幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 以前は【辰上侠は何を隠されている】という問題で、正解者に送ったBack Sです。答えが彼の名前だった事についてのですね。ただ、この話を送られた人でもまた楽しめるように加筆を加えています。そもそも、正解者に送ったものは途中までのものですからね。ここまで書けば、この二人の関係はわかるだろうという事で。フラグ回収をしていきたいと思います。
 時間軸としては守矢の宴会後すぐの話。三人称視点。
 ではどうぞ。


Back S『月夜の従者、その主』

 

 紅魔館の近くにある霧の湖に現れる二人の人影。一人は男で何かを抱えているように見えるが……その何かとは人であり、紅魔館のメイドである十六夜咲夜がお姫様抱っこをされていた。お姫様抱っこをしている人物は紅魔館の執事である本堂静雅である。

 

 誰もいないことを現状を確認した静雅は咲夜に行動を促そうとする。

 

「ほら、咲夜。周りに人影がいないからやめても大丈夫だ」

 

「……あなた、ねぇ……いきなり私を持ち上げるなんて……恥ずかしかったじゃない……」

 

「それは許してくれ。オレにとっては役得イベントだったが、咲夜はそうじゃなかっただろ? 極力恥ずかしい思いをしないように能力でここまで来たんだ。だから、な?」

 

「……まぁ、その……それはありがとう……」

 

 咲夜は静雅の腕から降りる。スカートのしわを伸ばしていると、静雅が懐かしそうに話しかけてくる。

 

「……前にさ、オレが紅魔館で図書館に連れて行ってくれた時あっただろ? ずっと気づかず手を繋いでいた時の事。そん時の咲夜みたいだな。異性の接触には慣れていないというか」

 

「私は静雅が現れるまでそのようなことがなかったのよ……そういう【関係】にもなったことないし……」

 

「まぁ、オレもそういう【関係】になったことがないけどな。外界では告白されたりしたが……基本的に外見ばかり見てくる奴らだったから振ったが」

 

「……告白されたのになかったの?」

 

「オレはな、一緒にいて楽しい奴が好みなんだよ」

 

 そう言いながらも何故か静雅は手を差し出す。その事に当然疑問に思う咲夜。

 

「……? その手は?」

 

「いやぁ、オレ得イベントが無効化したからさ、もったいない気がしてな……できればだが……途中まで手を繋いで帰らないか? 無論、嫌だったらしなくてもいいだが……」

 

 少し控えめに言いながら、逆の手で頬を掻きながら咲夜に頼む。咲夜はしばらく考えていたが──

 

「……良いわよ。繋いでも」

 

「えっ!? マジ!? てっきり断られると思ったが……!」

 

「断る理由は作れたかもしれないけど……作る気にはなれなかったわ。霊夢の命令に比べれば全然軽いから……良いわよ」

 

 そう静雅の意見を肯定し、咲夜は手を差し出して、静雅の手を握った。握ったら握ったで……少しの沈黙が流れる。

 

「……オレから言っておいてなんだが、そう肯定してもらうと恥ずかしいな……」

 

「だったら言わなかったら良かったんじゃない? 今すぐ手を離してもいいのよ?」

 

「それはそれで悲しいからやめてくれ」

 

「フフッ、冗談よ。紅魔館が見えるまでしてあげるわ」

 

 お互いに恥ずかしそうにしながら、手を繋ぎながら夜の湖の近くを歩く二人。聞こえるのはわずかの風が生み出す木々のざわめきのみだ。

 

 そして……咲夜はある話について話を切り出した。

 

「ねぇ……侠の事、何時になったら本人に伝えるの?」

 

「……何時だろうなぁ……半分ほどは初代龍神が教えたようだし、オレ達外界に帰ったときじゃねぇか?」

 

 静雅は気楽そうにそう言うと……咲夜は足を止めた。手を繋いでいるので引っ張られる形で静雅も止まり、咲夜に尋ねる静雅。

 

「……どうした? 咲夜?」

 

 

 

 

 

 

 

「──私は、あなたに外界に帰ってもらいたくない」

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 彼は咲夜の言葉に耳を疑った。それでも尚、咲夜は話を続ける。

 

「静雅……あなたが来たことでお嬢様や妹様はどれだけ変わったと思う? 私が言うのもなんだけど……お嬢様は静雅が来る前まで我儘だったわ。自分の意見は押し通す、あまり人の話を聞かない……でも、お嬢様は変わり始めている。紅魔館の住民の事を考え、少しずつ寛大になって……妹様だってそう。妹様は弾幕ごっこでしか楽しめなかったのに……あなたを触れ合う事で、弾幕ごっこ以外の楽しみ方を知ることもできた。狂気もほとんどなくなって、人里の子供たちと無邪気に触れ合うようになって、癇癪も起こさなくなった……」

 

 一呼吸入れて、咲夜は感情的に言葉を続ける。

 

「それに……パチュリー様、小悪魔、美鈴だってあなたにいてもらいたいと思っている。あなたはもう……紅魔館の住民と言ってもおかしくないわ。確かに、あなたは帰る世界があるかもしれない……でも。これは私の我儘なのかもしれない。けど──私もあなたともっと過ごしたいのよっ! 今まで笑いながら過ごす事なんて考えてなかった! あなたがいるだけで世界が随分違うの! お嬢様と妹様のために行動を起こした時の静雅、あなたの親友のために行動する静雅。それで──親友に勝つために努力を続ける静雅。私の勝手な行動だけど……毎日、キッチンでコーヒーを飲んだりして、サンドイッチを持ってきて、話したりしてっ──」

 

「もういい、咲夜」

 

 彼は必至に訴えていた彼女を――抱きしめた。離さないように。近くに感じるように。

 

「…………静雅…………?」

 

「何でこう、人の心を動かす言葉を言うかな、お前さんは? どうしてオレは現実側で、咲夜は虚構側なんだ? オレだって人間関係やら、妖怪関係とか何ていえばいいかわからないが……ここの心地よさはオレもよく知っている。咲夜が今言った【紅魔館の家族】みたいな事はオレも思っている。オレだって紅魔館や、それ以外に関わっていた人物達と馬鹿騒ぎしたいさ。ここは本当に心が落ち着くんだ」

 

「…………何とかならないの? 静雅がずっと幻想郷に、紅魔館にいられる方法って…………?」

 

 抱きしめている所為か、上目使いに見えるような形で咲夜は静雅に問いかけた。それに対して静雅は真っ直ぐ、咲夜の顔を見て話す。

 

「そうだな……過去に宴会の時に侠と八雲紫の会話を少し聞いていたんだ。その話を考えると──往復することにはなると思うが、オレが幻想郷に居続けれれる方法はある。外界中心になると思うが、幻想郷に通い続けられる方法が。もしかすると他の方法もあるが……それは置いておくことにして」

 

「本当なのっ!?」

 

「ただ……関係が変わることになる。それで咲夜……お前さんの心の声が聞きたい。これは本当に大事なことだ。それは覚えていて欲しい。そして──オレはその【関係】を強要したくない。だが……オレは咲夜と【それ以上】になりたいという心もある。なんだかんだ咲夜が初めて会った異性だからな。それぐらいの【感情】はある。そういう事になりたいオレがいる。後は──オレと咲夜次第だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして彼は自身の両手で彼女の肩を掴み、言葉を続けて──

 

 

 

 

 

 

 

「──オレと付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 彼が続けた言葉。確かに、お互いに関係を持てば繋がりが出来る。しかし、咲夜としてはそのような提案をされるとは思っていなかったのだろう。彼の胸の内に居ながらも、頬を染め上げては動揺の色が伺える。

 

「う、嘘よね? 普段誰にも関わらずからかっているのに、その言葉は──」

 

「……少なくとも、咲夜に好意を抱いているのは本当だ。そうじゃなかったらこんなに抱き寄せて告白なんてしない。……尤も、恋愛感情までには発展していないけどな」

 

「……こういうのって、想っているからこそ伝えるんじゃないの?」

 

 男性経験が無い咲夜にとっては、お互いに恋愛感情までは芽生えていない現状にとっては、不自然に感じるのだろう。先ほどの彼女の言った通り、咲夜は静雅に好意は持っている。しかし、それを恋愛感情を表現するのは不確かだ。

 

「そういうケースも中にはあるんだよ。例えば、一目惚れしてそれで告って、相手が試しに付き合ってみるパターンとか。そこから恋愛感情に発展したりとかよ。そういう関係から始めるのも、良いんじゃないか? ……まぁ、オレ以外の男の人物に恋愛感情があるなら引き下がるが……」

 

 普段根拠を持って話をする静雅だが、今回の話はどこか曖昧だ。確かに、この告白以降左右されるのは咲夜次第だ。このまま彼の告白を受け入れて関係を持つか、持たないか。

 

 しかし──彼女にとっては、彼の気持ちを否定するものがなかった。

 

「……良いわ」

 

「…………後悔、しないか?」

 

 ようやく紡ぎ出した彼女の言葉に、再度確認を取る静雅。その事には、彼女なりの理由が。

 

「多分、人里の男達はそういう対象には見ることが出来ない。これからで、尤も異性が身近にいるのは──静雅、あなたよ」

 

「それは光栄だ。咲夜──オレで良かったら、これからもよろしく頼む」

 

「……えぇ」

 

 お互いの【新しい関係】が築けた事に、静雅は咲夜をもう少しだけ、強く抱きしめる。彼女としたらどこか満更でもない表情を浮かべているが──言い忘れた事でもあったのか、彼女はある言葉を付け足す。

 

「静雅……こうして私と【新しい関係】を持ったのだから──他の女性を異性的な意味でからかうのは禁止よ」

 

「…………え? マジで?」

 

「何でそんな疑問そうに反応出来るのよ……? 当然でしょ。これからの生活で、あなたがそのようにからかっている姿を見たら、流石に私でも嫉妬心は抱くわ。【友人】としてからかうのなら止めはしないけど……過去にあなたが言っていた【彼女募集中】とか、相手に彼氏の存在を確かめるようなからかいは無し」

 

「いやはや、ダメなのか? いっそハーレムを作ったりとか──」

 

「ダメ」

 

 妥協案(?)として咲夜に投げかけた静雅の提案だが、完全に言い切る前に断言する【彼女】。段々と彼女の表情がどこか恥ずかしい表情から、額に怒りの筋を見せているような笑顔に変わりつつある。

 

 さすがの彼もこれ以上の案は受け入れてもらえないと悟ったのか、どこか悲しそうな声が。

 

「これからどうやって他のルートの好感度を上げていけばいいんだ……⁉」

 

「残念ね。これからは私の【るーと】一直線よ」

 

 立場上は咲夜自身が上と考えたのか、彼の言葉を利用してのからかいの言葉。彼女としてはほんの冗談のつもりで言ったのだが──

 

 

 

 

 

 

 

「──なら、もう咲夜一直線で攻略しまくるか」

 

 

 

 

 

 

 

 その彼の言葉の後には。月光で出来た影から見ても二人の顔の影が重なった。急な行動に彼女の思考が一旦停止し。数秒間の静かな時間が流れた。

 

 数秒したら影が離れ、月光で照らされた十六夜咲夜の頬は紅潮しては、戸惑いの表情を見せている。だが、本堂静雅はそのまま彼女のスカートの中へ手を──

 

「──⁉ し、静雅!? あ、あなた、いきなりこんな──」

 

「いや、結構もう理性の限界なんだ。咲夜とこんな密着し続けては、お互いの関係が成立して。さらにオレの人間や妖怪関係もほぼ女が多い。さらには職場は特に。それに加えて咲夜にとってもオレルートを攻略したんだろ? だったらもう、お互いを求めたい。本当にオレで後悔しないのなら──このまま続けたい」

 

 彼女の顔を見ながら、彼もどこか頬を染めながら自身の胸中を語る。その語る内容は男らしくないといえばそうなのだが、彼の表情は真顔だ。彼の表面上のルックスの効果もあるのだが、彼女はまだ困惑している。

 

「そ、そんなのずるいじゃない……。あまつさえ、初めてのキスも奪う形なのに……」

 

「安心しろ。オレも初めてだ。もう、このままお互いの【初めて】の交換といこうぜ? そうすればオレは絶対、浮気はしないだろうから」

 

「……本当に、人の心を荒らしてくる……」

 

「褒め言葉だ。……咲夜、このまま続けていいか?」

 

 ようやく出した咲夜の皮肉も、彼にとっては常日頃言われている事でもあり。どこか誇らしげの表情を見せては、彼女の言葉を待つ静雅。

 

 そして──彼女の出した答えとは。

 

「──優しく、しなさいよ……?」

 

「……了解した」

 

 中断していた、本堂静雅の手が彼女に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館でのテラス。ここの主であるレミリアは図書館の友人でもあるパチュリーと紅茶を楽しんでいた。レミリアは月を眺めながら、パチュリーは持参した本を読みながら。

 

 その中、レミリアは独り言のように言葉を言う。

 

「月光に照らされて、飲む紅茶も格別ね……。咲夜とは違う所為か、小悪魔の淹れたのはちょっと変わった味だけど」

 

「咲夜とこぁは淹れ方が同じというわけじゃないからね。個人の差が出てもおかしくないけど……レミィ。それにしてもよく守矢の宴会に、咲夜に暇を出したわね?」

 

 彼女の言葉にパチュリーは反応し。自身の解釈を述べた後に、聞きたいことでもあったのか、本日起きた出来事について尋ねる彼女。その言葉にレミリアはどうしたかというと──彼女は、少し顔を俯けながら疑問に答えようとする。

 

「……運命で、この日に咲夜と静雅が誘われるというのはわかっていたから。そしてその後の運命を──私は、弄ってしまった」

 

「……弄った? 本来決められた運命の筋書きをレミィは書き換えたというの?」

 

 聞き捨てならない発言だったのだろう。パチュリーは本を読む行動を止め、友人との会話に集中する事に。彼女から受ける視線は、レミリアにとってはどこか居心地が悪い。

 

 それでも、レミリアは──自身の今までの考えを元に話を始めた。

 

「……静雅は、何時か外界に帰還する。これは彼が私の能力対策をする前に見た運命よ。おそらく、一度帰るのは間違いない」

 

「……まぁ、それはわかるわ。八雲紫によって幻想入りし、多分唐突に外界で帰るかもしれない。レミィが見た運命なら確かな事実でしょうね」

 

「……問題は、以降に彼が【幻想郷に戻ってくるか】という事。今では彼に私の能力が対策されてしまった。もう、彼が幻想郷に、私達の元に戻ってくるという保証は無い。今、一番静雅に依存しているのはフランよ。あの子は本当に【兄】のように慕って、心を開いている。何も理由無しに彼がいなくなったらどうなると思う、パチェ?」

 

「…………」

 

 レミリアの問いかけにパチュリーは沈黙。親友の問いにパチュリーはその答えがわかっているからこそ、言わない。

 

 親友の沈黙。レミリアはパチュリーはちゃんと答えを理解しているのを確認しては、話を続けた。

 

「私が見た運命の光景の一部として、木で出来た素朴な箸を使っては何かをしている光景が見えた。それは主導権を握った人物が、不特定の番号を持つ者に命令するというモノ。本来の運命としては【静雅が魔理沙を世間的にいうお姫様抱っこを彼女の自宅まで】をするというものだった」

 

「……何でそんな命令が出るのよ?」

 

「霊夢が魔理沙に辱めを受けた報復で、彼女の確実な【勘】を使っての命令だからよ」

 

 素朴な疑問がパチュリーの言葉として出てくるが、レミリアの言う理由に納得。おそらく魔理沙が霊夢にちょっかいを出す命令をした所為でそのような命令をしたのだろう。

 

 しかし……よりレミリアが神妙な顔になったのは、ここからだ。

 

「……ここからが本題。私は静雅がする対象を──咲夜に変えてしまった」

 

 彼女の言った意味を考えるパチュリー。彼女の中で複数の仮説を立てては、一つずつ可能性を吟味していく。

 

「……魔理沙への同情? さすがに霊夢の勘となると、逃げることは難しい。そうなると一番あのメンバーの中で咲夜は静雅と一番親しい……異性的な意味で。そういう事?」

 

「……もったいぶるのね、パチェは。あなたの中ではもう答えがわかっているでしょうに。何の為に前情報で【静雅が幻想郷に帰る】云々を言ったと思っているのよ?」

 

「だって……! レミィ、それは──」

 

 実際、パチュリーの最初に浮かんだ仮説がレミリアの考察と合致している。あえて彼女はそのような遠回りな仮説を言っていたのだが、親友の言葉にもう答えは一つしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──咲夜と静雅の【関係】を変えようとしているのでしょ! 彼が戻ってくるための【理由】にするために!」

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく、物静かのパチュリーにとっては少し大きな言葉。その言葉の声量は彼女の持病に多少影響するものであり、言い終えた後は少し咳き込む。少し冷静になり、改めて自身の仮説についてパチュリーは述べていく。

 

「……おそらくレミィの中ではこう考えた。静雅にはレミィの能力が効かなくなった。ならば【間接的にどうやって彼を操れるのか】と。本人に直接作用するのではなく、第三者で彼と関わりのある人物で静雅の運命を間接的に操るために。そうなると、必然的に彼が戻ってくる理由にするためには、【関係】作るためには紅魔館の誰かになる。静雅は種族上は神だけど、体は人間と変わりない。おそらく寿命もね。そうなるとただ一つ──人間の咲夜と【関係】を持たせる。咲夜の運命を操って、彼の運命を書き換えようとしている──そういう事でしょう?」

 

「……えぇ。でも──これはほんの少しの希望、だけどね」

 

 レミリアはパチュリーに背を向けては、椅子から立ち上がり月を眺めながら語っていく。

 

「静雅に通用するとはとても思えないわ。正直に言うなれば、間接的でも彼を操れる気がしない。どのみち咲夜に関しても、跡継ぎは残してもらわないとね。この紅魔館で静雅を除けば、短命な命。でも、その短命の人生でも──一部の人間達は、私達を面白く感じさせてくれる。そういう事を願って、私は間接的に咲夜の運命を操ってそうしたい」

 

「……レミィ。正直にいうと──それは正解だと思うわ。普段のあの二人の距離感も、適度でちょうどいい。人里の適当な男を選ぶよりも──妹様に好かれて、私達も好意を持っている静雅を迎え入れたい。そう思ってる」

 

 彼女に並ぶように、パチュリーもレミリアの隣に立っては月を眺めた。彼女達の長い時間が過ぎていく中で、短い時間を生きる咲夜と静雅はどうなるのか。運命を操るレミリアでさえもその未来はわからない。

 

 この夜は流れ星一つも流れていない夜空だが、彼女は願う。

 

「(……どうか、あの二人が想い合うように──)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所の湖の近く。そこには一人の人物が人を抱えるように歩いていた。二人とは男女であり、紅魔館の従者組である──本堂静雅と十六夜咲夜だ。

 

 その抱えるという詳しい動作についてなのだが──それは【お姫様抱っこ】である。

 

「いやぁー……咲夜。思わずハッスルしちまってすまない……」

 

「本当よ……。腰がガクガクで私はまともに歩けないんだもの。どうして静雅は大丈夫なのよ?」

 

「自分、鍛えていますから(意味深)」

 

「……そんな方面の事を鍛えてどうするのよ……?」

 

 お互いに頬を染めながら歩いていく静雅。先ほど起きた【事】とは関係ないように冗談まで飛ばせる静雅に咲夜はため息交じりに反応していたり。

 

 そこである事が疑問に思ったのか、直接静雅は咲夜にある質問を投げかける。

 

「そういや咲夜。こうして運ぶ方法がお姫様抱っこになったわけだがどうしてなんだ? おんぶの方が見た目的に良さそうな感じだと思うが……?」

 

「……それだと、調子に乗った静雅がお尻を触りまくると思ったのよ、エッチ」

 

「おっふ。合理的なタッチはダメか?」

 

「…………」

 

 まだ普段の彼の行動のイメージがあるのか、咲夜の返事に反応が困る静雅。妥協案にしても少しおかしい提案をする静雅だが──肝心の彼女は静雅に顔を背けながら、頬と耳を赤くしながら一言。

 

「…………時と場所を考えてくれるのなら…………」

 

「…………」

 

 静雅としては彼女の返し方は予想外だったらしく、頬を染めながら目を丸くしている。少し固まっていた彼の中で、ようやく紡ぎ出した言葉は。

 

「……すげぇ可愛い」

 

「……バカ」

 

 率直な彼女に対する褒め言葉に、咲夜は罵倒交じりな言葉を返したが、静雅は笑っていたり。

 

 彼女の肯定の言葉を得た静雅はすぐに行動はせず。これからの予定について尋ねる。

 

「とりあえずは腰が回復するまでゆっくり歩いていけば良いんだろ? もしも途中で目撃者がいればオレが記憶を消すって事で」

 

「さすがにこの状態を他の人物に見られるわけにはいかないからね……。もう少しで歩けそうな気がするから、それまでは」

 

 顔を背けていた咲夜だが、彼の顔を見ながら静雅の言葉に応える咲夜。

 

 そして、彼は笑いながら彼女に改めての言葉を贈る。

 

 

 

 

 

「これからもよろしくな、咲夜」

「えぇ。私だけの【彼氏】さん?」

 

 

 

 

 

 

 咲夜は彼に釣られたのもあるのか、彼女も頬を染めたままだが笑顔を見せ。

 

 

 

 

 

 

 その様子を見た人物がいれば、二人は仲睦まじい光景であった。

 

 

 

 

 

 

 




 ……二人の様子が途中から怪しくなった理由。それは単純に──共通・十六章の八話以降、付き合っていたからです。本編の主人公である縫ノ宮千里と博麗霊夢より先に。

 ……伏線はちゃんと張ってあったのですよ? 付き合ったその後でも。フラグを大雑把に整理するとこんな感じです。



・共通・第十五章 閑話1の『裏主人公の例外な二日間』のレミリアの言葉より。
「(……あなたは能力で操れないけど、咲夜の方では有効なのよ。あなたの能力の影響で、私の操った【咲夜の運命】が私の筋書き通りになれば良いのだけど……)」
 この時点から仕込みが始まっていました。

・共通・第十六章 守矢の宴会一話 『声かけ』でのレミリアのこの言葉
「……偶には小悪魔の作る夕食もいいでしょう。咲夜、行っても構わないわ」
 暇を出した主。この時の運命を知っていたため。

・共通・第十六章 守矢の宴会 七話 『ゲーム』④での霊夢の命令が外れた件について
「あら? 私としたら魔理沙が当たるようにしたんだけど……外れたようね」
 さんざん王様くじを引きながらスナイパーのような命令が外れる? それはレミリアの仕業です。

・裏・第十七章 四話 『地霊殿の主』の話における、さとりの発言の途中。
「……静雅さんの能力は心にまで応用が利くみたいですね……失礼しました。あなたの親友──辰上侠さんの事を思っての事ですね。ですがその事を知っている人物は他にもいるみたいですが? 心の中に龍神の先祖返りである親友の隣に女性の方が──」
 この女性については咲夜です。部外者で唯一、静雅と咲夜の関係を知った人物でもある。

・裏・第十七章 六話 『古明地姉妹』における、こいしの『彼女にしてー(要約)』における静雅の返事。
「実はオレ、今じゃ愛人も恋人も募集していないぞ? そういう申し出はありがたいが、受け入れることが出来ない」

 ……ここである会話について思い出してほしい。まずは裏・第六章五話 『会話、人形』の静雅の発言。
「どうぞどうぞ。現在彼女募集中なので」

 次に裏・第七章五話 『アリスの苦労、踊らさ霊夢』の静雅の発言。
「ちなみに現在彼女募集中の静雅さんである」

 さらに裏・第十三章 五話『吹っ切れた気持ち』の静雅の発言。
「彼女なら募集中だぞ?」

 ちなみに共通・第十四章 修羅場 一話 『事の始まり』においてのアリスがこの事について考察していたり。

 さらには共通・第十五章 閑話1での 『人形使いの嫉妬?』でアリスの疑問に答える静雅の会話。
「それにあなたは紅魔館で唯一の男だもね。紅魔館関係にしろ、そういう関係の人はいるのかしら?」
「いや、静雅さんは彼女募集中だが……まだ名乗り出てくれる奴がいないから、そういうのはいないぞ?」
「……どうだか」
 本当に彼女がいなかったこの頃。

 そしてこの発言。



「実はオレ、今じゃ愛人も恋人も募集していないぞ?」




 何 故 ス ル ー さ れ た し




 発言の裏をとれば、「そういうの(恋人関係)に興味がなくなった」か「今では恋人関係の人物はいるので無理」という二択の意味があります。このBack Sを知っている方は、当然後者の意味です。というよりそれ以降、静雅は彼女募集というからかいがなくなったんですよね。そしてフランとこいしの妹対決で第三の選択肢として咲夜を選んだ理由は……言うまでもないと思います。

 この発言でBack Sを知らない人にとっては矛盾している発言であり、感想欄でもツッコミを入れられると覚悟していたのですが……一人も追及する方はいませんでした。き、きっと読者様が気を使ってくれたんですよね(震え声)

 以降、魔理沙が共通・第十八章  天地の巡り合いの 六話 『情報の整理』や共通・第十九章 閑話2『図書館での一日』における静雅と咲夜の関係を怪しんでいた事。女の勘ってすごいですね。二人はあくまで内密に付き合っていたので隠していたのもあったり。(だが最終章でレミリアの様子を見ていただければわかるかと)

 ……ん? 最終話におけるアリスの言う【石鹸】問題について? この話で察してくださいお願いします。(むしろ共通・第二十一章 外界における  十三話『タツカミキョウの【名前と】……』で咲夜が静雅に耳打ちした内容は……この話を察してください静雅が何でもしますから!)

 では、また。

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