真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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幕間六投稿します。

新年明けましておめでとうございます。
今年も不定期ながら拙作を投稿していきますので、どうぞよろしくお願い致します。

思っていた以上に農政の幕間が長くなりましたが、今回で最後です。
まさか三話も使う事になるとは……。




幕間六 Honey Honey -蜜のように甘く-

 昼食を食べた後、私達は予定通り蜂の巣箱に向かう。王虎を連れて来たがった幼女が二人いたが、万が一刺されたら大変なので家に置いてこさせている。

 ちなみに子山は家で仕事をしてもらっている。この村で過去採れた蜂蜜の量の記録を探してもらっている。快く引き受けてくれた従弟殿に感謝。

 

 輪作のために植えている白詰草(クローバー)を横目に見ながら、巣箱の置いてある場所まで歩く。白詰草の白い花が遠目からでも確認できるくらい咲き始めている。麦ももう少しすれば収穫の時期がくるだろう。

 昨年の収穫の後に州牧様と義父さんに西涼で動乱が起こる事を示唆したのだから、そろそろ一年が経とうとしているのか。光陰矢の如し。少しは私も成長する事ができたのだろうか?自己の成長はともかく、人脈は着々と増えてきているのだが。

 そんな事をぼーっと考えていると、そういえば白詰草の説明をしていなかったかと思い出し、藍里と伯侯の方へ向き直る。

 

「藍里、伯侯。 輪作については二人へ話したよね? 豆の類が重要な役割を果たすって」

「はい、伺いました。 確か、大地の力を回復するのに一役買うのでしたよね」

 

 なんかその言い方だと前世でプレイしたRPGを想像するなぁ。

 そんなどうでも良い事を考えつつ、私は肯定の意味を込めて頷いた。

 

「そうそう。 一つの土地で大麦、豆、小麦、根菜の順に作物を変えながら植えていく事。 ちなみにそこに咲いている花。 豆の代わりになるから」

 

 その私の言葉に二人一緒に白詰草の方へ向き直る。

 

「……豆じゃないんですが」

「多分豆の仲間なんでしょ。 ちなみに私が試験した時に使ったのはあの花と大豆だね」

 

 豆ではなく、あえて白詰草を植えている理由も併せて説明しておく。牧草、つまりは豚をはじめとした家畜の飼料とするためだ。一応白詰草の葉は人間用の食料にもできるのだが、美味しくないのでこの村では飼料として利用している。

 タンパク源である魚や枝肉を腐らせずにここまで運ぶ労力を考えると、自分達で豚肉、鶏肉を用意した方がコストは安上がりとなる。なので、村の一部に家畜小屋を作って育てているのだ。

 今年の冬も何匹か潰したのだろう。今日の昼食に出した腸詰めも材料も間違いなくそこだろう。犠牲になってくれた豚達の冥福を祈りつつ美味しく頂いた。

 

「師父、質問があるのですがっ!」

 

 はいっはいっ、と元気に手を挙げながら伯侯が私に質問をしてくる。

 最初に会った時には継母を失ったショックから立ち直れておらず、どこか精気が無い様子だったのだが、今はこうして積極的に私から農法を学ぼうとしている。

 つい先程も子山の案内で村を巡って来ており、いたく興奮した様子を見せていた。主に私が作った唐箕や千歯扱きなどの農具に興味を引かれていたようで、家にあった実物を見て目を輝かせていたのはつい先ほどだ。いい加減巣箱を見に行かなくてはならない時刻になったので、いつまでも張り付いているのを無理矢理引き剥がして連れてきた。

 彼女が元気になる一助になれているようで何よりだ。

 

「今の説明だと、大豆等を植えて備蓄に回した方が良くないですか? 極端な話、大豆だって飼料に転用する事ができるのですから」

「かかる手間の問題」

 

 私はあっさりと伯侯の質問に答えた。

 

「極端な話、白詰草は何も世話しないでも勝手に繁るから。 雨が降って水が足りていれば、だけどね」

 

 もちろん、秋から冬にかけて土地を掘り起こして蝗の卵を除去する必要はあるが。

 

「その分の労力を他の作物にかけられる訳ですか。 よく考えていますね」

 

 藍里からはそう感心されるが、所詮は先人の知恵であるノーフォーク農業の模倣に過ぎない。私が凄いのではないので、微妙に背筋がむずむずするが、極力気にしないようにして、言葉を続ける。

 

「それからもう一つ。 蕎麦と同じ理由で植えているというのもある」

「蜂蜜?」

 

 私達の会話に、天明が加わってそう答えた。さっきまで子麗と楽しそうに話していたのに、いつの間にかこちらの会話に加われる機会を窺っていたらしい。子麗と二人、こちらの方を向いている。

 

「天明、正解。 蕎麦や果樹と同様、白詰草は蜜源植物として利用できる。 花が咲き始めている今の季節だと、あそこで遊ぶには蜂に刺される事を覚悟する必要があるかな」

 

 それでも村の子供達の姿が見えるわけだが。

 何せ耕作地で土が柔らかく、草がクッションになるので転んでも怪我をしづらい。大きな石も無いため、躓く心配も少ないだろうし。

 蜂達に刺されないように注意するならば、子供達にとっては格好の遊び場なわけだ。

 

「ちなみに、今から見に行く巣箱と同じ物は、徐州の何ヵ所かで設置が始まってる。 主に桃や蜜柑の植えられている果樹園の近くだね」

「花の近くに置く事で蜜が取りやすくなるからですか?」

「それもあるけど、果物の実りが良くなるからっていう理由の方が大きいかな。 村に植えられている桃も多く実がなっていたでしょ」

 

 虫媒と言われる受粉方法だ。本格的に受粉の研究が始まるのは十九世紀に入ってからなので、虫媒はこの時代の中華では知られていなかったようだ。

 二十一世紀の日本では、ハウス栽培のイチゴを受粉させるために使われるのが一番メジャーだろうか。

 風媒より確実性が増すし、人工受粉は手間がかかりすぎて無理。だから、この時代なら養蜂が一番現実的な受粉方法となる。

 

 そうやって講義と雑学を合わせたような話をしながら歩いていると、あっという間に村外れにある巣箱まで辿り着いた。

 

「到着ー」

「到着ですー」

 

 天明が両手を上げて到着した事を宣言し、子麗がそれに追随するように同じ言葉を繰り返す。そしてそのまま競争するように巣箱へと駆け出していった。

 ……子供ってあれが普通だよなぁ。

 この村での過去の自分の様子を思い出し、その違いに軽く頭が痛くなる。まあ、過ぎ去った日々はやり直しができないので、どうしようもないか。

 頭を少し振って意識を切り替える。

 目の前には肌が露出しないように作られた作業着を着ている人が数人いる。胸の膨らみから分かるように、全員が女性だ。

 この村、それから他の村でも、養蜂は若い女性の仕事としている。千歯扱きを導入するにあたって、未亡人達から脱穀の仕事を奪ってしまうので、代わりの役目としてやってもらう事になっている。未亡人だけでは人数が足りない事も考えられるので、未婚女性にも入ってもらっているのだが。

 巣箱の管理から蜂蜜や蜜蝋などの採取まで、取蜂に刺される危険性は確かにあるが、力は農作業ほどは使わないので、女性でも全く問題なく行う事ができる。

 

 あちらも私達に気づいたようで、片手を上げて近づいてきた。

 

「来たね、 芳坊」

「坊はやめようよ、周姉さん。 流石にこの歳で子供扱いは……」

「良いじゃないか、分かりやすいんだし。 今さら呼び名を変えるのもめんどくさいよ」

 

 このさばさばした性格の女性は周姐さん。この村の女性達を取りまとめている人だ。面倒見が良く、気っ風も良い人であるため村のみんなから姐さんと慕われている。

 私も例に漏れずお世話になっているので、頭が上がらなかったりする。

 とりあえず、初対面である藍里と伯侯を紹介する。その後、二人も予備の作業着に着替えるために、作業小屋へ連れていかれた。私は長袖の服を着ているので、手袋と頭巾だけを借りるつもりなので此処に残っている。

 子供用は流石にないので、天明と子麗の年少組は遠心分離機から見学開始かなー。二人は道具を準備している娘さん達の手伝いに行ったようだ。

 なので、この場には私と周姐さんだけが残されたので、雑談をしながら藍里達を待つ。

 

「そういや、お祝いの挨拶が遅れました。 ご再婚おめでとうございます」

「ああ、ありがとうよ。 おかげでまた毎日旦那を尻に敷く毎日さ」

 

 その言葉に苦笑を浮かべてしまう。

 今の言葉から分かるように、先日まで未亡人だった周姉さんは連れ合いを亡くしていた男性と再婚した。姐さんも相手の方も二回目の結婚という事で華燭の儀は執り行わなかったが、村で人気のある周姐さんの吉事という事もあり村を挙げての宴会をしたらしい。

 私は出兵中、姉さん達は州府の仕事が忙しかったため出席が叶わなかった。代わりにお金を出してお酒と料理をお祝いの宴に添えさせてもらった。

 

「けど、良く考えたね。 脱穀しているだけじゃ、男を捕まえる事なんてできないから正直ありがたいよ」

「そこが主目的じゃなかったんだけどね」

 

 あくまで主目的は千歯扱きの導入による農作業の効率化だ。

 ただし副次的な効果として、この巣箱周辺は男女の出会いの場になりつつあるらしい。

 どういう事かというと、脱穀は基本的に家の中での作業となるため、籠りきりになってしまう。しかし養蜂を行う事で、巣箱の管理のために外に引っ張り出されるので、異性との出会いが起きやすくなり、村の若い衆と良い関係になっている人達も数人いるらしい。さらに、周姐さんというご成婚第一号が生まれた事で、ますますその流れが加速していく事になるだろう。

 ちなみに周姐さんのお相手は、隣村(椿を植えている、私達の村と色々交流している村だ)から蜂蜜について学びに来ていた人らしい。蜂が取り持った仲と言う事ができるだろう。実にめでたい限りだ。

 まあ、問題も出始めているようだが。

 

「ただ、ここにいる娘さん達の気を惹こうと、若い衆が畑仕事そっちのけでこっちに来ようとしているって聞いたんだけど」

 

 事実だとしたら大問題だ。収穫に影響が出る事が考えられる。

 

「ああ、事実だね。 とりあえず、『畑仕事もろくにしない奴にこの娘達を渡せるか!』って一喝して追い払っているから、今のところは大丈夫だけどね」

 

 周姐さん頼りになるなー。

 思わず尊敬の眼差しを向けてしまう。

 

「主にこっちに来ているのは家を継げない次男坊、三男坊、それも元々真面目に仕事をしない奴等ばかりだよ。 まったく、何を考えているんだか」

「女房に食わせてもらいたいと考えているんじゃない? まあ、そういった手合いへの対応は今の姉さんの態度で間違えていないから、どんどん追い返して。 仕事をまともにしない男を旦那にしても娘さん達が苦労するのが目に見えているしね」

 

 この村の場合、その辺は女性の方がしっかりしているか。村の女性はダメンズには手厳しい。伴侶選びを間違えると、自分も不幸になるので当然とも言えるが。

 その点、余裕がある町暮らしの娘さんの場合、愛で男を見る目が曇ってしまう場合が多い。

 海姉さんや空さんの場合、自分達が高給取りなので余計にダメンズ共が食わせてもらおうと群がるそうだ。変な男に引っ掛からなければ良いんだけど。

 

「人の事は良いけど、そういうあんたはどうなんだい? 海と空みたいに可愛い娘をいつも(はべ)らせて、今日も別の可愛らしい女の子達を連れてきてるじゃないか」

「無い無い。 仕事が忙しすぎて、仮に良い人を見つけたとしても相手できる時間が限られちゃうって。 しばらくの間は仕事が恋人になりそうだよ」

 

 そもそも姉さん達は家族だし、藍里と伯侯は義兄として、師として慕ってくれているのだ。そういう関係にはなれないだろう。

 そう伝えると、周姐さんに大きく溜め息を吐かれた。いや、なんでさ?

 問い質そうとした時に、丁度藍里達が着替え終えて戻ってきてうやむやになってしまった。

 

「さあ、それじゃあ今から今年最初の蜂蜜採りを始めるよ! 芳坊、良いんだよね?」

「うん。 あくまで試験だから問題無いよ。 年越し分はもう採り終えてるんだよね?」

「ああ、抜かりは無いよ。 七日前に採り終えてる」

 

 念押しされたのは、今の時間に採った蜂蜜は薄くなってしまう事に対してだろう。

 蜂達が集めた蜜は本来糖度が低い。それを五日ほどかけて巣内で熟成させる事で、糖度の高い、甘い蜂蜜になる。

 だから、通常蜂蜜採取をするのは熟成が終わっている事を確認した翌日以降の早朝に行う。早朝の理由は、蜂達が活動を始めて新しい蜜を採って来た物と混ざらないようにするためだ。現在のように昼過ぎの時刻となってしまうと、もう混ざって薄くなってしまっているだろう。

 だが、今回はあくまで一回の採取でどれくらいの量を採る事ができるのか、それを確認するのが目的となる。味はそこまで重要ではないので、この時間に採取してもらう。採った蜂蜜は自家用として使用するつもりだ。

 それから年越し分というのは、冬前に蜂達が採ってきて巣内に残っている古い蜂蜜の事だ。別段そのまま食べても問題の無い物だが、質が均一にならないため商品用には混ぜないようにしている。これも自家用としてこの村内で消費する事になる。

 

 周姐さんに促されて、私と藍里と伯侯は巣箱へと近寄る。道具を持った娘さんが作業を進めていくのをみながら、私は横で解説を始める。

 

「まず、燻煙器を使って蜂達に煙を吹き掛ける。 これをすると蜂達が大人しくなるから、その後の作業が簡単になるからね」

 

 これを使わないと、蜂達が襲ってきて作業にならなくなる。

 娘さん達も慣れた手付きで煙を吹き掛けて、蜂達を大人しくさせていっている。

 

「それから巣枠を取り外して、しがみついている蜂達を振るい落とす。 それでもしがみついているようなら、専用の刷毛で払い落とす」

 

 巣枠を取りだし、そこから蜂を巣箱に落としていく。思っていたより蜜蓋ができている良い状態だ。蜜蓋は一般的に巣の三割程度を覆っていれば問題ないので、五割近く塞いでいるこれは大分状態が良い。もったいなかったかもしれない、そんな貧乏性な考えが頭に浮かぶ。

 それから、蜜蓋を作業用の包丁で切り落とす。

 

「これが蜜蓋。 これがあると蜂蜜が出てこないから切って除く必要があるわけだ。 それから巣を遠心分離機にかける」

 

 天明と子麗が待つ遠心分離器の近くまで巣を運んで、手早くセットする。

 

「それから遠心分離機の取っ手を握って、ぐるぐると回す。 回すのが早すぎると巣が壊れるから、適切な速度で」

 

 ぐるぐると二十秒ほど回すと、下に蜂蜜が溜まり始める。藍里達から感嘆の声が上がった。

 

「こうやって蜂蜜を採るわけだ。 それから採り終えた巣枠は巣箱に戻す。 これで作業の一連の流れはおしまい。 力仕事な部分もあるけど、簡単でしょ」

 

 本当は他にも駆蜂器や分蜂などの説明もすべきなのだろうが、あくまで官吏として知っておけば良いであろう、蜂蜜の採り方だけを解説するつもりなので割愛する。あまり多く詰め込みすぎても大変だし、本格的に養蜂家になるわけじゃないならこれくらいで良いだろう。

 

「で、これを濾過して不純物を取り除いたら商品になる。 これは熟成前のも混ざっているだろうから、そのまま売り物にする事はできない。 だから、ここにいるみんなで分けようか」

 

 当初の目的であった採取量の測定を終えた私がそう言うと、周りから歓声が上がった。子山には既にその旨を伝えているので、問題ないだろう。

 

 周姐さん達にお礼を言って家に戻り、昼の準備のついでに作っておいたスコーンに蜂蜜を付けて味見する。その場で今回の採取方法について質問を受け付ける。

 結局分蜂を防ぐために女王蜂を取り除く話や、スズメバチを駆除するための駆蜂器の説明もするはめになった。さっき現物がある状態で説明してしまえば早かったな。

 

 

 

「それで、今日取れた量はどうでしたか?」

 

 一通り質問が終わり、女性陣が夕食の準備を始めたタイミングで子山からそう質問された。

 現在この場には私と子山しかいない。姦しい喧騒が台所に移り、まったりとしていたので少し反応鈍く返答をする。

 

「あー、やっぱり今日取れた量も、探してもらった記録の量も予想と近い数字になっているから間違いではなさそうだねー。 後は、少なかった巣箱からの採取方法を確認して、問題ないかの確認かなー」

「それで問題無いようだったら、誰かが着服しているわけですね」

 

 正直そこまではしたくはないのだが、流石に予想量の半分以下しか採れないっていうのは異常だ。誤差の範囲に収まらない。採取方法を根本的に間違えているのか、それとも横流ししているかだろう。

 

「蜂蜜は徐州以外だとまだ高級品だからね。 他州の商人へ売れば良い小遣い稼ぎになるんだろうね」

 

 あー、面倒くさい。

 そんな心情を込めてため息を吐く。

 可能性としては横流しの方が高いだろうと思っている。初めは予想量よりも少し少ないくらいだったのだが、ある時を境にずっと少なくなっているからだ。

 

「とりあえず、州牧様へは一時報告をして、その後採取方法の確認、担当した官吏の洗い出し。 そこから先は上の人たちの仕事だから、州牧様達に丸投げだねー」

 

 人事権、逮捕権のどちらも持っていない以上、それ以上は何もできん。

 そこまで話し終えて、また会話が途切れる。

 

「そういえば、話は変わるけど子山」

「はい?」

「手紙で伝えた事。 どうする?」

 

 まあ、簡単に言うと仕官のお誘いだ。

 三年経っているし、歩家への風当たりも大分弱くなっている。ブッチャーさんが与えた影響に付いても、ほとんど考えなくて良いくらいになっている。農政についても大分習熟しているわけだし、そろそろ仕官しても良い頃だと思ったので、先に手紙で連絡していたのだ。

 

「仕官するのは(やぶさ)かではない、というより非常にありがたい話なのですが」

「ですが?」

「いきなり東海郡の功曹書佐って随分と難易度高くないですかね?」

「そう言われてもなぁ」

 

 東海郡の功曹書佐は元々は景興さんが付いていた役職だったのだが、州府付きの治中従事史に出世した事から空席となっている役職だ。なので、東海太守である漢瑜様の主簿である元龍が臨時で代理を務めていたのだが、如何せん太守の息子が要職を二つ兼ねる事に郡府から不満の声が出始めたらしい。なので、急遽適当な人材が居ないかと州牧様を通して相談された。陳応?ははは、それは無い。演義ベースの性格をしているので、相当あれな感じな人間なのだ。具体的には父と兄である陳親子が揃って頭を抱えるくらい。

 私の知っている在野の人材の中で真っ先に思いついたのが子山だったので、それなら子山を登用すると同時に歩家を再興させてはどうか、と提案したのだ。

 元々歩家の再興に関しては予定に有ったわけだし、有能な人間である事は間違いないので、最初から要職に就けたとしても十全にやり遂げるだろうという判断だ。

 さらに私が推挙、抜擢した人物は概ね才を発揮しているというのも説得の材料となる。若年で県尉となった宣高と文嚮はもとより、今回の西涼の乱で副官を勤め上げた藍里、それから下邳の丞になった人物まで軒並み優秀な人材を推挙できている。ここで私の意見を必要が求められたのも、その実績を見込まれての事だろう。

 

「子方か子瑜が付けば良いではありませんか」

「藍里には聞いたけどにべも無く断られた。 私の扱いについてもどうやら州牧様に腹案が有るらしく、却下されたんだよね。 そうやって断られた結果、っていうのも失礼な話だけど、子山に白羽の矢を立てたわけだ」

「私に勤まるんですかねぇ……」

 

 余裕だろ、とは歴史知識を持っている身だからこそ言える事であり、悩んでいる張本人としては至って真面目なのだろう。

 

「子山、悩んでいるという事は、受けるかどうか迷っているという事なのでしょう? ならば失敗する事を恐れずに行動した方が後悔しないと思うのだけど」

 

 と、横から藍里が口を挟んできた。料理の方はどうしたのかというと、あれだけの人数が居ると台所が狭いので、下拵えだけ終えてこちらに戻ってきたらしい。

 うん、藍里良い事言った。言ったんだけど……。

 

「それ、私からの提案をにべも無く断った藍里が言うのは何か間違えていると思うんだけど」

 

 私がジト目で見ながらそう言うと、スッと顔を横に背けられた。どうやら自覚はあるらしい。

 その私達の様子を見て苦笑しながら、子山は口を開いた。

 

「確かに子瑜の言う事に一理ありますか。 子方、お話受けさせて頂きたいと思います」

「了解。 陳太守には私から伝えておくから、招聘の連絡を待っていて。 それまでの間に村長の引継ぎとか済ませておくようにね」

 

 これで、子山も仕官させる事ができた。私の知り合いで仕官していない人間の中で、徐州で仕官させられそうなのは伯侯なんだけど、しばらくは私にくっついて勉強したそうだし、難しいかもなぁ。

 ただ、これだけでも史実の徐州よりも随分と人材に恵まれている状況なのだ。宣高、文嚮という軍の核になれる人物がいるだけで、大幅に戦力が増強されているし、文官も呉に移住する前の藍里や子山を仕官させられているのだから。それでも徐州を草刈場にしないためにはまだまだ足りない、と思えてしまう以上、覇王と名族を私は余程恐れているのだろう。

 思わず自分の臆病さに溜め息を付くのであった。

 

 ここからは後日談となる。

 あの後も蜂蜜について追跡調査を行い、やはり横流しが行われていた事を確認した。

 どうやら、州府で買い取る額よりも高い額で売る事ができたらしく、背景にあったのは巨大な陰謀などではなく、やはり賊吏の小遣い稼ぎにあったらしい。迷う事なくそれに関わった官吏を処罰し、職務を剥奪した上で州から追放処分を言い渡した。

 ただ、気になるのはその販売先。どうやら豫州汝南郡辺りを本拠地にして活動している商人相手に売り払ったらしい。……汝南で蜂蜜というと、一人の人物が頭に思い浮かぶのだが、彼(もしくは彼女)が関係しているのだろうか。確かに彼の人物であるならば、徐州にちょっかいを出してきてもおかしくはないし、小手調べとしての謀略を仕掛けてきたと考える事もできる。

 しかし、それにしてはやる事があまりにも小さく、徐州への謀略という意図が薄いように感じる。確かに州牧様の威信を落とす様な行動である事は間違いないのだが、そこから開戦に繋げられるような物では無いのだから。

 仮に私の考えているとおりの人物であるならば、一体何を考えて動いているのだろうか。彼の一族の持つ影響力と、その名声にふさわしくないような小さい行動の不釣合いを非常に不気味に思いながら、かの名家に連なる者へ警戒を新たにするのであった。




最後までお読み頂きありがとうございます。

本当は村内の女性陣に養蜂をお願いする際に、採取できたロイヤルゼリーは自分達で使って良いというのを条件にした話とかも入れたかったのですが、割愛しました。
どうも上手くまとめられなかったんですよね。

あと、後日談に出てきた汝南の人物は皆様の予想通りのあの娘だったりします。
蜂蜜を話題にしたら関わって来させないと嘘だろう、と言う事でこの一件の元凶としてみました。
まあ、謀略なんて物はなく、単に蜂蜜が欲しかっただけなんですけどね。

予定では次に軍政についての幕間も入れる予定だったのですが、朱里への手紙へとなります。
というより、幕間が長すぎて本編書かないのもどうよ?というゴーストの囁きが聞こえてきたのです。

ご意見、ご感想等ございましたら記載をお願い致します。

◆◆
それではいつもどおり妄想三国志大戦カード。

勢力:徐
レアリティ:UC
武将名:孫乾
コスト:1
兵種:槍
能力値:武2 知6
特技:魅柵
計略:締結の進言 必要士気:3
場に出ている武力が最も大きい武将の武力が上がり、効果終了後に最大士気を上げる。ただし最大士気は12より多くはならない。

1コストで柵と魅力を兼ね揃えた槍兵。地味ながら徐州勢に1コスト槍兵は他にいないため、オンリーワンなカードと言える。
柵魅力持ちなため、入れても邪魔にはならない。騎兵デッキへの牽制としても使える痒いところに手が届くカード。
計略はお使い孫乾。投げ計略で武力を上げ、さらに締結効果で最大士気を引き上げる。
徐州勢1コスト枠は糜家の子供達が優秀すぎるため、単色であえてこのカードが選択肢に入る事は少ないだろう。しかし、糜芳等と一緒に二色デッキを組む際には、他の同盟締結持ちよりも優秀な特技、使いやすい計略を持つため選択肢となりえる。
駆け落ちとか言うな。

◆◆
これ一枚だけでは何の魅力も無いカード。ただし、他の締結計略持ちと比べて、自身ではなく武闘派の武力を上げる事から随分と使いやすくなっています。
親友の海と同様、他勢力の舞姫を守るためのカードとして生きる事が多そうだと思っています。
後はSR麋芳と一緒に他勢力に移籍してロマンを追及するなどの使い方になるでしょうか。

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