最初は表主人公視点。ただし、この話は交互に視点が切り替わります。
では本編どうぞ。
急に博麗に言われた事。名前で呼んで欲しいっ!?
変な声を出した自分に対して少し博麗は怒気の含めた声で自分に話しかけてくる。
「『え!?』じゃないわよ! 家主には名前で呼ばないで、何で紫やレミリア達には名前で呼んでいるのよ!?」
「そ、それは単にそう呼んで欲しいと言われただけだし、レミリアに関しては妹のフランドールと紛らわしいから──」
「私のことを信用するんだったら名前で呼びなさい!」
何で? 何で博麗は今頃名前を気にし始めたの!?
「(……私が静雅に侠を運んでもらっている時に聞いた話で、昨日神社での静雅の言う通りだったら──)」
「ねぇ静雅。外界って初対面の人には名前を呼ばないのが習わしなのよね? でも……あんたは私の名前をすぐに呼んだけどそれはどういうことなの?」
「オレがフレンドリーってのもあるが……暗黙の了解ではあるが、そんな習わしは存在しないぞ?」
「…………はぁ!? 侠は初対面の人は名前で呼ばないのが習わしみたいなことだって言っていたわよ!?」
「あぁ、侠が言ったのか。それなら単純明快、侠は人の名前を呼ぶのが恥ずかしいんだ」
「……恥ずかしい?」
「特に異性はな。呼んで欲しい本人が良いと言っても基本拒否する。だが、押して押して呼んで欲しいと言い続けたら侠の方が折れて名前で呼んでくれると思うぞ。実際そうして外界で呼んでもらっている女がいるしな」
「……つまり嘘をつかれていたってワケね……!」
「おぉ、怖っ。侠は基本人の距離を一定に保っているせいもあるけどな。オレみたいな親友なら侠は距離は近い。まぁ、霊夢は同居中だしな。この機会に呼んでもらったらどうだ?」
「(──私がこうしていれば折れるはず!)」
「……どうしても呼ばないとダメ?」
「ダメ」
即答で返された。慧音さん達みたいな状況になっていく……!?
だったら妥協案で!
「それだったら今みたいな二人きり時だけの時で良い!? 他の人に聞かれると恥ずかしいんだよ!」
そう言うと博麗の動きが止まった……何とかなったかな?
「それは……今みたいな二人きりみたいなこと?」
「そうだよ、博れ──霊夢。これで良い?」
そう名前で呼んでみると……霊夢は恥ずかしくなったのか、顔を赤くし始めた。
「は、始めからそう言えば良かったのよ全く! ……じゃあおやすみ!」
最後はわずかに機嫌を良さそうにしながら部屋から出て行った。
……異変前の霊夢はこんなに積極的に触れ合いに来たっけ?
…………まぁ、いいや。
そのまま自分は床へと入った……。
〜side 霊夢〜
「……あの時と同じ……脈が速くなった……」
静雅の言う通りにして侠に名前を呼ばせたのは良かったけど……あの時の侠の姿に重ねたせいか、脈が速くなった……。
「何か……嬉しい……」
侠に名前を呼ばれることが何故か嬉しい。こんな気持ちは初めて……悪くないかも……。
「……気持ちが良いのはともかく、脈については永遠亭に行ってきた方が良いかしら?」
侠が関わっていることは分かってる。でも、同時に脈が速くなるのは何で? おまけに静雅に呼ばれたとしても何ともないのに、侠に呼ばれると脈が速くなる……。
……まだ辛くはないし、いいかな?
「そういえば、そろそろ買い出しに行くべきね……」
一週間以上は経ったんだし、そろそろ食料の買い出しに行くべきかも知れないわね。
……侠ってそういえば何の料理やどんなものが好みか知らない気がする。唯一知っているとしたらお茶は熱茶より冷茶が好み。数日で私の入れたお茶を冷ましてから飲んでいたはず。何だかんだで私の作った料理も全部食べていたし……。
「……そうだ! 荷物持ちさせるついでに聞けば良いんだわ!」
明日侠は寺子屋に行くはずだし、その帰りに私が迎えに行って人里で買い物をすれば良いんだわ! 明日の朝に侠に午後開けておくように言わないと……。
私は明日の予定を考えながら布団の中に入った……。
……あれ? 何か気分が高揚して眠れない……?
〜side 侠〜
今日は自分が朝食を作る当番なので作り、霊夢が起きるのは何故かいつもより遅かったので先に食べて──気分的に学生服で今日は寺子屋に行こう。
自分の食器をを片付けて居間に戻ってくると、いつもの巫女服に着替えて霊夢がやってきた。
「おはよう霊夢。今日は遅かったね」
「……うん、おはよう……そういえば二人きりの時は名前で呼んでくれるんだったわね」
……自分的には名字の方が良いんだけどなぁ?
「ねぇ、侠。聞いてもらいたいことがあるんだけど……」
「ん? 何?」
自分は霊夢の話を聞こうと座布団に座り──あれ、ない? ていうかこれって──まさか!?
霊夢は何故か体をそらしながら話しているのでこちらに気づいていない!?
「そろそろね、食料が『ちょ、ストップ!』少なくなってきているのよ。それで『気づいて! マジで気づいて!』侠は寺子屋に行くでしょ? それで何だけど……『落ちてたまるかっ!』侠が寺子屋で仕事が終わったらね、『まっ、つぁっ、ちょぎ……!? 広がって掴んでいた手が!?』私が侠の事を迎え行くから一緒に『うわぁあああ……』──ってうっさいわよ! さっきから何を叫んで──」
霊夢がこちらに振り返るもそこには自分はいない。だって──座布団に座ったと思ったら紫さんの作ったスキマだったのだから。
そのまま自分は……どこかに落とされていった……。
〜side 霊夢〜
──侠がいなくなっている。さっきまでうるさかったと思ったのは──さっき少し見えたのは……紫のスキマに抵抗してたけど、落ちてしまった……!?
「…………紫ぃっ! どこにいるの!? 出てきなさい!」
私はお札を持って、いるであろうスキマ妖怪に出てくるよう促す。
……このどす黒い気持ちをどこにぶつければいいわけ!?
『呼ばれて出てきて──』
「【妖怪バスター】っ!」
紫がスキマから出てきた瞬間、反射的にお札を投げつけた!
だけど紫はスキマを空けて私の弾幕を無力化する。
……ちっ! 当たれば良かったのに!
「ひどいわ霊夢。呼ばれたから出てきたのにいきなり弾幕なんて……」
「そんなことはどうでも良いわ! 侠をどこにやったの!?」
変な泣き真似に私はイラッときたが、紫より侠の事の方が大事だ。外界に送り返したなんていきなり無いわよね!?
紫は泣き真似を止めて扇子を取り出し、口元を隠して話を始めた。
「少しばかりか白玉楼に。幽々子が会いたいって言っていたからね」
「ちょっとっ!? 侠は外界の人間で生きているのよ!? 確かに今の冥界は生きている私やいろいろ行き来しているけど……侠が帰って来れないじゃないのよっ!?」
私はそもそも侠にそんなに幻想郷の冥界だの裁判所だの地霊殿だの説明していない。ましや、侠はそこにすら行った事が無い。地理を把握し切れていない侠は紫の力を借りないと帰って来られないということ。
そんな私の心配をよそに、紫は話を続ける。
「大丈夫よ。一週間程度の滞在を終えた後霊夢に返すわ」
「じゃあ白玉楼に乗り込んで侠を取り返す……!」
「……え? それはそれで意外なんだけど? 何? 異変の時に何かあったの?」
私が取り返すの言う発言に目を丸くする紫。
……あんたの所為で色々予定が狂ったのよ……!
「別に何も無いわよ! この後侠が寺子屋で働き終えたら一緒に買い出しに行って、侠のどんな食べ物が好きか聞いて、適当に流されたとしても静雅に聞いて作ってあげようかと思ってたのに! 紫の所為で予定がめちゃくちゃよ!」
「…………」
私がわかりやすく説明してあげたのにも関わらず紫は何かを考えているような顔をしている。
そして考えの整理が終わったのか、口を動かす。
「……もしかして無自覚?」
「……は? 何が?」
急に意味不明なことを言い始めたので聞き返した。無自覚って何よ?
その後の紫は……扇子を閉じた後、何故か優しく笑い始めた。
「フフフ……まさかそんなことになっているなんて……良い傾向ね♪」
「侠が拉致られたのが良い傾向なはず無いでしょ!?」
「そういうことじゃないわよ……ま、自分で答えを見つけなさい♪」
そう言うとお茶目にウィンクをしてきた。
……殴りたい、この笑顔。
いっそ本当に殴ろうかと思っていたとき、スキマを作って中に移動し始めている紫がこちらに振り向いて言う。
「霊夢、あなたは一週間冥界に来ることを禁止するわ。侠の安否が気になるなら尚更ね」
「はぁっ!? 何でよ!?」
「冥界への道をあなたが感じられないぐらいに閉ざしておくから。じゃ、また会いましょう」
紫はそう言った後、スキマの中に入り消えていった……。
正式には後日談終了。次章から表と裏で分けます。しかし、次章に行く前に【ある出来事】であるコラボ回を投稿します……最近、本編の一話より番外編の類いの一話の方が文字数多いのは何でだろうか?
そして……霊夢。読者様の察しの通りとなっています。
白玉楼に拉致られたのは表主人公でした……とは言っても、予想した全員の方は正解しているという。逆に表主人公の方が白玉楼のイメージが合っていて良かったです。
ではまた。