幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 その頃の彼は。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


『博麗霊夢の決心』

『……この外界でもない』

 

 幻想郷を騒がしている辰上侠達がいる場所。そこは──無縁塚。ここはたまに外界の物が流れ着く場所でもある。そして、幻想郷の管理人ともいえる八雲紫と対峙した場所。そこで彼は黒い空間作って中身を覗いては、消してまた開くという動作を繰り返していた。

 

 彼の様子を見て近くにいた──封印が解かれているルーミアが話し掛ける。

 

「……思うんだけど、擬似スキマ空間で貴方のいた外界を探さないの?」

 

「ここは外界の物が流れ着く場所。つまりは外界に一番繋がりやすい場所だ。まだこの【境界を操る程度の能力】の発展──【理を操る程度の能力】は扱いが難しいんだよ。確かに外界には繋げやすいが──数多の平行世界の外界が存在している。本当に平和な外界もあれば、この幻想郷みたいなファンタジーな世界も存在する。それに一から俺のいた外界を探しているからな。消費する力が膨大なんだ。擬似スキマ空間で作業するよりも、この方が効率的だ。それに三妖精の能力を平行して姿や音、気配を操っているからな。その分の消費量もある。貴様には認識出来るようにしているが」

 

「平行世界の外界ねぇ……。まぁ、その三個の能力で私達は認識されていないらしいけど……」

 

 適当に相槌をしながらも、ルーミアは話題を変える。

 

「計画通りに進行してる?【貴方】という人物を広める事は」

 

「……どうだろうな。博麗の巫女あたりなら俺の行動を【異変】と捉えれば願ったり叶ったりだ。幻想郷に敵対する最高神の子孫。それなりにあいつにもそれなりの言葉を飛ばした。所詮、他人は他人だ。そして……この世界は鳥籠だ。勝手に入れられたが、俺は必死に抵抗して鳥籠をこじ開けようとしている。奴の思い通りになってたまるか」

 

「……本当にそうかしら?」

 

 ルーミアのどこか意味深な言葉。彼女の今の言葉だけではわからなかったのか、彼は機嫌が悪そうに問いかける。

 

「……どういう意味だ?」

 

 

 

 

 

 

 

「本当は知っていたんでしょう? 貴方に想いを寄せていた人妖がいた事を」

 

 

 

 

 

 

 

「……それがどうした。そんなの今更過ぎるだろうが。何故、外界に帰るという前提の男を好きになるのか不明だ」

 

「罪な人ね。ある意味では告白してきた別の巫女の想いを踏みにじったのに」

 

「そんな言葉で動くはずないだろう? そもそも……世界が違いすぎる。幻想と現実の人物がそんな簡単に結ばれるわけないだろう? 俺にはまだ外界でやるべき事があるんだからな」

 

「それ、おもいっきりブーメランなのわかってる? だったら──貴方という存在は何かしら?」

 

「…………」

 

 彼の沈黙。彼女の言葉にはもちろん、言いながらも自覚はあった。辰上侠は──幻想と現実の交わりによって生まれた子孫だ。その事実は何があっても変えられない。

 

 屁理屈を言うように彼は話を再開。

 

「……俺の理想の関係が築かれていたのなら話は別だったのかもしれなかったがな。俺は【幻想】より【現実】を取った。それだけだ」

 

「……本当、ティアーにそっくりね。姿も瓜二つで。理由は違えど、あいつも【幻想】より【現実】を取った。侠と違うところは──私の想いよりも外界の人間を選んだ事ね」

 

 彼にとっても耳を疑う内容だった。他人に興味を示さない彼でも、その情報は気になる。

 

「まさかだと思うが……ルーミア、貴様──」

 

 

 

 

 

 

 

『──侠っ! ようやく、見つけたっ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 彼の名前を呼ぶ声。それは今となってはかなり身近の異性の声だ。まさかと思い侠は振り返ると──博麗の巫女である博麗霊夢を筆頭に、後には魂魄妖夢や比那名居天子の他に、射命丸文と鈴仙・優曇華院・イナバが続いていた。

 

 表情には出していないものの、彼は内心では驚愕している。三妖精の力を利用しては姿や音、気配まで完全に操っているのだ。だが……後から続く人物は疑問そうに霊夢を見ているが……彼女は違う。しっかりと侠の事を視界の中央に入れているのだ。彼の姿、音も気配も感じる事は無いはずなのに。

 

「……ルーミア。この事についてどう考える?」

 

「気になるのは、あの霊夢がしっかりと貴方の事のいる場所を凝視している事ね。私には気づいていないみたいだけど……どうしてか、自信満々に侠の場所を見ているわ」

 

 ルーミアの説明を聞いても現状は変わらない。だが……明らかに霊夢は侠がいることは認識しているのだ。

 

 数秒経った後に……霊夢はアミュレットを取り出しては──その放った弾幕は正確に侠を捕捉する!

 

「な──!?」

 

 侠は作業を中断し、霊夢の弾幕を転がって回避する。しかし……紫の能力と三妖精の能力、つまりはほぼ四つの能力を平行していた侠だ。それにはかなりの集中力を使っていた所為か──三妖精の能力の集中力が切れ、霊夢達の視界に侠とルーミアが認識出来るようになってしまった。改めて侠達の姿を確認した妖夢達も彼同様、驚いているが。

 

「!? 本当に侠さんがいました!?」

 

「それだけじゃない……妖怪の山にいた妖怪もいるわね」

 

「さすが霊夢さんの【勘】といったところでしょうか……?」

 

「勘にしてもこれはレベルが違うでしょ……」

 

 各々の反応を見せる中……霊夢は改めて侠と対面し、言葉を投げつけるかのように話しかけた。

 

「侠……ようやく見つけられたわ。もう、私から逃げる事は許さない!」

 

「何故だ……!? 何故、俺の場所がわかった!? 能力で俺達自身の場所の捕捉は出来ないように細工をしたはず! まさか本当に【勘】で見つけたというのか!?」

 

 博麗霊夢はある事が得意としている。それは──勘。彼女の勘は高確率で当たる。彼が思い当たったのはその可能性。だが、霊夢は否定する。

 

「違うわ。これは【勘】じゃなくて、根拠に基づいた方法で探したわ。それは──過去に私があんたに渡した【お守り】よ。私の霊力が少しだけど込められているからね。その気配を辿ってここまで来たのよ」

 

「お守り……!?」

 

 侠は焦るようにズボンを確かめ、ポケットには入っているがベルトを通す穴に結びつけられている──【博麗神社】の刺繍が入った赤い巾着のお守り。

 

 このお守りは侠が守矢神社にしばらく出かける時に、霊夢から渡されたお守り。表上は信仰に煩いという守矢神社対策に渡されたものだ。他には彼女が彼のために魔除け効果も若干あるのだが……その自分の作った若干の気配を追ってきたのだ。彼自身も、お守りから気配を察せられる事と存在を忘れていた。

 

 彼のミスにどこか愉快そうに指摘するルーミア。

 

「フフフ……まさかそんな死角があったとわね。私も盲点だったわ。今の貴方の力の素養は霊力だから、私でもわからなかったわ」

 

「ここでミスをするとは……!」

 

 悔しげに言う侠だが……先ほどまでの黒い空間を使っていた行動が気になるのであろう。妖夢の言葉を代表に彼に問いかける。

 

「侠さん……先ほどの黒い空間はもしかして……!」

 

「チッ……見ての通りだ。俺のいた外界を探していたんだ。後は外界に帰るだけったっていうのによ……」

 

 攻撃的な視線で霊夢を見るが、彼女はそんなことは気にせず。続いて天子と鈴仙は状況把握の意味も兼ねて彼に話を。

 

「やっぱあのスキマ妖怪の力を操るのは難しいみたいね。手間取っていたおかげで霊夢は時間内に探し出せたけど……」

 

「それじゃやっぱり静雅を連れて行った目的って……!? 外界に一緒に連れて行くつもりなの!? 静雅の意志は!?」

 

「……何を言っているんだ? 俺も静雅も元々は外界の人物だ。元にいた世界に帰る。当然な事で間違っていない事実には変わりはない」

 

「それは……そうだけど──」

 

「鈴仙さん。今の侠さんに説得なんて聞いて貰えませんよ。妖怪の山でもそうでしたし……」

 

 感情的に鈴仙は言葉を返そうとしたが、文が彼女の行動を制す。彼女の行動を落ち着かせた後……文は霊夢に行動を促す。

 

「……おそらく、情報通りでは侠さんは少数対複数戦を得意としているのは確かです。私達でルーミアさんを抑えます。そして霊夢さんは【異変解決者】として──1対1で辰上侠さんを止めてください!」

 

「気持ちはありがたいけど──【異変解決者】として、侠とは戦わないわ」

 

「……はい?」

 

 文達は変わった霊夢の言葉に疑問を覚えていたが──霊夢は持っていたお祓い棒を侠に示しては、宣言する。

 

「辰上侠っ! 私──博麗霊夢として、あんたを止めるっ!!」

 

「……どう変わったのか知らないが、良いだろう。これで貴様を倒せば、俺の目的は達成される。貴様が負けた場合は──この世界で俺に敵わなくなる事が証明される事になるんだからなっ! ──静雅っ!」

 

 彼が口に出した親友の名前。手を振り上げると共に現れる空間。そこから出てきたのは──心苦しそうな表情を浮かべる本堂静雅だった。彼の存在を確認した鈴仙達は驚愕の表情を浮かべながらも、侠は彼に命令を。

 

「静雅。お前の能力で一切博麗との戦いで妨害が入らないように能力を使え。その後は適当にルーミアの援護をしてやれ。良いな?」

 

「……了解したが……霊夢に話したい事がある。能力で出来れば耳を立てないようにしてもらいたいんだが……良いか?」

 

「……親友の言葉だ。聞かない事にしてやる」

 

 静雅の言葉を受け入れ。目を閉じては腕を組みながら立つ侠。それを確認した静雅は霊夢の近くに寄り、言葉を交わす。

 

「……何で侠はこんな風になったかわかるか?」

 

「大体見当はついたわ。私自身の気持ちの整理が終わったからこそ、ここにいるのよ。博麗霊夢として、辰上侠を止める。それだけよ」

 

「そうか。オレは侠側に着くしかない。幸いなのは『能力で対処しろ』と言われなかったのが幸いだ。言われたとしていたら、もう誰も侠は止められないと思ったからな……。侠はまだ、完全には壊れていない。オレがいるからかもしれないが……霊夢──」

 

 彼の声はそこで途切れる。侠を警戒しての彼のワザとかもしれないが──静雅の口の動きは、霊夢はこう受け取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

『侠を頼んだ』

 

 

 

 

 

 

 

 口パクだったが彼の言葉に霊夢はうなずき、静雅は侠の元へ戻る。会話の終わりを確認した侠は──背中から龍の翼を出し、彼女に行動を促した。

 

「……空中で戦うぞ。地上だと一対一は成り立たないからな……。だが、ここで──博麗霊夢、貴様を倒すっ!」

 

「バカ言ってんじゃないわよ! 私が侠を倒す! それには変わりはないんだから!」

 

 二人とも飛翔し、対峙する。そして地上では静雅に話し掛けるルーミア。

 

「……さ、適当に相手をしてやりましょ。私達は侠がどうなるかで勝敗が変わるだけで影響は無いし」

 

「……こんな形で弾幕ごっこはしたくないんだけどな。だが……やらなければいけない。オレは心から侠の──親友なんだからな」

 

 ルーミアは闇の大剣を。静雅は手元にリフレクト・ジャベリンを出現させては構え。妖夢達も戦闘態勢に入る。

 

「今度こそ、侠さん達を止めてみせますっ!」

 

「侠の親友の実力は正直わからないけど……やるしかないみたいね」

 

「封印が解かれたルーミアもそうだけど……静雅。私が今できることをするわ」

 

「霊夢さんが今までの異変以上に、覇気があることについて記事にしたいですが……後で詳細をお伺いいたしますか!」

 

 地上では封印が解かれた大妖怪と荒人神が戦いを始め。そして空中では──

 

 

 

 

 

「行くぞ──【博麗の巫女】!」

 

「共闘はして、戦うのは初めてだけど──容赦はしないわ!【龍神の先祖返り】!」

 

 

 

 

 

 幻想郷で最も実力のあると言われている【博麗の巫女】と、幻想郷の創造神の子孫である【龍神の先祖返り】の戦いが始まった……。

 

 

 




 原作の主人公と本作の主人公。

 ではまた。

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