幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 侠の元の世界の話。
 三人称視点。時間軸は霊夢達と別れ、全国を回っていた頃。
 ではどうぞ。


Back S『小さな破壊者達』

「──ここは海が綺麗だな……。でも幻想郷と比べると自然が少ないと感じる……」

 

 日本某所。遠くを見るようにして海と木々を観察している人物──【辰上侠】がそこにいた。何故彼がこの場所にいるというと──過去の【本家】が行った事で被害を受けた人物の謝罪と支援のために現在、全国を回っている。

 

 辰上侠は霊夢と別れた後、彼はすぐさま自分が通っていた高校に飛び級云々の事を申し出た。無論、編入した先の試験が当然の如く合格し。編入した先での大学で誰も思いつかないような、地球の為になるような論文の提出。この論文が世界的にも評価される事になり、彼は数ヵ月で編入した大学を卒業をしたという。元々彼は中学生で大学入試問題を解けるレベルを持っていた。その後進学した後でも、いろんなジャンルの学問を自主的に学んでいたのだから。世界的に発表できる内容だったので、その事を利用しては世間の【辰上】の評価を上げる事に成功した。

 

 今彼は全国を飛び回り、休憩がてらちょっとした観光を行っている。

 

「幻想郷には海が無かったからなぁ……。地元も気軽に海を見れる場所は無かったし──ん?」

 

 急に聞こえる音。その音は車が近くに来る音もあり。少し遠くになった駐車場にワンボックスカーが止まった。辰上侠の外界ではまだ残暑が残る季節だったので、もしかしたら海水浴に来たのかもしれない。そう考えていた侠だったが、そのワンボックスカーから次々と人が出てくる。

 

「やっほーーーっ! 海に来たぜ!」

「騒ぐな、バカ兄貴」

「まぁまぁ、(りん)恭介(きょうすけ)は運転しぱなっしだったから」

「海だー♪」

「わふー! べりーびゅーてぃふるなのです!」

「……空気が澄んでいますね」

「海で可愛い女の子は泳いでいないのか?」

「姉御、そこは変わらないですネ……」

 

 そこには対照的な二人の男子に、個性が溢れた六人の女子。その人物達が来ている服は、彼が飛び級したからもずっと着続けている、同じ高校の制服。

 

 遅れて今度は、肩で息を切らしながら膝頭に手を置いては体中に酸素をいきわたらせている大男の二人がやって来た。

 

「はぁ、はぁ……これは良い筋トレになったぜ……。オレの筋肉も喜んでいるぜ……」

 

「なんの……! 俺の筋肉の方が喜んでいる……!」

 

 ……二人の大男の服装は、一人は丈の短い学ランを羽織っては、青いジーンズに赤いTシャツを着ては赤い鉢巻を頭にしている。対してもう一人の男は、青い剣道着に──何やらジャンパーを羽織っているが。

 

 少なくとも、他人と関わりは特になかった侠だが、その人物達は見覚えがある。

 

「(……一部を除いて、クラスメイトだったような──)」

 

「あ! もしかしてそこにいるの──辰上君!?」

 

 その中で大人しい男子が辰上侠の存在に気づく。彼は侠に駆け寄り、目の前に来ては、彼はどこか嬉しそうに話しかけた。

 

「【あの時】以来だよね。辰上君ともう少し話したくて病院に行ってみたんだけど……辰上君、他の人と比べると退院が凄く早くて話せなかったから。それで学校が再開してその時に話そうと思っていたら、飛び級しているからびっくりしたよ。まさかこんなところにいるとは思わなかったけど……」

 

「……偶然だけどね。自分としてもここで会うとは思わなかったし。確か──直江理樹(なおえりき)で合ってる?」

 

「うん。僕は直江理樹」

 

 彼──直江理樹が辰上侠の元へかけていった所為か、彼に続くように辰上侠に集まってくる。次に話しかけたのは長いポニーテールに、鈴をつけた少女。彼女も【あの時】に一緒に動いていた人物だ。

 

「……あのくちゃくちゃ怖い雰囲気を出してた男子か?」

 

「一応そうだね。あの時は自分も切羽詰っていたし」

 

「何か雰囲気が違うな。何か……柔らかくなった」

 

「(……確か棗鈴だったけ? しかも妙に的を得ている……)」

 

 雰囲気が変わったのは幻想郷云々の出来事と、未来が安定したおかげだろう。そう侠は振り返る。

 

 鈴に続いて話しかけたのは、紙に星がついたリボンをした、セーターを着ている少女と、赤いカチューシャに白い日傘をしている女生徒が侠に話を。

 

「あ、辰上君。辰上君と話すのは何だか初めてのような気がする~」

 

「そうですね……辰上さんは基本的に一人で過ごしていた時が多かったですし。他の方で代表な方は、モデルで人気でした本堂静雅さんでしたね」

 

「自分はあまり他人と話さなかったからねぇ……。確か──神北小毬(かみきたこまり)西園美魚(にしぞのみお)だったはず……」

 

「あ、覚えてくれていたんだ~。それだけでも嬉しいよ~」

 

「(フフフ……今ではもうできませんが、辰上さんと本堂さんはお世話になっていました。この二人の組み合わせも好きですね……)」

 

 ……急な寒気を覚えたのか、侠は体を震わせていたが。

 

 彼に話したい事があったのかマントを付けた、蝙蝠のアクセサリーを付けたては帽子を被った少女が飛び跳ねるようにして声を掛ける。

 

「わふー! 辰上さん、はろーなのです!」

 

「えっと……うん、ハロー、能美(のうみ)クドリャフカ。いつも思っていたけど元気だよね、君」

 

「はいなのです! それと聞いたところ、辰上さんが理樹と鈴さんをへるぷしてくださったと聞いています! 本当にべりーさんきゅーなのです!」

 

 深くお辞儀をしながらお礼を言うクドリャフカ。彼としても彼女は通信教育であれど、彼女は飛び級して進学してきたので印象に残っていた。

 

 次に話しかけたのは──黄色いリボンを付けては同じ女子の制服なのだが、胸元が若干開けている分色っぽい。雰囲気はまるで年上のようだが、これでも辰上侠と同じ年齢だ。

 

「やぁ、侠少年。本当の意味で元気そうで何よりだ」

 

来ヶ谷(くるがや)か。……何、その意味深な言葉?」

 

「言葉の通りだろう。昔の君の瞳は光が少なかったが──今では全然違う。瞳に希望が溢れているように感じる。私としたらその感じの君は好きだよ」

 

「そりゃどうも。君はいつも通りみたいだね」

 

「あぁ……ところで君の妹は来てないのか? 陽花君はどこにいる?」

 

「陽花はいないよ。そもそもこの場にはさっきまで自分しかいなかったし」

 

「くっ……! セクハラをしても気にしない女の子も魅力的だというのに……!」

 

「(……絶対縁にも会わせないようにしよう……)」

 

 来ヶ谷唯湖(ゆいこ)。彼女とは高校一年生の時の知り合いでもある。そのきっかけというのは、侠が図書館で自主勉強をしては休憩して席を離れている間、彼女が彼のノートを勝手に読んでいたのだ。そこからある意味では【同類】と感じた彼女は、過去に数学教師を揉めた事に彼を巻き込んでは──数学の授業は受けなくても良いとなった。それでも、侠はきちんと出席はしていたのだが……並行して【予習】していたのは変わりはないが。

 

 さらにはある休日。この日は偶々陽花が侠の住んでいる学生寮付近で遊ぶ事になったのだが、そこで来々谷唯子との遭遇。彼女は基本前向きな陽花と意気投合をし、呼吸するかのようにセクハラをしていた。彼女は同性愛者ではないが、本人曰く『可愛い女の子は好きだよ』という。陽花というと、彼女もそれなりに親しくなった相手にはセクハラをするタイプだったので迷惑はしていない。

 

 悔しがる来々谷をよそに、次はピンクの玉のゴムで結ってあるサイドテールの女の子が少し大きめな声で話しかけた。

 

「やぁーやぁー侠君! こんなところで会うなんて奇遇ですネ!」

 

三枝(さいぐさ)……何時も思うけど少し控えめに喋ってくれない? 少しうるさい」

 

「なにおー! このはるちんから元気を取ったら何が残るというのだー!」

 

「うざいが残る」

 

「うわーんっ! 姉御ー、侠君が苛めるヨー!」

 

「よしよし葉留佳(はるか)君。侠少年はSだからな。Mに調教されないように気を付けるんだぞ」

 

「勝手な設定を付け足さないでくれるかな?」

 

 妙な演技で泣きついている三枝に、冗談を含めた言葉で慰める来々谷。

 

 彼女──三枝葉留佳も辰上侠は関わりを持っていた。本堂静雅は高校に上がる前からモデルとして活動していたため、その監視を含めて辰上侠は風紀委員に所属していた事がある。学校で静雅がモデルとして活動するために、一定の成績以上を取り続ける条件を基に。そもそも普段の静雅の制服の格好は、モデルの事務所命令で普段から着崩した格好は風紀を乱すため(何故か普段改造学ランジーンズと剣道着を着て学校を過ごしている人物が目の前にいるが、何故か注意はされない。芸能界に関わっているかの違いだろうか?)。なので静雅が学校にいる時は、普段の風紀を乱さないように監視している。

 

 その中、学校内での問題児の一人である三枝葉瑠佳と出会う。彼女は何かと風紀委員に目を付けられるような行動を普段からとっている。風紀委員の一人として注意をしていた事がある。

 

 しかし──今では風紀委員長になっている人物と、三枝葉瑠佳との喧嘩に似た口論を目にするまでは。普段の三枝は風紀委員の言葉は馬の耳に念仏といったぐらいに注意を流す。しかし、後に風紀委員長との口論は別だった。どこか嫌味に取れるような、喧嘩を売るような発言する風紀委員に。どこか必至になって言葉を返す三枝。彼としても風紀委員で関わっていた同僚の様子と、問題児である三枝の表情を初めて見た。途中で見かねた彼は仲裁に入っては何とか収まったものの、風紀委員の同僚は最後に意味深な言葉を言って三枝を挑発して去ると、侠はしばらく三枝を抑えるのに時間が掛かった。

 

 少し時間が経って彼女を落ち着かせる事に成功したが、不機嫌な表情を浮かべたままの三枝。彼女を見かねた彼は適当に飲み物をおごり、風紀委員の同僚と三枝葉瑠佳を見て、改めて思った事を聞いてみた。

 

 

 

 

 

 ──何か二人、似ているよね。もしかして家庭の事情とかで離れて暮らしている姉妹だったりする?──

 

 

 

 

 

 核心を突かれたのか、三枝はバツの悪い表情を浮かべて困った表情を浮かべていた。詳しくは説明されなかったものの、最低限の情報で三枝と【彼女】は姉妹だという。

 

 そこから彼女の愚痴に乗せた言葉を聞いている中で、同情かはわからないが辰上侠も軽く【当時の自分】の家庭事情を話した。彼が覚えている会話の中で言った事は、「まだ自分みたいに天涯孤独じゃなくて、繋がりが何かしたらあるだけマシだと思うよ。何時か、仲直りできると良いね」という言葉を発したのは覚えている。尤も、彼はさっさと彼女を立ちなおさせる方便だが。

 

 ある意味では自分よりも重い家庭事情を聞いた彼女は苦笑いを浮かべながらも、何とか最低限の元気を取り戻した。そして別の意味で懐かれたのは別の話だが。彼女が課題で悩んだ時は彼に聞いてきた時もあったり、彼が風紀委員として注意する時も彼女は愉快そうに笑って逃げていたり。風紀委員の報告などで、同僚の風紀委員に嫌味を言われた事は覚えている。

 

 普段と変わらない、むしろ以前より元気に見える三枝と来々谷に注意し終えた後、彼に近づいてきたは鉢巻をした男だ。そして鉢巻の男は侠の体をじっと見ている。彼の視線の意味について問いかける侠。

 

「? 何か用?」

 

「フッ……オレにはわかるぜ。お前が隠れ筋肉マニアという事を……。その理樹と恭介の中間みたいな体をしているが、筋肉が全然違う。まるで普段の力をセーブしているみたいだぜ……!」

 

「……ある意味では当たっている事に驚きだよ……」

 

真人(まさと)の言っている事が当たってるの!?」

 

「へっ、褒めんなよ?」

 

「(今の驚きは褒める云々じゃなくて、当たる前提じゃなかったのが低確率で当たったという驚きだと思う……)」

 

 鉢巻をした男に驚愕している直江に、どこか誇らしげに腕を組んでは目を閉じながら言う男。この男の名前は──井ノ原(いのはら)真人だっただろうか? 同じクラスでいた時も、彼は天然みたく間違った言葉を多用してはよく青い剣道着をきた男などに逆切れしていた記憶がある。しかし、筋肉の話題になるとかなり饒舌になるが。

 

 ……時たま直江と一緒に「筋肉筋肉~♪」と言っては両腕を振って遊んでいたような気がする。

 

 どこか呆れるようにしながらも、今度は青い剣道着を来た男が侠に話しかけてきた。

 

「全く、真人は……。それよりも辰上。久しぶりだな」

 

「確かに久しぶりだけど……宮沢(みやざわ)。ぶっちゃけ自分とそこまで親しくないよね?」

 

「いやいや……仮にでも元クラスメイトだろう? それで理樹達を助けてくれたんだ。例え親しくないとしても、好意を持つのが当たり前だろう? まさか、俺達まで助かるとは思っていなかったが……」

 

 感謝の意を示しているのか、剣道着を着た彼──宮沢謙吾(けんご)は侠に握手を求める。彼の礼儀に従い、侠も握手を返す。

 

 ……しかし、彼らを握手を見て恍惚の表情を浮かべている西園美魚が。彼女がそのような表情を浮かべている事を知らない彼らだが、一瞬身を震わせたが。

 

 握手を終えた後は、今度は普通に制服を着た男子が侠に近づいていく。しかしその男子はネクタイの色が侠達と違く、一学年上の生徒だという事がわかった。彼は友好的に侠に話を振る。

 

「よう。お前が辰上侠だな?【あの事故】で理樹達を助けてくれて感謝している。謙吾も言ったが、俺としても礼を言わせてもらおう。ありがとうな」

 

「……あの場で動ける人物は限られていましたし。だったら、最善の手を選んだまでですよ──(なつめ)恭介先輩」

 

「お、俺の事を知っているとは……ファンか?」

 

「あれだけ日常茶飯事騒ぎを起こしていたら自然に耳に入りますって」

 

「ははは……」

 

 どこか誇らしげにする棗恭介だが、侠の言葉に直江は思わず苦笑い。侠の言う通り、彼の通う学校では、棗恭介を知らない人物はほとんどいない。クラス内でも人気があり、何かしらのイベントを唐突に開く事もしばしば。侠の中では【バトルランキング】というものや、各部活の主将と野球していたのは覚えている。

 

 ……きっかけとなるバトルランキングというもので、観客が適当な武器になりそうなものを投げ入れて戦う二人がそれを掴む・拾うなどをして戦うものだが、静雅が過去に撮影時の休息時にもらった鰻パイを投げ入れ、井ノ原が掴んで負けた過程を見た静雅は大爆笑していたが。

 

『……ニャー』

 

 会話をしていたところに猫の鳴き声。この鳴き声は侠にとって身近な猫の声だ。一度外界で落ち着いた後は【彼女】の正体を知ってもなお、家族として受け入れ。【猫】の姿で【五徳】を頭に飾っている──五徳だ。実は彼女と全国を回っている。一人では何かと不都合があったり、もしもの為のボディーガードに似たようなポジションに彼女はいる。

 

 五徳は侠に何かを訴えては、それを理解した侠はポケットから煮干しを取り出す。

 

「そういえばそろそろご飯だったね。はい、煮干し」

 

「ナー♪」

 

 喉を鳴らしながら煮干しを食べる猫に、女性陣を中心として五徳の周りに集まっていく。その中で一番反応したのは棗鈴だ。

 

「……猫」

 

 彼女は手を出して五徳の喉元を触る。すると心地よかったのか五徳は、鈴の足元に丸まっては寝始めたという。

 

 五徳の様子を見て、女性陣はそれぞれの反応を。

 

「わぁ~! 猫さん、にゃーにゃー!」

 

「やっぱり鈴さんは猫の扱い方が上手いですね……」

 

「わふー! 真ん丸になってきゅーとなのです!」

 

「……姉御、あの猫の頭にあるのって、良くキッチンである黒い奴ですよネ? どうして頭にあるのか、はるちんさっぱりですヨ」

 

「……何、そういう猫の生まれ変わりか何かなんだろう。私は文献で見た事があるが、一昔に【五徳】という猫妖怪がいてだな。今まさに五徳を被った猫が今の状態だ」

 

「エェーッ!? それじゃあこの猫妖怪なんですかー!?」

 

 三枝の質問に来々谷が解説をしては能美が驚愕している中、来々谷は軽く笑いながら言葉を流す。

 

「はっはっは。私は現代に妖怪がいるとは思ってないよ。そんな簡単に妖怪がいたらもう世界中が大騒ぎだ。それこそ、どこかで隔離している場所とかがあるなら話は別だがな。なぁ、侠少年」

 

「(……やっぱり、現代だと妖怪が忘れらているんだなぁ……。でも、自分と同じような先祖返りは会ったことはあるけど──)」

 

「……どうした侠少年? 私のおっぱいにでも見とれていたか?」

 

「別に見とれていないし。ちょっと考え事をしていただけだよ。こうして妖怪は忘れられていくんだなって」

 

「……まぁ、私も生きている内はそのような奇想天外なものとの出会いをしてみたいがな」

 

「(実際に目の前にいるけど)」

 

 この場で知られる事はないが、目の前には来々谷を推察通りの妖怪である五徳と、龍神の先祖返りである辰上侠がいるわけだが。

 

 一通り全員と話は済んだのを確認した直江理樹は、辰上侠にこれからの予定について尋ねる。

 

「辰上君がここにいるのも気になるけど……これから君はどうするの?」

 

「これから? 今は全国を諸事情で回っていてね。適当にこの場から切り上げるところ」

 

「そうなんだ──! それじゃあ、時間に余裕があったら、途中まででも良かったら僕達と遊ばない? 修学旅行があぁなっちゃったでしょ? それで僕達は修学旅行をやり直していたんだ」

 

「まぁ、思い出があのままだと悲惨過ぎるからそれも良いかもしれないけど……でも。ぶっちゃけ自分部外者だよね? 君たちは確か──【リトルバスターズ】だっけ? そういうメンバーの集まりなのに、関わっていないのにそういうのは──」

 

「いや、理樹が良いと言ったら良いんだ」

 

 侠の言葉を遮ったのは、一年先輩である棗恭介だ。直江の気持ちを代弁するかのように、彼は語る。

 

「理樹は俺達のリーダーだからな。リーダーの言葉は俺達の総意だ──まぁ、それは建前だが。理樹はずっとお前を探していたんだぞ?」

 

「……探していた? 自分と直江は親しい関係でもないのに?」

 

「いいや、もう親しい仲だ。何故ならお前は俺達の恩人でもあるんだからな。特にガソリン云々で俺が塞いでいた問題を、お前が何とかしたんだろ? 理樹や鈴だけだと難しかった問題かもしれない。でも、辰上はその理樹達に手を差し伸べた。誰もが助かる道への手をな」

 

 片手でグーの形を作り、それを軽く侠の胸へと当てる棗。

 

「お前の働きで結果、誰もが助かったんだ。そして皆を救助した後、理樹は俺達を確認した後にお前の見舞いにも行ったんだ……って、これはさっき理樹が言ったな。真っ先にお礼を言いたかったんだぞ理樹は。それが何だ。気が付いたら病院から退院して飛び級? ある意味では度肝を抜かれたぞ」

 

「色々と家庭事情があるんですよ。まぁ、自己満足ですけど」

 

「お前の家庭はかなり複雑なんだな──それはともかく。せっかくだ。少ない時間でも俺達と騒ごうぜ!」

 

 笑顔を浮かべながら棗は肩を組むようにして侠の肩に腕を乗せる。その事に触発されたのか、井ノ原と宮沢は気分を高揚させていた。

 

「お、新たな絆が生まれたな……。よし、ここは親睦を深めるために絆ステップだな、謙吾っち!」

 

「おうともよ! 一つの出来事が、新たな絆を生む……素晴らしい事じゃないか! ようし、理樹も一緒にやろう! 男五人で絆スキップだ!」

 

「ははは……それも良いかもね!」

 

「ちょ、まっ!?」

 

 流れるようにして侠の反対側には直江理樹が肩を組み。直江側には井ノ原に、棗側に宮沢が。必然的に真ん中の配置になり、強制的に妙なステップをさせられていた。

 

 男達五人を見て、棗恭介の妹である棗鈴どこか呆れたように一言。

 

「……男達はバカばっかりだ……」

 

「ナー」

 

 

 

 

 鈴に同調したように思えた五徳の鳴き声だが、彼女の視界に移る侠は迷惑そうにしながらも、どこか嬉しそうに見えたという……。

 

 

 

 

 

 




 人気投票で告知した話の一つがこれだったりします。

 ……まぁ、まだ本編上で地味に関わった人達のも書く予定ですが。

 では、また。

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