三人称視点。
では本編どうぞ。
妖怪の山。過去にいろんな騒動を起こそうとした人間がいる。ある時はフラワーマスターを討伐しようとしたり、とある神社の巫女を誘拐しようとしたり、部下に指示してとある人物を狙ったり。そして最近では幻想郷の中核ともいえる神社の物品を盗もうとした輩。今ではとある式神の言葉で側近が離れてしまった。彼はやけくそ気味に残っている同士の人物、頭は悪いがそれなりに力のある妖怪に交渉して──守矢神社の巫女を攫う作戦に切り替えていた。
途中までは良かった。うまく人数がばらけ、天狗の目をかいくぐって守矢神社まで目指していたのだが──
『──作業している時に覗いてみればまた貴様らか。ストレス発散にはちょうどいいな。クズどもが視界に入ったから掃除だ』
黒い空間が現れては、一人の人物が出てくる。過去に何回も粛正されており、幻想郷の創造神の子孫である──辰上侠が現れるまでは。
そこからだった。うまく散らばっている仲間達は彼によって倒されていく。一人一人の居場所がわかっているかのように。だが、対処していた天狗のからの目で見ても──やり過ぎている。とある人物は満身創痍で気絶をしたりなど。辰上侠の行動は第三者から判断しても明らかな過剰防衛だった。
連れてきた妖怪も意味が無い。中には彼が拳を腹に当てた瞬間──黒い空間に飲み込まれてどこかに飛ばされた人妖もいるのだから。彼の手に触れた人妖が消えていく。天狗は流石にやり過ぎだと指摘したが……侠は機嫌を悪くしたように、警告してきた天狗達を殴り飛ばす。抵抗をしたかった天狗達だが──それは出来ない。新しく出来た規則によって。
ならず者、警告してくる天狗をなぎ倒すように攻撃を繰り返す侠。その表情はどこか悦びを感じていそうな顔だった。
そして──ならず者の首謀者だけが残る。30人ほどいた仲間が辺りに苦しそうなうめき声をあげていたり、この場から消えた人物も。同時に天狗達も倒れているのもいる。ならず者の首謀者は命乞いをするかのように、声を震わしながら侠に話し掛けた。
『ひぃっ!? わかった! もうこれからは悪さはしないっ! 見逃してくれぇっ!!』
「信用ならん。貴様みたいなクズはチャンスを得たら寝返るタイプだ。慈悲は無い。貴様には随分喧嘩を売られたからなァ……。妖怪の前菜にでもなっているといい」
侠は左手の焦点を首謀者に合わせ、黒い空間を発生させようとしている──
『──【ラジアルストライク】!』
──ところに、彼に向かって特大の星形の弾幕が放たれた。侠の行動は──目の前にいるならず者の首根っこを掴んでは盾にして。
『ぐぁあっ!?』
「おー、危ない危ない。こんなクズでも利用価値はまだ残っていたか。だが──もう用済みだな」
彼は黒い空間を発生させ、ならず者を放り投げては空間を閉じる。そして、いち早く攻撃を仕掛けた人物──霧雨魔理沙は侠の行動に怒りを表した。
「侠っ!! お前無抵抗な奴を盾にするなんてどういう神経をしているんだぜ!?」
「利用できるものを利用して何が悪い? 貴様も図書館の本を利用する為に盗む。それと同じ事だ」
「私はお前と一緒じゃないっ!」
後に続くように、魔理沙の傍に人物が集まっていく。烏天狗から剣士、風祝に人形使い。そして最後にはメイド服を着た少女が駆けつけた。
「……今までの侠さんと全然違います……! では皆さん、よろしくお願いします!」
烏天狗である射命丸文はその場を去って行った。天狗は彼に逆らうことは現状出来ない。それなりに賢い選択だろう。
次に前に出たのは剣士でもある魂魄妖夢。戸惑いを含めながら、目に光が無い侠に必死に問いかけた。
「侠さん! どうして紫様をあのような目に遭わせたんですかっ! 紫様と侠さんは敵対する理由は無いはずです!」
「敵対する理由は無い……? フ……あるんだよ。敵対する理由が。あいつの本当の目的を知ったからこそ、理由がある」
「本当の目的……!?」
根拠のあると答えた侠に妖夢は困惑する中、彼は話を続ける。
「俺は本来、外界でのとばっちりを喰らったからこそ、その終わる期間だけの滞在だけだった。だが、奴は──俺を連れてきた本当の目的をずっと隠していた──つまり、騙していたんだよ。それなりの制裁は妥当だと思うけどな」
「!? 紫様は何を隠しているというのですかっ!?」
「答える義理は無い」
妖夢からの続く質問を拒否する侠。彼女もまた紫への疑問を抱くが、妖夢の前に早苗が出る。彼女は感情的に、侠にとある事について問いただした。
「侠君っ! そのコート──それは自分のモノだと思い出したからこそ、私の部屋から盗ったんですよね!?」
「……あぁ。俺のモノを取り戻して何が悪い?」
「別に悪いとは言ってはいないです。そのコートは元々侠君のモノです。けど──何故そのコートを私が持っていた理由も思い出したはずです!」
早苗は自信を持って問いかける。彼がコートを着ている──つまりは、そのコートがどういう事情で早苗の元にあるのか知っていると判断した。つまり早苗の中では──侠は自分と会った記憶を取り戻している。そう考えていたからだ──
「どうでも良い」
「……どう、でも……良い……!?」
彼女の問いかけをバッサリと切った。感情のこもってすらいない発言に、早苗の心は揺さぶられ、言葉が途切れていく。
早苗の先ほどまでの表情とは打って変わって青ざめていく中、侠は早苗を見ながら話を続けた。
「別に俺と貴様とは赤の他人だ。どうでも良い過去の記憶を掘り起こしたところで何になる? 時間の無駄で非効率的だ。このコートは俺のモノ。それさえ分かれば良い。貴様みたいな奴との記憶を思い出したから何だ? 別に俺の見る世界は変わらない。俺は俺で貴様は貴様。【赤の他人】である貴様が言ったところで『それがどうした?』ぐらいしかないに決まっているだろう? 他人である俺に何を求めようって言うんだ?」
「う……嘘ですっ!! 侠君は私のことを思い出しているはずなんですっ! そんな都合よく流すだなんて──」
「うざいぞ貴様」
痺れを切らした侠は構えた左手から早苗に弾幕を放った。早苗は反応に送れてしまったが──彼女の前に展開される一つの人形。その人形は盾を持っており、侠から放たれた弾幕を防ぐことに成功した。
その人形を操った持ち主──アリス・マーガトロイドは早苗に注意をするように声を掛けた。
「……どうやら今の侠には説得は通用しないみたいね。今まで常識人と思っていたけど……段々幻想郷に馴染んでいった所為か、それとも今の侠の性格の所為からわからない。でも──もう、力ずくで侠を抑えるしかないわ。あなたが抱いている感情は抑え込みなさい」
「……アリスさんの言う通りですね──私が侠さんの心を取り戻して見せます!」
先ほどまでは青ざめていた早苗だが、アリスの言葉で喝をいれ、お祓い棒を構えて戦闘体勢を。彼女の様子を見て咲夜もナイフを構え、味方に行動を促す。
「皆。相手はこの世界の創造神の子孫にその意思が取り憑いている。一対一だと正直厳しいでしょうから──一斉に行くわ!」
咲夜の言葉に賛同したのだろう。魔理沙は八卦炉を構え、妖夢は楼観剣と白楼剣を構え。アリスは複数の人形を展開する。
彼女達の行動を見てか、侠はどこか意味深の笑いをした後に彼女達に言う。
「ククク……少数対多数か。悪いがそれは俺の得意分野だ。的が増えて楽になる」
「私達は的と比べものにならないぜ! それで──この際、私はお前に正式に勝ってみせる!」
「ならばそれ相応の力を見せて貰おうか──適合【グラウンドオーバードライブ】!」
彼はスペルカードを宣言。すると彼の周りに大地が柱となって盛り上がり、彼を隠すように大地の柱が包み込む。そして──彼を覆っていた大地が辺りに飛散する。彼女達は弾幕を相殺させるなり、グレイズして躱したりするものの──侠の姿が変わっていた。
腰まで伸びた青い髪に同じ色の目。コートは白を主体にした、赤いラインの入ったコートに変わっては、腰には虹色の鎖のような飾りが付けられている。そして何より──彼の周りに五つの要石が動いては浮遊している。その姿と要石から連想される姿は──比那名居天子に似ている。
彼の姿はを見てそう思ったのだろう。妖夢は今の現象を確かめるべく、侠に問いただした。
「その姿と要石は……天子さんの姿に変わるスペル!?」
「ご先祖様が求めていた【土】の力をあいつは持っていたからな。そして……厄介な能力を持っている奴がいるからな。出し惜しみはしないでおこう」
侠はそう言うと──青かった彼の右目が赤く染まる。その事に疑問に思う彼女達だったが……彼が動き出したのと同時に、魔理沙達も動き始めた……。
次回から戦闘に入ります。
ではまた。