最初は三人称です。
では本編どうぞ。
侠の行動を制止させようとする声。空間がゆがみ、そこから八雲紫と妖夢の主、西行寺幽々子が出てくる。侠は幽々子の指示通り行動し、侠は意図的にスペルブレイクさせ、元の姿に戻った。それと同時に凍りついていた大地や木々の氷が少しずつ溶けていき、妖夢の足下の氷が溶けていく。
妖夢は急に現れた主を見て困惑する。
「ゆ、幽々子様……? これはどういうことですか!?」
「私は単に妖夢が狩ってくる鳥のことを教えただけよ。そうしたら血相を変えてあなたを止めに来たのよ。私の命令を無視してまで」
「!? なら、侠さんのしたことは許されることでは──」
「いえ、許される事よ」
妖夢の言葉に紫が口を挟み、否定する。その言葉にさらに妖夢は困惑した。
「な、何故許されることなのですか!? 侠さんは幽々子様の命を──」
「あなたは幽々子に盲信すぎるのよ。幽々子の命令ならあなたは何でも従うつもり?」
「そ、それはもちろんです!」
「じゃあ今回のことを置き換えてみましょう」
紫は扇子を取り出し、口元を隠しながら例え話をする。
「侠が実際には違うけど……化け猫の橙をそこまで知らなくて、見た覚えがある程度。それに比べてあなたはいつも通りよく知っていることにしましょう。ちなみにこの橙は私と藍が全く関係ないとしてね。幽々子が猫を狩ってこいと言ったらあなたはどうするつもり?」
「それは……野生で生きている猫を狩ってきます。橙ちゃんは関係ありませんし」
「今回のことを置き換えるとなると、侠は真っ先に橙を思い浮かび──狩ろうとしている。それを知ったあなたはどうする?」
「なっ!? それならば侠さんを止めます!」
「それが今回のことなのよ」
扇子をしまい、妖夢に事実を押しつけた。
「ならば、幽々子の命令はどうなるの? 橙だって猫の分類なのよ。侠は命令を忠実にやろうとしている。なのにあなたは幽々子の命令を無視して侠の妨害をするの?」
「──っ!? そ、それは……!?」
妖夢は置き換えてようやく分かった。妖夢はミスティアのことはよく知らない。しかし、侠はそうではなかった。侠はミスティアと親しかった。親しい人物が狙われていると分かったら助けに行くだろう。幽々子の命令を無視してまで。
……しかし、置き換えても変わらないことがある。
「でも……なら私はどうしたらよかったんですか!? 侠さんと幽々子様はお互い詳しいところまで知らないですが、私は違います! 祖父から幽々子様の事を任されて……過ごした時間も侠さんより長いんですよっ! その幽々子様の命令に逆らうなんて……私には出来ません……!」
妖夢は泣き崩れた。今まで信じた通りにしていた行動が、置き換えるだけで主のことを裏切ってしまうことになってしまう。そこからどうすれば良いのか分からなかった。
それを見てか──侠は妖夢に歩み寄り、片膝をついて話し始めた。
「……今回の解決方法は単純なことだったんだ。いち早く行動をしないで、相談すれば何にもなかったんだ」
「……相談……ですか?」
「きっと魂魄は余り同年代──いや、外見か? 俺とかの外見ぐらいていうか何だろうな……立場が上の人ばかりと過ごしていたんだろう? だからその判断は正しいものだと思っていた。今回はそういうことだったんだ」
侠は一度紫と幽々子を見てから妖夢に視線を戻し、話を再開。
「だが、同じ命令をされても個人によっては理不尽なことと感じることもあるんだ。妖夢は関係なかったかもしれないが、俺にとっては問題があったんだ。これは俺の勝手な判断でしたんだから魂魄は悪くない」
「そんな……でも、私……侠さんを斬ってしまって──」
「命が無事なんだからそんなことを言うな」
侠は右手の指で妖夢の額をデコピンした。妖夢は少し痛がるが、侠は話を続ける。
「今回は結果オーライだ。俺はミスティアを助けられたし、魂魄はゆゆさんの命令を守ろうとした。今回はこれで終わりにして次回から気をつければ良い。こんな俺でもよかったら相談に乗るかならな? これからは一人で勝手に行動せずに、誰かしらに確認や相談をするようにすれば良い。まぁ、愚痴でも構わないが。そうは言っても別に俺じゃなくても良いんだが」
「……どうして……?」
「ん? 何だ?」
顔を俯いて呟いた妖夢に耳を傾ける侠。
「どうして……私に優しく出来るんですか? 私……侠さんのことを邪険に扱ったりしていたのに……」
「……俺はな、例え嫌われたとしても俺がそいつを人格的に嫌いでない限り差別は嫌いなんだ。魂魄ぐらいなら俺は全然気にしないぞ。ま、これからすこしでも優しく接してくれると嬉しいが」
「…………はいっ! 不束者ですが、よろしくお願いします!」
侠の言葉に吹っ切れたように妖夢は頷いた。その言葉を聞いて紫と幽々子はニヤニヤしているが。
「(……何か言葉が危なっかしい──っ)」
彼はそんなことを思いながら魂魄と立ち上がったとき、頭がぐらつき右手で押さえる。それを見た妖夢は心配して彼に話しかける。
「侠さん? どうかしたんですか?」
「いや……ちょっと頭がふらついて──」
侠の言いかけたことを紫が原因を指摘する。
「そりゃそうよ。さっきから左腕から血が流れ続けているのだもの」
「「……えっ?」」
「気づいていなかったの〜?」
幽々子にも指摘されて侠と妖夢は彼の左手に視線を送ると──妖夢と戦う前に氷で塞いでいた傷口の氷が外れていて、血がポタポタと流れ続けて地面に血だまりを作っている。
この血が流れ始めたのは妖夢の弾幕が直撃したときに転がったとき、氷が外れて傷口が広がり、流れ始めていた。彼も戦いに集中していて気づいていなかったのだろう。
その様子を見て、彼は冷静に一言。
「あ、やばい。死にそうだ」
「きょぉおおさぁああんっ!? 今まさに死にかけているじゃないですかぁーっ!?」
「紫さん。自分のこの傷何とか出来ませんかね?」
「できる限りならあまり私の能力で治したくないわね。そういうのは自然治癒力で治すのが一番よ(……言い方が元に戻ったわね)」
平然と紫と会話をしている侠に妖夢は疑問しか持たない。
「何で侠さんはそんなに落ち着いているんですかっ!?」
「いやぁ、だって興奮したって出血量が増えるだけだし……」
「あぁ……私の所為で……私の所為で……」
「妖夢。そう思うなら永遠亭で治させようとか考えなさい」
責任を感じていた妖夢だったが幽々子の言葉に気がつき、紫に懇願するように話しかける。
「紫様っ! 申し訳ないですが永遠亭へ送っていただけないでしょうか!? 侠さんは私が責任を持って看させていただきますので!」
「……ふぅ。いいわよ。じゃあ──」
『侠ーっ!』
紫が能力で永遠亭に送ろうとしたとき、侠を呼ぶ声が聞こえたので一同はその方向へ視線を向ける。
「……ミスティアの声?」
「侠! 永遠亭の人を連れてきて──って何でこんなに集まってるの!?」
『ちょっと、急ぐ気持ちは分かるけど……何よこのメンツ?』
侠の言う通り、声をかけてきたのはミスティアで背後から遅れてきた人物もいる。その姿は侠に似た学生服を着ているが、女物のようで頭からウサギのような耳が付いている妖怪だった。
二人とも、妖怪の賢者と亡霊姫がいて驚いている。
「あら、ちょうど良い仕事をしたじゃない。夜雀は」
「がぉー。食ーべーるーわーよー」
「いやぁあああ!? 何で亡霊がいるのよーっ!?」
「聞いた話だと妖夢と【きょう】っていう人間が戦っていて、その人間が負傷しているって──って、かなりの出血量じゃない!? ほら、ちょっと看させて!」
「……ゆゆさんは冗談でもそういうことはやめてください。あ、お願いします」
「…………」
それぞれが色々言い合っているが、妖夢は少し不機嫌そうな表情をしていた……。
〜side 侠〜
『──これでよし。三日は傷口を刺激しないようにね』
「……案外、早く終わったね。汗を流すときとか刺激を与えなかったら大丈夫?」
「ん〜……まぁ、それは許可するわ」
魂魄と色々あった後。ミスティアが医療関連の人(妖怪みたいだけど)を呼んできてくれたおかげで血は止まった。左肩から袖まで切り取られたけど。左肩だけはノースリーブで二の腕には包帯という変わったファッションになった。
……ここの技術は凄いな。薬を塗っただけで出血が止まったし。
「手当てしてくれてありがと。そういえば君の名前は?」
「! ……鈴仙・優曇華院・イナバよ」
「そっか、優曇華院か。変わった名前だね」
「えっ!?」
何やらミドルネームっぽい名前だったのでファミリーネームになっているところを呼んだら何故か驚かれた。
「……呼んだだけでそんなに驚くこと?」
「あ、その……まさか一発で名前を覚えられるとは思わなかっただけよ。それに難しい方の優曇華院で呼ばれるとは思わなかったし……」
「優曇華って確かクワ科イチジク属の落葉高木の花だよね? その花の実は食用だったから覚えていたよ。花の名前が自分の名前に入っているなんて珍しいよね」
「……あなたって頭が良い方なの?」
「さぁ?」
ある意味変な目で見られたか気にしないことにした。
「まぁ、お金は白玉楼の主が払ってくれたからいいわ。それと……止血する際に採取した血液をもらっても良いかしら?」
「? 別に構わないよ?」
「それじゃあありがたくもらっておくわね。私はこれで失礼するわ」
そう言って優曇華院は帰っていた……やっぱり救急セットは常備しておくべきかなぁ……。
そして治療が終わったのを見て、魂魄が──
「侠さ『侠ーっ!』……!?」
話しかけようとしてたようだけどミスティアに遮られ、そのミスティアは……自分に抱きついてきた。
「ミスティア……ちょっと左腕に気をつけて。刺激与えるとダメだから」
「あ、うん……ごめん」
抱きつくのを止めて一定の距離をとった後、改めて話しかけられる。
「侠……本当にありがとう。侠が来てなかったらどうなってたか……」
「ま、結果的にミスティアが無事でよかったよ」
「うん! そ、それと……約束、覚えているよね? 私のお店に来てね! いっぱいサービスしちゃうんだから!」
……実際には約束した覚えはないんだけど、この笑顔を見ちゃなぁ……。
「そうだね。必ず行くから待ってて」
そう言いながら安心させるように、いつかのように頭をなでた。
「えへへ……♪」
笑顔を浮かべて喜んでいることが読み取れる。しばらくなでていたら──
「──侠さんから離れてください」
魂魄が不機嫌そうに自分とミスティアを引き離した。なでられていたことを無理矢理中断されたせいか、ミスティアも不機嫌になり、喧嘩腰で魂魄に話しかける。
「何? 辻斬りは引っ込んでてよ!」
「……侠さん。早速相談事なんですがこの夜雀斬っても良いですか? 斬っても良いですよね?」
「相談してきたことは良いけど却下だよそれ。ミスティアも喧嘩を売るような発言をしない」
「「うっ……」」
自分の指摘に二人ともばつが悪そうに視線をそらした。まぁ、襲った方と襲われた方だもんね。仲良くしろというのも無理か。
そして、自分はあることを思い出して、ミスティアに話しかける。
「そういえば自分のいない寺子屋はどうなってる? 自分無断欠席をしているようなものだからねぇ……」
「え? その事? それだったら侠の代理で…………侠の友達が代理で来てるよ?」
「……静雅か! でも何で静雅が……?」
その事について疑問に思っていると紫さんが会話に入り込んできた。
「私がちゃんと根回しをしておいたわ。ちゃんと静雅に頼んでおいたから」
「あ、そうなんですか……よく静雅引き受けたな……」
「紫様……あの、『静雅』さんって誰ですか? 侠さんの友人みたいですけど……?」
魂魄が聞き慣れない名前に聞いてみるが、代わりにゆゆさんが答える。
「この前幻想郷全体が暗くなる異変が起きたでしょ? その犯人よ」
「…………えっ!?」
「しかもその犯人は霊夢より強いのよね〜」
「えぇっ!? れ、霊夢さんより強いんですかっ!?」
……あれ? この前の異変の新聞を読んでいないのかな?
紫さんは自分の表情に悟ったのか、耳打ちしてくる。
「幽々子の意地悪でね、この前の異変の詳細をあえて教えなかったのよ」
「何故そんなことを……?」
「まぁ、私も教えなかったんだけどね」
おい。
そんな自分に関わらずにゆゆさんは魂魄に話し続ける。
「しかも霊夢より強い静雅を倒したのが侠なのよね〜」
「……侠さんがっ!?」
「そうよ。単純に言えば妖夢は霊夢にまだ勝てたことがないでしょう? でも侠は間接的に言えば霊夢より強いって事になるわね〜。おまけに異変も侠が解決したしね〜」
嘘は言っていないが、ある意味間違っていることを伝えているゆゆさん。静雅に実際勝てたのはお互いに能力を使っていない弾幕ごっこだからだ。
「あの、ゆゆさん。少し訂正したいところが──」
訂正しようとしたとき、魂魄は何故か──自分に向かって土下座してきた!?
「申し訳ございませんでしたーっ!」
「えぇっ!? 急にどうしたの魂魄!?」
「侠さんがまさかそんな実力者とは知らずに卑怯者や不潔等を言ってすいませんでした!」
「ちょっと顔上げて魂魄! 自分は気にしていないし!」
「いえ、私の早とちりで侠さんを誤解していました! もっと私がしっかりしていれば先ほどのようなすれ違いもなかったはずでしたのに……!」
「女の子がそう簡単に土下座するものじゃないよ! 顔を上げて良いから!」
自分は気にしないと言ってみるが……立ち上がって何故か魂魄は顔を赤く染めながら言う。
「そ、それに……侠さんの……は、裸を私の不注意で見てしまいましたし──」
「ちょ、ちょっと!? 侠、それってどういうことなのよ!?」
はい、ミスティアも会話に参加してきましたー。陽花……お兄ちゃんもう混乱していますー……。
……ふざけている場合じゃないな。
「魂魄、ミスティア。それはゆゆさんの仕掛けた事故だからノーカウントでいいから! そうなったら自分だって魂魄の裸を見たことになっちゃうから!」
「そ、それは私が先に入っていたらそうなんですよ! でも前回のは逆なんです! わ、私が侠さんを覗いたようなものなんです! ですので──」
魂魄は顔を上げて深呼吸して──こう言った。
「──責任を取らせてくださいっ!」
妖夢の問題が解決したと思ったら……大暴走妖夢。ゆゆさんが侠の異変解決者云々の事を伝えていなかったらこんな事にはならなかった。
実は【『Ex side story』2】で、あえて妖夢をその場から離していたのはこの為です。事前に侠の情報を教えないため。実は意図的に妖夢を離して、紫と幽々子の会話にしたのは伏線にしたんですよ。
そして今年ももう終わりですね。皆さん、良いお年を。
ではまた。