では本編どうぞ。
氷鬼が始まって数時間近くたっただろうか? 遊びに慣れて皆走り回っては鬼に捕まり固まって。鬼以外がタッチしてくれて逃げて。その繰り返し。
「はぁはぁ……飛んで捕まえたい」
「私はそろそろ疲れてきたのだー……」
「夜雀だから余り走るのが得意じゃないから本当に疲れる……」
「それは私も蛍だからそうだよ……」
現在の鬼はチルノ。順番敵に鬼を回していたらチルノの番になった(数字の数え方を教えるのに数分かかったけど)。
「うう〜……この体勢でいるのは辛いです〜」
「本当だね……」
ちなみに大妖精や橙もルーミア達と同じ固まっていて、現在タッチされていないのは自分だけである。チルノに現在追いかけられている。
「そろそろ時間かな……?」
「その前にアタイが捕まえてやるーっ!」
数十秒でこの回は終わり。体力はまだ余裕があるので捕まらないようにするのは簡単だけど……。
「──おっと。危ない」
実際に何もない足場だがわざとよろめて減速する。さすがに主催者が勝つのはちょっとね?
それを見てチルノは好機だと思ったのか、速度を上げて──
「──そりゃぁあああっ!」
──背中に飛びついて全力でタッチしてきた。そこまでムキに何なくても良くない?
飛びついてきた衝撃を何とか殺し、チルノは背中に張り付いている中その場でとどまる。
「つっかまえた♪ やっぱりアタイったらサイキョーね!」
「ははは……よろめかなければ大丈夫だったんだけどなぁ……」
全員捕まえてご機嫌なチルノに表面上ではそう言う。
妖精といえど、精神年齢は結構子供なんだね。
「じゃあ、皆疲れてきたみたいだしここでお開きにしようか」
とりあえずのこの回は終わったので皆集まってきたので、どうするか聞いたら皆頷いた。
その中で大妖精が背中に張り付いているチルノに心配そうな声で話しかける。
「チルノちゃん。侠さんの背中から離れようよ。長く張り付いていると侠さんが凍傷になっちゃうよ?」
氷の妖精だから温度に気をつけてと言いたいんだろう。
……けど。
「何か寒くないんだよね……前まではチルノの近くにいたときは寒く感じたんだけど、平気なんだよ」
「へ? そうなんですか? チルノちゃんは熱くないの?」
「全然大丈夫だよ大ちゃん。むしろ心地良いくらい」
「何それ? 逆に侠は体が冷たいって事?」
ある意味予想外のことを言ったチルノに対し、ミスティアは自分に体は冷たいんじゃないかと問われる……冷え性でも何でも無いんだけど。
「──(あむっ)」
「ちょっ!? ルーミア!?」
急にルーミアに自分の左手──の四本指を甘噛みしてくる。何をしたいんだこの子は!?
「こうのふひぃはふえあくあいおはー」
「いや、侠さんの指を口に入れて喋られても……」
リグルの的確なツッコミにルーミアは一旦指を口から出す……おお、よだれがべたついている。持っていたハンカチでとりあえず拭き取る。
「侠の指は冷たくないのだー。それと奥が深い味だったー」
「そうだったんですか……チルノちゃんには冷たく感じるって事でしょうか?」
「よく分からないなぁ……後ルーミア。自分のこと食べないでよ?」
橙の分析はともかく、さらっと結構心配なことを言ったルーミアに念を押す。
「私は侠を取って食べたりしないのだー。侠を食べたりしたら霊夢に退治されちゃう上に食べ物をくれるのがいなくなっちゃうー」
……食べ物に釣られているなぁ。ルーミアは。
でも、ルーミアは言葉をつなげる。
「後、侠はチルノや大ちゃん、みすちー、リグル、橙と同じ友達なのだー。友達のことは食べたりしないのだー」
……結構、色々なことは考えてくれていたみたいだ。
「……そっか。自分はルーミアと友達か。お兄さんは嬉しいよ」
そう言ってくれたルーミアの頭をなでる。妖怪で小さな子だけど……こう純粋な子供は珍しいと思う。
この世界の来てからまともな友達と呼べる人(妖怪も含む)はいなかったからなぁ……。
「わはー♪」
なでられているルーミアはご機嫌そうな笑顔で眼を細める……癒やし系だ。
「む〜……キョー、アタイの頭もなでてみても良いわよ!」
「ん? じゃあチルノにも……」
いつの間にか背中から降りていたチルノが希望してきたので頭をなでる。
「……何かレティみたい……」
複雑な表情をしているが、何となく満更でもなさそうだ。
「私もして欲しいです!」
橙もしてほしいと頼まれる。橙は猫の妖怪だから……。
「よーし、君は猫だから……ここが良いだろう」
家で飼っていた猫にしている喉のなで方で橙の喉をなでてみる。
「──ごろごろ〜」
おお、いってるいってる。人型でも気持ちいいみたいだ。
この後の三人も空気を読んでか分からないけど、なでてもらいたいと申し出たので、とりあえずなでておいた……。
この後橙以外は皆解散した。とりあえず皆有意義な時間を過ごせたみたいで良かった。
「橙はまだ帰らないの?」
「いえ、もうすぐ帰りますよ? その前に藍様と一緒に帰ろうと思っているんです。ちょっと藍様を呼びますね……」
呼ぶと言うことは式神の特有の信号みたいなのだろうか──
「らんしゃまぁああああっ!」
──ただ叫んでいるだけだった。
「……それで来るの?」
「はいっ! 多分もうそろそろ──」
「(──ちぇえええええんっ!)」
橙の言っている途中でどこからか声が聞こえてくる。しかもどんどんと近づいてきて──
「──ちぇえええええんっ!」
「らんしゃまぁああああっ!」
急に現れた大人の女性が抱擁の構えで出てきて、それに答えるかのような橙はその人に抱きつく。
「おおお! 橙! 今日も楽しく過ごせたか!」
「はいっ! 侠さんが提案してくれた遊びで皆楽しくやれました!」
「ん? 侠……?」
自分に気づいたのかその女性──紫さんと似たような服を着て帽子かぶり、橙と同じ尾が……狐の尾が九本ある。おそらく九尾かな。この人が藍さんだろう。
「君が確か紫様が外界から連れてきた侠だな? 私は紫様の式の八雲藍だ。君も知っていると思うが橙は私の式だ」
「あ、はい。自分は辰上侠です。今日は寺子屋の生徒達と一緒に仲良く遊んでいました」
「ほぉ……! 人間が妖怪と妖精と交えて遊ぶとは……!」
遊んだことを言うと何故か驚いているような声をしている。そこまで驚くようなことだろうか?
「あの……何か変なこと言いました?」
「いや、逆に珍しいと思ったんだ。人間は妖怪よりも一部を除いて弱い生き物だからな。それに外来人が妖怪達と遊ぶなどは始めて聞いたからな。これは良い傾向だと私は思うぞ」
「そうですかね? 幻想郷は人と妖怪が共存しているんですから、こう言うことは結構あると思ったんですが?」
妖精はともかく、妖怪のルーミア、ミスティア、リグル、そして橙は結構友好的だった。加えて言うなら紫さんや伊吹はそれなりには話がしやすかったような気がする。
藍さんは言葉をつなげようとするが──
「それは侠がもっている──いや、人格かもしれない。妖精や妖怪と対等な立場で接しようとしているかもしれないな」
「そうですかね……?」
途中で言葉を変えたのは気になったが気にしないことにした。
自分の言葉に橙が話しかける。
「そうですよ! 氷鬼で実際に捕まらなかったのに、わざと捕まってチルノちゃんを喜ばせてあげたじゃないですか!」
「あれ? ばれてた?」
やっぱり妖怪の目線だと不自然だったらしい。まぁ何もないところでつまずくと変に感じるか。
「(……普通なら簡単に妖精に捕まるはず。幻想郷に来てから力が活性化しているのか……元々能力か……)」
「……藍さん?」
「あ、すまないな。少し考え事をしていた。そろそろ私と橙は帰らせてもらおう。紫様の世話や夕飯の仕込みをしなくてはならないのでな。では機会があるときにまた会おう。いくぞ、橙」
「はい、藍様!」
そういうと二人は飛んで帰っていった。
……さて、自分もそろそろ博麗神社に戻ろう。
「……橙、侠の事はどう感じた?」
「侠さんですか? とっても思いやりのある優しい方でした!」
「……そうだな。優しい奴だったな」
「はい! また皆と一緒に遊びたいです!」
「(……おそらく、妖怪や妖精と何にも問題なく過ごせているのは妖力があるかもしれない。運動能力においても幻想郷に来て妖力が活性化して底上げをしているのか、元々の運動能力か……。妖力を感じ取れるのは数少ない妖怪の実力者だけなのかもしれない。私はともかく……妖力の大きさが測りきれない。私より力が大きいな。もしかしたら紫様と同等、もしくはそれ以上か……? それと……他にも感じるこの違和感は何だ……?)」
……どんどんと表主人公に人外疑惑が深まっていく。
ではまた。