本格的に戦闘にはいる前の下準備。普通の話なら『一話』等の付け方をするんですが、異変の話なので表記の仕方を変えています。
表主人公視点になります。
では本編どうぞ。
「侠! さっさと起きなさい!」
「(ドゴォ)へぶしっ!? 何事!?」
眠っていたら博麗に手荒に起こされた。陰陽玉を投げつけられて。そして辺りを見渡すと……。
「……何だ。まだ夜じゃない。急にどうしたの?」
「……ちゃんと空を見てみなさい」
博麗の態度が気になったので縁側に来て空を確かめる。
確かめてみると……全体的に暗いのはともかく、月がない。それどころか、この現象は……。
「……ダイアモンドリング? そうなると──日食か。幻想郷でも起きるんだ」
「? あんた、この異変を知っているの?」
博麗に問われたのでこの【日食】に大まかな説明をした。(簡単に言えば惑星が太陽と重なってできる影ということを)
「でも日食の時間帯は持って数十分だからもうすぐ終わると思うけど──」
「──少なくとも三十分ぐらいはたっているわよ」
「え……っ? おかしいなぁ。そこまで惑星と太陽が重なるとは思えないんだけど……?」
実際に外界でも起こったことがある。ダイアモンドリングが見えているということは今がピークなはず。なのに太陽が見えてこない?
「これは異変よ。前の月の異変に似ているわ。本物の月を隠して別の月に見させていた異変に」
「ふーん……」
「でも……こんな事をして得になるのはやっぱりレミリア達しかいないわね。日陰というのなら吸血鬼にもってこいの異変だわ」
「日光に当たると消えちゃうのか……」
紅魔館の吸血鬼か。そして紅魔館というと──
「レミリアとパチュリーにはこんな風にはできないだろうし……今回の異変の犯人はやっぱり紅魔館の執事ね。それしかないわ」
「やっぱりそこにいくよねぇ……」
博麗の勘と霧雨の情報が合わさった結果、有力な犯人は執事。名前不明、能力不明は明らかに怪しい。
博麗は手にお祓い棒を持って自分にこう言った。
「じゃあちょっとその執事をしばいてくるわ。侠は留守番をしていてちょうだい。ついでにレミリア達もしばいてくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
留守番を頼むと博麗はどこかに飛んでいった……飛んでいったとしても行った先は紅魔館だろうけど。
……でも。
「……何か直感的に胸騒ぎがするなぁ。自分も行った方が良かったんじゃないだろうか──」
「──だったら行ってみたら良いんじゃない?」
急に聞こえてくる声。自分の右隣にスキマが現れ、上半身だけ出ている紫さんがいた。口元には扇子を持ってきている。
「あ、どうも紫さん」
「……どうでもいいけどもう驚かないのね?」
「何かもう慣れました」
「そう……」
適当な話をした後、急に紫さんは真面目な顔つきにして話しかけてくる。
「八雲紫があなたに命じるわ──辰上侠、あなたがこの異変を解決しなさい」
「…………え? 異変解決って博麗や霧雨がするんですよね? 博麗はさっき向かったし、何事もなく異変を解決できるんじゃ──」
「──正直に言うわ。この異変は霊夢、魔理沙によっては解決できない。外来人であるあなたにしか解決できないわ」
「……何でですか?」
この異変は博麗や霧雨によって解決できない? それは何でだ?
「相性もあるけど、人間性というのかしら……あなたが一番相性が良いのよ。この異変の犯人と対立したとき」
「この異変の犯人って最近紅魔館で雇った外来人の執事ですよね? その人と相性が良いんですか?」
「えぇ。とっても」
瞳を閉じて頷く紫さん。
そして紫さんは自分にあることを尋ねる。
「そういえば……スペルカードはどれくらい作ったのかしら?」
「……三枚ほどですかね?」
「少ないわね……そうだ──」
紫さんはあることを思いついたように言葉をつなげた。
「あなたに白紙のスペルカードをあげるとともに橙には悪いけど奇妙な猫を自分の式にしてしまいなさい♪」
「奇妙な猫、ですか……?」
「まぁ、橙の了承を得たら術式を組んだのをくれると思うわ。それで後は式にしたい生き物の同意が得られれば式にできるから」
紫さんはそう言うと無理矢理白紙のスペルカード達を自分に押しつける。
「え、でも留守番──」
「一先ず一名、マヨヒガの前までご案内〜」
そう言った瞬間、自分の足場にスキマが現れ──飲み込まれた。
「──しなくちゃいけないんですけどぉおおおっ!?」
「留守番なら私がやるわよ。それと……服も着替えさせなくちゃね♪」
そういう紫さんの言葉を聞きながら自分はどこかに落ちていった……。
少年ワープ中……
「──しょっとっ!」
急に地面が見え始めていたので体勢を立て直して何とか着陸した。服装は……何故か作務衣から学生服へとなっている。
……どうやって着替えさせたんだろう……?
『あれっ? 侠さん!? どうしてここに……!?』
状況を整理していると誰かが話しかけてくる。この声は間接的に紫さんの式の、
「……橙?」
「あ、はい……こんにちは」
「どうも、こんにちは」
橙と挨拶を交わして当たりを見渡す……周りに猫がいっぱいいるみたいだが、それよりも気になった存在──というより知っているのがいる。
猫にしては巨大で寸胴ボディ、茶斑が入っており尻尾もある。耳もあり、巨体で手足が異様に短い……そして、頭には五徳を乗せている。
この猫は──
「──五徳!? 何でここに!?」
『ナーゴ?』
自分が呼びかけると反応する五徳。
自分が知っているのか驚いているのか、橙は話しかけてくる。
「え? 侠さん? その猫を知っているんですか?」
「ぶっちゃけて言っちゃうと……この猫、外界で拾ってきた猫なんだ」
「……えっ!? 外界の猫なんですか!?、それで侠さんが拾った……つまり飼っていたんですか!?」
「うん。それで何故か家でもう捨てる予定だった五徳を気に入って頭に乗せていたから、そのまま名前は『五徳』って名前を付けたんだよ。ちゃんと調理に使った五徳は自分が綺麗に洗ったけど」
そして拾ってきたとき、お腹をすかせていたからたくさん食べさせた結果……世間で言うデブ猫になってしまった。
……でも、猫って太っている方が癒やされるよね?
「ニャ〜ゴ〜」
五徳がこちらに向かって這ってきて、何かを訴えている。
「あ〜……ほれほれ〜」
言いたいことは理解しているので喉をなでると……ごろごろ喉を鳴らしている。そして、今度はお腹を見せてきたので──
「まだ足りないか甘えん坊め」
「ナー♪」
お腹をわしゃわしゃと触る。うん。ご機嫌なようだ。
橙はその光景に驚きながらも話しかけてくる。
「侠さん……!? その猫の言っていることが分かるんですか!?」
「ん? いや、何となくで分かるんだよ」
「私、幻想郷の猫なら言いたいことが分かるんですけど……外界の猫のせいか言っていることが分からなくて……」
「基本五徳は他人に懐かないからねぇ……拾ってきた自分に恩義を感じているのかわからないけど……他の家族や親友にも懐かないんだよなぁ……どうしてだろう?」
じゃれあいが終わった五徳は満足そうに座り直すと、どうしてかじっと自分の方を見ている。
「……ナー……」
「どうしたの五徳? 大丈夫だよ。今はちょっと頼まれ事をしているけど、時間が出来たらまた後で遊んであげるから」
「ニャッ!」
言いたいことは伝わったのか、満足そうに頷いた。
その様子を見てか、橙はこう話しかけてくる。
「……私が式にするよりも、侠さんの式の方が五徳さんも嬉しそうですね」
「? そうかな?」
「侠さん……私はこの子を式神にしようとしていましたが……どうもその事に頷いてくれなかったんです……。この子はやっぱり侠さんの式神にしてあげてください」
橙は五徳を式神にするのを諦めたようで、何かの術式を渡してくる。
「これは?」
「私が作った式を貼り付けるような物です。藍様や紫様と比べたら弱い物かもしれませんが……どうぞ使ってください」
「そうかい……ありがとう」
術式を五徳の方へ向けて尋ねる。
「五徳……自分の式になってくれる?」
「ナッ!」
何やらキリッとした表情で頷いてくれた。橙の言う通りにしたがって術式を貼り付ける。
するとポケットから光が漏れていて……それを確認するとスペルカードには式神【五徳】と書かれていた。
「……式神のスペルカードってどういう風に使えば良いの?」
式神である橙に聞いてみる。
「宣言したらその場に召喚されるんです。術式が剥がれない限りはどんな遠いところでも呼び出せるので!」
「じゃあ連れて行く必要が無いのか……」
五徳は転がらない限りはスピードは皆無に等しいからなぁ……。
……というより五徳って戦闘で役立つのだろうか?
「ニャーゴッ」
「いやいや、表情で任しとけといわれても……」
「本当に分かるんですね……」
五徳が勇ましい表情を見せた瞬間──体の急な浮遊感。下を見てみると──スキマ。
「またか紫さぁーんっ!?」
橙と五徳を残したまま自分は再びスキマに飲み込まれていった……。
次回から本格的に異変解決へ。
唐揚げちきんさんのアイデアである猫の名前『五徳』を本編に組み込んでみました。アイデア提供ありがとうございます。五徳というのは色々な意味があるようですが、ここでいう五徳はキッチン等のコンロにあるアレです。それを頭に乗せています。何か王冠みたい。
ではまた。