幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 基本的に本編に関わる話で、完結後なら【After S(アフターストーリー)】、その完結前に関わる話なら【Back S(バックストーリー)】と記述します。BackSはアンケートの収集結果して発表した後、投稿予定。本編とパラレルな番外編についてはいつも通り【特別番外編】で。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


After S『縫ノ宮千里の女性関係』

 人には【モテ期】というものが存在しているらしい。よれば、人にはモテ期は三度来るという。このモテ期というのは自覚しづらいもので、気づいてたらそのモテ期が過ぎたという自覚する人物もいるという。知らず知らずにモテ期を使い果たしていて後悔する人物も中にはいる……らしい。

 

 辰上侠──縫ノ宮千里は博麗霊夢と正式に付き合い、現在は神主見習いとして活動している。とはいっても、現在の服装は学生服のままだが。

 

 彼が主に活動するのは人里などで博麗神社のお守り・お札の販売。または博麗霊夢と同じ妖怪退治なども兼任している。この時でお札などを販売するときは学生服、異変などは神主としての格好をするようにはしているのだが。信仰に関する問題でお札などはそれなりに売れるが、それはあくまで【龍神】としての血が流れているため。信仰は独り占めにしないように、守矢や他の神々の信仰活動もアルバイト感覚で手伝っているのが現状だ。

 

 その中、一通り人里を回ってはそこそこ売れた事で帰ろうとしたのだが、人里に住むある女性二人組の内、一人が何かの落し物をした。千里はそれを見かけるとすぐさま拾い、その落とし主に話しかける。

 

「ねぇ、君。これさっき落としたよ」

 

『え──えっ!? 侠様!? えと、落し物ですか!? ……あ、確かにコレは私のです! ありがとうございますっ!』

 

『それ、アンタが母親に贈ろうとしていたのじゃん! あ、侠様! この子の為にありがとうございます!』

 

 千里に話しかけられた事が落し物より驚愕した事だったのか、落とし主の行動は慌ただしい。友人と思われる人物も千里に礼儀を込めてお礼を述べている。

 

 大宴会が行われた後、最も人里に近い天狗である射命丸文によって情報は拡散している。彼の本名なり、博麗霊夢との関係だったりなど。彼を呼ぶ名前は各々によって違う。この二人にように、龍神の先祖返りである事に敬意を示して【様】付けする人物もしばしばいる。

 

 深くお辞儀をしている二人に、顔を上げるように促した千里は、改めて言葉を。

 

「うん。これからは落とさないようにね。それにしても……母親の為の贈り物とは。これからも母親も、家族も大事にしてあげること。贈り物、喜んでくれるといいね」

 

 今までの彼なら落し物を渡したとしたら、単純に渡して去っていた事だろう。しかし今の彼は、霊夢との一件以来他人とコミュニケーションを取ろうとしている。口調はあまり戻ることは無いが、元の社交的な性格に戻りつつあるのか感情表現が豊かになってきている。彼は実際に言葉を贈るときには──笑みを浮かべるようになっていた。

 

『『──⁉』』

 

 見たこともない千里の顔に、どこか頬を染める人里に住む二人の少女。千里は気づかず「良い事をしたな」と思いつつ歩いて去って行った。この感情表現についても、霊夢との関係が作られたのもあるのだろう。実際、彼は【幸せ】と断言できる。

 

 その中、硬直していた少女二人はというと。

 

『ねぇ……今の、見た?』

 

『そりゃあ、見た見た……! あんな侠様の顔初めて見た!』

 

『人里ではもう、博麗の巫女様と付き合っているというのはわかっているんだけど……』

 

『やっぱり──』

 

『『カッコいい、よね~……』』

 

 ──どうやら彼のモテ期は、霊夢と恋人関係になった後らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 博麗神社の一室。そこに家主でもある博麗霊夢がいた。そこにいる霊夢はというと──

 

「──千里、早く帰ってこないかしら……♪」

 

 彼女もまた、ご機嫌な様子で彼の帰還を待っていた。基本的に一人でいる時は、やけに千里の考えている割合が多くなっているのが現状だ。しかし、それはあくまで【一人の空間】に限定されるが。

 

 彼女の空間を、ぶち壊しにする風が入ってくる。

 

『こんにちは霊夢さん! 侠さんはいらっしゃるでしょうか?』

 

「何? 文。今千里はいないわよ」

 

 千里以外の来訪者が来ると、すぐさま【普段】の表情に戻る霊夢。そこ言葉はどこかぶっきらぼうだ。まぁ、この様子により普段を変わらない霊夢だと他者は思い込んでくれるのだが。

 

 ちなみに博麗神社に来訪したのは、鴉天狗でもある射命丸文である。彼女は彼の所在を聞く。

 

「あや? なら侠さんはどこにいるんです?」

 

「千里は私の作ったお守りやお札を売りに行っているわ。基本的に今は仕事を分けているのよ。私が暇なときはお守りとかを作って、千里がそれを売りに行って。神社に誰もいないという状況は良くないっていう千里の言葉を元に、私は気長に帰りを待っているのよ」

 

「ふむふむ……本当にまるで夫婦のようですね。夫の帰りを待つ妻みたいで」

 

「ま、まぁ、実際そういうものよねっ。私と千里は恋人関係なんだし。良いものよ恋人って」

 

「(あ、少しイラってきました)」

 

 茶化しの言葉に霊夢は腕を組んで不機嫌そうに言っているのかと思ったら、頬を染めては惚気話である。現在独り身である射命丸文にとっては多少不愉快な反応だった。俗にいう静雅の言葉を借りるなら「リア充爆発しろ」の類いの感情である。

 

 その事の返しなのか、文は嫌味を含めて言葉を言うが──

 

「しかし……今の侠さんは凄いモテモテらしいですからねぇ……。一時期の他人行儀な反応を止めて以来、彼の評価は鰻登りなのですよ? 本当に侠さんにとってはよりどりみどりですよねぇ……」

 

「その中で私が千里の中で一番大切な存在なのよね。私も千里は一番の存在だし」

 

「(皮肉が通じない……っ!)」

 

 幸せが勝っているのか、どこか誇らしげに頷きながら語る霊夢に、さらに文はイラつきを増す。どこかの橋姫の言葉を借りるなら「妬ましい」の感情が多くなってきた。

 

 ある意味では文を置いてけぼりと気付いたのか、霊夢は我に帰っては本題を尋ねる。

 

「そういえば文。千里に何か用なの?」

 

「……そうですねー。今の侠さんなら外界はどのようなものか聞けると思ったんですけどねー。どうやらいないようなので帰らせてもらいますー」

 

「あ、そうなの……あ、それで聞いてよ文。この間、千里ったらね──」

 

「(惚気話は結構よっ!)」

 

 帰ろうと思った矢先に惚気に浸っている霊夢に捕まり、心の中で敬語が崩れている中で千里が帰ってくるまで文の心労は溜まったという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そういうわけで静雅さん。あの二人を修羅場にさせる話題はないでしょうか……?」

 

「……随分と【コッチ】サイドになったな、お前さん」

 

「だって会う度にどうでも良い惚気話を聞かせてくるんですよ!? いっそぶち壊したくなるもんですっ!」

 

「良かったなパルパル……仲間が増えたようだぞ」

 

 どこか憤慨するように語る文の言葉に応えたのは、紅魔館で執事をしては縫ノ宮千里の親友でもある本堂静雅だ。彼女の様子をどこかの橋姫に例えていたが。

 

 だが、彼女の言葉とは逆に言葉を返す静雅。

 

「しかしなぁ……例え喧嘩してもすぐ仲直りするだろあの二人は? 例え修羅場に一時的になったとしても──すぐにイチャつくぞ」

 

「……そういえば、心なしか霊夢さんは侠さんに寄りかかりながら話をしていたような……」

 

 実際に千里があの時に帰って来た時に、霊夢と軽く話しては文を巻き込みながらその日に起こっていた事を話していた。無論、両者は隣通しで座り、霊夢は【背もたれ】として千里に寄りかかっていたが。当本人の千里は口では止めるように言っていたが、そのまま彼女の事を受け入れていた彼を見て文は何度心の中で舌打ちをしていたか。

 

 思い出すようにして、静雅は現在の千里の女性関係を語ろうとするが。

 

「そうだなぁ……ここのところの千里(センリ)の女性関係とすれば──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※白玉楼の場合

 

 

 静雅は千里(ちさと)と共に白玉楼へ来ていた。白玉楼に来た理由というのは至って単純で、人里で行動している時に千里が妖夢を見かけたからだ。彼女は良く食べる主人の為に膨大な買い物をしているのもあり、それを見かねた千里は静雅にも頼んで、荷物の一部を持ってあげたという。

 

 ……静雅は断る事も出来たが、目的は茶化すつもりだが。

 

 白玉楼への階段を飛翔している中、申し訳なさそうに話しかけたのは白玉楼の庭師でもある魂魄妖夢だ。

 

「す、すみません、千里さん、静雅さん。私の荷物を持ってもらって……」

 

「気にしなくていいよ。女の子がそんな多くの荷物を持つものじゃないし。それだったら男の自分達に頼って良いから」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

「(霊夢との関係を暴露して以来、かなりフレンドリーになってジゴロになってきた千里(センリ)の件について)」

 

 静雅は会話を聞いている時に思う。妖夢は真面目な性格なので、東風谷早苗みたいに寝取るなどはそういう事はしないだろう。彼女もまた、千里(ちさと)に想いを寄せている。謙虚は彼女にとってはどこか千里を諦めなければならないというのはわかっていると思うのだが、着々と本来の性格に戻りつつある千里の優しさにまた、惹かれ始めている。現に会話した言葉も、しっかりと妖夢の事を【異性】として扱っている。その事に妖夢は頬を染めながら心なしか嬉しそうにしているのだ。

 

 せめてこれ以上に妖夢との触れ合いを見て、ある意味では悪化させないように茶化した静雅だったが──

 

「おいおい親友よ。仮にも彼女がいるってのにそんな簡単に異性として触れ合っていいものかね? もしかして愛人候補か?」

 

「彼女がいるからって、相手を女の子扱いにしないのは相当失礼だと思うよ静雅。確かに霊夢は自分にとって理解者だし、大事な人物だと思うけど──妖夢だって女の子なんだ。妖夢は彼女なりの魅力もあるし、自分はその事は好ましく思うよ」

 

「みょんっ!? わ、私に、千里さんにとって魅力があるのですか……!?」

 

 何故か逆に説教された。その説教の言葉に彼女としても信じがたい事があったのか、顔を赤く染め上げたのを隠すように手で覆っているが。

 

 彼女の言葉が疑問が含まれていたのを感じた千里は、それについて説明に入る。

 

「うん。妖夢って日頃から鍛錬して己を高めているでしょ? そのような日頃から高みを目指して努力している女の子っていうのは、魅力的だと自分は思うよ」

 

「……千里さんは、ずるいです……(そんなの、惹かれちゃうに決まっているじゃないですか……)」

 

「ゑ? ずるい? 卑怯な発言はした覚えがないんだけど?」

 

「何でもないですっ。……それよりもこの後、組手をする時間はありますか? 本日こそは千里さんに勝たせてもらいます!」

 

「良いよ。時間には余裕があるし。久々に体を動かすけど──自分は負けないからね」

 

「はい! 望むところです!」

 

 ある意味では二人だけの世界に入っている親友と庭師。その中、静雅は思う。

 

「(……フレンドリーになってから段々と鈍感になりつつあるような……)」

 

 これも、ある意味では霊夢の影響であろう。この状態をある意味では表す言葉がある。

 

 ──恋は盲目──

 

 そしてまた思う。この言葉により、霊夢という彼女がいるのにも関わらず好感度を上げたことを。基本的にギャルゲーは一人のルートに入ると、他の人物の好感度は上がる事は無くなる。しかし今は何だ? 完全に霊夢ルートに入って完結したというのに、それでも他のルートの人物の好感度も上がる?

 

 二人は白玉楼まで競争するかのように進んでいく中、静雅は一言。

 

「……リア充爆発しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※守矢神社の場合

 

 今度の千里と静雅は守矢神社へと足を運んだ。実際には千里一人で守矢神社に行く予定だったのだが、最近の早苗は吹っ切れている。その防止役として静雅を呼んだのもあるが。

 

 そして、守矢神社に着き。ちょうど掃き掃除をしていた守矢神社の巫女──東風谷早苗は想い人である縫ノ宮千里を見つけると、躊躇いなく突進するかのように抱き着こうとしたのだが──

 

「! 千里君! 私に会いに来てくれたのですね! とても嬉しい──」

 

「静雅バリアーッ!」

 

「はいっ!?」

 

 すぐさま彼は親友を盾として扱ったという。彼が急に目の前に現れた事に驚いた早苗はすぐさま急ブレーキ、何とか衝突事故が起こらずに済んだのだが……当然、静雅は軽くだが千里に怒る。

 

「お前さん、オレをシールド扱いにするというのはどういう了見だ!?」

 

「だって静雅は対神様対策の種族だし。静雅を盾にすれば最低限の事故は無くなるし。今の早苗は常識に囚われない分、もしもの衝突で浮気行動になるのは嫌だから」

 

「オレの種族を利用するんじゃねぇよっ!?」

 

「だって現に……ほら」

 

 促した視線の方向に静雅は不満ながら向いている見ると──その理由に納得することになる。

 

「フフフ……千里君ったら恥ずかしがり屋さんですねぇ♪ 私としたら全然時と場所は関係なく触れても良いというのに。まぁ、謙虚なところも千里君の魅力ですけど♪ そして何時かは霊夢さん以上の関係になっては──」

 

「静雅……何か言う事は?」

 

「何か……すまん」

 

「自分としても依然の早苗に戻って欲しいんだけどね。それはともかく──早苗。戻ってきて」

 

「──はっ。これは失礼しました千里君。本日はどうされました?」

 

 一時自分の世界に潜り込んでいた早苗だが、千里の言葉で我に帰る。その後は何事も無かったかのように取り繕う。そんな彼女に少し呆れながらも、千里は懐があるものを手渡した。

 

「はい、守矢神社のお守りとかの売上。今日の稼ぎと信仰はこんな感じ」

 

「ありがとうございます! えへへ……こうしたやり取りって、夫婦に思わないですか? 給料日に丁寧に渡す夫と、それを受け取る妻みたいな感じで……♡」

 

「生憎、妻はもう知っての通りだけどね。何時かは正式に婿入りでもしようかと思っているけど」

 

「そうですかそうですか♪ 千里君はもう私と式を挙げるのを楽しみにしていると……!」

 

「ダメだ話を全く聞いていない……」

 

「(下手したらどこぞのバカップルみたいな会話だな……)」

 

 この時点での静雅は軽く千里に同情していた。いくら遠い血縁関係でも、ある意味一方的な恋愛感情を向けられても困るだろう。

 

 ……あくまで、この時点までだが。

 

 

 

 

 

 次にとった千里の行動までなのだが──彼は早苗の後ろに回り込むと、軽く抱き寄せたまでは。

 

 

 

 

 

「──ふぇっ!? ち、千里君!? い、今、私に抱き着いているのですか!?」

 

「早苗。正直に言うと──君からの好意は凄く嬉しいんだ。今まで、自分は血縁関係の人物はいないと思っていたから。それでも後に自分は一人じゃないとわかって、その後でも君との繋がりがわかって。最初はやっぱり戸惑ったよ。でも──幻想郷の離れた所でも、この世界でも繋がりはあるんだなって……」

 

「ち、千里君……これは反則ですって……反則です……!」

 

 後ろから囁くようにして心境を語る千里に戸惑いを覚え、普段の千里を触れ合う表情を違った、恥ずかしさによって頬を染めている早苗。

 

 そして最後には──耳元の近くまで口を近づけては、ある事を告げる。

 

「彼女云々や伴侶の事は置いておくけど──早苗は魅力的な女の子だと思うよ」

 

「はう──」

 

 甘く囁かれた彼女は許容量を超えてしまい──少しの間だが気絶した。彼女の顔、耳元まで赤く染め上げては。彼女が倒れるのを防いで、彼女の肩を持つ形に。そしてやりきったような感じで彼は一言。

 

「……一先ずはこれで安心かな」

 

「今明らかに浮気現場じゃね? 浮気じゃね?」

 

 静雅の目でもこれは浮気と捉えたのか千里を冷かしているが、当本人の千里は涼しい顔で説明する。

 

「最近、早苗の行動は陽花とほぼ同じだなと思ってね。陽花も早苗みたくスキンシップをしてくるんだけど──逆にこっちからスキンシップすると戸惑って恥ずかしがるんだよね。それから考えて逆にスキンシップを取ってみたんだけど……読み通りだね」

 

「何それ怖い」

 

 静雅はいろんな意味で早苗の事が可哀想だと思った。すっかり彼女の扱いが着々と義妹と同じような扱い方になっている事に。

 

 そして何より──他の人物に心を開くことによって、本人が実は望んでいる事を利用しては場を収めることを成功した事に。

 

 それでも一部の誤解を解くためか、静雅に弁明する千里。

 

「一応だけど、霊夢には一日で起きた事は伝えているからね。嫉妬する霊夢も可愛いけど、お互いにあまり隠し事をしない方が良いから。さてとと……早苗の介抱をしないとね。全く、好意は嬉しいんだけど関係を弁えて欲しいなぁ……」

 

 そのまま流れるようにして早苗を背負い、守矢神社へと入って行く。ある意味では早苗の好意は迷惑だろうと踏んでいた静雅だが、本人は満更でもなかったという。彼女に誘惑されている中で千里はしっかりと立場を弁え、彼女を交友を続けている事に。これは血縁関係とは関係なく、彼女との関わりも大切にしているのだろう。

 

 これだけの事をしても女性関係にトラブルが起きていない事に、静雅は一言。

 

「……妬ましい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※図書館の場合

 

 

 この日は縫ノ宮千里は紅魔館にある図書館へとやって来た。当本人はパチュリーの許可を得ては静かに読書をしている。そして彼の傍にはこの図書館の司書を務めている──小悪魔がいる。彼女はどこか落ち着きがないようで、チラチラと千里を見ているが。

 

 ……ちなみに本堂静雅はパチュリーと共に彼女の水晶を覗き込んで、千里と小悪魔の動向を見守っている。

 

 先に話しかけたのは千里だった。彼は落ち着きのない小悪魔に話を振る。

 

「こぁさん。折角だしこっちに来たら? 話したいこととかあるんじゃない?」

 

「こぁっ!? えっと、その、はい……それでは失礼、します」

 

 彼女の心が当たられたのか一瞬戸惑うが、小悪魔は控えめに千里の隣へと座った。そして恥ずかしさがまだある中、小悪魔はある事について尋ねた。

 

「あの、千里さん……千里さんは、霊夢さんの事が好きなんですよね? それで、霊夢さんも千里さんが好きで両想いで。それで、キスまでしたと聞いています……」

 

「……まぁ、そうだね。後、霊夢の暴露で自分が知らないウチにキスされていた事は驚いたなぁ……。正直すれ違っていたと思っていたのに、先にそういう事をされていたとは思っていなかったけど」

 

 知らないウチに、という言葉で小悪魔の体が一瞬震えた。彼女にとっても、その事は覚えのある行動で。一瞬の行動だったが千里は見逃さず、素直に疑問に思った彼は直球で質問をした。

 

「? どうしたのこぁさん? 一瞬寒気でもした?」

 

「えっと、あの、それは……」

 

 小悪魔は悩んだ。過去にあった出来事を話したの方が良いのかと。しかし、内容が内容の為、もしかしたら軽蔑されるかもしれない。でも、このまま隠し続けたとして──彼とこれから真正面で話すことが出来るのだろうかと、自分に問う。

 

 そして彼女は腹をくくり──あの日の出来事について、少しつっかえながらも話すことにした。

 

「あの、千里さん。私……千里さんに謝らなければならない、事が、あるんです……」

 

「……謝らなければいけない事?」

 

「は、はい……。以前、千里さんが本の整理に手伝いに、来てくださったことです。その時に、千里さんは私を庇って、一時気絶してしまいましたよね……?」

 

「そうなんだよね。正直本当に気絶してたから記憶になくて……」

 

 思い出そうとして千里は頭を掻きながら話しているものの、どうやら本当に思い出す事が出来ないらしい。小悪魔自身も葛藤しているのだが、今や彼は付き合っている彼女がいる。何かしらのトラブルの火種にならない為にも、あの時にしてしまった事を正直話すべきだ。彼のこれからの幸せの為に。

 

 ──もう、実らない恋に区切りをつけるために。

 

 その事を胸に刻んだからか、彼女の瞳から──涙の流しながら懺悔するように語っていく。当然、千里は困惑しながらだ。

 

「ゑ、ちょっと、こぁさん……? どうしたの……?」

 

「──本当にごめんなさいっ!! 私、気絶していた千里さんに──頬にキスしていたんですっ!!」

 

「ゑ!? それってもしかすると、自分が庇った際の事故!? それだったらしょうがないよっ!?」

 

「そう、じゃないんです……! 気絶した千里さんに、私から意図的にです──」

 

 小悪魔は涙を流しながら、自身の胸に片手を当てながら──想いをそのままぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「私は──あなたに出会う前からずっと、好きだったんですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 まるで二人以外誰もいないような図書館に、静寂が走る。始めは驚愕の表情を浮かべていた千里だが、少しずつ冷静に、頭を働かせる、その中でようやく紡ぎ出した言葉。

 

「……俺に出会う前から? それはどういうことだ……?」

 

 あまりの突然の告白と情報に、彼は【素】の口調に戻る。それだけ事を深く受け止めているのだろう。真剣に、彼女に向き合って次の言葉を求めている。

 

 嗚咽を混じりながらも、彼に想いの敬意を小悪魔は語っていく。

 

「……一目惚れ、だったんです。きっかけは、この図書館で、静雅さんの【携帯電話】の写真を見たんです。前にも、千里さんが初めて宴会に参加した日にも話しましたが……。そこに写っている千里さんは、迷惑そうながらも、どこか優しげな表情に惹かれたんです。もちろん、会える事は無いと思っていて、半場諦めていたんです。当時は【外界にいるはずの人物】だと、思っていましたから。でも、静雅さんが起こした異変で──」

 

「当時、一目惚れした外界にいるはずだった人物が目の前にいたから、あんなに驚いていたのか……」

 

「……はい……」

 

 途中で問いかけられる質問に答える小悪魔。段々と彼女は自信なさげに、目を伏せていく。その様子は、この場にいるのが正直耐えられない。そのような空気が漂っている。

 

 その中で──縫ノ宮千里が続けた言葉とは。

 

 

 

 

 

「──正直、こぁさんの気持ちには気づいていた」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 そのような言葉が来るとは思っていなかったのか、伏せていたはずの小悪魔だがすぐさま顔を上げた。そこまで小悪魔にとっても驚愕を含めた情報だったのだろう。

 

 彼女が目を丸くしている中、どこか彼も気まずそうにしながらも理由を説明する。

 

「初めて対面して、一度こぁさんが自分と話して、ノーレッジを倒した後の様子で何となく察してたんだ。【会ったばかりの自分に気があるんじゃないか】という事を。でも、どうして会って間もない自分に気があるのかが唯一わからなかったんだ。確かに一目惚れも考える事は出来た。でも、今のこぁさんの情報が出るまでどうしても納得できなかったんだ。それはあくまで【二人ともこの時が初対面】という前提条件の元で考えていたんだ。本当に初対面だったなら、主思いのこぁさんならまだ撃退を優先すると思っていた。でも君は、こぁさんは──葛藤して、涙を流してまで自分と止めようとしていたから。初めて会う男に、本来そこまでして悩む必要はないからな。でもこぁさんがその様子を見せて以来、【一目惚れ】という事は考えていたが……宴会で何故俺の事を知っているかを知った時、ようやく歯車が噛み合ったんだ」

 

 ゆっくりと小悪魔に歩み寄り、彼女に近づいた千里。彼はもう一つ隠していた事実について告げる。

 

「それと、射命丸がこぁさんの言葉を遮った時。途中までの言葉で正直、どんな事を言われるかはわかっていた。だから、あえて聞こえなかった振りをした。当時の俺は恋愛しようだなんて考えていなかったからな……尤も、今ではこの様子だが……」

 

「……何でも御見通しなんですね、千里さんは。そのように頭の回転が早いところも、好きだったんですよ……?」

 

 苦笑いを浮かべて、無理やり笑顔を作ろうとしている小悪魔の様子に千里は、彼も眉間にしわを寄せては苦しい表情をしていた。

 

 そして彼が今から起こす行動は、同情なのか、一種の謝罪かわからないが──千里は小悪魔の両手を手に取って、彼女の目を真直ぐに見ながら気持ちを伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「──俺の事を好きになってくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。小悪魔の瞳からは先ほどとは違う涙が流れた。驚愕しているのか、自身の気持ちに迷惑していなかった事に嬉しさがあるのかは、わからない。ただわかるのは、彼の言葉に反応して涙を流した事だ。

 

「もしも外界で【あの事】が起きてなくて、常に他人を信じられる状態だったならば、間違いなくこぁさんに惹かれていたかもしれない。俺は周りの環境の所為か、義妹の陽花の所為なのか……無意識に年上の雰囲気がする女性が好みだったんだと思う。それでこぁさんは実際に俺から見たら年上に見えて、包容力があって、優しくて……。でも……俺が今好きな女性は霊夢なんだ。こぁさんと比べると霊夢はちょっとぶっきらぼうで、無茶振りをする。とても年上どころか年下の印象が強かったけど……」

 

 始めは小悪魔を褒めて、今では関係を持った霊夢の短所を挙げている千里だが……無論、霊夢の長所も挙げていく。

 

「……それでも霊夢は、深く俺の事を理解してくれた。俺がどのような人物を欲してくれているのか、理解してくれた。【あの事】以来、他人は信じるつもりなんてなかったものなのに……ずっと霊夢は、あの時までの俺も信じて理解してくれた。霊夢は俺の理解者であり──同時に魅力的な存在に映った。心の底から本当に俺の事を好きで、もっと俺の事を知りたいと。その言葉に俺は救われたんだ」

 

「……霊夢さんが羨ましいです。こんなにも千里さんに想われているんですから」

 

「……本当に、すまない」

 

 徐々に泣き止んで妬みの声を聞いた千里は謝罪をしては、小悪魔は「いいえ」と言って言葉を返す。どうやら一種のからかいらしい。

 

 空気が軽くなった事を感じたのだろう。千里は小悪魔にある事を頼みこむ。

 

「もしも、次世代の俺の子供が生まれて育ったら、空いている時間に絵本でも何でもいい。読み聞かせて欲しいんだ。これから生まれてくる子供は、過去の俺のようにはならず、積極的に他の人物と接点を持ってほしい。包容力のあるこぁさんだったら、諸事情で俺や霊夢のいないときでも安心して任せられる」

 

「……普通、好きな男性の子供を任せますか? それは一種の嫌味ですかね?」

 

「いや、そういうつもりはないんだ。ただ、本当にこぁさんなら任せられると思って──」

 

「フフッ。冗談ですよ。千里さんが嫌がらせ目的で頼みこまない事は知っています」

 

 またしてもからかいの言葉に千里は解せない表情を浮かべているが、反対に小悪魔は自然に笑えるようになっていたり。

 

 彼の困った表情を楽しんだ小悪魔は話を続ける。

 

「良いですよ。もしも本当に千里さんと霊夢さんの子供が生まれたとして、二人が諸事情でいない時は私が責任を持って預かります。それで子供が霊夢さんより私に懐いてもしょうがありませんからね?」

 

「それは困るな……。ある意味では霊夢に俺がしばかれる。それじゃあ、まるでこぁさんが妻じゃないか……」

 

「いっそそれでも私としたらいいですけどね。でも──あくまで、千里さんと霊夢さんが破局しない限り、ですよ?」

 

「…………ゑ?」

 

 彼女の言葉が意外なことだったのか。千里は彼女の発言で目を丸くしているなか、小悪魔は自身の人差し指を千里の唇へと当てながら言葉を。

 

「さすがに無理やり千里さんと霊夢さんの仲を険悪にしようとはしません。ですが、私の介入無しで険悪になった場合は別です。その時は千里さんを誘惑しますので。だって私は、外見的な好みに入っているんですよね? その時は私に頼っていただいて、私とお付き合いしても良いんですから」

 

「普段控えめなこぁさんの誘惑って、いったいどういう事なんだ……?」

 

 彼女の言葉が虚勢だと思ったのか、少しだけ離れた半信半疑の状態の千里に小悪魔はある事を告げる。

 

「一応私、サキュバスなので」

 

「…………サキュバス?」

 

「はい。小悪魔は分類的にはサキュバス、つまりは淫魔の類いです。なので私が本気で千里さんに誘惑するとどこまで効くかはわかりませんが……今だと、心の中に初代龍神様はいないんですよね? だとしたら多少は効果はあると思いますので──その時は、覚悟してくださいね?」

 

 そして小悪魔は千里の正面に立つと──以前彼が知らない時に頬にキスした場所とは反対の頬に口づけをした。躊躇いの無い行動に、一瞬体を震わせる千里。彼は東風谷早苗との一件で頬にキスをされた事は体験しているが──現在の小悪魔のキスに、若干の体調の変化が訪れる。

 

「(!? 一瞬、体が熱くなった……!?)」

 

 彼は動揺の色を見せて、頬を赤く染めてはキスされた場所を触る。その後体を確かめるように自身で触診をしては、彼の体調の変化は少し経つと元に戻ったが──その様子を見届けた小悪魔は頬を若干赤く染めながら怪しい笑みを浮かべていた。

 

「今のは体験版です。私の【小悪魔】としての特性を付加させたものです。どうやら初代龍神様がいなくとも、多少効果は表れるみたいですね。だったら問題は無いです。千里さん。今は霊夢さんとの関係を祝福しますが……隙があれば、猛アタックするので──気を付けてください、ね?」

 

 言葉を繋げた彼女自身を恥ずかしいのもあったのか、小悪魔は急ぎ足でその場を去っていく。千里はわずかに残っている口づけの跡を片手で触りながら一言。

 

「……本当に【小悪魔】だ……」

 

 改めて、彼女の種族と行動に納得し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論、この図書館にいるのは縫ノ宮千里と小悪魔だけではない。図書館の主であるパチュリー・ノーレッジを一緒に本堂静雅は、彼女の水晶を通して事の顛末を見届けたが──彼としても知らなかった事実があったのだろう。他にも色々意見したいものがあったが、現状で一番聞きたい事をパチュリーに聞く。

 

「……パッチェさんよ。小悪魔ってサキュバスの分類の種族だったのか? よく同人誌などでエロ可愛いやエロかっこいいで評判のサキュバスに?」

 

「変な呼び方は止めなさいと言っているでしょうに……。その【どうじんし】は知らないけど……まぁ、こぁはその分類よ。ただ、こぁは他の小悪魔と違った考えを持った小悪魔だけど」

 

 偶々近くにあったのだろうか、机に積まれている一つの本をとっては、適当にページを開いて検索が終わると、改めて小悪魔について説明する。

 

「サキュバスの対にある種族のインキュバスのように、異性の精を主に糧にするのが小悪魔の種族よ。まぁ、こぁの種族の【小悪魔】は普通にそういう事をしなくても生きていけるのよね。代々物は普通の食事で良いし。それと静雅が初めてこぁと会った時、冗談で『食べるかもしれませんよ?』と静雅に言った時あるじゃない。アレは一般的な妖怪も含めてだけど、自身がサキュバスという事も含めて言った言葉よ」

 

「マジで? 冗談とはいえ性的に食われそうだったの、オレ?」

 

「そう言ってもこぁは絶対しないけどね。ほかの小悪魔は知らないけど、こぁ自身の考えでは【好きでもない相手にそのような事をしたくない】って言っているの。考え方が普通の【小悪魔】としてずれているのよ」

 

 解説しながら本を読み進めているパチュリーに、静雅はどこか安心した表情で「つまり小悪魔は処──」と言いかけたが、その言葉はパチュリーに本を投げつけられて中断。しかも本の角に当たったので、当たった個所である額を抑えながらこらえている静雅の様子が。

 

「話を続けるわ。言いかけた言葉はともかく、こぁは異性との付き合いすら関係を持った事がない。そこで現れたのが辰上侠なのよね……。小悪魔と龍神の先祖返りの子供も気になるけど、あの霊夢の血を引き継いだ子供も気になるわね」

 

 魔法を使って投げた本を回収しつつ、再び本のページをめくり読むのを再開する。大胆な本のツッコミを受けた静雅は額に手を当てながら振り返る。

 

「(……案外、小悪魔は千里(センリ)争奪戦(済)に参戦し続けるんだな。てっきり諦めるかと思っていたのに……そして、再び千里の好感度が上がるという。千里のモテ期って今なのか……?)」

 

 親友のこれからの女性関係が気になっていく静雅であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※天界の場合

 

 

 今度の外界二人組は天界に訪れていた。今回のきっかけというのは静雅が『天界に行ったことねぇから行ってみたい』という一言から始まった。親友である縫ノ宮千里(ちさと)は行った事があるため、彼を案内。飛翔を続けては、天界に到着。着いた場所は依然にある天人に案内された絶景の見れる場所だが──そこに先客が二人。

 

「ん──って、侠じゃない。それとあんたの親友の……誰だっけ?」

 

「総領娘様。彼は荒人神の本堂静雅さんですよ。紅魔館を居住に活動している方です」

 

「そりゃないぜ天子(てんこ)。あんなにお前さんを弄っていたというのに」

 

「だから天子(てんし)よっ! あー、ようやく思い出したわ。人の名前を遠慮なくわざと間違える不届き者だっていう事を。侠……よくこんな奴と一緒に居られるわね?」

 

「まぁ。それが静雅の性格だから諦めて」

 

「えー……」

 

 ちょうど彼ら二人の目の前にいた人物は、二人の女性だ。いち早く千里を確認したのは成り上がりの天人でもあり、当時の千里にとっては少ない友人である比那名居天子。もう一人は桃色の羽衣を纏っては、優しい口調で天子に情報を教えた永江衣玖である。

 

 天子の文句の言葉に千里は宥めるものの、納得の表情を浮かべない彼女。しかし、ふと何かを思い出したのか、千里を手招きする。

 

「あ、そうだ侠……ちょうどあんたに話したいことがあったの。だからちょっと来てくれる?」

 

「? わかったけど……」

 

 静雅と衣玖と離れた場所に誘導する天子。千里は疑問を覚えるものの、特に断る理由は無いので着いて行く。流れるように静雅は二人に着いて行こうとしたのだが──

 

「お? 内緒話が? ちょっくらオレにもその話を──」

 

「静雅さん。あの大宴会で侠さん──いえ、千里さんですね。千里さんと霊夢さんの関係が明らかになったわけですが……貴方は有耶無耶にしていましたが、何か秘密にしている事があるんじゃないですか?」

 

「HAHAHA。気のせいに決まっているじゃないかー」

 

「顔が引きつっていますよ」

 

 冷静にツッコミを入れる衣玖に静雅はたじたじになっていては取り残されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 永江衣玖が本堂静雅の相手をしている時。普通の声量で他人には聞こえない場所まで来たことを確認し、確認として天子はある話題について千里に振る。

 

「ねぇ、侠。あんたって本当の名前があったんだって? 確か……【縫ノ宮千里】って名前で。衣玖もさっき言い直していたけど、合ってる?」

 

「合ってるよ。自分は【縫ノ宮千里】であり、【辰上侠】でもある。この二つの名前は大事な【両親】が名づけてくれた名前だからね」

 

 振り返るように、自身の胸に片手を置きながら答える千里。彼の過去との因縁が終結し、得られた【育て親の名前】と【産みの親の名前】。彼は二組の親を本当の両親だと思っている。

 

 嬉しそうに言う様子の千里が──天子にとっては羨ましそうに、どこか寂しげにも見える表情へと変わった。彼女はどこか控えめに、彼にある事を告げる。

 

「……やっぱり、私達ってどこか似ているのかもね。私もね──地上にいた時は、別の名前だったの」

 

「……別の名前、だった? それじゃあ今の名前は本名じゃないの?」

 

 千里の疑問は尤もだろう。彼女の言う通りならば、本当に自分たちは似たもの通しだ。過去の待遇。差別。似たような過去があるからこそ、当時の【侠】は天子に歩みよった。

 

 彼の問いを最初は首を横に振って否定した後、理由を説明する。

 

「違うわ。今のも本名よ。前にも話したと思うけど……私は元地上人。親の功績が認められて、天人になる際に改名したのよ。当時の私の名前は……地上人っぽい名前だったし。天人として振る舞わなきゃいけないんだから、名前も天人ぽくね」

 

「だから【天】の文字を使って【天子】という事? それじゃあ、地上の名前は?」

 

「……【地子(ちこ)】。地上の【地】に、天子と同じ【子】」

 

 続く彼の疑問に、答えるのが天子にとって多少恥ずかしかったのか、若干頬を染めては唇を尖らして顔を反らしながら言う。そのまま恥ずかしくなったのか、彼女は芝生の地面に座り込み、遠くを眺めている。

 

 彼女の行動に合わせてか、千里も座り込んでは遠くを眺める。彼女からの問いの答えを得た彼は、思ったままの発言を。

 

「確かに地上人っぽい名前だね。何という偶然」

 

「……ねぇ。こうして二人でいる時には──【地子】って呼んでくれない?」

 

 唐突な言葉。天子はまだ遠くを見つめたままだが、千里は彼女の発言に反応して顔を向ける。彼の視線の意味を理解したのか、言葉を詰まらせながらも理由を。

 

「べ、別に深い意味は無いんだからねっ! 本当に私とあんたが似ていると思ったから、本来の名前で呼んでいいって許可しているの! 光栄に思いなさい! 私の地上の名前を知っているのは衣玖ぐらいなんだからねっ」

 

「ははっ。それは光栄だね。こうしている時はそう呼ばせてもらうよ、地子」

 

「──!? さらっと言うなーっ! からかうなーっ!!」

 

 笑いながら彼女を呼ぶ千里に、顔を向けては怒りの表情を浮かべながらポカポカと殴る動作をする天子。彼の口調でからかっているという事がわかったうえでの軽い怒りだが。

 

 彼女の攻撃を軽く受け流している千里に、頬を膨らませる天子。その不満を表しているのか──彼女は寝転がり、千里の太ももを枕にし始めた。当然彼は戸惑うものの、天子はどこ吹く風。

 

「そんな態度とってるなら私にだって考えがあるもん。しばらく──千里は私の枕になる事!」

 

「えぇー……。正直これは危ないんじゃないかなー。霊夢が見たら怒るよ、絶対」

 

「その時は霊夢に見せつけるだけよ」

 

「本当にやめてくれないかな? 主にしばかれるのは自分なんだからね?」

 

「随分尻に着かれているのね。私、これでも霊夢に勝った事あるのよ?」

 

「多分本気だしていないよね、その時の霊夢。地子、強がってもあまり意味が無いよ?」

 

「ぶー……」

 

 多少の口喧嘩が続いていたが、その光景はどこか仲良さげの二人に見えたという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──この際、私に相談してみたらどうです? 少しでもお力になれると思いますが……」

 

「(……能力で千里(センリ)と天子の会話を把握できたのは良い。だが一つ……いや、二つ解せない事がある。一つ目は──何故霊夢ルートに完結したのに天子ルートの好感度も上がるんだ? もうこれ完全モテ期だろ。おかしいだろ。何で付き合い始めたらやけに他のルートの好感度があがるんだよ。もうこれハーレムいくだろ。いや、千里のことだからそういう常識的な判断が出来るだろうけどさ! そしてもう一つは──)」

 

「多分、あの宴会で察しがついています。その人物は──」

 

「(オレ、この人苦手なタイプだ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──すまん、文。ろくな関係ないわ。暴露しても無意味だわ。どうせ修羅場になってもイチャラブエンドが見えてるわ……」

 

「あやっ!? 一体どのような女性関係を築いているんですか侠さんは!? 静雅さん、教えてくださいよーっ!」

 

 言いかけようとした矢先、黙った静雅に納得のいかない文であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※【おまけ】報告した際の霊夢の二人きりでの行動

 

 

「──とまぁ、今日はこんな付き合いがあったんだよ」

 

「へぇ……。何でここ最近になってやけに女性関係が増えているワケ? ま、まぁ、誤解の無いようにこんな風に報告してくれるのはいいけど……」

 

 ある一日で起きた出来事・付き合いを千里(ちさと)は欠かさず霊夢に報告している。最初はぶっきらぼうだが、後のすれ違いを生まないように配慮してくれているのは嬉しく思っている。

 

 だが、彼女自身にとって面白くないのは事実だ。自分の知らない合間に、他の異性と触れ合っているとなると。大体女性関係での報告を受けた霊夢は、たいていある事を千里に命令する。

 

「千里……いつもの」

 

「……また? 正直恥ずかしいんだけど」

 

「良いじゃない、別に二人きりなんだし。千里にとっても役得でしょ?」

 

「……否定はしない」

 

「フフッ」

 

 合言葉のような指示で、千里は霊夢の命令に従う。命令の内容は単純な事で──霊夢の背後から千里が、ゆっくりと優しく抱きしめる事なのだが。

 

 最近の彼女のお気に入りがこれである。一時期は正面から抱き着いてもらおうかと考えた事もあったのだが……羞恥心の方が上回り。彼女の中では、何時かはしてもらおうかと考えている。

 

 彼女の望むことになった状態で、霊夢は自身の気持ちを言葉に。

 

「何というか、千里に包まれているというか……凄い安心感があるのよね、この状態。いっそ、一日中このままで良いというか」

 

「一日中はさすがに辛いよ。……いろんな意味で」

 

「? いろんな意味ってどんな意味よ?」

 

「いろんな意味はいろんな意味だよ」

 

「答えになっていないじゃない、それ」

 

 お互いに笑いながら頬に染めながらの会話は、どこぞの橋姫が見たら【妬ましい】を連呼している事だろう。二人は今の関係に充実している事に。

 

 

 

 

 

 ──だが、あくまでこの状況は【二人きり】の状態に限るが。

 

 

 

 

 

『おーい、霊夢! 侠! 邪魔するぜーっ!』

 

 空気を読まない人物が、神社の襖を開けて堂々と入ってくる人物が一人。彼女は猪突猛進の言葉が似合いそうな霊夢の腐れ縁でもある、人間の魔法使いの霧雨魔理沙だ。友人のカテゴリーに所属する彼女が博麗神社に来るのは珍しい事ではない。だが──今の霊夢と千里の状態を見る事はない。

 

「「…………」」

 

「お、何だ? お互い微妙な距離で座っているなんてよ。お前ら一応付き合っているんだからもう少し距離が近くても良いと思うんだが」

 

 先ほどまでは零距離だったのだが──二人は瞬時に離れているのだ。第三者が来るとすぐさまに。千里はあまり気にしないでいるのだが、霊夢は──第三者に露骨に甘えている状態を見られたくないのだという。彼女の中の第三者がいても気にしないのは千里に寄りかかるぐらいで、露骨に抱き合っているのは論外で、他の人物に見られたら本当に恥ずかしいらしい。

 

 至福の時間を邪魔された霊夢にとって、彼女はぶっきらぼうに魔理沙を対応する。

 

「……何、魔理沙? 用事でもあるの?」

 

「まぁ、一応な。食べられるキノコを採集できたからお裾分けに。それと侠にでもそのキノコ料理を作ってもらおうと思って」

 

「……はぁ。タイミング考えなさいよ……」

 

「ん? 何か時間が悪かったのか?」

 

「別にー……。千里、さっさと魔理沙からもらったキノコを適当に料理しちゃってちょうだい」

 

「了解」

 

 不機嫌に思えるような霊夢の言葉に魔理沙は疑問に思うものの、食材を受け取りに近づいてきた千里に、キノコの入ったバスケットを渡す。彼女としても疑問に思うのだろう。友人の真意を確かめるために千里に小声で質問を。

 

「なぁ、侠。何か霊夢に気に障るような事、私はしたのか?」

 

「客観的にはしていないけど……自分としてはちょうど助かったかな」

 

「は? 侠としては助かった……?」

 

「まぁ、色々考えている事があるんだよ霊夢は」

 

「……そういうもんか」

 

 方便としては彼女を褒めていた千里だが、同時に魔理沙がいなくなったら甘えてくるだろうなと考えつつ。どう対応するか考えて作業に千里は取り組んでいた……。

 

 

 

 

 

 




 彼本来の性格に戻りつつある結果がこれ(遠目)

 ではまた。

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