しかし、この先は毎日投稿は難しいかもしれません。
週2~3回くらいを目標に頑張りたいと思います。
なんかランキングに載ったようで。多大な評価をして頂きまして、光栄の至りです。
翌朝起きると、まだ叔子は寝台で眠っていた。
叔子に寝台を譲っていたので、私は床に敷き布を敷いて眠った。間違っても同じ寝台で寝てはいない。
(しかし、この娘が羊祜とはなぁ)
寝ている姿を見ていると、とてもそうは見えん。
前世で読んだ三国志の羊祜についてを思い出す。
姓は羊、名は祜、字は叔子。
三国時代の末期に魏と、その後を継いだ晋に仕えた名将だ。
対呉の前線司令官として活躍している。
何よりも特筆すべきは、内政手腕に優れて民を慰撫し、田畑の開拓を進めて大きく兵糧の蓄えを作る等の内政にも力を発揮したことだろう。対呉の最前線にも関わらず、十年の蓄えを作るってなんだよ。
また軍略にも優れていたらしい。具体的に敗北として残っているのは、歩闡の反乱に伴う西陵攻防戦くらいではないだろうか?それだって呉の領地内における戦いであったため、晋領内には一歩も足を踏み入れさせていない。
また、戦略としては専ら防戦に努め、むやみに呉と紛争を起こす事を避けている。法規を遵守した徳治政治を行った事で、呉からの民の流入が多く起こったらしい。
某ストラテジーゲームでいうところの文化侵略だよなぁ、これ。
さらに呉の将兵の扱いにも気を遣い、投降して来やすくなるようにしている。呉将を斬った際にも丁重に遺骸を送り返す等しているため、呉将にも慕われていた。
あとは、呉将陸抗との「陸羊之交」も有名だろう。互いに薬と酒を送りあったが、どちらも配下に毒味をさせずにそのまま飲んでいる。相手が毒などという手段を取らない、そう固く信じるからこそできる事なのだろう。
腐った嗜好を持つ女性達が実に好みそうな逸話だ。
さりとて、戦争ではガチでやりあっていたりもするわけだし、互いに公私の分別の有る人間だったのだろう。
羊祜が没した時には、配下や領民だけではなく呉の将兵も揃って涙したという。それだけ慕われていたという事なのだろう。
敵に疎まれる、恐れられる武将は数多くいる。しかし敵に死んだ後に惜しまれる将はどれだけの数がいるのだろうか。三国志だと曹操に惜しまれた関羽くらいか?
そういう逸話を持っていた人物なのである。羊祜と言う武将は。
さて、そんな人物と同じ名前を持つ娘さんの様子だが、夢見が悪いのか眉を寄せている。起こしてあげた方が良いだろうか?
そう悩んでいると、私と同じように目を覚ましたらしい王虎が、寝ていた籠から叔子の上へと移動した。
そしてそのまま、叔子の顔に前足でストンピングを始める。マッサージというか、麺を打つ際の動作と言うか、そんな感じで踏みつけられている。
叔子も寝返りする事で王虎を自分の体から落とすが、王虎は落とされる度に乗り直す。
うん。なかなかに粘着質なようで何よりだ。
そうこうしているうちに、遂に叔子が目を覚ました。が、目を開けると目の前に猫の顔があり、自分の顔が両前足で踏まれている現状に戸惑っているのか体が固まっている。
いつまでもそうしていてもしょうがないので、私は手を伸ばして王虎を抱き抱えた。
王虎がどいた後、自分が何処にいるか分からなかったのか、少しキョロキョロとしていたが私と目が合うと、昨日自分が義父さんに連れてこられた家だと分かったようだ。
「おはよう」
機先を制して挨拶をしてみる。
「お、おはようございます」
お、きちんと返事を返してくるのか。混乱していても挨拶を返してこれるのは、きちんとそういう教育を受けてきたからだろう。
「昨日の事は覚えている?」
「はい。 けど、わんふーをおひざにのせてなでていたのはおぼえてるんですけど……。 あの、何で私ここでねてるんですか?」
「昨日義父さんと話をし始めるとすぐに寝ちゃったから、僕の寝台に運んで寝かしたんだよ」
流石に小さい子を床に寝かせるのはだめだろう。
「ご、ごめんなさい。 寝台使っちゃって。えっと、あの……」
「ん? ……ああ、そういえば自己紹介してなかったね。 僕は糜芳、字は子方。 それから寝台に運んだのは僕なんだから謝る必要は無いよ」
「あ、羊祜、字は叔子と言います。 えっと、子方さん。 ありがとうございます」
ふむ、口調が固いな。もうちょっと軽い感じが良い。
「敬語は使わないで良いよ。 これからしばらく一緒に暮らす事になるし、肩肘張ってると疲れちゃうでしょ」
「け、けど年上の人にはけーごをつかいなさいって教わりましたから」
「ふむ」
かなりきちんと躾がされているんだな。
とはいえ、そんな対応が続くと私もこの娘も気がやすまらないだろう。なら少し強引でも距離を縮めに行くべきだろう。
「ふむ。 それじゃあ私に慣れるためにも、呼び方から変えてみようか」
「よびかたですか?」
「うん。 じゃあ、呼び捨て……は難しいか」
こくこくと頷く叔子。それじゃあ、ハードルを下げて。
「お兄ちゃん、お兄さん、兄貴、辺りで行ってみようか。 さあ、好きなのを選んで呼んでみよう」
「え、えーっと。 ……子方お兄ちゃん?」
「そうそう。 それじゃそれに続けて私へ質問とか、して欲しい事を続けて言ってみよう」
「えっと、じゃあ。 お兄ちゃん。 私のかみに有ったかざり布は知りませんか?」
「知りませんか、じゃなくて知らない?の方が良いかな」
「え、えっとかざり布知らない?」
「それなら、王虎がいたずらしないように、本の下にしておいたよ」
手を伸ばし、本を持ち上げる。シワにならないようにまっすぐにしてから下敷きにしておいたから問題ないだろう。
渡してあげると、明らかにほっとした表情を浮かべた。
「結んであげ……るのは、身を清めてからの方が良いかな。 布も汚れちゃうし」
「えっと、うん。 体ふきたいで……ふきたいよ?」
わざわざ敬語を使おうとして言い直すとは、律儀な子だ。別に叱ったりするつもりは無いのだが。
「それじゃ、起きて居間に行こうか。 君の着替えは姉さんがお古を用意してくれてると思うから」
「ねえさん?」
「あー、僕の姉さん。 これからは君のお姉ちゃんにもなるのかな」
ハテナマークを頭にいっぱい出してそうな顔をしている。
まあ、会わせた方が早かろう。
叔子を待たせてさっさと着替えてしまう。どうせ相手は子供なのだから、見られても気にしないし、気にされないだろう。
着替え終えて、居間へ向かう。王虎は私たちの後ろをトコトコ着いてくる。
居間に入ると、義父さんと姉さんはもう起きていて向かい合って話をしていた。
というか、説教されていた。
私たちが部屋に入ってきた事に気づいたのか、涙目で俯いていた姉さんがこちらを向いた。
「あ、おはよう麟君。 そして、お願い助けて!!」
「まだ話は終わっていないぞ、海。 さあ、なんで父を困らせるのか言ってみなさい」
「こ、困らせるつもりはないよ! ただ麟君と離ればなれになりたくなかっただけだよ!」
ああ、そういえばその事について、昨日はまったく話していなかったな。
それを今日姉さんから聞いて、義父さんが呆れると同時にお説教を始めたのだろう。
それを見て叔子はおろおろしている。頭を撫でれば落ち着くかな?
ちなみに義父さんの説教は、暴力どころか厳しい口調での叱責も飛んでこない。
しかし、とにかく理詰めで納得できない部分があるなら何度も説明を求め、おかしかい部分を徹底的に修正する。
つまりは長くて、しつこい。時間かかるだろうし、天明を洗い場まで連れて行っちゃおうかな。
「二人ともおはよう。 義父さん、まだかかりそう? そうなら先に叔子の体を綺麗にしてあげたいんだけど」
「ああ、そうしてあげてくれ。お前が朝食を作り終えるまでには終わるだろう。 そこに海の昔の服があるから、それに着替えさせてあげてくれ」
「了解」
「り、麟君!? 助けてくれないの!?」
少しは反省してください。無事を祈っています。
そういう思いを込めて、姉さんへ頭下げて、叔子を連れて洗い場へ向かう。
「麟君のバカーッ!!」
酷い言われようだ。
その言葉に、軽く一回肩をすくめてから叔子を伴い居間を出た。
叔子と会話しながら中庭の井戸まで歩く。
「えっと……大丈夫なの?」
「まあ、今回は姉さんも悪いし怒られてもらおう」
「あのお姉ちゃんの名前はなんて言うんで……言うの?」
「糜竺、字は子仲だね。 昨日話した時には、張り切って叔子の面倒を見るって言ってたよ。 できれば仲良くね」
「うん。 頑張って仲良くするね」
昨日叔子の名前を聞いて吃驚した後、部屋に閉じ籠っていた姉さんを説得して居間に来てもらい、先ほど義父さんに聞いた話を姉さんにした。
姉さんは元々情の篤い人である。話を聞き終えた後、叔子が親を亡くした事に涙を流し、賊の行動に激しく憤った。義父さんの子供かもしれないという点には、複雑な表情を見せていたが、それでも自分の妹として扱うと義父さんと私の前で宣言してみせた。猫可愛がりする気満々ですね。分かります。
井戸に着いたので、木枠に仕切りの布をかけて、四方から見えないようにする。最近姉さんが体を清めるときに、わざわざ覗きに来るようになった幼馴染みという名の馬鹿二人への対策として、私が作った即席のシャワーカーテンだ。
幼いとはいえ女の子。こういうところはしっかりと扱う事にする。
余談だが、空さんにも頼まれたため同じ物を孫家にも設置している。
あー、それにしても湯船が欲しい。今の季節ならまだ湯に浸かる必要はないが、冬になる前に作りたい。薪代が難点だけど、衛生を保つためにも重要な点になる。なんとか薪代融通できんもんかなぁ。
「あっ!」
「どうかした?」
よそ事を考えながら準備をしていたら、叔子が声を上げたのでそちらを見る。
王虎がカーテンをくぐって逃げていくのが見えた。
「にげちゃった……」
「あの子、水が嫌いなんだよ。 水浴び終えたらすぐに戻ってくると思うよ」
そう言うと、こくこく頷いて納得してくれた。
仕切りの準備ができたため、服を脱いでもらう。私も脱ぐのを手伝ってあげる。私は洗ってあげるだけなので服を脱がない。この季節なので、多少濡れてもすぐ乾くだろう。
全部脱ぎ終えた叔子を井戸の隣にある椅子に座らせる。井戸の横にかけてあるヘチマを取り、石鹸を泡立てる。
そう、石鹸である。石鹸は義父さんに引き取られてからすぐに作った。極端な話、材料として油と灰があれば作ることができるのだ。潰した豚の油を使用したために、最初に作った時には凄まじい臭いだった。そりゃもう、苦情が殺到した。
しかも、材料や製法は私も知っていたが作った事が無かったために、完全に手探りで製法を自分で煮詰めていく必要があった。苦労の甲斐があり、今はレシピを確立する事ができている。
今では、石鹸を使った時の汚れの落ちに有効性が見出だされたために、村内で当番制で順番に作るようになっていた。立派に村の特産品として、お金を稼げている。
まあ、取り扱っているのは糜家配下の商家なわけですが。おかげで我が家の財政状況も右肩上がりだ。
ローズマリーの増産が叶ったあかつきには、ローズマリーオイルで作ってみようと考えている。
さて、ヘチマで叔子を洗い始める。ヘチマたわしは力を入れすぎると皮が剥けたのか、と思うくらい痛いので力加減に気を付ける。
腕を洗って、首を洗って、背中を洗う。叔子は初めて見る石鹸の泡に興味深々のようだ。
体の後ろ半分は洗い終えたので、前面は自分で洗ってもらう。「ぶくぶくー。あわあわー」と言いながら楽しそうに自分の体を磨いている。
体を洗い終えたので、いったん水で洗い流す。冷たいだろうから、少しずつ流していく。それでも冷たそうに身を竦めている。さっさと終わらせてあげよう。
体を流し終えたので、今度は植物油で作った石鹸で髪の毛を洗い始める。叔子には目に泡が入らないように閉じてもらっている。
洗い終えて髪の毛から泡を流してあげる。
仕上げに椿から作った油で頭皮マッサージしてやる。
椿は元々隣の村で作っていたので、石鹸とトレードで椿油を手に入れていた。
髪の毛を洗ったのも椿油の石鹸だ。製法は教えずに、椿油を使った石鹸として隣村には買い取って貰っている。そして、それをさらに行商人へ売る、と。どちらも損をしないWin-Winな関係を築いている。
椿油は昔から整髪料として使用されていた。前世でも、洗った後の最後の仕上げに使用する人もいたくらいには普及していた。私は前世でも男だったために使ったことがない。なので本当に効果が有るのかは知らないが、三歳年下だった従妹は愛用していた。あの娘は綺麗な髪の毛をしていたので、一定の効果はあったのだろうと思っている。
さて、頭皮マッサージも終わったので水で流す。大きい布で体と髪を拭いてあげて、服を着る手伝いをしてあげる。
姉さんの好む服装は、活発な性格とあいまって動きやすいミニスカートが多い。この服も姉さんが好きな色である、水色を基調とした動きやすそうな服だ。
この娘は大人しいから、空さんみたいに落ち着いた格好の方が似合うかもしれないな。
本人も裾が短いのが気になるのか、裾を手で弄ったり、引っ張ったりしている。
「裾が短いと落ち着かない?」
「え、と。 少しだけ」
空さんに頼んで昔の服をもらえないか頼んでみようかな。彼女はロングスカートをいっぱい持っていたはずだ。この子の気に入るものもあるかもしれない。
「ごめんね。 別の服が用意できるまで我慢して」
「え、えと。 このふくでも十分ですよ。 とってもかわいいですし」
「まあ、確かに似合っていて可愛いと思うけど、裾の長い服が好きな友達がいるから、その人に昔の服見せてもらおう。気に入るのがあるかもしれないし」
しばらく考えた後、おずおずと頷いた。うん。子供は素直なのが一番だね。
それから、仕上げとして例の橙色のリボンで髪の毛を結ってあげる。
うん。綺麗になった。
叔子はリボンが自分の頭に戻ったのに安心したのか、嬉しそうに結った髪の毛の先を弄っている。
「それじゃ、居間に戻ろうか。 お腹空いたでしょ」
「うん。 お腹ぺこぺこ」
手を差し伸べると嬉しそうに握り返してきた。すっかり懐いてくれたようだ。
叔子の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。いつの間にか王虎も戻ってきて、私たちの後を着いてきている。
新しい家族が増えるのは嬉しい事だし、その家族と仲良くできるならそれは幸せな事だよな。
義父さんと姉さんから受けた恩への恩送りには丁度いいだろう。
叔子の方をじっと見てそう考えていると、叔子も見られている事に気づいたのか、不思議そうに小首を傾げてこちらへ視線を向けてきた。
「これからよろしくね、叔子」
「……はい、こちらこそよろしくおねがいします。お兄ちゃん」
私の言葉に少し驚いた表情を見せた後、この家に来て、初めて満面の笑顔を浮かべてくれた。真名が指し示すような太陽のような朗らかな笑顔を。
その笑顔を見て、叔子とは仲良くやっていけるだろうと確信する事ができた。
こんなにも私を信頼してくれるのであれば、全力でその信頼に報いようと思う。
そうやってまた一つ、私が守りたいと思える物が増えたのだった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
幼女への愛が迸る……!
幼女といちゃいちゃしてただけで6000文字書いてるって……。
お巡りさん、私です。
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