どうしてこうなったんだろう。
暁美が急に具合が悪くなったと言い出し、鹿目さんが保険委員として彼女を保健室に連れて行くこととなった。
うん。ここまでは分かる。
僕は実際に見たわけではないが、体育の授業で中学陸上の記録を塗り替えたらしい(陸上部の人たちが騒いでいたのを聞いたので信憑性は高い)というのに何をほざくかとは思ったが、この際それは置いておこう。
ちなみに更衣室は流石にガラス張りではなかった。当たり前と言えば、当たり前なのだが、かっ飛びすぎてるセンスの校舎なので実際に目撃するまで信用ができなかった。
しかし、安心したのも
話を戻すが、問題はなぜ僕がそれに同行しなければ行けないのか、だ。
いや、原因は分かっているの。全てはあの青髪が『そうだ。せっかくだから政夫もまどかに保健室の場所、案内してもらえば。場所分かんないと不便でしょ』とかにやにや笑いながら提案したせいだ。
ここで僕が断れば、放課後の女暴走族チーム【ディアーアイズ(仮)】のリンチがより苛烈になる、故に選択肢はなかった。
それにしても美樹のなれなれしさは留まることを知らないな。呼び方がいつの間にか『転校生』から名前呼びに変わっていた。まだそれほど親しくないんだから、苗字で呼べよ。
いつか他人との距離感を誤って、人間関係壊すぞ。
そんなこんなで今この状況にあるのだが。
辛い。ひじょーに辛い。
そんなやつらが超至近距離にいる。これは苦痛以外の何物でもない。僕にできるのはせいぜい黙って早く保健室に着くことを祈るぐらいだ。
暁美と鹿目さんは
会話と言っても鹿目さんが話題を振って、それに暁美が二、三言答えると言う一方的なコミュニケーションだ。
「暁美さんって」
「ほむらでいいわ」
「ほむらちゃんって変わった名前だよね。あ、いや別に変ないみじゃなくって・・・そのかっこいいなって・・・」
それはどうだろう?確かに漢字で『
僕としては、ポケモンのルビー・サファイアに出てきた「ウヒョヒョ」と特徴的に笑うマグマ団幹部を思い出して、軽く笑えてくるのだが。
「ッ・・・鹿目まどか」
「は、はい」
「貴女は自分の人生を貴いと思う?家族や友達を大切にしてる?」
おいおい、何か語りだしちゃったよ。いくら中学二年生だからって、本当に厨二病の人間初めてみたよ。
鹿目さん固まってるし。まあ、無理もないけどさ。
しかたない。助け舟か。そうすれば、ひょっとしたらリンチは許してくれるかもしれない。
「君自身はどうなんだ?暁美さん」
「急に会話に割り込んできてどういうつもり?夕田政夫」
暁美が僕を射抜くように睨む。
こわッ。暁美さん、目こわッ。ギャグ漫画日和のウサ美ちゃんみたいな目してる!
だが、ビビるな、僕。鹿目さんのヘアカラーの方が百倍怖いはずだ。
「さっきから、君は他人を突き放したような態度ばかりだ。そんなんじゃ君が言うところの『大切な友達』もできなければ、『貴い人生』も送れないよ」
体育の件でクラスメイトに褒められても『別に』の一言で返した時は、沢尻エ〇カかよっと内心で突っ込んでしまった。
「・・・・・大きなお世話よ。貴方には関係ない」
「鹿目さんにあれだけ語ってた君がそれ言うの?」
発言がブーメランになってることに気がついてないのか、こいつは。
「ッチ。とにかく、鹿目まどか。もし貴女が今の生活を大切に思っているなら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね」
露骨に舌打ちされた上、無視して鹿目さんに話しかけ始めやがった。
生まれて初めて僕は本気で女を殴りたいと思った。
「うわッ、何それ!?転校生ってそんなキャラだったの?文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん。くー!萌えか?そこが萌えなのかあ!?」
ショッピングモールにあるカフェの一角で、やたらとテンション高い青髪さんが他の客の迷惑も考えず叫んだ。
「少しも萌えないし、不快感しか周りに振り向かないよ、あいつは。電波どころかキ〇ガイの領域に片足突っ込んでる。一週間もすれば周囲に引かれて孤立するね。あと美樹さん、声でかい」
思い出しただけでも腹が立つ。
あの鉄面皮の社会不適合者め。個人の能力だけで社会を生きていけると思うなよ。
「そ、それは言いすぎだよ。ほむらちゃんも悪気があったわけじゃないと思うし・・・」
なぜかあの社会不適合者を
話してみると鹿目さんは不良でも何でもなかった。むしろ、荒んだこの世間では天然記念物並みに珍しい良い子だった。
「でも鹿目さん、悪気もないのに舌打ちしたのなら、あいつ真性のクズだよ」
「いけませんわ。政夫さん、実は好意の裏返しとも考えられますわ」
ナチュラルに僕の名前を呼ぶ、昆布や若布を
「そんな事より、まどかさん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」
ほら、その証拠に舌打ちを『そんな事』で流したよ。
「うん。常識的にはそうなんだけど・・・昨夜あの子と夢の中で会った・・ような・・・・」
鹿目さんはたどたどしくそう答えた。
「それは最悪の悪夢だね。さっさと忘れた方がいいよ」
いや、暁美は鹿目さんのこと知っていたみたいだから、呪いか何かを鹿目さんにかけているのかもしれない。どこまで嫌なやつなんだ、暁美ほむら。
「政夫くん。さっきからほむらちゃんに対してちょっと酷すぎるような気が・・・」
「気のせいだよ。鹿目さん。でも、あの手の
あははと引きつった苦笑いするカラフルな髪の三人。僕、なにか引かせるようなこと言ったかな。
それからすぐに志筑さんは家の習い事で帰り、僕らは美樹の要望によりCDショップに向かうことになった。
だが、アイポッドで好きな曲をダウンロードしている僕は、正直CDに興味がなかった。
安くて豊富な種類の音楽をほとんど
そんなことを考えていると鹿目さんが挙動不振にあちこちを見回し始めた。
「え?誰なの?どこにいるの?あなた・・・誰?」
突然意味不明なことを言い始めた。
どうしちゃったんだ!?鹿目さん!まるで暁美のような厨二病を・・・・・・ハッ、まさかこれは暁美ほむらの呪い!!
鹿目さんは急にどこかへ歩き出した。だが、足並みはしっかりしているので結構速い。
なんかもう、あれは駄目だ。明らかに電波でサイコな領域だ。僕には手に負えない。
僕も帰ろう。お家に帰ろう。でん、でん、でぐりがえしで、ばい、ばい、ばい。
ちょっと無責任に帰ろうとした。
「政夫。まどかがどっか行っちゃったみたい。いっしょに来て」
美樹は僕の手を掴むと、僕の返事も聞かずに鹿目さんを追いかけて走り出した。
美樹に連れられてショッピングモールの裏の「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板のある大きな倉庫に着いた。
倉庫の扉は開かれており、明らかについさっき人が入って行った
「ここにまどかが入って行ったのね。それじゃ政夫・・」
「うん。帰ろうか。関係者以外立ち入り禁止って書いてあるし」
一瞬、結構本気で呼吸ができなくなった。
「何でそうなるのよ!まどかを助けに来たんでしょ!」
「いや、美樹さんが勝手に引っ張って来ただけだから。大体、鹿目さんが自分の意思でここまで来たなら助けなんていらないだろう?」
「うっ、それは・・」
美樹は僕の言葉にたじろぐ。後先考えず、その場のノリだけで行動するからこういう目に合うんだ。少しは反省してほしいものだ。
「いや、でもほら、こういう所は危ない奴とかが居そうで危険じゃない?だから」
一見正論にも聞こえる自分の
「そうだね、身勝手な考えで『立ち入り禁止』のルールを破るような危ない人たちがね」
「うっ・・・!」
僕の一言で美樹はまた言葉に詰まった。
自分達も危ない人間に入るという事に気付いたようだ。考えが足りないだけで頭は存外悪くないらしい。
とは言う物のいくら美樹でも、流石にこんな場所に一人で行けというのは
「わかったよ。一緒に行こう」
「さっすが、政夫。話がわかるぅ~」
パァーっと顔を輝かせる美樹。なんて単純な女なんだ。将来ホストとかに引っかかりそうだ。
もう一話投稿しました。
若干手直ししたりしてます。