真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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幕間四投稿します。

何とか混沌としまくった農業話をまとめる算段がつきました。
何話かに分割する事になりましたが……。
今回は農業話導入編です。


幕間四 My Home Town -一時帰郷ー

 西涼に遠征していた私達は、半月前に郯に帰ってきていた。何だかんだで数ヵ月城を空けていたわけだから、従事史の皆様から州牧様へ報告をしてもらった。その場でいくつか課題も出てきて、そのいくつかを私が巻き取る事になった。遠征に出る前に私が提案していた事に関わる部分なので、それもやむを得ないだろう。

 ちなみに、今回の遠征に関する報告もその場で行っている。報告書を間に合うように死ぬ気で仕上げ、戦闘詳報を従事史達へ報告した。とりあえず作戦を立てたのが自分である事は伏せて、宣高の事を褒めちぎっておいた。立派に別動隊の指揮官をやり遂げているので、嘘は吐いていない。

 それを聞いた州牧様は苦笑いを浮かべるだけで、特に訂正もしなかったので、そのまま宣高の功績になる事が確定した。

 私にとってはその方が都合が良い。別動隊の動きを私自身の実績とするよりも、宣高の功績とした方が良いと判断した結果だ。宣高は私よりずっと優秀な将軍になれる素質があるのだから、さっさと出世してもらわないと困るのだ。

 

 さて、その報告がようやく終わり、私は久しぶりにゆっくりと時間を過ごしていた。

 傍らには天明が居て、じゃれつく王虎の相手をしている。子麗も一緒に王虎と遊んでいる。実に荒んだ心を和ませる光景である。

 一緒にこの村を訪れた藍里と伯侯は子山に案内されて、私がやってきた農法について、村を巡りながら説明を受けている。

 子山の名前が出てきた事からも分かるように、現在私は朐県にある、私達が育った村へ帰ってきている。連れてきているのは、天明、藍里、それから伯侯の三人だ。

 私が今回里帰りをしているのは、何も里心がついたからではない。今回私が巻き取る事になった仕事は、蜂蜜についての懸案事項をまとめるように命じられたからだ。

 巣板一枚辺りの予測できる生産量は、最初の提案時に算出していたのだが、巣箱を設置していたとある村で実際に取れた蜂蜜の量が予想量よりも大分少なかったそうだ。

 私が提案時に話した内容が疑われているのではなく、何処かで量を過小に報告し、横流しが行われているのではないかと疑いが上がったのだ。単純に採取方法に問題があるだけであってくれるなら、正しい方法を指導すれば事足りるので、是非そうあって欲しい。横流しが行われているとするならば、少々面倒くさい事態になっているといえる。

 現在蜂蜜は徐州において重要な物資となっている。蜂蜜はそのまま食品としても高値で売れるし、蜜蝋から蝋燭を作ればさらに利益が上がる。それゆえ、蜂蜜は州府で買い取り、許可を出した商家、職人達へ規定額で売るという形を取っている。言ってしまえば、徐州内に限っては塩と同じ商業形態を取るくらい貴重な物として扱っているのだ。それを中抜きしているとなると、州府の威信が揺るぎかねない。全力で犯人を見つけ出し、再発防止を徹底しなくてはならない。

 

 調査を始めるに辺り、まずは私が算出した予想収穫量に大きな隔たりが無いかを確認するため、念のために実際に巣板を遠心分離機にかけて蜂蜜を採取してみようと思い、ある程度無理を聞いてもらえるこの村へ帰ってきたのだ。幸い西涼に遠征している間に冬も終わり、採蜜を行う事ができるわけだし。

 私だけではなく天明達を連れてきたのは、藍里は副官として私の補佐をしてもらいたいのと、西涼遠征から働き詰めだったのでゆっくりと体を休めてもらいたいから、天明は私が州府にいないと仕事が無くて暇を持て余すから、伯侯はそもそも仕官しているわけでも無いので、仕事自体が無いから一緒に連れてきた。それに藍里と子山はしばらく会っていない友人同士でもあるので、旧交を暖めるにも良い機会にもなるだろう。

 

 私が天明達とまったりとしているのには理由がある。現在巣箱を管理してもらっているご婦人方の予定が空くのが午後になってからだというので、それまで私達も待つ必要ができたのだ。村を見回って口出ししに行っても良いのだが、現在この村は子山に任せているのであまり私がでしゃばらない方が良いだろう。

 なので、西涼で仕入れてきたローマの本を翻訳する作業をしている。

 ……どうでも良いけど、ローマ人の名前に漢字を当てるのハードモード過ぎやしませんかね?音の響きだけで適当に当てはめているけど、長くなりすぎる。マルクス・アウレリウス・アントニヌスを安敦で済ませた前漢の官吏の見識を絶賛せざるを得ない。仮に全音に漢字を当てても覚えられない事必至だ。注釈本にはラテン語表記と、長すぎたから省略した旨を記載しておくか。

 辞書が無いので単語の意味を思い出すのに苦戦しながら、翻訳を続けていく。今翻訳をしているガリア戦記の凄いところは、作者のカエサルが『俺ってこんなに凄い事やったんだぜ!』というのを元老院を含めたローマ中に広めるために書いたのに、鼻を突くような過剰な自己讚美を抑えているところだろう。むしろ自分を第三者の立場において、他人がやってのけた事のように突き放した書き方をしている部分も多く見受けられる。おかげで途中でげんなりとする事無く翻訳を続けられるのはありがたい。

 しかしこれ、翻訳を終えた後に出版しても売れないだろうなぁ。当時の共和制ローマの政治状況が分からないと何でカエサルがガリアへ出兵したのかも理解しづらい。さらに、そもそも中華思想に従って中華よりも大分離れているローマは蛮族の国とおもわれかねない。出版するよりも、文和殿や朱里などの一部の親しい人間のみへの配本に留めた方が良いかもしれないな。版画にする労力に見合う対価が得られる気がしない。

 そんな不毛な未来を想像しながらも、私は目を書に走らせ、筆を持つ手を止めない。ここで翻訳を止めたりしたら、今度会う時に文和殿に何を言われるか分からない。叱られるだけならまだしも、失望されるのは勘弁いただきたい。

 

 そうやって書を訳し、時々私にもじゃれついてくる王虎を適当にあしらいながら時間を過ごしていると、表から話し声が近づいてくるのに気がついた。どうやら村を回っていた三人が戻ってきたようだ。

 藍里と伯侯にこの村を見てきてもらったのは、農政の知識を少しでも多く身に付けてもらいたいからだ。

 この時代の経済の基盤は、貨幣経済が発達しているといってもやはり農作物が大きな役割を果たしている。農政に関する幅広い知識があれば、私達徐州勢を含めて、どこの勢力でも重用されるだろう。手元に来てくれた優秀な官吏の卵を他の勢力にくれてやる気は欠片も無いが。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

 扉が開き、元気よくそう口にした伯侯が先頭で入ってきて、続いて藍里と子山もそれぞれ帰宅の言葉を口にしながら入ってきた。

 

「師父、師父! 何なんですか、この村! 中華では見慣れない物や想像もつかない色々な事を当たり前のように利用しながら農業をしているんですけど!!」

「落ち着け。 それから顔が近い」

「落ち着いてなんてられませんよ!? さあさあ、ちゃっちゃとどういう事なのか吐いてください!」

「もう師に対する態度じゃないよね、それ。 それから顔が近い」

 

 村を巡って見慣れない物を数多く目にしてきて、知的好奇心が大いに刺激されたのだろう。軽い興奮状態にあるようだ。とりあえず必要以上に近づいてきていた顔を掴んで距離を離す。

 農政に興味を持ってくれるのはありがたいが、入れ込みすぎだ。もっとも、この子と同じ名前を持つ人物が三国志においてどのような役割を果たしたのか、それを考えると農政に多大な興味を持つのは当然だとも言える。

 

 杜幾、字を伯侯。

 おそらく三国志において、二十一世紀日本での知名度と功績が最も釣り合っていない一人ではないだろうか?演義においては出てきたかも記憶に無い。

 しかし、この人物の内政家としての実力は破格と言える。

 馬超と韓遂の乱において、近隣地域が軒並み動揺した中、太守を勤めていた河東郡だけは動じる事なく朝廷への忠誠を示している。これは杜幾の治世が徳に満ち、仁を示した事で領民が恭順を示したからだと言われている。

 周辺地域から孤立する事になっても示す忠義ってなんだよ。戦場で突出点を作るって、集中的に攻撃をされる危険性があまりにも高くなるので、凄く危険なのだが。しかも杜幾はまだこの時、曹操の股肱と言えるほどの信任は得ていなかっただろうに……。

 ともかく、この河東郡だけでも動揺しなかったというのは大きかったようで、この乱の制圧の際に曹操は兵糧のすべてを河東だけで賄っている。どれだけの蓄えをその治世下で作ったのだろうか。これだけでも彼が内政、とりわけ農政の手腕に優れていた事が伺える。結果的に、この事を評価されて曹操より俸禄を加増されている。軍事作戦において、武功のあった者を評価するのは容易いが、後方支援を従事した者が功有りと評価されるという事は、よほどこの時の杜幾の存在が、曹操から目立って映ったのだろうと伺える。

 後年曹操が漢中を攻める際にも補給を担当したが、不足なくその役目を全うし、一人も脱走兵を出さなかった事を称賛されている。規律の低い軍隊では、物資の横流しや持ち逃げなどが多く発生するのだが、それが無いくらいに規律正しい軍隊であったのだろう。目立った武功は河東太守就任時の不満分子の一掃くらいしかなく逸話が少ないが、十分統率力のあった人物だったのだろう。

 それらの功績をもって、十六年に及ぶ治世は天下第一の治績と称されるに至る。唯才令により集めた魏の有能な家臣達の中であっても、第一等の治世と称されるほどの内政家。それが杜幾という人物の才能を端的に表していると思う。

 その後は中央に召還され、魏の初代皇帝曹丕の元でも重用された事が伺える。また、冀州で蝗害(こうがい)が起きた時に官倉の備蓄を使って救済するなど、後年にも徳治主義を貫いている。政治信念として根付いた物だったのだろう。

 簡単に杜幾の経歴を思い出したが、彼本人よりも彼の孫、それから子孫からはもう一人。この二人の方がずっと歴史上では有名だ。

 孫の名前は杜預。呉帝国を滅ぼし、三国時代に終止符を打った名将。羊祜の後任であり、破竹の勢いという言葉の語源は彼の発言だったりする。

 子孫の名前は杜甫。この時代より数百年後の未来で活躍し、『詩聖』の二つ名で燦々と史書に刻まれる事になる人物だ。

 この二人に比べると、いまいち地味さが滲み出てしまうが、それもまたやむ無し。というか二人が派手すぎるだけで、杜幾だって十分過ぎるほどに優秀な人物なのだ。

 

 さて、そんな人物と同じ名前を持つこの娘が、私の弟子(自称)となる切っ掛けとなったのも農政が大きく関わっている。

 どういう事かというと、私がこの村でやっていた農業について、商人から噂を聞いたのが発端となっている。

 とはいっても、最初に聞いたのは数年前、それもただの噂話で、徐州のとある村で変わった道具を農業で使っているらしい、程度の情報しかなく、別段気にかけるほどでは無かったらしい。しかし、その村は度々商人の話題に上がる事になる。

 曰く、仙術により土地を休ませる事無く、収穫を取り続ける事ができる。

 曰く、虫を殺す仙水を農業で使っている。

 曰く、糞尿から臭いを消し去るなどの妖術を心得て、さらにそれを使い毎年豊作となるようにしている。

 どう聞いても怪しい邪教が蔓延(はびこ)りだしたようにしか聞こえません。本当にありがとうございます。一応、その手の噂話は笑い話程度でしか広まっていないらしいが、何気に危険な状況になりつつあった事に肝を冷やした。

 この辺りの農法は農政書としてまとめ終えて、今回の西涼の乱の討伐完了報告時の謁見のついでに朝廷へ上奏しているので、邪教扱いされる事は今後はない……はずだ。

 そうやって幾度も話題に上がる不思議な村に伯侯は徐々に興味を抑える事ができなくなってきたらしい。

 そして色々と商人達から話を聞くにつれ、それを主導したと思われる一人の人物の名前に行き当たる事になる。まあ、うちの義父さんなわけだが。何気に噂話から義父さんの名前を導き出すあたり、情報収集と処理能力が高い事を示している。歴史に名を残す官吏はその辺りにも補正が入るのだろうか。

 そして、ファンレターというわけではないが、義父さんへ農政の方法について質問状を送ってきた。それに実際に農法の指導を行った私が返信を書く事で縁ができたわけだ。最初は自分と同年代の人間が主導したとはなかなか信じてくれなかったが。

 そして、折角西涼まで遠出するのなら会っておくかと思い、隴西郡への出立前に州牧様の許可を得た上で、雒陽へ向かう道の途中で杜陵県に寄り道したのだ。

 そうして藍里と一緒に会いに行った伯侯が弟子入りして今に至る、と。その時に交わした会話をピックアップすると、以下の様になるだろうか。

 

『蝗すげえ!』

 

 うむ、まったくもって余人には意味が分からないだろうが、表現としては間違えていないと思う。

 

 そんな事を考えながら、私はその時の事を思い出しながら、昼食の準備のために厨房へ向かうのだった。




最後までお読み頂きありがとうございます。

話の中身はほとんど無いと言っても過言ではありません。
次の話で杜畿との出会い回想、その次でハチミツの話で農業はおしまいになる予定です。

ご意見・ご感想等ございましたら記載をお願い致します。

◆◆
以下は、懲りずに三国志大戦ネタです。
分からない方は読み飛ばす事推奨です。

◆◆
勢力:徐
レアリティ:UC
武将名:糜竺
コスト:1
兵種:騎
能力値:武2 知6
特技:魅柵
計略:的確な援兵 必要士気:3
範囲内の武力が一番高い武将の兵力を回復する。

1コストの騎兵。魅力の士気ボーナスが地味ながら美味しい。
1コストの騎兵で知力が6あるため、伏兵掘りや端攻城など使いどころは多い。
計略はあれば便利な投げバナナ。デッキ構成次第では十分選択肢になりえるカード。
蜀の自身と比べると、知力が1低い代わりに魅力と柵を持って来た。ほぼ上位互換と言って良い性能になっている。
ただし、弟と妹が輪をかけて優秀であるため、1コストの席を巡る熾烈な戦いが繰り広げられる事になるだろう。
◆◆

1コストの高知力騎兵として、伏兵踏み、ピンポンダッシュ、乱戦時の突撃援護と何気に色々と痒い所に手が届くカードでは無いかと思います。
1コストで柵魅持ちなので、舞デッキのお供役として使う方が機会は多そうだな、と思っています。悲哀(苦楽)デッキとか、傾国デッキとか、単色で組まない舞デッキでこそ輝きそうですね。

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