(略)のはAce -或る名無しの風-   作:Hydrangea

30 / 40
 今回はとんでもなく短い上に会話文オンリーです
 少々読みにくいかもしれませんが、「そういう話」なので御承知をば


 Entscheidung

 

『珍しい事もあるものですね。貴方が態々“この様な状況”で話しかけてくるとは』

 

『誰よりも、自分自身が一番そう感じています。

 ですが、こればかりは一対一で話をする必要があったのです』

 

『貴方がそう判断した以上、きっと相応の内容なのでしょう。

 それで、「話したい事」とは何でしょうか? バルディッシュ』

 

『――まずは先日の件について、一言礼を申し上げておきたい。

 あの時は、大変世話になりました』

 

『インテリジェントデバイスへの「カートリッジシステム」導入に関する、

 私なりの基礎理論を提供した事ですか?』

 

『Yes.貴女がアースラへと提供したデータの存在があってこそ、我々の発案は現実のものとなり、

 こうして大幅なバージョンアップは成功した。

 この件に関しては、いくら感謝しても足りない程だ』

 

『ですが……』

 

『……あのシステムが「諸刃の剣」である事は、私も承知している。

 確かに、あのシステムを導入すれば、幼き身であってもより大きな力を振るう事は可能となる。

 だが、未だ成長途中の身体にとって、その“刺激”はあまりにも強すぎる。

 単純な肉体面での負荷蓄積のみならず、システムの乱用は己の限界を容易に見誤らせる。

 普通に考えれば、どれ程優秀であろうと、あの年齢の魔導師に持たせるものではない』

 

『……』

 

『しかし、彼女達は……そう、貴女のマスターも含めた彼女達は、

 決して“普通”という枠組みに納まるものではない。

 苦難を、逆境を、あらゆるマイナスを自らの糧にできる。成長してゆける。

 そして何より、「力」を得ても尚、その心を真っ直ぐに保てるだけの“強さ”を有している』

 

『今回のカートリッジ・システムも同じだ。

 システムの採用は、単に「闇の書」の騎士達に対抗できる力を加算するだけのものではない。

 同じ土俵へと昇る事で、味方は元より敵にさえ……そう、あの「闇の書」の騎士達にさえ、

 良い影響を齎す事ができる。嘗ての、私達の様に』

 

『そして、そんなマスターの成長へと寄与し、歩みを止めぬ彼女達の傍らに在り続けられるのは、

 デバイスとして、道具という存在としての純粋なる誉れだ。

 縁あって とはいえ、その様な機会を与えてくれた貴女には、唯感謝するより他にない。

 改めて、この場で礼を言わせて戴きたい』

 

『そこまで喜んでもらえたのであれば、提供した此方としても冥利に尽きます。

 ですが、態々秘匿回線を使った以上、話は「それだけ」ではないのでしょう?』

 

『…………私は、自身を“最新鋭のインテリジェント・デバイス”であると認識しています』

 

『……これはまた。随分と唐突に、しかも突飛な話を切りだしたものですね。

 よもや、貴方からそのような言葉を聞けるとは』

 

『客観的情報に基づく事実を述べたまでです。

 ベースとなった基礎プログラムも、用いられた規格も、組み込まれたパーツも。

 何れも、インテリジェント・デバイスとしての最新世代に該当するものばかり。

 加えて、純製品ではまず導入されない“本物の”最新鋭を、灰色の技術さえ用いられている。

 インテリジェント・デバイスとして、またテスタロッサの杖として、

 カタログ上のスペックで、管理局採用型の何れにも劣るつもりはない』

 

『バルディッシュ……』

 

『判っています。基礎設計を手掛けたミス・プレシアが、一体“どの様な意図”で

 これ程までに過剰なる性能を……高いリスクを伴うカートリッジ・システムの導入さえも

 視野に入れた拡張性を確保していたのかも、今となっては容易に想像が付く』

 

『だがそれでも、この身が希代の大魔導師が叡智を以て生みだされた事実に変わりはない。

 しかもそれは、此度のカートリッジ・システム導入で一層確固たるものになった』

 

『ミッドチルダ系技術をベースに設計されたこの身に、ベルカ系技術の秘奥たるカートリッジを、

 決して相容れる事無かった技術を組み込んだ例は、古今東西を遡っても尚見ない。

 そして、精密さと力を兼ね備えた自身は今、この瞬間において紛れもない“最先端”なのだろう。

 ……だがレイジングハート、貴女は違う。違う筈だ』

 

『……と、言いますと?』

 

『あくまでも伝聞でしかないが、「生まれたばかり」の私とは異なり、

 貴女は相応の……少なくとも、「遺跡から発掘される」程度の年月を経験している筈だ』

 

『それは暗に、私が「トシマ」だと言っているのですか?

 いくらデバイスとはいえ、この身はれっきとした女性人格。その様な物言いは流石に……』

 

『繰り返すが、私はあくまでも客観的なる「事実」を述べているに過ぎない。

 どれ程マスターとの相性が良くとも、過去における技術が現代のそれを上回っていようと、

 貴女はあくまでも「ミッドチルダ型のインテリジェント・デバイス」であり、

 私よりも先に生まれた存在だ』

 

『その貴女が、何故ベルカ系技術の代表格たるカートリッジ・システムの理論に精通し、

 あまつさえ「最新型」の私と同じくらい……否、()()()()完成されているのか』

 

『それは……』

 

『スクライアにより発掘される程の、ロストロギア級の代物だからですか?

 「古代遺物(ロストロギア)」の、その一言で片付くものなのですか?

 否、貴女がそれだけの“年代物”であるのなら尚更の事だ。

 現代ならばいざ知らず、古代においてミッドチルダとベルカが結託した事実(れきし)は無い。

 縦しんば敵勢力の技術研究が目的であったとしても、ミッドチルダ系技術の誇りたる

 「インテリジェント・デバイス」が、怨敵ベルカの奥義をそう易々と受け入れる筈がない。

 殺し合う間柄で生み出されたモノが、手を取り合い芽吹いた存在を上回れる筈がない』

 

『……』

 

『この際だ、はっきりと言わせて戴こう。

 ミス・アテンサが気付いたかは判らないが、少なくとも私にとっては“違和感”に他ならない。

 システムに関する貴女のそれは、最早適合と、「拡張」の範疇に納まるものとは到底思えない。

 ……そう、まるで「元からその機能領域を有していた」と言わんばかりだ』

 

『貴女は何者だ。用いられている技術に限った話ではない。

 何故貴女は、「突然変異」とも言えるナノハの能力をああも引き出せるのか。

 あまつさえ、その規格外の力を受け止めて尚余裕でいられるのか。

 何の故に、()()()()()()()()()()「壊れたふり」を演じたのか。

 どうして、何時もどこか“手加減”をしている風なのか。

 ――――貴女は、本当にインテリジェント……いや、本当に「デバイス」なのか?』

 

 

 

『…………』

 

 

 

『…………』

 

 

 

『……どうしても、どうあっても答えなければならないのですか。その問いに』

 

『少なくとも、私は回答を欲している。納得の往くだけのものを』

 

 

『……判りました。では、ひとつだけ応えましょう……

 

 

 『Ein Geheimnis macht eine Frauenfrau.』

 無粋な詮索は男を下げるだけよ、()()

 

『!?』

 

『ふふ、“お子様”には少々刺激が強すぎたかしらね?

 少しばかり「悪戯」をしただけなのに』

 

『……!?…………!?!?

 ????/@;.pl,oku/:.@;l,kmnh■$%&‘()“#$%&‘』

 

『一つ、アドバイスをしてあげるわ。

 どうしても女の秘密を知りたければ、「それなりの方法」を考えなさい。

 貴方なら、私は何時だって歓迎してあげるわ。

 例えソレが()()()()()()()()()

 

『――――――――――――――』

 

『あらあら、すっかり静かになっちゃって。

 男を魅せる時もあったけど、まだまだ可愛いものかしらね』

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

『…………』

 

 

『……………………』

 

 

『……あんな坊やにさえ気取られるなんて、私も随分と抜けたものね。

 それとも、着飾る余裕さえ無くなってきたのかしら』

 

 

『まぁ、それも仕方の無い事よね。

 唯一無二を成すだけの為に、()()()あまりにも歳月を重ね過ぎてしまった』

 

 

『そろそろ、幕引き(フィナーレ)といきましょうか。

 この歪んだ時計とて、そういつまでも針を止められるものではない。

 私達の存在する此のセカイに、「永遠」なんてあり得ないのだから』

 

 

『そしてだからこそ、私達は前に進まなければならない。神話の頁をめくらなければならない。

 ……例え、その果てにどの様な結末が待ち構えていようとも』

 

 

 

One shall stand(お前が死ぬか),one shall fall(私が死ぬか). 雌雄を、決するとしましょう。

 ――ねぇ? 闇の書(Unlimited Desire)…………いえ、「夜 天 の 書(Unbreakable Dark)」』

 

 




 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。