幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 ようやく彼女メインの話。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


八話 『【妹】の想い』

 侠が本家に【下剋上】を申し込んでから二日が経った。それゆえの緊張感もあるが……些細な事だ。いずれ来るものは来る。

 

 外界に滞在している霊夢にとっては生活は驚きでたくさんだった。幻想郷とは違って電気や水道、ガスなどといった配給。電気で動く家事を助ける道具。さらには幻想郷には無い海産物──それは一種のカルチャーショックでもあった。

 

「(……外界での生活って幻想郷を比べると随分楽になるのね……)」

 

 特に霊夢にとっては【洗濯機】はかなり印象的だった。何回かボタンを押すだけで勝手に洗濯してくれる。春夏秋冬使えるものであり、特に水が冷たくなる冬にとってはかなり重宝するものであると霊夢は理解した。

 

 閑話休題。

 

 本家との下剋上が明日に迫った中、霊夢は侠の部屋の前と来ていた。来た目的はもちろん、明日についての事である。それと同時に──目的が達成した際の事も含めて。

 

「(……明日で、侠の命運が決まる。せめて、何か侠に力になれることは無いかしら……?)」

 

 色々な考えを展開している中、霊夢は扉を開けては侠に返事を求めたのだが──

 

「侠ー? ちょっと明日のことについて話をしたいんだけど──」

 

『──あ』

 

 誰かの声がした。男の侠の声質とは違って、高い声。それは女性特有の声の高さだった。その声の主は侠の寝床でもあるベッドに寝そべっており、外見年齢は霊夢と同じぐらいの少女──陽花がそこにいた。

 

 霊夢としても何故彼女がここにいるのか疑問に思ったのだろう。むしろ部屋の主でもある侠がいないのも気になるが……一先ずは目の前にいる陽花に情報を求める事にした。

 

「……陽花? あんたは侠の部屋で何をやっているの?」

 

「あはは……お兄ちゃんが久しぶりに帰ってきたでしょ? それでお兄ちゃんの寝た後の残り香を堪能してたの」

 

「(何それ羨ましい)いやいや、何でそんな当然な風に言うの? 仮にも【兄妹】でしょうに」

 

 霊夢は侠の過去の情報の一部として、直接侠と陽花が血の繋がりがない事を知っている。侠や静雅曰く、「陽花は知らない」という前提の情報を元に言ったのだが──肝心の陽花はどこか複雑そうだ。

 

「……【兄妹】、かぁ……」

 

「……侠や静雅が過去に言っていた通り、あんたは本当に兄の事が好きなのね。やっぱり本当は血の繋がりがなかったらなぁ〜とか思ってるの?」

 

 軽い気持ちで霊夢は陽花が知らない体で冗談をとばしてみる。しかし……彼女はどこかまだ不安めいた表情のまま、霊夢に確認を取るように言葉を繋げた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あたしね、薄々お兄ちゃんとは血の繋がりが無いんじゃないかって思っているの」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………えっ」

 

 唐突な陽花の言葉。あまり動揺が見られない霊夢でも驚愕している表情へと変わった。彼女の言葉に戸惑うものの、霊夢は理由について尋ねてみる。

 

「……血の繋がりがないって、どうして思うの?」

 

「……数年前の学校でね、友達と兄弟や姉妹とかの話題になって。そこでもちろん、あたしはお兄ちゃんの自慢したんだよ。本当に優しくて、かっこよくて、面倒をよく見てくれたりして。自慢のお兄ちゃんだってことを……」

 

 ベッドの傍にある窓から見える景色を見ながら、陽花は話を続けた。

 

「でもね、友達の兄弟や姉妹事情とはまったく違うの。それはやっぱり良いところもあるんだけど、大抵は【うざい】とか【うるさい】とか。口喧嘩とかしたり。悪いところもあるみたいなの。でも……友達に言われて気づいたの。お兄ちゃんはあたしの行動を怒る時もあるけど、それはちゃんとあたしの為に思って叱ってくれる。そういう事を理解しているからお兄ちゃんに私は反抗しないの。お兄ちゃんに理不尽な命令とか嫌な事をさせられていないし、口喧嘩はお互いにちゃんと納得した内容で終わる。皆からは本当に理想の兄過ぎて、本当は赤の他人じゃないかって言われたりして……」

 

 陽花は窓から景色を見るのを止めて、霊夢に体をむき直す。

 

「そこで、あたしはある物を探したの。あたしにあって、お兄ちゃんには無いかもしれないもの。あたしには生まれた頃からお父さんとお母さんが撮ってくれたアルバムがあって──お兄ちゃんは途中の年齢から始まったアルバムしかなかった」

 

「──っ! じゃあ、それって……!?」

 

 陽花の見つけた証拠のようなもの。霊夢はその証拠で実際に繋がっていないとわかったのか問いかけたのだが、陽花は首を横に振る。

 

「お父さん達にもこの事について問いかけたんだけど……お父さんが言うには『それはね。カメラを買うようになったのは陽花からだから、無いんだ』って答えるだけ。お母さんはどこか気まずそうな表情を浮かべたりして。お兄ちゃんにも聞いたりしたんだけど、『物心がついてなかったから良くわからない』って。それで……しずまっちゃんにこの間、聞いてみたの。それでしずまっちゃんは……何て答えたと思う?」

 

 急に振られる陽花の質問。静雅と過ごした時間は霊夢にとっては少ない時間だが、彼の言葉はある程度予想がつく。どこかのスキマ妖怪みたく、言葉を濁すように。彼女からの質問に霊夢は考え──答えた。

 

「……『お前さんの【兄】には変わりはない』とか?」

 

「──! 霊夢さん良くわかったね!? もしかしてエスパー!?」

 

「えぇ、勘よ」

 

「勘っ!? ……まぁ、良いや。霊夢さんの言う通り、しずまっちゃんはそう言ったの。でも……それは何だか否定でもない、肯定でもないような気がして……」

 

 勘で霊夢は当てた事に陽花は驚いたものの、気にしないようにして話を進めた。そして、彼女が聞きとった静雅の言葉を──解釈した。

 

「……多分、しずまっちゃんは直接教えてくれなかったけど……例えどんな事情でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんと伝えたかったと思うんだ。もしも、お兄ちゃんが赤の他人なら、隣にいようかと思ったけど……それとはもう関係なく、お兄ちゃんの隣には霊夢さんがいるんだよね」

 

「…………えっ!? ななな──急にどうして私と侠が隣にいるかとかの話になるのよ!?」

 

 本題が急に恋愛話に代わった事に驚きを隠せない霊夢。陽花でもわかる動揺と頬を染めながら反応している霊夢を見て、陽花はどこか呆れたように言う。

 

「……頭の悪いあたしでもわかるって。霊夢さんの買い出しの時、霊夢さんはお兄ちゃんの事をキョロキョロ見て、お兄ちゃんも時たま霊夢さんに視線を送ったり。それで服を買ってもらっていた時や、ゲームセンターで二人して仲良く遊んで。まるっきりお互いデートを楽しんでたじゃん!」

 

「…………え? デート?」

 

 陽花から飛び出た単語に、目を丸くする霊夢。彼女の反応は予想外だったのか、確かめるように陽花は再び霊夢に尋ねる。

 

「……ゑ? もしかして……自覚なかった?」

 

「自覚って……ただ、服を買ってもらったり【げぇむ】で遊んだだけだけど──って、どうしてその事を知っているのよ!?」

 

「それは置いておくことにして! もう世間一般的に見たらお兄ちゃんと霊夢さんの行動は男女仲良くのデートにしか見えないから! お兄ちゃんが他人と仲良くするなんて、数年以来だよ! それに、霊夢さんもすごい幸せそうな顔してた!」

 

「(……デート、だったんだ……)」

 

「これが勝ち組の余裕なんだね……」

 

 デートと自覚した霊夢は、記憶を掘り返していくと恥ずかしい気持ちになっていく。過去の人里の買い出しとは違う、特別な外出。本来なら霊夢はあまり外の世界に連れまわすのは良くない事だ。しかし、それだけでは現在外界に滞在している霊夢はつまらないだろう。そこで、侠はわざわざ霊夢を外に連れ出した。せめてもの、彼女の思い出を増やすためだろう。過去の浴場であった出来事。その約束の一部として実行していたのだ。

 

 ……そして、彼は霊夢の傍にいたかったという理由も含めるが。

 

 一通り考えが終わった頃に、陽花はどこか妬ましそうな視線を霊夢に送りながらも、途中で寂しげな様子を見せては話を続ける。

 

「まぁ、これ以上はともかく。話を戻すともしかしたらという事であたしはお兄ちゃんとスキンシップしてたの。過去に、他人に対して触れ合わなくなった頃も含めて。お兄ちゃんは異性に関しては特別の関係も作らなかったし、告白されたとしても断っていたし。もしも血が繋がってなかったらラッキーっていう気持ちでお兄ちゃんに抱き着いたり。あたしは……本当にお兄ちゃんの事が──」

 

 彼女は何か言いかけたが、飲み込むようにして話を戻す。

 

「ううん。その話はお終い。これからはあたしが隣にいる必要はないんだね。何時か、お兄ちゃんの心を治そうと思っていたのに……それは霊夢さんがやってくれたみたいで。その事は本当に嬉しいよ。本当のお兄ちゃんが戻って来たんだもん!【妹】として嬉しいよ!」

 

 どこか嬉しそうに、寂しそうな笑顔を見せながら陽花は霊夢に感謝の意を示す。彼女の様子に察したのか……どこか霊夢は心苦しそうだ。

 

 彼女の言葉に応えるように、霊夢は陽花の目を真直ぐみながら意思を見せる。

 

「……私は、侠の力になりたい。だから……侠のいう【下剋上】を支えてあげたい。侠が報われるように……私はしたい」

 

「……うん。お兄ちゃんの事を──お願いね」

 

 お互いの意思を見せて、その部屋には静寂が走る。数秒後……陽花は思い出したかのように、頬を染めながら両手を振るようにして霊夢に注意を促した。

 

「あ、霊夢さん! 今の話は内緒ね! しずまっちゃんやお父さん達もそうだけど、絶対にお兄ちゃんにも言っちゃダメだからっ!」

 

「わかってるわ。女同士の約束事だもの……それとは別件で、侠はどこにいったか知ってる?」

 

 霊夢はどこか微笑みながら言葉を返した後に、彼女はこの部屋に来た目的を思い出して問いかけると、陽花は困ったように言う。

 

「それなんだけどねー……。何かいないんだよね。家を出る際に音が鳴るベルの音は聞いてないのに……」

 

「(……もしかして、紫の発展能力でどこかに行っているのかしら……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──それでもちろん静雅、もしもの時は補助をよろしく頼みたいんだ』

 

『それは了解したが……あまりにも不自然過ぎると気付かれる可能性もあるから、中々難しい頼みごとだと思うぞ』

 

『……だよねぇ。せめて、もっと協力してくれる人物がいたら……』

 

『(……八雲紫による作戦もあるんだが……これは後のお楽しみって事で黙っていよう……)』

 

 

 




 今でも人気投票でもしたら一位になるんだろうか……?

 それはともかく、特別番外編であった陽花のセリフに次のような言葉があります

「(おかしい……あたしが実際に知っている事と──)」※特別番外編『表主人公の義妹』③より

 この時から陽花は「実際は侠は実の兄ではないのだろうか?」という仮説を立てていました。霊夢達の説明で実際に侠と陽花は遠縁の親戚といえど、血がつながっていた事に驚き。陽花としての考えは【侠は辰上家と全く無関係の人物】と考えていたためです。そのために霊夢達の言葉で混乱していたり。特別番外編なのに本編のヒントが書いていたりしていました。……まぁ、物語に支障はない程度ですが。

 ではまた。

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