三人称視点。
では本編どうぞ。
侠の先導を元に、霊夢は彼の後を着いていく。二人が歩いて数十分経った頃には──ショッピングモールへと着いた。そこはたくさんの人間達がおり、賑わいを見せている。
「霊夢、着いたよ。一先ず服を売っているところにいこう」
「……これが外界なのね……。確かに幻想郷とは違って色々見慣れない物がある……」
「……霊夢?」
確認するように現状を把握していた霊夢は彼の声に気づいていなかったのだろう。再び彼女の名前を呼ぶ事に遅く反応しては言葉を返す。
「え、あ──ごめんなさい。ちょっと色々見たものを整理してて……」
「まぁ、霊夢にとっては未知の場所だからね。違うとらえ方をするなら未来にいるようなものだし。じゃあ離れないように着いてきて」
彼の言葉に従い、隣に平行して彼女は歩き始める。足は休めずにすれ違う人々を観察し続けていた霊夢だが……ある二人の状態に視線が移った。
それは──男女が手を繋いでいる姿を見て。
「…………侠」
霊夢は呟くようにして彼の名前を呼び、彼女は──彼の手を取った。急な行動を体で感じた侠は戸惑いの言葉を共に疑問の声を。
「ゑ? 霊夢……急にどうしたの?」
「……別に。ただ、私は地理が全くわからないのよ。それで、はぐれたりでもしたら……大変じゃない。外界では能力や弾幕は人目に触れる場所では使ってはいけないんでしょ? あ、あくまでお互いがはぐれないようにする為よ。そこを勘違いしないでちょうだい」
「……ん。わかった」
手を繋いでから二人はぎこちない雰囲気を出している。手を繋いで頬を少し染めながら言う霊夢に、どこか気まずそうに視線を逸らす侠。
「(……脈はあるとは思うんだけどなぁ……)」
「(……少しでも、侠は意識してくれるわよね……?)」
心の中ですれ違っている中で、二人は足を進めていった……。
二人は服屋に入り、侠は店内のフリースペースに置かれている椅子で待機。霊夢とは異性なので、正直レディース物のエリアでは彼は浮いてしまう。同時に恥ずかしさもあるのだが。時折、霊夢は同じような、色の違うタイプの服を2着持って来ては彼に意見を聞いていた。
『ねぇ、侠。赤と白だったらどっちが良い?』
『うーん……霊夢の場合だと赤かな?』
『赤ね。じゃあこれ選ぼ』
数回往復しては霊夢は侠の同意と共に服を選んでいく。それを数回繰り返しながら。
そして彼女は選び終わり、侠に頼んで会計をしてもらう。商品が入った紙袋を侠は受け取り、それを霊夢に手渡しては彼女に行動を促してみる。
「折角だから今日はこの服を着て行動してみる? 折角外界に居るんだから」
「え? 着ても良いの?」
「まぁ……これは自分の贈り物って言った方が良いのかな? 霊夢がそれをどうするか決めて良いよ」
「そう……♪ じゃあさっそくあのカーテンに囲まれている個室で着替えてくるわ!」
機嫌を良さそうにしながら霊夢は試着室へと入っていく。侠は彼女に買ってあげた服について思い返していた。
「(……自分の意見もあるけど、そういえばやけに赤が多かったような気がする……何か袖カバーもあったような……?)」
振り返る度に疑問が湧いてくるが……数分後。霊夢は試着室から出ては、侠に感想を求める。
「きょ、侠……どうかしら……?」
侠は改めて少し恥ずかしがっている霊夢の服装を視界に入れる。彼女の服装は──白いキャミソールみたいな、肩から紐でつるような肌着に、ノースーリーブの赤いカーディガンが羽織られている。スカートはフリルがついた膝下までの赤いスカート。さらには──両肘は両手首までの長さがある──白の袖カバー。
「(……無意識に外界ヴァージョンの霊夢の巫女服みたくなっている!? 似たような服を選んだ霊夢もそうだけど、自分もそれに近くなるような色を選んでいたなんて……!?)」
衝撃が彼の体の中で走っている中、すぐに答えない侠の反応に不安を抱いたのだろう。身長差もある所為か。上目遣いにも見えるような位置で霊夢は尋ねる。
「へ……変だった?」
「いや……むしろ自分は無意識にいつもの格好の霊夢が好きだったんだと自覚をしていたよ……」
「うぇっ!? きょ、侠って……普段の私の格好が好きだったの!?」
少し変な声を上げながら、言葉に詰まりながら意味を確かめる霊夢。彼女の慌てているような反応に侠も焦りながら言葉を返す。
「あ……えと、多分、見慣れた服装の霊夢の方が自分としてのイメージが強いんだよね。何て言うか……それが霊夢らしいっていうか。でも……今の君の格好は結構良いと思う。その……外界ヴァージョンの霊夢の格好って凄い新鮮だからね……似合っていると思うよ」
「そ、そうなの……侠がそう言うのならこれで行こうと思うわ、うん。ありがとう……」
お互いに気恥ずかしい気持ちを抱きながら、二人は店を出て行った……。
そこから二人は色々な場所へと歩き回った。電化製品を扱う店に来て霊夢へと説明したり、映画という、霊夢達の世界で言い換えるなら記録された演劇を見たり。霊夢の知らない食べ物の一つであるアイスクリームを侠は二つ買ってきては、歩きながら霊夢は機嫌よく食べようとしていたのだが……運悪く他人の歩行者の肩に当たり、クリームだけを地面に落とすという不幸に見舞われたが。彼女が涙目になっている中で侠は呆れたようにしながら、自身の持つアイスを差し出しては彼女は機嫌をよくしたり。
「ありがとう侠! それにしてもさっきの人は失礼な人ね。私の【あいす】を台無しにするなんて……」
「小声でぶつかった事に対しては『あ、すみません』って謝罪していたけどね。まぁ、相手の意図的な妨害じゃないんだから許してあげようよ」
「……侠が言うのなら仕方ないわね」
渋々だが侠の言う事に妥協し、アイスを口にした霊夢は──とてもいい笑顔をしていた。
彼女がアイスを食べ終えてからはゲームセンターに言って娯楽を楽しんだり。侠は霊夢に自身の手で動かすシューティングゲームにやらせてみたのだが……開始して数分後にゲームオーバーに。
「……ねぇ。これ、意味不明なんだけど……。自分の思ったところに動かせない……」
「霊夢は弾幕ごっこが得意だから、こういうシューティングゲームは得意かなと思ったんだけど……やっぱり現実とゲームは違うんだね」
「絶対私本人がこの【げぇむ】の中にいたら被弾しない自信があるのに……。他の【げぇむ】をしましょ」
二人はゲームセンターでUFOキャッチャーで景品を取る事に熱中したり。二人で協力してバケモノを退治するゲームをしたりなどをして時間を過ごしていった。
一時間ほど経過しては、霊夢はベンチに座って休息を。休んでいる彼女に侠は気遣いの言葉を掛けながら行動を始めようとする。
「ちょっと疲れたかもね。自分は適当に飲み物でも買ってくるからゆっくりしていていいよ」
「あ、うん……お願い」
霊夢は遠くなっていく侠を見送り、改めて自分の近況を振り返る。
幻想側の人物が現実にいて。愛しいと思う人物といろんな場所をまわって。彼女の今の状態を表すのなら──【幸せ】だ。
「(……侠への恋を自覚してから……彼と過ごす時間が嬉しく思っている私がいる。本当ならば、もう侠に会えるかどうかはわからないぐらいだったのに……限られた時間だろうけど、私は侠と一緒にいられている。それに──)」
思い返すようにして彼との思い出を振り返る霊夢だったが──真っ先に思い浮かべたのは、寝ている侠に自分が口づけをした事。
思い出した恥ずかしさからか、霊夢の顔は一瞬にして赤く染まった。冷静になろうと頭をブンブン振って恥ずかしさを遠ざけようとする。顔を俯けながらまだ頬に赤みがあるものの、自身の唇を人差し指でなぞりながら悩む霊夢。
「(……黙ってちゃダメよね……。何時、その……伝えたら良いんだろう──)」
『おい、そこの君』
悩んでいた彼女に掛けられる声。霊夢はその声質を初めて聞いたものであり、前方に聞こえたので霊夢は顔をあげては確認すると……三人の男が立っていた。中心にいる人物は侠と同い年、もしくは年上に見える外見の男。髪の毛は短髪だが、両耳には銀色のピアスがある。後ろにいる二人は取り巻きみたく、霊夢にとってはどこか不快な視線を感じながらも、霊夢は真顔に戻っては単調に返事する。
「……何か用?」
「大した用じゃないんだけどさ、もしも暇しているなら俺達と一緒に遊ばない?」
男が言うのは俗にナンパであった。彼らから見ては霊夢は一人でベンチに座っていたため暇だと思ったのだろう。しかし、彼女は別だ。実際に侠を待つ過程でこのベンチに居る。なので当然、見ず知らずの男達に釣られるような霊夢ではない。
「悪いけど人を待たせているの。もう少ししたら戻ってくると思うわ」
「……それって女の子? 女の子だったら全然構わないから俺達と一緒に──」
「男よ」
諦めが悪くさらに追求してきたところで霊夢ははっきりと断りを言う。全く揺さぶられない彼女の様子に男は顔を引きつっているが。
そこへ戻ってくる人物が一人。お茶のペットボトルを二本買ってきた侠だが……霊夢の目の前にいる人物を目にしては──目つきなどが変わった。
「霊夢ー? その人達は──っ! お前は……!」
「何だお前──!? お前、はぐれ者……!?」
普段の口調から素に戻る侠。それに対し男は侠の事を特有の名詞で彼を呼んでいる。侠は彼を警戒し、男はどこか憎むように視線を送る。
男の取り巻きは状況をまだ理解していないようだが……霊夢は、男が侠の事を【はぐれ者】と呼んだことである侠の過去について思い出した。
「(……【はぐれ者】!? それって──侠を裏切った張本人でもある、本家の男!? この男が!?)」
侠の過去で深く関わってくる人物。侠が盲目であった頃、咲夜経由で静雅から教えてもらった過去。それは本家に認められたいがために侠は頼みごとをこなしていたのに対し、侠からの信頼を裏切った人物。そして──侠が他者に心を閉ざす原因となった人物でもある。彼の情報を思い出したところで、彼女は男に怒りの感情が湧いてきた。
そんな霊夢の視線は気づいていないようだが、男──辰上宗也はどこか見下すようにして侠に言葉を飛ばす。
「……本当にあの事故で死んでなかったのか……!」
「あいにく、そんな簡単に死ぬはずがない。悪運が高かったのかもしれないが……俺はちゃんと生きている」
「イラつくんだよ、お前……! 分家の癖に、養子の癖に俺より目立つことが! そのままいなくなっちまえば良かったのによ……高校生の間じゃ、お前と誰だか知らないが、良いように扱われていることが! 何が救世主だ!」
「……それは初耳だが、俺は救世主でも何でもない。正直あの事故はクラスメイト二人がいなかったら俺は死んでいた。俺はそんな柄じゃない……」
「余裕か、イラッとくるぜ! ……行くぞお前ら!」
宗也は機嫌を悪くしながら取り巻きに移動を促して去ろうとする──時に、侠は宗也に挑発的に、ある事を申し込む。
「そうだ……本家の息子さんよ、この際だから言っておく。俺は本家に──【下剋上】を申し込む」
「──はっ!?【下剋上】だと!? ……冗談か?」
「本気と書いてマジだ」
宗也の言葉の返しに真顔で答える侠。しかし、その侠に……宗也は笑いをこらえるにして丹田に手を置き、言葉を返した。
「く──はははっ!【下剋上】だと!? 笑わせてくれるぜ! 今までの分家が挑んでは失敗した【下剋上】だぞ! 成功するはずがないだろうよっ!」
「ならば俺達分家が成功させる。そして──【辰上】を変える」
笑われたとしても、変わらない態度で言葉を繋ぐ侠。その瞳はまっずぐ宗也を見ながら。自分の固い意思を宗也へとぶつける。
笑っていた本家の息子でもある宗也だが、侠の自信があるような態度に癪が触ったのだろう。機嫌が悪そうに顔をしかめたが、体を翻しては侠に言葉を残しては去っていく。
「その鼻っ柱、叩き折ってやる……! 挑戦を受けてやる! 父さんは都合よく三日後には本家に帰ってくる! そして同時に──下剋上は三日後の午前九時にしておく! 精々醜いの抵抗を見せるが良いさ! そして──その時がお前の最後だ!」
「…………」
その言葉を最後に、宗也を含めた取り巻き達は去って行った。侠は見送る中、霊夢は彼の顔を覗き込むようにして言葉を掛ける。
「……侠、大丈夫?」
「……何がだ?」
「色々よ、色々。本家に【下剋上】を申し込んだのは良いけど……ちゃんと、勝てるのよね?」
「勝てる」
彼女の不安を吹き飛ばすように侠は断言。彼の力強い返事に安堵したのか……表情を和らげながら、霊夢は話を続ける。
「……だったら良いわ。侠の言葉を信じる。だから──絶対、あいつに勝ちなさいよ」
「もちろんだ。絶対勝つ。……霊夢、お茶は歩きながらでも飲めるしそろそろ帰ろうか。時間も良い頃だしね」
「……そうね」
侠は持っていたお茶を霊夢に渡し、二人は歩み始めた……。
『──本家の息子と会った時は、冷や冷やしたなぁ……でも、今の侠なら問題ないな』
『……お兄ちゃん……』
『陽花……やっぱり、心配か?』
『……正直。お兄ちゃん、親しい人は霊夢さんぐらいしかいないの?』
『いんや。その内、駆けつけてくるさ。ヒーローは遅れてやってくる、てな』
『……駆けつける? どうやって?』
『その内わかるさ。さてとと、オレ達もそれぞれ帰るとするか。陽花、じゃあな──』
『待ってしずまっちゃん。それより、聞きたい事があるんだけど──』
ちゃっかりいた二人。
ではまた。