真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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二十五話投稿です。

原作開始のための伏線張りという噂も……。


第二十五話 Life in a Northern Town -隴西郡①-

 さて、無事に韓遂軍との停戦が決まった。なので、義兄さんが率いていた別動隊も包囲陣を敷いていた本隊に合流する事になった。本当は宣高殿が率いていたというべきなのだろうが、実質率いていたのが義兄さんであるのは周知の事実なので、あえて声高く義兄さんが率いていたと口に出す事にする。他意はある。

 今後の行動は、一部の部隊は除いて洛陽へ帰還し、朝廷へ顛末を伝える手はずとなっている。その一部の部隊は、小城を退去した韓遂軍が略奪を働こうとしないか、隴西郡まで監視する役目を請け負う事になる。隴西郡までなのは、あまり深く進み過ぎると兵糧の心配や、仮に韓遂が襲いかかってきた時に孤立無援の状態で戦う必要が出てくるからだ。それから、隴西郡で馬州牧の抑えをしてくれていた董擢殿へ、停戦が成った事を伝える役目も含む。

 

「それで、その送り狼の役を私が?」

「うむ。 本来ならば官職を持っている者が負うべき役目なのだが、儂らは朝廷への報告を優先させねばならない。 臧県尉では韓遂に挑発されればそのまま再度戦端を開きかねぬしな」

「基本的に後先考えない突撃思考ですからね」

「子方うっさい。あー、細かい事考えるの苦手なんで」

 

 その役目を義兄さんに任せると、陶州牧様は仰っている。この場にいるのは徐州から討伐軍に参加している方々となる。

 この場にいる人間で正式に官職を持っているのは、州牧様、陳太守様、宣高さんとなる。陶州牧と陳太守のお二人は洛陽で帝に拝謁し、今回の件を報告する必要があるとの事だ。主な報告者は張司空なのであるが、質疑応答がある場合に備えて、州牧様と陳太守、孫文台様も側に侍る事になるそうだ。

 そうなると、残った面々でその役目ができそうな人間は限られる。まずは県尉である宣高さんが筆頭候補になるのだが、自他共に認める武断派なので、挑発に乗ってはいけないこういう役割は向かない。

 文台様の嫡子である伯符さんも名前が上がるのだが、先日戦が終わった直後に公瑾さんと睦み合っていたのが文台様の耳に入り、大目玉を食らったそうだ。性根を叩き直すと宣言し、しばらくは文台様の監視の元で行動が制限されるので役目を果たす事はできない。その事に不満を唱えて、文台様と大喧嘩していたのが昨日だ。公瑾さんは完全にとばっちりを受けた形なので、少し可哀想だが。

 残った人の中では、州牧の主簿を務めている義兄さんが一番高位となるため、役目を受けるように要請されたのだ。

 ちなみに、送り狼は夜に女性を家まで送る途中や、家まで送った後に家の中まで入り込みその女性を手込めにするような輩の事だったと思うのですが。あんまり品が無い言い方だと思います、義兄さん。

 

「やれと言うならやりますが。 官位が無くても問題ないのですか?」

「まあ、特例措置のような物だな。 陛下をお待たせする方がまずいという判断だ。 今回の件が終わるまでは県令相当の権限が与えられると司空から言質を取っている。 だからと言って問題行動は控えるように」

「流石にそこは空気読みますよ」

 

 元龍さんが目付きを険しくしているのは、義兄さんと宣高さんが州牧様へ軽い口調で話しているからだろうか。州牧様が気にされていないので、私達が気にする必要は無いと思うのですが。

 

「それでは、糜子方。 兵二五○○を率いて隴西郡へ向かえ。 くれぐれも反乱軍とは諍いを起こさぬよう」

「御意。 謹んで拝命致します」

 

 そう言って義兄さんは拝礼を州牧様へ返した。

 

 その後も義兄さんは州牧様と話があるという事だったので、先に陣幕を出て出兵の準備を整え始める。私は当然義兄さんに付いていく。副官ですし。

 冀県までは伯約さんも一緒に行く事になる。私の陣幕でずっと身を隠していると、いい加減気が滅入っているだろうから、準備を手伝ってもらおうか。今まで男装をしていたので、目一杯女の子らしい格好をすれば、誰も伯約さん本人とは気がつかないだろう。

 今後の予定に思いを馳せながら、私は自分の陣幕へ戻った。

 

 それから丸一日立って、私たちは隴西郡へ旅立った。前方に見据えるのは韓遂軍。道を外れたり、道中の町や村で略奪を働かないように睨みを効かせる。

 

「とは言っても、向こうからも戦端を開くつもりは無いと思うんだよね」

 

 そう口にしたのは、私の敬愛する義兄さん。一日目の行軍は問題無く終わり、義兄さんの陣幕でお茶を飲みながら雑談をしている時に、義兄さんが話の流れで発言したのだ。

 私も同感だ。わざわざ私たちに襲いかかってくる可能性は低いと考えている。

 

「今回の戦いは、反乱軍の敗北で終わっていますからね。 停戦を一方的に破ってしまうと、今度こそ本腰入れた殲滅戦が行われる事になりますし」

「まあ、そうなるだろうねぇ」

 

 私が言った言葉に義兄さんは頷く。

 

「それでも、このまま終わるなら、と自棄になって襲ってくる可能性もあり得るのでは?」

「その可能性も捨てきれないけどね。 けど、そうするなら小城で玉砕とかしてるんじゃない?」

 

 伯約さんが放った質問に、義兄さんが即座に言葉を返す。

 伯約さんは、まだ冀城には戻らずに私たちと行動を共にしている。韓遂の後を着いていく事を優先したために、冀県に向かう事ができないのだ。申し訳ないが、隴西郡に着いてから引き返す際に冀県に寄る事になっている。本人も快諾しているので、問題は特に無いのだが遠回りをさせているようで少し心苦しい。

 ちなみに今の伯約さんは、私の服を着て一目で女の子と分かるような格好となっている。本人は動きづらい格好をしたくないと拒否しようとしていたが、変装のためとごり押しした。慣れない衣装を纏っているためどこか落ち着かなさそうだが、折角器量が良いのだから精一杯着飾れば良いのにと本気で思う。

 冀県に到着した際に、女の子らしい格好をしている伯約さんを見て彼女のお母様が泣いて喜び、額に私の手を押し戴きながら感謝される事になるのだが、当然そんな未来が待っている事を私は知らない。

 

「それに、流石に自分達から言い出した停戦を反故にするようだったら、自分達の掲げる大義を損ねる事となる。 何せ朝廷との間に結ばれた約定を破るって事だからね」

「漢王朝のために、と言いながら朝廷を軽んじる事はできないわけですか」

「そうですね。 それにそういう行動を取った場合、盟を結んでいる馬州牧との間に間隙ができてしまう可能性もあります」

「平気で約束事を破る相手と盟約を結び続ける危険は、州牧という立場にある以上選べないでしょうね」

 

 選択を間違えれば、涼州全土が戦乱に巻き込まれかねない。流石にそこまで愚かな選択はしないだろう。

 そう言って説明した義兄さんと私の言葉に、伯約さんはなるほどと頷いていた。

 一緒に話していると当意即妙に答えを返してくるし、伯約さんは頭の回りは早いのだと思う。しかし、こういう話になるとどうも頭の回転が鈍くなるようだ。義兄さんに言わせれば、興味が自分自身に向きすぎており、他人の目を気にしない事による弊害だろうと言っていた。良くも悪くも質実剛健で、自分自身を鍛え上げる事に興味が傾倒しすぎているんじゃないかな、と予想を口にしていた。私も少し伯約さんと接してみただけだが、その言は合っているのではないかと思う。伯約さんに、身を着飾って相手の興味を引こうという考えが一切無いのも、その辺りが影響すると考えれば頷ける。私とて上辺だけ取り繕い、自分を大きく見せようとするのは好まないが、初対面の相手や憎からず思っている相手に悪印象を与えないようにするくらいの身繕いはする。伯約さんにはそういう考えすら無く、自然体の自分を見せ、それを受け入れてくれる相手のみと親しく交流するのだろう。しかしそれでは、一軍を率いるだけならば大成するだろうが、勲功を積んで政治にも関わるようになると周りに足を引っ張られて力を発揮できないだろうと思う。軍事行動は文官との協力を無くして果たす事はできないのだから。嫌いな人間であっても、目的を達成するためには手を組まなくてはならない事も多々あるだろう。そういう相手との上手な付き合い方も伯約さんは覚えていく必要があるだろう。

 現在伯約さんに着飾ってもらっているのも、お節介ながらその辺りを矯正しようという考えがあるのだ。私の趣味では決してない。そんな理由で想い人の前に綺麗に着飾った少女を招くほど、私は愚かではない。何が嬉しくて、恋敵を増やすような真似をする必要があるのか。

 

「気を抜いて警戒を緩めるのは論外だけど、必要以上に意識して敵意を剥き出しにする必要もない。 自然体で隴西郡まで軍を兵を動かす事に注力すれば、送り狼をするのは難しい事では無いよ」

 

 そう言って義兄さんが話を締め括った。

 

「義兄さん。 お話はごもっともなのですが、女性の前で送り狼という例えは如何な物かと」

 

 州牧様の前でも口にしていましたが、やはり品の無い言葉となるので避けた方が良いだろうと思う。

 義兄さんは少しの間不思議そうな顔をしていたが、私の言葉に合点がいったのか、何度か頷いた。

 

「藍里。 もしかして、夜道で女性に襲いかかる男を想像している?」

 

 私は無言で頷くが、義兄さんは額に手を当てて考え込み始めた。

 えっと?何かおかしな事を言ったでしょうか?

 内心焦り始めるが、義兄さんは無言を貫いている。伯約さんはひたすら不思議そうな表情をしているので、意味を理解していないのかもしれない。

 

「義兄さん。 どうかしましたか?」

 

 沈黙に耐えきれなくなり、私から義兄さんへ声をかけた。

 

「ん。 ああ、ごめんごめん。 ちょっと言葉の意味と由来について考えてた」

「? 送り狼のですか?」

 

 義兄さんからも送り狼という言葉の意味が語られたので、今さら考え込む必要は無いと思うのですが。

 

「んー……。 まあ良いや。 私も書物で読んだ事があるだけなんだけど、送り狼っていう言葉は狼が群れの縄張りに入った者を追尾する習性が元々の意味なんだよ。 藍里が考えた意味は、この由来が元に作られた言葉だね」

「あ……なるほど。 では義兄さんが使っていたのは」

「由来の方だね。 韓遂達が縄張りを抜けるまで追跡し続けているから、そこからの連想」

「そうでしたか……」

 

 さて、これは大変気まずい。勢い込んで言葉の選び方を正して頂こうとしたにも関わらず、知らない意味で言葉を使っていたとは。

 

「まあ、確かにそっちの意味で捉えられる可能性を考えなかったのは私の失策かな。 今後気を付けるよ」

 

 そう言って義兄さんはぺこりと頭を下げた。私はそれを慌てて止めながら、今後は言葉の意味だけではなく由来についても詳しく調べる事にしようと固く誓った。

 

 それから十数日。毎日韓遂軍の後を追って軍を進めた。道中彼らが道を脇に逸れようとしたら、牽制するために行軍速度を上げて接近する。これ以上進むなら略奪を働こうとしていると判断する、そういう意思表示だ。もっとも三日もすればそういう動きは見せなくなったが。彼らに始終注視してなくてはいけないので、気疲れする。兵達もイライラしているのか陣中で騒ぎを起こす者が出始めている。

 だが、それも今日で終わりとなる。隴西郡の董太守の居城に到着したのだ。結局は義兄さんが予想していたように韓遂が進んでこちらを攻撃してこようとする事は無かった。……こちらから攻撃させようと数十騎を繰り出して挑発してくる事は数えきれないほど有ったが、無言で武器を構え陣形を整えたら何もせずに戻っていった。遠戦を始めない事でこちらに交戦の意思が無い事を伝えると同時に、即座に武器を構える事で仕掛けられたら応戦する意思を示すためだと後で義兄さんに聞いた。それを聞き、伯約さんと一緒になるほどと頷いた。ただ無視し続けるだけだと、こちらを侮って攻撃を始めるかもしれない。それを抑止するためには、良い方法だ。流石は義兄さんです。

 

 そして現在、私と義兄さんは董太守と謁見して、韓遂軍との戦闘が終了した事を伝えた。陶州牧様が事前に義兄さんの権限を引き上げてくれていた事で、幸い門前払いされる事無く謁見していただける事となった。

 董太守は、義兄さんや私よりも十歳ほど年長であり、紫がかった髪をした温和そうな青年だった。

 この城に入るまでに見た限りでは、住民達の表情も生き生きとしており、治世に大きな問題が生じていない事が分かる。仮にその土地を治める者に不満がある場合、民達は生き生きと働く事無く、もっと憂鬱そうな表情を浮かべるだろう。道中伯約さんに聞いていたが、董太守が民を愛し、仁政を敷いているという話は本当なのだろう。

 

「糜子方殿。 諸葛子瑜殿。 よくぞ伝えに来てくれた。 これで民達へかけている負担を除く事ができる」

 

 董太守がそう口にした。民へかける負担とは、足りない兵を補うために募集した義勇兵と戦時の特別徴収の事だろう。董太守が仁政を行って来たため、短い期間だったら民達もそういった事への不満を飲み込んで従ってくれるのだろう。しかし、長期間続くとなると話は別だ。民達へかかる徴収の負担は、日常生活に大きく影を落とす事となるし、不満が限界に達したら反乱が起こる可能性もある。

 私達は単なる伝達者に過ぎないのだが、伝えた事で目の前の人物が喜色満面となるのを見るとこちらも喜ばしい。

 

「ささやかながら戦勝の宴を設けよう。 お二人にも参加頂きたいのだが」

「あー、お話はありがたいのですが」

「ふむ、不都合があると?」

「長い夜営続きと韓遂軍の監視で兵達が猛っています。 統率を行う私と子瑜の二人が抜けると(たが)が緩んで、町の住人達にご迷惑をおかけするかもしれませんので」

「なるほど、そういう事ですか……」

 

 そう言って董太守は少し考え込み始めた。

 確かに義兄さんが懸念しているように、少し陣中で喧嘩騒ぎが起き始めており、士気が低くなっている事が私としても気にかかっている。この状態のまま町に入れてしまうと、一部の兵達が騒ぎを起こしてしまうのは目に見えているため、町の外で夜営をしている。それも不満を膨れさせる原因となるのは承知しているが、やむを得ない処置だろう。

 

 そう私が思案している間に太守は考えが纏まったのだろう。再び口を開き言葉を発した。

 

「それでは、食料と酒だけでも提供させては頂けないだろうか? 流石に朝廷からの使者に何のもてなしもしないとなると問題になりかねない」

「……はい、わかりました。それでは陣中で慰労を兼ねた酒宴を開かせて頂きます」

「うむ。 後で届けさせる事にしよう。 ただ、それだけではあまりにも心苦しい。 他に何かできる事はあるか? あまりにも無茶では無い限り叶えるが」

「それではお言葉に甘えて二点お願いしたい事が。 西涼は中華よりさらに西にある国々と交易があると聞きます。 西方から伝来している書物があるようでしたら、お譲り頂けないでしょうか? 対価はもちろんお支払致します」

「なるほど……。 確か珍品として幾つか手に入れたのだが、読める者がいないためそのまま書庫へ納めた物が有ったな。 糜子方殿は異国の言葉を読む事ができるのか?」

「言葉によりますが。 ただ、大秦の文字を読む事はできます。 西方にある国々の中では、最も使われている言葉なので、読む事ができるのではないかと」

「そうか。 では後で書庫を案内させよう。 ただ、糜子方殿の望む物があるかは分からぬぞ」

「それは承知しております」

 

 ……いえ、義兄さん。さらっと凄い事言ってませんか?この中華で大秦の文字を読む事のできる人間がどれだけ居ると?

 

「しかし、糜子方殿は博識だな。 そのような事を誰に習い、どのようにして覚えたのだ?」

 

 そう、私もそこを知りたい。義兄さんの持つ知識には、異質な物がある。先の戦いで見せた架橋などは最たる物だろう。技術は長い歴史で積み重ねられて改良されていく物だが、あの橋だけは明らかにそこから外れている。義兄さんは何処であのような知識を得たのだろうか?それは義兄さんと付き合いを深めていく中で日に日に大きくなっていく疑問でもある。とはいっても、それを不気味に思っているのかと問われると全力でかぶりを振る。慕っている人間についてもっと知りたい、それだけだが動機としては十分だろう。もっとも、義兄さんが詮索されたくない事だったら困るので、自分から問いかける事はできなかったのだが。

 

「うーん。 それが私にも分からないのですよ。 何せ、気がついたら頭に入っていた事ですので」

「素直に話す事はできない、そういう事か?」

 

 そう言って義兄さんは苦笑いを浮かべ、そんな義兄さんに董太守が胡乱気な表情を義兄さんに向けた。

 

「いえ、そうではなくですね。 本当にいつ知ったか分からないような知識がいくつか頭に入っているのですよ」

「それはまた面妖な話だな……」

 

 そう言って眉をひそめた董太守に義兄さんは苦笑いを返した。

 

「……ふう、まあ良いだろう。 あまり人の事を詮索するのも品格を疑われる」

 

 ああ董太守、そこは突っ込んで訊いて頂きたかった。折角の好機だったのに、逸した感覚がひしひしとする。これはいよいよ覚悟を決めて自分から聞く必要があるだろうか。

 

「ありがとうございます。 では二点目ですが、こちらにいる諸葛子瑜ともう一人を町で泊めて頂く事はできないでしょうか?」

「……はい?」

 

 義兄さんの事を考えて頭が一杯だったところへ、私の名前が話題に上がったので思わず声を出してしまった。そんな私の方へ、この場にいる全員の視線が集まる。流石に十人以上の視線を同時に受けると居心地が悪い。顔を俯かせて誰とも視線を合わさないようにする。

 

「この()ともう一人、韓遂達に冀県から連れ出された少女がいます。 帰路の途中で寝込まれても困りますので、ここに居るうちにできるだけ休んでもらおうかと」

「確かに野営では疲れが取れぬか。 よし、この城に部屋を用意しよう。 洛陽の宮殿と比べられると貧相かもしれぬが、流石にこの町の宿よりはくつろげよう」

「いえ、そこまでご厚意に甘えるわけには」

 

 とんとん拍子で進んでいく話に、私は思わず口を挟んでしまった。先ほどの士気の話にも関わるが、私達だけが特別扱いを受けると兵達が騒ぎだしかねない。

 

「良いから甘えさせてもらいなさい」

「ですが義兄さん」

「仮に帰途につく時に倒れて、行軍が止まったりした時の方が問題になるって。 今日は顔色も良くないし、体力的にもそろそろ限界でしょ?」

 

 折れてくれない義兄さんに困り、思わず董太守へ視線を向けてしまう。そんな私に向かって、董太守は大きくひとつ頷いた。

 

「諸葛子瑜殿、気にする事はない。 少女の一人や二人、泊めて傾くほど財政が危機的というわけでもない。 祝宴代わりと言ってはなんだが、歓待をさせて頂けないだろうか?」

 

 いえ、まったく隴西郡(ここ)の財政は心配しているのではなく、義兄さんが野営で苦労するかもしれないのが心苦しいだけなのですが。もちろん空気を読んで口にはしない。

 

「藍里」

「……はい、分かりました。 董太守、数日の間お世話になります」

「ああ。 自分の家同様にくつろいでくれたまえ」

 

 義兄さんからそう促され、私はようやく首肯するのだった。




最後までお読み頂きありがとうございます。

で、送り犬(狼)ってニホンオオカミ以外でもある習性なんですかね?
麟が微妙に藍里への返答を迷っていたのもその辺りが頭をよぎったからです。
「ニホンオオカミだけの習性だったら、なんでそんな言葉がこの世界にはあるのさ」ってな具合です。

ご意見、ご感想等ございましたら記載をお願い致します。

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