三人称視点。
では本編どうぞ。
「……落ち着いた?」
「……あぁ。大丈夫だ。心配かけて悪い。それにしても年下から諭される年上って一体何なんだろうな……?」
「ふふふっ。これで侠は私に頭が上がらないってわけね」
「……そうだな」
二人は落ち着き、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべながら。侠は襖に手を掛けて、後ろにいる霊夢へ顔を振り向いては確認するように言う。
「この話も含めて静雅は聞いているとして……先ほどの話した内容はちゃんと理解してくれたよな、霊夢?」
「……えぇ。それはわかっているわ。でも……ちゃんと【約束】は守りなさいよね」
「あぁ。俺としても早くやり遂げるようにはする──静雅! もう大丈夫だ!」
彼の声に反応するかのように、何かの力が侠の借りている部屋から崩れ落ちていく。それを確認した侠は襖を開けて進んでいき、霊夢も着いていく。
侠に最初に話し掛けたのは──侠の親友でもある静雅だ。安堵の表情を浮かべながら彼は親友に言葉を掛ける。
「……侠、『お帰り』」
「……あぁ、『ただいま』」
「それと、霊夢……よく、侠を戻してくれた。オレでも出来なかったことをよくやってくれたな……」
「後で賽銭することね。それぐらいやったわよ」
「あぁ。考えておこう」
会話を終えた後、ずっと待機していた妖夢、天子、鈴仙、文。そして藍とさとり。侠は知らないが、五徳と天牌はいなくなっているが……彼女達を見て彼はすぐに行動に移した。
「皆──ごめんなさい」
膝と手を着いて、頭を下げて──誠心誠意の土下座で謝罪した。冒頭から彼の謝罪に霊夢と静雅以外は驚愕するあまりだ。
その中で……覚り妖怪でもある古明地さとりは──最も驚愕する事になる。
「──!? 他者に対しても心が若干読めるように……!?」
「えっ!? そうなの!?」
彼の心について説明を受けたことのある天子は彼女の言葉に反応。過去に言っていた彼女の情報ならば、侠は特定の人物は除き他者については心を閉ざしている。それが土下座を対象としている人物達に向けて彼は行動をしたのだが……それでも若干読めるようになっていたのだ。
「……まだ読みづらいですが、『謝罪』という事が読めました。これはおそらく、侠さんが心から思っているからこそ読めるのだと思います……!」
「そ、そうなのですか──きょ、侠さん! そこまでしなくても大丈夫ですから頭を上げてください!」
慌てながら妖夢は彼の行動を止めるように言ったのだが……彼は拒否する。
「少なくとも俺は多数の人物に迷惑をかけた。これはけじめだ。俺は迷惑を掛けた人物に謝罪しなくちゃ気が済まない。それと……魂魄。お前には暴言を多数吐いた。本当に済まなかった……」
「じゅ、充分ですよ!? 皆さんも、もう侠さんは顔を上げてもいいですよね!?」
妖夢の同意を求める言葉に周りの人物も頷く。この場にいる人物の了承を得た事を侠に伝えると、彼は申し訳なさそうにしながら立ち上がった。
そして彼の【素】を初めて見た鈴仙は、先ほどの侠と比べる為か再確認するように話し掛ける。
「……さっきと言葉使いは柔らかくなったけど、もう大丈夫?」
「問題はない。おそらくは感情が揺さぶられない限りは無いはずだ。優曇華院も心配をかけて済まなかった」
「ううん。私の事は気にしなくて良いから」
鈴仙との会話を終えると、文は手帳とペンを持ちながらどこか怪しい笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「侠さ〜ん? 部屋の中では一体何を話していたのですか? 静雅さんからは教えて貰えませんでしたし……どこか侠さんも吹っ切れた様子が窺えます。彼女の真剣な態度に惹かれて……まさか霊夢さんに愛の告白ですか?」
「え……いや、霊夢とはその──」
「告白? そんな事はなかったわよ」
「…………ゑ?」
どこか気まずそうに躊躇っていた侠だが、ばっさりと霊夢は無いと言う。しかし、彼女の反応に間抜けな声を出した。
彼の声に疑問に思ったのか、霊夢は侠に聞き返すようにいう。
「? 別に侠はそんな風に私を見てないでしょ? それっぽい行動をしているならわかるわよ。侠は私の事を信用してくれるようになったけど……これからは私の事は裏切らない事は言ってくれた。でも、侠が告白したワケでもないし、私が告白してないじゃない。双方『あんたのことが好き』とでも言ったでも無いし。私と侠はあくまで『他人』よ」
「え……あ、うん……」
「(あやや……霊夢さん? 意外にもそこまで発展してなかったのですか……?)」
霊夢の言葉にどこか妖夢と天子は安心している様子を見せているが、文は腑に落ちないようだ。それは侠もそうなのだが。
唯一、侠と霊夢の話を全て聞いていた静雅。彼もまた──心の中でツッコミを入れる。
「(霊夢の無意識の所為なのか──自分から告白した事に気づいていない!? 戦闘中でもオレは聞こえるようにしていたが、第三者から見ても告っているぞ!? それに侠から告られていたのも気づいていない!?)」
霊夢は少なくとも侠との戦闘中で『侠の事を知りたい』『離ればなれになるのはゴメンだわ』『侠自身を見ていたい』など……彼の事を想わせるような発言をしているのだ。当時の侠は否定していたのだが……彼女の中の本心を知ってか、彼女に惹かれるようになった。彼女が侠にとって理想の異性だったからこそ、遠回しかもしれないが彼は『本当に想ってくれる霊夢の為にも! もう二度と──裏切ってたまるかっ!!』と大胆な発言をしている。静雅は薄々霊夢が侠に想いを寄せていたことを知っていたのに加え、今回の事で両思いになった事を祝福していたが──肝心の彼女が気づいていない。彼女の予想外の発言だからこそ、侠も驚愕の表情を浮かべている。
実質的には両思いになっているのが──彼女の鈍感でお互いを想っている事を把握していないのだ。
「(……せめて、どうにかして私の気持ちを侠に伝えないと……)」
実は霊夢は表情を隠してどう侠に想いを伝えるのか悩んでいる。実際には伝えているのだが、それは彼女にとってはそれは【告白】として分類されないみたいだ。恋愛の知識が少ない彼女にとっては、直接【好き】と言って貰わないとわからないようだった。
侠は腑に落ちない様子だった冷静になり、呼吸を整えて藍に本題を持ちかける。
「ま、まぁそれはともかく。紫さんを元に戻そうと思います。少々、彼女と話す事もありますが……」
「! そうか……しかし、初代龍神は今この場を離れているだろう? 一先ずは彼が戻ってくるのを待たなくては──」
『その必要はないの。我はここにおる』
藍の言葉を遮る声。それと共に黒い空間が現れる。その人物こそ、この幻想郷を創りし創造神のティアーだ。紫の発展能力を使い、博麗神社に現れた。
彼は子孫の様子を見てか……満足そうに笑みを浮かべながら話し掛ける。
「……どうやら主の心はもう治りつつあるの。我は嬉しく思う。では主、紫を元に戻すのだぞ」
「……はい、ご先祖様」
ティアーは赤い粒子となって侠を包み込んでは消えていく。そして傍で寝ている紫に侠は手をかざし──黒い空間が彼女を包み込む。その黒い空間が晴れる頃には──八雲紫の瞳が、ゆっくりと開いた。
「……ここは……」
紫はゆっくりと体を起こし状況を確認しているところで──彼女の式神である藍は安堵した声を漏らした。
「紫様……意識がちゃんと戻られたようで本当に良かったです……!」
「藍……それで──侠……」
紫は藍を見た後、周りの人物の確認。犬猿の仲である比那名居天子の存在も気になったが──それよりも意識したのは、彼女自身を追い詰めた侠だ。彼もまた、真剣な顔で彼女に話し掛ける。
「……紫さん。あなたがした事を俺は怒りを覚えました。自分の勝手で静雅も巻き込んで、嘘を吐いてまで目的を隠した。その目的を知った時は本当に怒り狂いましたよ。身勝手に俺を利用しては振り回す。かつての【本家】のように……」
「…………そうね。私は侠を幻想郷に居させる事がまず目的だった。そこから──」
「そこまでは言わなくて良いです。それを言ったら、この場にいる人物でも多少混乱する人物も出てきます」
「…………」
バツが悪そうに、顔を俯ける紫。そのような彼女に──侠はある事を捕捉する。
「結局──紫さんの思い通りになってしまいましたけどねー……。あなたの本当の目的は達成されましたよ」
「! そんな、まさか……!?」
『……え(は)?』
彼の言葉に察したが、信じられないような紫の驚愕。二人の意思疎通の言葉に、二人以外は戸惑うばかりだ。
心を読めるさとりは、その理由について読もうとしたのだが──
「(……紫さんは能力で読むことが出来ない。そして侠さんは先ほどまで読めたのも関わらず──おそらく初代龍神の影響で読むことが出来ないですね……。一体、八雲紫さんの【本当の目的】とは……?)」
彼女はそれでも心を読み続けるが、その答えが出てこない。
そして侠は自身の非を謝罪しながら、紫にある事について持ち出す。
「……西行妖についてはすみませんでした。俺はご先祖様経由で確かにあの桜の秘密を知っています。しかし……その真実については口に出しません。交換条件とは別件なのですが……正式に、紫さんに頼みたい事があります」
「……言ってみなさい」
「俺達を──外界に帰させてください」
次の舞台へ移ります。
ではまた。