幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 彼の思いと彼女の想い。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


『吐き出した想い』

 博麗神社の一室。そこは辰上侠が借りている部屋でもあり、現在その場所にいる人物は二人。この博麗神社の主でもある博麗霊夢と──彼女の弾幕ごっこで気絶している辰上侠。彼は布団で寝かされており、まだ起きる気配は無い。

 

 ティアーの計らいで本堂静雅は指示通り、誰も入れないような空間を作り、その対象は侠の部屋とした。侠の親友である静雅のみが把握出来る空間となっており、彼以外の人物は外部から情報を得られないようになっていた。

 

 霊夢は寝ている侠の顔を見ながら本日起こったことを振り返る。

 

「(……侠が幻想郷に敵対するような行動をして、異変のようなものが起こった。無事に侠を私の我が儘で止めたのは良い。でも、まだあの時の侠のままのはず。だから私の我が儘でも何でも良い。侠の親友じゃない、他人でもある私が──わからせてあげなくちゃいけない……!)」

 

 心に決心したところで──辰上侠がいきなり布団から飛び上がるかのようにして体を起こした。その事に反応した霊夢は話し掛けたのだが──

 

「あ、侠……目が覚めたみたいね──」

 

「っ! ここは……博麗神社か!? それに……俺の内から【力】とご先祖様を感じない……!?」

 

「ティアーならルーミアと色々話しているらしいわ。それで、侠が今まで持っていた【力】はティアーが全部持っている。それに龍化も制限されて出来ないはずよ。それで──侠は私に負けたのよ」

 

「糞がっ……!」

 

 侠はその場から離れるようにして襖を蹴破ろうとするが──反発するかのようにはじかれる。

 

「……この部屋に閉じ込めるつもりか……! これでは、俺の目的が……!」

 

「……侠。あんたの目的は大体察しがついたわ。もしも、私に弾幕ごっこに勝てたのなら──いえ、勝敗はどちらでも良かったのかもしれないわね。事を運びやすいのは侠が勝つことだろうけど」

 

 霊夢は立ち上がり、襖の近くで立っている侠へと近づいていく。彼女の冷静な様子を見てか、どこか自虐的に侠は言う。

 

「ハッタリか……? いや、どうせこのままじゃ俺はまだ動ける……! 閉じ込めようが、この状態を人里住民が聞いたらどう思うだろうな? 龍神の子孫が愚行を働いては監禁され。俺は隙を見つけては抜け出す! スキマ妖怪にした事は、ご先祖様ではなく俺自身が複雑に封印している! それはご先祖様も解呪は無理だ! 俺は誰にも止められない──」

 

 

 

 

 

 

 

「──外界に帰る事が一番の目的。だけど、そのために──【実は辰上侠は悪人】というイメージを広める必要があった」

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢の言った推察。彼もそれは信じられないような表情を浮かべ、言葉が黙る。

 

 彼のよそに、霊夢は平淡と話を続ける。

 

「もしも仮に、侠が私に勝っていた場合。それはもう侠は【幻想郷に敵対する者】というイメージが誰も持つ事になるわ。それに伴って、妖怪の山で魔理沙達と戦ったのはそのため。【誰にも止められないような本当の辰上侠の性格と実力】を印象づける必要があった。それを聞いた人里住民や他の人物はこう思うでしょうね。『そんな危険人物は幻想郷からいなくなってくれ』的な事をね。善人というイメージがある侠。『もう辰上侠を信じられない』というマイナスなイメージを持たせば──侠がいなくなった事で知る人物は安心する。誰も、侠を執着する事が無くなる。これが侠にとっての最善の考え」

 

 霊夢はグーの形の片手の指を人差し指を出した後、中指を出しては次の考察を彼女は述べる。

 

「今みたいに侠が私に負けた場合。目的が達成出来ない事を理由に紫を目覚めさせない。そして侠がするまで監禁みたいな事が続くでしょうね。でも──人里の住民による侠の信仰は厚い。今の侠の状態を住民が知ったのなら──それはもう一揆に似た事が起きるでしょうね。辰上侠を解放させるために。そして、侠は紫との約束事と、あんたがどのようにして知ったかわからない紫の本当の目的を多数の人物に暴露。それはもう紫が悪いと言われるでしょうね。幻想郷の管理人が龍神の子孫に嘘を吐いて引き入れたこと。勢いに同情した人物は、侠を外界に帰せという意見がきっと多数。さすがのティアーも、侠に【力】を戻しては紫を元通りにした後、外界に帰還出来る──勝っても負けても侠の中ではそういう考えがあったんじゃない?」

 

「…………!?」

 

 目を見開いて侠は霊夢を見る。侠がここまで行動をここまで理解しているとは微塵にも思わなかった。彼の中では、比較的頭の回る大妖怪の八雲紫のみ注意をしていた。博麗霊夢は彼と同じたかが人間。その同種族、静雅と親友でない人物に、彼の考えが見抜かれたのは初めての事だった。

 

 追い打ちを掛けるかのように、補足説明を霊夢は加える。

 

「封印を解いたルーミアには協力して貰って、天子は協力要請をしなかった理由。ルーミアは元々妖怪。それに封印までされているという事は、再び封印すればあまり害の無いルーミアに戻す事が出来る。これはその時の場合によって対処は違うのだろうけど……それは置いておくわ。でも、天子を仲間に引き入れなかったのは──あいつの立場を悪くしない為。ただでさえ立場が悪くて【不良天人】って呼ばれている天子の立場を悪くしたら……最悪になるでしょうね。創造神の子孫と一緒とはいえ、天子は幻想郷側の人物。そんなことしたら──あいつの居場所が完全になくなって敵視される。それで天子には頼る事が出来なかった。あんたと同じような目に遭わせたくなかったから。それと同時に──侠は、演技で幻想郷に敵対する【悪役】として振る舞った。責任は全て自分が取るようにして……幻想郷から誰からでも嫌われるようになれば、悔いなく外界に帰る事が出来るんだから……」

 

 言葉の最後で弱々しくなっていく霊夢の声。それは前髪で彼女の表情が見えなかったが……観念したかのように、どこか諦めたような表情で、目に光が無いままの侠は口を動かしていたが──

 

「……そこまで、俺の目的がわかっているのなら話は別だろう。俺は外界に帰る。ならば、今まで【力】は捨てても良い。博麗の巫女の力で──外界に帰させろ。それで八雲紫にした事は元に戻す。そして金輪際、俺は幻想郷に関わらない。幻想郷のいる人物の記憶を弄って、俺と関わった事も消しても良い。だから──」

 

 

 

 

 

 

 

 ──パチンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中で乾いた音が響いた。彼の顔は若干動き、当たった衝撃の箇所を手で押さえながら、博麗霊夢を彼は見る。

 

 

 

 

 

 彼女は──目元に涙を溜めながら、彼の頬に平手打ちをしたのだ。

 

 

 

 

 

「……それでも外界に帰る……? それで紫を元に戻した後に、侠の記憶を消す? ──ふざけるんじゃないわよっ!!」

 

 涙がついに頬を伝っては流れ、怒気の含めた声で言葉をぶつけるように彼女は言う。それは、彼女の我が儘だ。

 

「何でそんな事を言うのよ……! 私があんたと過ごした時間は無駄だったって言いたいわけ!? 私はあんたと過ごした日々を一度も無駄って思った事はない! 過去に言ったでしょっ!? 私はあんたの事をもっと知りたいのよっ!! 侠が過去のトラウマで人を信じにくい事は知ってる! でも──何時からか、侠と過ごしていく内に生活が充実していって! それで、あんたに慕っている奴だっているじゃない! この際、他の奴は信じなくても良い! でも、侠……私、過去に言ったわよね──」

 

 身長差のある彼の胸ぐらを両手で掴んでは、涙を流して、侠を見上げながら──ある【約束事】について叫ぶように言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『私は侠の事を絶対裏切らない』! それで──『幻想郷においては私のことを信用しなさい』って! それなのにどうして──私の事を信じてくれなかったのよぉおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き崩れるようにして、侠の胸元で泣きつく霊夢。彼はその時の記憶を呼び起こす。

 

 

 

 

 

 ──どうせ、その場の言葉だ。

 

 

 

 

 

 彼は心の内では信じなかった。外界に帰る前提の人物に何を言っているのだと。

 

 

 

 

 

 過去の、ミスティアを庇った後の際の妖夢の小声。

 

 

 

 

 

 ──自分に恋愛感情を持っても無駄なのに。

 

 

 

 

 

 彼は妖夢の変わりつつある気持ちにも気づいていた。心の内では彼女の想いを否定しながら。

 

 

 

 

 

 宴会での紫の『彼女は作らないか?』という話題。

 

 

 

 

 

 ──作る気なんてさらさらない。

 

 

 

 

 

 どうせ作るなら外界だ。それなりの自分のことを理解している人物ではないと嫌だ。

 

 

 

 

 

 今まで彼の内にある言葉は隠し続けていた。明かすとしたら本堂静雅や受け入れた家族。他人なんて信じられない。どうせ信じたところで裏切られるのがオチだ。だからこそ、彼は他人に深く踏み込むことを止めた。

 

 だが──彼の目の前にいる少女は、感情的になってまで彼の事を信じていた。口での口答とはいえ、彼の肯定の言葉を信じていた。そして、彼女を本当に裏切ってしまったのは──辰上侠である。

 

 

 

 

 

 

 

 そして──彼の事を理解してくれている人物が、目の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

「──俺は、また同じ間違いを繰り返していたのか……。こんなに、本当に俺を見てくれる人物を裏切ってしまった……」

 

 彼もまた、涙を流した。彼の頬を伝って流れ落ちた涙が、霊夢に伝わる。彼女は不安そうに彼を見る。

 

 先ほどまでは光の無い目をしていたのだが……目に光が戻っていた──否、彼と初めて対面した時と比べて、目の光が多くなっている。

 

「…………侠?」

 

「……本当に、俺の視野は狭い。だから、俺は不器用なんだろうな……。霊夢。謝っても許されないかもしれないが──裏切ってすまない……! 俺が裏切られるのが嫌いなのに、俺が霊夢の事を裏切ってしまった……!」

 

 彼女の存在を確かめるように、侠は霊夢を抱き寄せた。唐突な彼の行動に驚きはしたものの、彼の嗚咽を耳元で聞きながら、彼を安心させるように彼女も抱き寄せる。

 

「……わかってくれたのなら良いわ。でも……また同じ風にしたら、勘弁しないからね」

 

「あぁ……心から約束する! 本当に想ってくれる霊夢の為にも! もう二度と──裏切ってたまるかっ!!」

 

 彼の様子で霊夢は理解する。静雅の言う荒っぽい負の【裏】でもなく、他人行儀な【表】でもなく。彼本来の【素】になってくれたのだと。

 

 すでに泣き止んでいた霊夢だが、彼が落ち着くまで彼女はずっと背中をさすり続け、時間が過ぎていった……。

 

 

 

 




 次話でこの章は終わりです。

 ではまた。

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