「鹿目さん。最初に会った時から、ずっと思ってたんだけど何で髪ピンク色に染めてるの?」
「ああ、
「え!?……まさか生まれた時からその色だったんじゃないよね」
「私も最初は政夫くんと同じ黒髪だったんだよ。でもね・・・この町にいると髪の色が自然と変わっちゃうの。不思議だよね」
「……じょ、冗談だよね。もちろん」
「政夫くん、この町でほむらちゃん以外で黒髪の人に会った?」
「…………嘘だ」
「嘘じゃないよ。ほら、この手鏡見て。政夫くんの髪が見えるよね。綺麗なオレンジ色の髪が……」
「嘘だ……嘘だ嘘だうそだああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアぁぁぁぁ――――」
ジリリリリ。ジリリリリ。
時代遅れの旧型目覚まし時計のけたたましい音で僕の意識は覚醒した。
あれは夢か……。恐ろしい夢を見た。近年まれに見る悪夢だ。
未だに心臓の鼓動が大きい。
少し胸に手を当てて、深呼吸。よし、
時計を見る。ちょうど時計の針が七時を指している。さっさと起きて学校に行かないと。
「おはよう。よく眠れたかい?昨日は随分と疲れた顔をしていたからね。朝ごはん、作っておいたよ」
顔を洗って居間に行くと、父さんが朝食を作って待っていてくれた。
夕田満。僕の父であり、たくさんの病院からオファーが絶えないほど有名な精神科医だ。
そのせいで僕はよく転校するはめになっているが、それを恨んだことは一度もない。
母さんが小学校に入る前に亡くなって以来、男手一つでずっと僕を育ててくれた自慢の父親だからだ。
「ありがとう、父さん。昨日は転校初日で疲れちゃってさ」
「う~ん。でも、それだけじゃないだろう?」
流石は父さん。鋭いな。
本職の精神科である父さんに嘘は効かない。この人に嘘を吐いてばれない人なんかいないだろう。
でも、いくら何でも父さんに魔法少女の話せない。そんなことをすれば間違いなく、父さんの
「話せないなら、別にいいよ。そこまで根掘り葉掘り聞くつもりはないから。ただ危ない事はしないでね」
そう言うと父さんは、新聞に目を落とした。
『危ない事』、か。転校初日でイジメられたのか、じゃなくて僕自身が危険な事をすることに釘を刺した。
つまり、父さんは僕がそういった『危ない事』をしようとしていることに気付いている。
実の息子とはいえ、よく一目でそこまで分かるなぁ。
その後、僕は朝食をとり、制服に着替えて出掛けた。
父さんは行ってらっしゃいと言っただけで、最後まで『僕に昨日あった事』を
鹿目さんたちと待ち合わせしている場所に向かっている時、不意に曲がり角から、僕の進路を
「少し、時間を取らせてもらえるかしら。夕田政夫」
そこにいたのは紛れもない銃刀法違反の犯罪者、暁美ほむらだった。
「それで、何の用かな?暁美さん」
近くにある公園で少し暁美ほむらと話すハメになってしまった。
逃げようかとも思ったが、拳銃を所持している可能性がある人間に、後ろを見せるほど僕の危機管理能力は甘くない。
「単刀直入に言うわ。鹿目まどかや美樹さやかと一緒に、巴マミから離れなさい。魔法少女は貴方たちが思ってるほど、甘い物じゃないわ」
暁美は、冷たい凍えるような瞳をしていた。そこには、何かに対する強い執着が感じ取れる。
ふむ。ちょっとカマをかけてみるか。
「いや、もう手遅れだよ。美樹さんはともかく、鹿目さんは契約しちゃったし」
「う、嘘ッ!?そんな……」
暁美は目を皿のように広げて、まるでこの世の終わりが来たかのような声を吐いた。
「ああ、嘘だよ。確かに巴先輩に同情して、魔法少女になるとか言っていたけど、まだ契約はしてない」
そう言った
「貴方は私を馬鹿にしているの?・・・」
「違うよ。支那モン、いや、キュゥべえと鹿目さんの出会いがいくらなんでも出来すぎてたから、ひょっとして暁美さんとキュゥべえはグルなんじゃないかと思ってね。カマをかけさせてもらったんだ」
あの倉庫でキュゥべえが鹿目さんに助けを求めたとしても、鹿目さんがショッピングモールにいなければ意味がない。だから、暁美とキュゥべえが実はグルで芝居でも打っていたのかと思ったのだが……。
「ふざけないで!私があいつとグルなわけないでしょ!」
暁美は、珍しく大きな声を出して激昂した。この怒り方は演技ではないな。
「そのようだね。ごめん、君に失礼なことしちゃったね。許してくれるかな」
しかし、今のやり取りでわかったことがある。
あのぱっと見、無害なマスコットにここまで怒りを浮かべるなんて尋常じゃない。間違いなく、暁美は支那モンがどういう存在なのか知っている。
そして、暁美が支那モンとグルではないということは、支那モンは暁美に襲われながらも、あの鹿目さんのいるショッピングモール向かっていたということ。支那モンがどれほど狡猾であるかがうかがえる。
やはり、あの宇宙生命体は怪しい。少なくても僕や鹿目さんの味方ではないことは確かだ。
最後に、この女は鹿目さんのことを本気で大切に思っている。
同性愛者なのだろうか。だとすれば、こいつはこいつで鹿目さんにとって、かなり危険な存在だ。
結局のところ、暁美は僕の知りたい情報を一つも話してはくれなかった。
ただ言いたいことだけ言って、さっさと行ってしまった。
何て女だ。このコミュ障が!だから、お前は友達が居ないんだ。昼食の時間、独り寂しく便所で飯でも食っていろ!
いけない。つい、無意味に熱くなってしまった。
そろそろ僕も学校に向かわないといけない。それに鹿目さんたちを待たせたままだ。
彼女たちは、すでに先に行ってしまっただろうか?それならいいんだが、もし僕のことをまだ待っているとしたら急がなくちゃいけない。