けた後の内側を見ると、溝が彫られてるのが分かる? その部分同士がかっちりと嵌まりあう事で固定されるみたい」

 

 そう言って、彼女達にもう一度中身を抜いたボールペンの筒を手渡す。

 これは、俗にいうネジ構造だ。地中海世界では紀元前にギリシアで発明されたとしている。ただ、アルキメデスが発明したスクリューが世界初のネジ構造を使用した機械である事は間違いないので、ポエニ戦役前後のシラクサのアルキメデスが発明したのではないかという説もあるが。

 

 二十一世紀では至るところで目にする事ができたネジ構造。久しぶりに弄ってみると、釘や楔で止めるのに比べてやっぱり便利だわ、これ。内部構造を確認しようと外蓋を開閉するたびに、木槌使って釘を打ち直す必要無いのは大きいね。

 ……しかし、これを普及させる際には問題も多いわけだが。

 

「けど、こんなに細かく溝を彫るの難しくない?」

 

 うん。まさに問題はそこだろう。

 ネジ構造、作るのが結構難しいのだ。精密に作るとすると、十年以上かけて型を作る必要が出てくる。将来的には型を使って大量生産、そして中華中に普及させたいけど、今は一つ一つ手作りしていく必要がある。

 まあ、これを見本にして鍛治職人に試作を繰り返してもらおう。遠心分離機や唐箕なんかの機械を作るのにネジが有るか無いかの差は大きい。

 

「まあ、鍛治職人達に頑張ってもらうよ。 もう一つ面白い構造の部品があるから、それも一緒にね」

 

 私は中身のうち一つを摘まみ、そう言葉を発した。摘まみ上げているのは螺旋状に巻かれた金属部品。コイルばねだ。

 

「これは特異な形状をしているけど、おそらくばねの一種だね。 弩なんかでも板ばねが使われているけど、これはあれより壊れづらいと思う。 横に折り曲げた際の反発力ではなくて、縦に押し潰した際の反発力がかかる物だから。 得られる弾力も桁違いに高いよ」

 

 そういって、両手の人差し指でばねを押し潰す。そして力を抜いて元の形に戻る事をみんなに見せる。このバネは気をつけないと、手を離した際に弾力で吹っ飛んでいってしまう。前世で何本のボールペンを犠牲にした事か……。

 コイルばねも工業製品の部品としては非常にメジャーであるが、本格的に使われ始めたのは今から千年後くらいのはずだ。板ばねしかないこの時代においては、非常に画期的な代物と言う事ができる。これも普及すれば、技術が大きく発展する事が考えられる。私も色々と道具を作るのが捗るだろう。ピアノ線などの炭素鋼が原材料となるため、そちらの開発が先になるだろうが、試してみる価値はある。

 元々私が大学で学んでいた材料工学の分野にも関わる事になるので、基礎知識はある。まだ頭に残っている……はずだ。……ちょっと不安になったので、本気で思い出す事にしよう。

 

 さて、ボールペン一本でもこれだけの技術の塊になっている事を、おそらく御遣い殿は認識していない。そうでなければ、こんなに簡単に市場に流通させたりはしない。本気で、西洋白磁器の考案者と同じ轍を踏む事になりかねないのだが、それも理解できていないのだろう。顔も知らない相手だが、軽く怒りを覚えると共に同情する。

 

「まあ、接触すらしていない今から思い悩んでもしょうがないよね。 当面はさっき麟君が言ったように、動向だけは追うようにしよう。 陽都で何か掴んだら、麟君と密に連携するように心掛けるね?」

「うん。 こっちで何か分かったら姉さんに連絡するよ」

「何も無くても連絡してくれて良いんだよ? むしろ、毎日送るくらいで良いんだから」

「……まあ、気が向いたら」

 

 とりあえず姉さんからの謎のアピールは適当に流すに限る。

 盛大に膨れる姉さんを適当に宥めながら、出兵前日の夜は更けていくのだった。




最後までお読み頂きありがとうございます。


※※※
こちらに記載していた内容は、活動報告の記事に移転させました。
記載していた作者の意見を主人公の考えと読み取ってしまう方が多かったため、こうしました。
ボールペンを流出させた場合の作者の考察も同様に移動させました。
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