幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 彼の行動。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


『動き始める事態』

「…………う、嘘…………っ!?」

 

 霊夢は目の前の光景について信じがたい光景だった。普段は優しい彼が。見たこともない顔つきと姿で、八雲紫の体を貫いていたことを。

 

 侠は貫通させた腕を抜き取るようにして、手についていた血を最低限振るって落とし。支えが無くなった紫はその場に倒れこんだ。

 

 そして──彼は二人に向き直り……光の無い瞳で、普段と違った口調で話しかける。

 

「……何だ。博麗の巫女に九尾じゃないか。信じられないような顔をしているが……どうかしたのか?」

 

 口元を綻ばしながら、愉快そうな笑みを浮かべて言う侠。その彼の行ったことに藍が激昂しながら問い詰めるようにして声を飛ばす。

 

「侠っ! お前は何をしたのかわかっているのかっ!! よくも、紫様を……っ!!」

 

「勘違いするな。殺してはいない。こんな風にしたのは──ある能力を手に入れるためにしたことだ。外傷が無く、こいつと決着をつけるのは厳しかったからな。そう──スキマ妖怪の能力をっ!」

 

 彼は指を鳴らすと、倒れ伏している紫から──紫(むらさき)色の光が出現した。その光は、ゆっくりと辰上侠の体の中へと入っていった。

 

「!? 紫の能力を手に入れるためにこんな事をしたの……!?」

 

「あぁ。そうだ。そして……俺はまだ優しさが残っているからな。命を奪おうとなんてことはしない」

 

 霊夢の質問に答えた後の侠は紫に手をかざし──黒い空間が彼女を包み込んだ。その黒い空間から出た紫は、外傷がなくなっていた。

 

 二人はもうわかってしまった。彼は紫の固有の能力である【境界を操る程度の能力】を手に入れてしまったことを。彼女の同じようなやり方で、どういうわけか彼女の外傷を治した。

 

「だが……俺がこの幻想郷にいる限り、目が覚めることは無いがな」

 

「なっ!? どういうことだ!?」

 

「言葉の意味だ。俺の目的を達成するためには、こいつに起きて妨害されるわけにはいかない。このスキマ妖怪は一番の危険因子だ。その人物の行動を封じて正解だからな」

 

 どこか誇るように言う侠。だが、それでも彼女達の疑問は尽きない。藍が気になる一つの事を尋ねる。

 

「……何故お前の持っている気配が変わった!? 対面するまで気づくのはおかしい! あれほど癖のある妖力を保持していたにも関わらず、霊力に代わっているなど……!」

 

「単純明快な答えだ。普段貴様らは俺の【妖力】での気配を探っている。しかしな……力の素養を切り替えることで、気配を変わるんだよ。過去に静雅の妖怪の山の騒動でそういう事がわかったからな」

 

「! それって侠が持っている四つの力の事!?」

 

「ご名答だ、博麗」

 

 彼の説明に霊夢は聞き覚えがあった。過去に箇条書きで書かれていた特徴を。

 

 彼は普段は妖力をデフォルトとしているが、他の力の要素として霊力、魔力、神力を持っている。彼の過去の説明で確かに、彼は力の素養を代える事が出来ると聞いていた。

 

 彼はコートを翻し、目の前に黒い空間を作っては移動しようとする。無論、それを止めようとした霊夢達だったが──

 

「ま、待ちなさい侠っ! どこに行くというのよっ!?」

 

「答える義理は無い。これからの目的を達成するためには膨大な力と時間が消費するんでな。まずは……始めにする事は決まっている」

 

 彼はそのまま黒い空間に入っては──その黒い空間と共に消えてしまった。数秒彼女達は茫然としていたが、藍は我に返っては主である紫に近づいて容体を確かめた。

 

「紫様っ! 大丈夫ですか!?」

 

「…………ら…………ん…………。れい……む……」

 

 彼に能力を掛けられたというのに、まだ意識があった紫。その事に二人は気づき、霊夢も近づいて彼女に焦燥を含めて問いかけた。

 

「紫っ! どうして侠はあんな風になっちゃったのよ!? 何が原因で侠が──」

 

「…………や、み────」

 

 謎の言葉を言いかけている途中で……紫は意識を失った。彼女を抱えている藍が主の事を揺さぶるものの、彼女は呼吸するだけで、反応を返すことはなかった。

 

 彼女の言った単語を霊夢は復唱するように確かめる。

 

「……【やみ】? 一体、何がどうなっているの……!?」

 

「……霊夢。私は博麗神社で紫様の容体を看る。お前は侠の親友である──本堂静雅の元に急ぐんだ! 彼なら、今の侠の状態をわかるかもしれない!」

 

「! そうよねっ! まず、静雅にこの事を伝えないと……!」

 

 事の重大さを元に、二人は各々の行動をとり始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その中、近くにあった木の陰がから、一人の人物が出てくる。

 

『……本当に気付かれないのね……。妖怪の賢者は重大なヒントを残したというのに……』

 

 その人物は体を翻して、その場から離れていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館。さすがに空気の震えを感じたのか、レミリアは紅魔館住民をロビーに集めていた。

 

「……妖精メイドはともかく、これで全員ね」

 

「レミリア嬢。一体どうしたっていうんだ? パッチェさんや美鈴、フラン嬢に小悪魔、咲夜まで集めて……?」

 

 一応、気づいていた人物もいたのだが、中には彼──本堂静雅のように気配を察する事を苦手としている人物もいる。彼は紅魔館の主であるレミリアに問いかけたのだが……代弁するかのように、美鈴が答えた。

 

「……大きな【力】の衝突があったんですよ。片方の【気】はおそらく……八雲紫です。もう片方はわかりませんが……」

 

「要約すると、誰かが八雲紫と戦っているのか? だったら別にあいつが負ける事は無くね?」

 

「……いえ、私の把握している範囲だと、彼女の【気】が蝋燭の灯みたくに小さくなりました……」

 

「…………は? それって──」

 

 美鈴の説明を聞いて彼が確認しようとしたが……パチュリーが美鈴の言葉に同調するように言った。

 

「……おそらく、負けたわね。幻想郷の管理人を打ち負かすほどの実力者に……」

 

「…………あいつの能力って基本的に誰も敵わないよな? それで、八雲紫が負けた……?」

 

「パチュリー様の言う通りではないかと私も思います。何者かが、紫さんを倒した……それはつまり、ある意味では幻想郷の危機ではないかと私は思いますが……」

 

 現状を補足するように、小悪魔は言う。彼は「なるほど」と呟いたのち、咲夜がこれからの事についての説明を。

 

「どういう人物かわからない。不確定要素が出現したからこそ、こうして集まって対策を練っているのよ。あなたの能力はその不確定要素にも有効だと思うけど……」

 

「ぶっちゃけレミリア嬢が対面して運命を操ったらそこで終わりだけどな」

 

 彼のジョークも含まれていたのだろう。レミリアは頷くものの……フランはどこか自慢げに言う。

 

「いざとなったら私の能力もあるからね! もしもの時お兄様は私が守ってあげる!」

 

「おいおい、正しい力の使い方だがオレに見せ場をくれよ? こういうのは従者が奮闘するもんだからな」

 

 彼の言葉にどこかリラックスしたムードになったが──その時間は終わる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 本堂静雅の背後に──黒い空間が出現するまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 その存在を確認した紅魔館住民。彼女達はその黒い空間を見ていたが……その空間から、見慣れた男の人物が現れた。

 

「…………」

 

 本堂静雅の親友である辰上侠。黒いコートを羽織り、前髪で表情が隠れていたが……静雅は特に警戒せず疑問を含めた声で彼に近づいて話しかけたが──

 

「お? 侠、それは何だ? 新しい能力でも手に入れたのか? それと、そのコートは──」

 

「今すぐ離れなさい静雅っ!!」

 

 紅魔館中に響くレミリアの声。彼女の言葉に静雅が反応する──前に、侠が左腕を静雅にかざして、黒い空間を作り出す!

 

「静雅! 一緒に来てもらうっ!」

 

 その黒い空間から発生する吸い込みの風。即座に対応できなかった静雅。しかし、彼は黒い空間に飲み込まれる前に能力を発動しようとしたのだが……何故か発動できない。

 

「なっ!? 能力が……使えないっ!?」

 

「龍神の力の前に静雅の能力は無意味だ。このスキマ空間の風に捕まったら最後、能力の行使が出来ない境界線を引いている!」

 

 いつもと違う彼の言葉遣い。幼い頃から一緒に過ごしている彼だが、この言葉遣いは【素】ではない。彼のトラウマが想起し、少ない時間で──彼の顔を見た。

 

「っ!? おま、その表情は──」

 

 言い切る前に、静雅は黒い空間へと飲み込まれた。その黒い空間が消えるの同時に、パチュリーは魔法陣を展開しようとしたが……彼から発生した風が彼女を吹き飛ばした。

 

「きゃっ!?」

 

「パ、パチュリー様!?」

 

 彼女の使い魔である小悪魔はパチュリーに近づき、容体を確かめていたが……信じられない目で辰上侠を見ていた。普段の彼がこんな事をするとは思えない。そう信じていたからだ。

 

 信じられないのは紅魔館住民がそう思っていたのだが……いち早く警告したレミリアに感心するようにして彼は話しかける。

 

「……よくわかったな。今の俺の状態を」

 

「不釣り合いすぎるのよ。普段の自称人間の行動と程遠い──血の匂いがするんだから」

 

「さすが紅魔館当主の吸血鬼だと褒めておこうか」

 

 含みのある笑いで、レミリアを賞賛する侠。そのような彼に、フランは怒気を込めた声で彼に問い詰める。

 

「……侠っ!? お兄様をどこにやったのっ!?」

 

「……相変わらずの静雅だな。だが……幻想郷住民の貴様らに教えるつもりはない。失礼する──」

 

 彼が手をかざそうとしたところで──咲夜はナイフを持った手で彼の右側から、反対側からは美鈴の拳が彼に向かって放とうとしていた。だが……彼は自身の両腕を交差させ──その両方の手元から黒い空間の発生。接近していた二人は黒い空間に飲み込まれそうになる。

 

「っ!?」

 

「えっ!?」

 

「安心しろ。適当な人里周辺にスキマ送りしてやる」

 

 その黒い空間は覆い隠すように消えるとともに、二人も消えた。そして……レミリアは察することになる。

 

「……そのスキマ妖怪もどきの力……! まさか、自称人間があの八雲紫を……!?」

 

「フン。だからどうした? 貴様には関係のないことだ」

 

 レミリアは龍神騒動があったときに、彼の先祖であるティアーの能力を知っている。そして、先ほどからまとめられた情報を元に──八雲紫を辰上侠が倒したという事実を。

 

 侠の静雅を他人事と言わんとばかりの言葉に痺れを切らしたフランドールは、彼に向かって弾幕を放った。だが彼は黒い空間を作り、フランドールの弾幕を無効化しているさなか……神経を逆なでするようにしてフランドールに話しかけた。

 

「おっとォ? 間違えて静雅がいる空間を開けてしまったかもなァ? このままじゃ貴様の弾幕が静雅に被弾してしまうかもしれないなァ……」

 

「っ!? お兄様にっ!?」

 

「──そこだ」

 

 彼はフランドールの背後に黒い空間を出現させ──彼女自身が放った弾幕をフランドールに照準を合わせた。

 

 彼女が被弾する前に──レミリアがフランドールの背後にまわり、弾幕を繰り出して相殺する事によって、彼女を守る事に成功した。引き換えに、彼は黒い空間を作ってはその中に入り……空間と共に消えてしまったが。

 

 彼が消えてしまった空間をレミリアが舌打ちをしながら、言葉を漏らす。

 

「……チッ。自称人間……一体どうした……?」

 

「お姉様!? 大丈夫!?」

 

「……大丈夫よ。後、咲夜と美鈴が気になるところだけど」

 

 彼女の言葉に応えるように、一瞬にして現れる二人の人影。咲夜の能力を使って帰還してきたのだろう。

 

 パチュリーが小悪魔の肩を借りて立ち上がる中、彼女は二人に尋ねる。

 

「……彼の【スキマ送り】はどうだった?」

 

「……本当にそのままです。いつの間にか、人里の近辺に落とされたみたいで……。美鈴とは離れ離れだったので、ちゃんとお互いの安否を確かめてから帰還しましたが」

 

「何がどうなって、侠さんがあんな風になってしまったんですか!? それで、静雅さんを攫った意味は……!?」

 

 それぞれの疑問をぶつけていた中で……ロビーの扉を乱暴に開ける人物が一人。その人物は箒を片手に持った人間の魔法使い。

 

「静雅っ! 今日こそは勝たせてもらうぜ──? おい、皆どうしたんだ? それで何だ? この空気は……?」

 

 何も知らない彼女から見ても困惑するだろう。それは仕方ない事なのだが……。

 

 彼女は歩みを進めていた中、遅れて続けて入ってくる人物が一人。その人物は博麗の巫女である博麗霊夢。彼女は焦るようにしながらレミリアに静雅の所在についてを尋ねる。

 

「レミリア! 静雅は一体どこっ!? 今の侠がおかしいのよ!」

 

「……自称人間なら今ここで現れては、静雅を攫って消えていったわ」

 

「……遅かった……!」

 

 悔しそうに歯ぎしりをする霊夢。その彼女の状態に魔理沙は問いかけようとしたのだが──

 

「お、おい霊夢? 侠が一体どうしたっていうんだ──」

 

 

 

 

 

『すみませんっ! 静雅さんはいらっしゃいますか!?』

 

『本堂さ~んっ! コートが……侠君のコートがっ!?』

 

 

 

 

 

 また続くように、白玉楼の庭師でもある魂魄妖夢。守矢神社の巫女である東風谷早苗が入ってくる。どうやら話す内容は違えど、共通の人物の詳細を求めているようで。

 彼女達は、一先ず情報交換をした方が良いと感じた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の森。ちょうどアリス・マーガトロイドの家の前を横切るように、寺子屋の生徒でもあるチルノ達は歩いていた。

 

「……何か今日はおかしい気がする」

 

「……チルノちゃんもやっぱりそう感じる?」

 

「っていうか、ルーミアは一体どこにいったの? 昨日の夜に別れて以来見ていないんだけど……」

 

「その内にお腹を空かせて現れるんじゃないのかな? それよりも……虫たちがざわついている……」

 

 生徒達は通り過ぎていく中、アリスは紅茶を飲んで外を眺めていた。どこか、不可思議なことを感じているような表情を浮かべている。

 

「……何か、おかしいのよね……」

 

 彼女が紅茶を口に含んでいると──静雅が作った人形である天牌が近寄ってきた。彼女は口に入っていた紅茶を飲み、彼に話しかけたものの──

 

「天牌? 何か用があるの?」

 

「……アリスサン。イマスグコウマカンヘムカウヨー」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、博麗神社。鏡台でオレンジのワイシャツを着ては、胸にサラシを巻いて猫の耳に尾。そして……頭には【五徳】を乗せている女性は空を見ながら呟く。

 

「……なってしまった……。侠があの【裏】に……」

 

 彼女は飛翔し、どこかへと向かい始めた……。

 

 

 

 




 静雅は彼と戦う事が出来ません……。

 ではまた。

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