幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 ようやく。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


十一話『下剋上』③

 あり得ない。そう思ったのは本家の人物達であった。それは当然のことかもしれない。現状をまとめてみるならば、謎の空間から怪しい女性が現れ。人気モデルである本堂静雅も同様の謎の空間を作り出し。その謎の空間から奇抜な格好をした少女達が出現しては、魔法のような遠距離攻撃を放つ。常識的に考えれば──非常識な事態が起こっている。

 

 はぐれ者とされている辰上侠も同じだ。謎の空間からやって来た少女達と同様に、謎の遠距離攻撃をしては前に進んでいく。本家に呼び出されていた人物達は未知な攻撃、どう対処して良いのか混乱している。現に立っている人数が着々と減ってきている。

 

 辰上侠は、迫ってくる本家に雇われた人物達を弾幕で攻撃したり、体術を交えて応戦しながら進んでいく。彼の目指す先は──本家の息子でもある、辰上崇也に。

 

 崇也自身も彼が向かってくるという事はわかっていたが……現状までに起こった出来事が把握しきれていないのか呆然としているばかりだ。そして、辰上侠は辰上崇也の前にたどり着き──改めて勝負を申し込む。

 

「おい──一対一で勝負しろよ」

 

「……!? 巫山戯るなっ!! 意味不明な攻撃手段を使いやがって……!」

 

「安心しろ。先ほどの攻撃は使わない。肉体での攻撃で──お前に勝つ」

 

 彼の本来の色である左目の黒い瞳と、赤くなっている右の瞳が崇也を視線で貫く。冷静な、勝てるような雰囲気を醸し出している侠に崇也は我武者羅に拳と蹴りを繰り出しながら、激昂の言葉を飛ばす。

 

「何でお前はそんなに恵まれているんだよっ! 才能にも、本当の人望にも……! 少なくとも、今までのお前の人望はあのモデルぐらいしかいなかっただろ! 俺が優越に思っていた部分なのによ……! 下心の無い、純粋にお前を慕っている奴なんて!」

 

 拳に言葉を乗せるかのようにして繰り出してくるが、侠は両手を使い攻撃を促しては彼の言葉に答える。

 

「……否定はしない。過去の俺のままだと、友人は静雅だけで充分だった。それに対してお前は【辰上】の名前を利用して人望を集めたんだろうが。……お前の裏切りで、他人は信じられるものでは無いとそう思い込んでいたからだ。だが──世の中では本当に──他人であるはずの俺を信頼してくれる人もいるんだっ!!」

 

 カウンターと言わんばかりに、侠は右拳を崇也の鳩尾に打ち込んだ。一瞬崇也は苦痛の表情を浮かべたものの、体勢を立て直しては彼は攻撃を続ける。

 

「信頼、だと……!? そんなのは嘘に決まっている! 人は自分が優位な立場になると──急に裏切るものなんだよっ! 過去に俺に近づいてきた輩は、そういう家の力に惹かれた奴が大多数だ! 現に今だって……! どうせ後から裏切られるものなんだよっ!!」

 

 崇也の拳が侠の顔を捉える。彼は口元を緩めたが──侠の様子を改めてみて一変した。口の端を多少切って血が流れているが……視線はずっと崇也に向けたままだ。まるで堪えていないように。一瞬侠に恐怖を抱き、距離を取る。

 

「……何なんだよその目は!? 何か言いたいことでもあるのか!?」

 

「……俺だって裏切られるのは嫌に決まっている。現に、約束事で裏切られた事もあるしな。しかし──そんなのは自分の弱さだ。裏切られるのは怖くて、人と接する事が出来るか。そんなだと……俺はどこかで静雅に裏切られると今までの自分だと思うだろう──だがっ!」

 

 口元に流れている血を拳で拭き取り、そのまま拳を突き出しながら言葉を放つ。

 

「俺達は何でもこなせる人間じゃないんだ! 誰しも完璧な人間や生物なんていやしない! 何かしらの短所は誰にでもある。それが例え、他者への信頼関係でも! 裏切られるのが嫌だから心を閉ざすんじゃない。傲慢になるんじゃない。自分を知ってもらう為に、他者に心を開く! そうして作られる信頼関係があると──一番大切な人に教えて貰った事だ!」

 

 一時言い終わった後に侠は崇也に急接近し、崇也と同じように拳を顔に放った。彼も同様に口元が切れては出血を。侠は左拳を握りながら、話を続ける。

 

「俺だって……例えどんな嫌悪な関係でもあっても、改善はしたい。それが俺を嫌っている【辰上】でも! 俺は──お前達と同じ【血】が流れているんだから! わかりあえるはずなんだっ!」

 

「同じ、【血】……!?」

 

 侠の言葉には当然疑問に思うだろう。だが……彼が答えを知るのは、遠い未来になる。

 

 そして、侠は左拳を構え──

 

「【今】の辰上ではダメなんだ! だから──俺が本家を変えるっ!!」

 

 侠の拳が崇也の頬を打ち抜き。崇也は殴られた衝撃で転がり……気絶。

 

 

 

 

 

 この事からわかることは──【下克上】の達成。

 

 

 

 

 

 自分の行動に余裕があった侠達の味方達は喜ばしい声を上げていた。

 

「お、侠っ! やったか!」

 

「……静雅の望むような結果になって何よりだわ」

 

「えぇ。これなら侠の視界に映る外界は大丈夫でしょう」

 

「侠さん……おめでとうございます!」

 

「これでハッピーエンドですね!」

 

 そして、彼に最も近しい人物である静雅と陽花が駆け寄り、霊夢も彼を気遣うように声を掛ける。

 

「侠……これで、終わったのよね……?」

 

 しかし、彼女の言葉に答えたのは侠ではなく──静雅と陽花だった。

 

「……問題はまだある」

 

「……そうだね、しずまっちゃん……」

 

 静雅と陽花、侠の向けた視線の先。霊夢はその視線を辿ってみると……憤慨の表情を浮かべた、本家の当主──つまりは崇也の父親だった。

 

「──認めんぞぉっ! はぐれ者である、お前が【下克上】を達成するなぞ……! 愚息め、もっと教育が足りなかったか……!」

 

 憎らしい目で侠と自身の息子である崇也を見る当主。いち早く反応したのは侠だ。彼もどこか怒りの表情を浮かべている。

 

「まだあんたはそういう教育をするのか! あんたの所為で息子──崇也が追い詰められていたんだぞっ! 何が何でも結果を重視する所為で、どれだけの崇也の人生を苦しめたと思うんだ!」

 

 侠は崇也を庇うように言う。過去の静雅の話で、侠自身の存在が彼を苦しめていたのは知っていた。全ては結果を重視する崇也の父親が根源で。どれだけ努力しても父親に認められず、追い込まれる日々。

 

 競い合う人物は必要だと、一般論は記している。お互いに切磋琢磨していくからこそ、お互いに能力が上昇していく。勝てばその長所を伸ばし、負けた場合は短所を縮めていく。

 

 崇也の父親は過程を知ろうとしない。全て学力テストなどでは結果が全てだ。結果がその人物の努力などを示している。プライドにこだわった彼は、学力テストで毎回二位な息子に叱責していたのだ。『はぐれ者に負けるとは恥さらしだ』と。第三者からみれば崇也は誇れるほどの成績を保持しているが──現在の【辰上】の環境の所為か、彼の過程を褒める人物は【本家】にいなかった。

 

 しかし、侠の言葉に当主は何処吹く風。

 

「貴様が存在するから崇也はあぁなったんだ! 俺は何一つ悪くないっ!」

 

「責任転嫁も甚だしい──」

 

 

 

 

 

 

 

『──主よ、此奴はもう手遅れだ。崇也はまだ間に合うが……我が出ないとわからぬようだ』

 

 

 

 

 

 

 

 侠から聞こえてくる念話。それは侠だけではなく、この建物中に広がっていく。声の主を知らない本家の人物達はざわめき始めているが──侠の体に赤いぼやけが集まる。その集まりが侠の目の前に収束していき──姿は侠に瓜二つの人物が現れた。

 

 この人物が現れたことにより、侠の右目は黒い瞳に戻ったが──ぼやけから出てきた人物が、黒みの掛かった赤い髪に、赤い瞳をしている。

 

 幻想郷側の人物にとっては、その祖だ。彼は幻想郷の初代龍神でもあり、辰上の祖でもある──ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ。

 

 霊夢達幻想郷の人物は彼の動向を見守る中、本家としてはまた不可解な現象が目の前に起きている。動揺を浮かべながら、当主はティアーに言葉を投げかけた。

 

「な……!? 何なんだ今度は!? またオカルト集団か!?」

 

「……祖先に向かってその言い様はないの。だからこそ、今の辰上は落ちぶれている。数千年前は本当に我が教育していた頃は、皆【善】の分類だったというのに……どこで道を間違えたのか……?」

 

 腕を組みながら、睨みつけるように当主に視線を向けるティアー。彼の様子と容姿に一番驚いているのは陽花だったりする。初見で見れば、彼は侠の兄弟か何かと思うのが普通だろう。彼女は彼の存在を義兄に尋ねる。

 

「ね、ねぇ……お兄ちゃん? お兄ちゃんに滅茶苦茶似ている人って誰……?」

 

「大丈夫だ陽花。あの人──ご先祖様は俺達の味方だ」

 

「…………え? ご先祖……様?」

 

 信じられない発言に目を丸くする陽花。彼女を気遣ってか、ティアーは彼女に振り返っては先ほどの表情とは打って変わって柔らかい表情になり、安心させるように言う。

 

「陽花。お主の存在は、今の主にとっては支えの助けになっていた。我が動けない間、主──侠の助けになってくれていた事を感謝する」

 

「訳わかんないよ……!? 何なの!? お兄ちゃんから何か出てきたと思ったらご先祖様って!?」

 

「それについては事が済んだら話そうかの。それまで悪いが待っていておくれ」

 

 ティアーは当主の方へ向き直り、目つきを鋭くさせる。そして、現状の事を確認するようにティアーは話を始めた。

 

「どう見ても【下克上】は達成しておる。現実を認めるのだ。そして、この時間から、辰上の【本家】は──柊史が代表の分家が本家だ。異論は認めん」

 

「何だ貴様は!? 勝手に現れては勝手な事を言うなっ!! そもそも、下克上というのは、辰上の血を分けた分家の息子がするものだ! そのはぐれ者はどこの素性のわからない、いわば孤児! 最初から勝とうが負けようが、俺達が本家のままなんだよ!」

 

「! この──」

 

 開き直った当主の態度を見てか、霊夢の怒りが振り切ろうとしては御札を構えた時──

 

 

 

 

 

 

 

「──黙れ小童ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一喝。ティアーが言葉を発した時には──本家の人物達は腰を抜かした。直感で感じてしまったのだ。

 

 ──逆らってはいけない。怒らせてはいけない事を。

 

 それに対して霊夢達は驚きはしたものの、腰を抜かす事はなかった。彼女達にとっても、ティアーはこちらの味方。だからこそ、安心感があるものの……もしも敵だった場合は恐ろしい。特殊な戦いで勝った霊夢でも、今の彼に勝てるかどうか危ういぐらいに。

 シン……と静まりかえり、ティアーは言葉を続けては──真実を告げる。

 

「……その言い方は予想していたが……我は悲しいぞ。主と陽花の会話で察することが出来ないとはな。簡単に答えを言おう──【辰上侠は辰上の血を引き継ぐ先祖返りである】。これは覆すことの無い事実だの」

 

「なっ……!? バカなっ!? そいつは本当に出生は不明だった! 何時か疑問に思い調べたが何も出てこなかったんだぞ!?」

 

「……さらに言おうかの。【辰上侠は人体実験の生き残りである】……主、見せてやれ」

 

 呆れたように次々と侠の秘密について明かすティアー。この事までは侠自身、霊夢、静雅、紫は知っていたが……人体実験云々の箇所は知らない人物が多数だ。尤も、何時の日かに霊夢に仮説を話していた陽花の推理が若干当たっていることに本人が驚いている。

 

 ティアーに指示されて侠は胸元のネクタイ、ボタンを外し──胸元に縫われたような傷跡を当主に見せつけた。そして──全ての糸が繋がったのか、当主は何やら言いかけたのだが──

 

「ま、まさか……!? 貴様の父親が、紅音を奪った【縫ノ宮】の──」

 

「どうやら話はそこまでだの。紫、静雅。魔理沙達をスキマに隠せ」

 

「わかったわ」

 

「了解した」

 

 当主の言葉を遮ったティアーの言葉の後に──サイレン音が響き渡る。加えてその音源が、着々と近づいていることに。外界で言う──警察がやって来たのだ。

 

 始めから話は聞いていたのか、魔理沙達は迅速に行動し、紫と侠の能力を介した静雅のスキマに入り込んでは閉じた。

 

 何も聞かされていない侠と霊夢、陽花は戸惑うばかりだが──一番焦りの様子を見せているのは当主だ。顔から体まで汗が滝のように流れている。

 

「け、警察だと!? バカな、総監のネタは握っているから動くはずは無いはず……!?」

 

「あぁ、その事だけど」

 

 何か思い出したかのように紫は発言し、当主の疑問に答えるように言う。

 

「──パソコンから知人の総監のネタの証拠を、私が完璧に隠滅したから」

 

「…………は?」

 

「酔わせて、身に覚えの無い冤罪を総監にさせるというゲスな事は、私が隠滅したと言っているの。しかも……今回に限って、柊史さんの味方だからね。警察さんは。感謝を込めて──こちらで口裏を合わせてくれるってなっているから。ちなみに言うと、その事を覚えているのはもうあなただけ。一人がどうこう言っても信じて貰えないから。それじゃあ──おやすみなさい」

 

 処理が追いつかない当主であったが、紫が指を鳴らした頃には──本家の関係者が一瞬にして倒れ、気絶。規則正しい呼吸音だけが聞こえるようになった。

 

 ようやく訪れた、静寂な時間。彼女の言葉を確かめるように、侠が詳細を求める。

 

「……本家の人物も含め、非道に協力した人物はいなくなるんですか?」

 

「そうね。精々自分のした事をちゃんと反省するまで出られないでしょうね。侠の実験云々もあるけど……警視総監のネタを揺すぶっていろんな悪行をしていたみたいだから。これを機に、全国で散らばっている【昔の本家】の関係者達は捕まっていくでしょう」

 

「……でも」

 

 言葉を一度切り、彼は懇願するように言う。

 

「……崇也は見逃して貰いたい。あいつが……俺の次に一番被害を被った奴だから。あいつは本家に縛られずに生活してもらいたい」

 

「…………まぁ、良いんじゃない? 今回の功績の報酬として。それで良いかしら、龍神様?」

 

 体の向きを変えてはティアーの判断に促す紫。彼は侠の言葉を肯定。

 

「我としての考えでも良いと思うぞ。崇也はまだ間に合う。彼奴のフォローは主がするといい」

 

「……ありがとうございます」

 

 感謝の意を込めて侠は頭を下げて言う。そして……彼の願いの一つが達成出来た。話を聞いていた霊夢は彼に駆け寄ろうとしたのだが──

 

「侠……やったわね──」

 

「お兄ちゃーんっ!! 本当に良かったよーっ!!」

 

 霊夢より早く駆けつけ、抱きつくようにして喜びを表現している──陽花。

 

 倒れないように侠は受け止めながら、彼女に注意の言葉を。

 

「陽花……気持ちはわかるけど落ち着こうか……」

 

「だってこれでお兄ちゃんがイジメられなくなるんでしょ!? だったらもう悩む必要ないじゃん♪」

 

 笑顔を見せながら気分を高揚させていく陽花に、侠は満更でもない表情を浮かべていたが──

 

「……むぅ」

 

 少し、霊夢は頬を膨らませて不機嫌そうにしている。確かに陽花の言う通り喜ばしい事なのだが……大胆に侠と接触している彼女を見ては羨ましいという感情が出ていた。

 

 霊夢の表情を察したのか静雅は、どこか茶化した言い方で彼女にからかいの言葉を。

 

「おやおやぁ? 霊夢もしかしてパルってる? ねぇどんな気持ち? どんな気持ち?」

 

「うざい(ボコッ)」

 

「おっふ……」

 

 彼の脇腹に霊夢は大幣をぶつけた。からかいが過ぎたと静雅の中ではわかっているものの、理不尽と感じたのは別の話。

 

 そんなこんな霊夢が静雅に対応している中で、侠は陽花を引きはがした後に今後の予定について紫に尋ねた。

 

「……紫さん、この後は警察の対応をすると思いますが……その後、あなた達はどうするんですか?」

 

「そうね。警察の事情聴取に答えた後、することは決まっているわ」

 

「……それは?」

 

 侠は彼女の言葉に察したが、彼女の口から確認を取るために再び聞いた後──紫はウィンクしながら彼の言葉に答える。

 

「──異変が済んだら、宴会よ」

 

 

 

 




 少しの外界の過ごし。

 ではまた。

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