幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 裏・第二章の最後の話の補足。ようやく投稿できた……。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


『思い起こす出会い』

 紅魔館にある図書館。そこには何かを熱心に読んで何かを書き連ねている図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。彼女が読んだ本を元の本棚に戻している使い魔の小悪魔。そして紅魔館当主の妹の吸血鬼、フランドール・スカーレットは暇そうに椅子に座って足をブラブラさせていた。彼女は本を読み続けているパチュリーにとある質問をする。

 

 

 

 

 

「ねぇ、パチュリー? お兄様って私よりも咲夜の事が好きなのかな?」

 

 

 

 

 

 度肝を抜かれた。パチュリーは吹きかけたものの、体勢を立て直して彼女に問いかける。

 

「……急にどうしたの? 静雅の異性事情を聞いたりして?」

 

「前にこいしちゃんが来て、それでどっちが好きかって聞いてお兄様は咲夜って答えたでしょ? それってお兄様は咲夜の事が好きって事だよね?」

 

 過去にあった妹達の騒動。その際に吸血鬼の妹のフランドールと覚り妖怪の妹の古明地こいし達の争い。二人の問いかけの答えに第三者である咲夜と答えた。当人達の【好き】というベクトルはパチュリー達は理解しているのだが、彼女はまだ純粋であって気になるのだろう。

 

「……まぁ、彼が好きって言ったのなら好きなんじゃない? 違うのならばその時のあなた達の二人の内から選んでいたでしょうし」

 

「……む〜。お兄様は私の従者なのにー……」

 

 ぷくーっと頬を膨らませながら不満そうに言う。彼女の様子を見ながら、パチュリーは話し掛けた。

 

「……今更言うけど、おそらく彼はあなた達二人を傷つけないように言ったのだと思うわ。もしも仮に、妹様を選んだとしたらどう思う?」

 

「? 嬉しいよ、もちろん」

 

「じゃあ逆に。覚り妖怪を選んだとしたらどう思う?」

 

「それはやっぱり嫌だ──あ! もしかして、こいしちゃんも私と同じ事を思うの!?」

 

「……どちらか一方選んだらどちらかがはっきり傷つく。それならば彼は部外者の人物を挙げて、妹様達の嫌な気持ちを軽減させていた。そう考えての発言だと思うわ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

 フランドールはパチュリーの説明でやっと納得がいった。彼がわざわざ話に入っていなかった人物を挙げることで、彼女達の口論を終わらせようとしていた為。

 

 改めて彼女が理解しているところに……急に現れる二人の人影。その内の一人は脇に抱えられているが……抱えている人物は紅魔館の住民である本堂静雅だった。彼は冷や汗をかきながら安堵の息を。

 

「ふぅ……最悪の事態は免れた……」

 

「きゃー♡ 誘拐されたー♡」

 

「はいはい、ワロスワロス。そんで……パチュリーとフラン嬢か。ならちょうど良いな」

 

 彼は脇に抱えていた少女──古明地こいしをその場に立たせた。静雅は周りの人物を確認した後、彼にパチュリーは疑問を投げつける。

 

「……何で覚り妖怪を連れてきているのよ?」

 

「もう少しでオレが処刑されそうだったら元凶を攫ってきた。んで、こいし。フラン嬢と仲良く雑談でもしていてくれ。良いな」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「……まぁ、良いか。それじゃあちょっとオレは戦場に逝ってくる」

 

 そのまま彼はどこかに移動しようとしたところに──フランドールは大きな声で彼を呼び止めた。

 

「待ってお兄様!」

 

「ん? 何か頼み事かフラン嬢?」

 

「ううん、そういうわけじゃないんだけど……私、お兄様の事が大好きだよ♪」

 

「…………あぁ。オレもさ」

 

 彼女の言った『大好き』の意味を理解したのだろう。彼は優しい表情で彼女の返事に答え、その場から消えた。

 

 彼女の発言について一番驚いたのは、こいし。彼女は不満げにフランドールに頬を膨らませながら言う。

 

「あぁー!? いきなり告白なんてずるいーっ! それでお兄ちゃんはOKしちゃうしっ!?」

 

「? こいしちゃん、告白ってどういう事?」

 

「…………えっ。まさかそういう意味での『好き』?」

 

 ……どうやら彼女の『好き』のベクトルが違うみたいだ。

 

 だが、彼女はどこか安堵しながら呟く。

 

「(そ、そうなんだ……そういう意味での『好き』だったんだ……)」

 

「……どうかしたの、こいしちゃん? 私、何か変な事言った?」

 

「ううん、言ってないよ。だから気にしなくてもだいじょーぶ!」

 

「そっか! じゃあ折角だし私の部屋に案内するね♪ こっちこっち!」

 

 フランドールはこいしを誘導するように先導していく。彼女の言う通りにこいしは楽しそうに着いていった。

 

 その様子を見ていたパチュリーは……どこか、寂しそうに呟く。

 

「……何時まで、彼とこの生活を送れるのかね……?」

 

 その呟きは、誰にも聞こえることは無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランドールの自室。ここは過去に殺伐とした雰囲気が漂っていたが……今ではその面影は無い。静雅の模様替えによって、外見相応の模様替えのデザインとなっている。さらには静雅は彼女の部屋に訪れ、定期に様子を見たり彼女のリクエストの要望を組み込んで模様替えをする。

 

 現在、フランドールとこいしは彼女のベッドに腰を掛けており……目の前にある衣類を入れるタンスには、紅魔館住民のそれぞれの人形が置かれていた。その寄り添いはまるで家族のよう。

 

 人形をこいしは見ている中で、惹かれる物があったのだろう。羨ましいそうな声で、とある人形についての詳細を聞く。

 

「あっ。中心にあるのってお兄ちゃんの人形だ」

 

「そうだよ! それだけじゃなくて周りにもあるこの人形達、全部お兄様が作ってくれたんだ♪」

 

「へぇ〜……。後でお兄ちゃんの人形貰っても良い?」

 

「駄目っ! この人形達は私の宝物なの! いくらこいしちゃんでもあげられないよ!」

 

「うーん、残念。今度お兄ちゃんに頼んで作って貰おうかなー……」

 

 悩みながらこいしは仰向けに倒れ、ボフッとベッドから音がして彼女は寝転ぶ。その状態の彼女から、フランドールにとある事について尋ね始める。

 

「ねーフランちゃん? お兄ちゃんとどういうきっかけがあって紅魔館に来てたの?」

 

「お兄様から聞いた話だと……空から落っこちてきたんだって。それで咲夜に拾われて、色々あって紅魔館に住み込み始めたみたい」

 

「空から落っこちてきたって……? その後、フランちゃんと会ったの?」

 

「……そうなんだけど……その時の私、狂気に憑りつかれやすくていっぱい静雅に迷惑を掛けちゃってたの。あの時にお兄様と会ってなかったら今の私はいないと思うな……」

 

 どこか懐かしそうにして言うフランドール。そして、その話に興味を持ったこいしはさらに詳細を求めた。

 

「狂気って……お兄ちゃんはどう対応してたの? 今のフランちゃんになるまで?」

 

「……話せば長くなっちゃうんだけど……えっとね──」

 

 フランドールは初めての出会いと時を、ゆっくりと話し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──紅魔館当主であるレミリア・スカーレットに命令され、本堂静雅はフランドールのいる地下の部屋までやってきた。そこで二人は最初は他愛の無い話をしていたのだが……雲行きが怪しくなっていく。そして、フランドールは歪んだ笑顔を見せては──重い弾幕を彼に放った。

 

「──ちっ!」

 

 体の防衛反応である反射により、転がって間一髪避けた。彼はすぐさま体勢を立て直し、背中に背負っていた槍を取り出して構えては彼女に声を呼びかける。

 

「おい、フラン嬢!? いきなりどうした!?」

 

「アハハッ! 弾幕ゴッコダヨ静雅! 私ガ満足スルマデ頑張ッテネ!」

 

「今の状態が狂気に憑りつかれた姿なのか……!? くそっ!」

 

 静雅は距離を取り、遠距離で弾幕を放って様子を見ようとする。しかし、彼女は一枚のカード──スペルカードを取出して宣言。

 

「禁忌【フォーオブアカインド】!」

 

 宣言ともに、フランドールの体がブレては……彼女と同じ姿をした人物が計四人になった。

 

「はっ!? 四人になるって何だよ!? 残像か!?」

 

「残像ジャナイヨ」

 

「私達一人一人ニ実体ガアルモン」

 

「コレカラ攻撃ヲ仕掛ケルカラ──」

 

「簡単ニ、壊レナイデネ♪」

 

 各々のフランドールが喋ったあと、四人から円球状、楕円状の弾幕が放たれていく。この頃の静雅は弾幕ごっこ初心者だ。まともに相手をしていれば、確実に敗北する。

 

 今のフランドールの状態だからこそ──彼は能力を使う事を躊躇わない。右手を前に出し、【弾幕が反れる】事にし、能力で軌道を反らしていく。

 

「何だよこの弾幕の量……! 初見殺しってレベルじゃねぇぞ!?」

 

「「「「弾幕ガ当タラナイ……ダッタラ直接!」」」」

 

 放った弾幕が当たらないと理解したフランドール達は攻撃を変え、四人は飛翔して静雅に急接近をしかける。彼女の言葉の通りに直接静雅を壊そうとしているのだろう。

 

 彼は白紙のスペルカードを取出し──輝かせながら宣言!

 

「猿まねに近い事になっていまうがしょうがない──人符【暇人達の戯れ】!」

 

 彼の宣言と同時に──見かけは静雅も四人に増える。フランドールは若干驚愕したものの、気にせず一人の静雅に攻撃を仕掛けるも──攻撃が静雅の体を通り抜けた。

 

「「「「!? 実体ガ……無イ!?」」」」

 

「「「「はははっ! 騙されたなっ! そんな簡単に猿まねするワケないだろう! オレなりの工夫の仕方はしている!」」」」

 

 反響して聞こえる静雅の声。声だけを聞いたのなら四人と感じるが……実際に一人の静雅は実体が無い。つまりは偽物だ。残りの三人の内一人が本物の静雅が紛れ込んでいる。

 

 本物が紛れ込んでいる四人の静雅は、各々の空間に槍の形をした多数の弾幕を形成し……とあるフランドールを目がけて槍の弾幕を放つ!

 

「「「「【本物を明らか】にし──お前さんが本体だっ!」」」」

 

 彼はどうやら能力で誰が本物のフランドールか見破ったらしい。フランドール達は弾幕を放つものの……一部の静雅の弾幕に相殺しようとしたが、当たらないで通り抜ける。彼の放った弾幕の中で、奇妙な動きをしながら彼女の弾幕を躱している弾幕による攻撃がある。その弾幕達は……一人のフランドールにヒット。

 

「グッ……!?」

 

「「「「お前さんの状況が状況なんでな! さらに攻めさせてもらう!」」」」

 

 四人の静雅の内の一人──本物の静雅の攻撃が再びフランドールを襲う。たて続けに攻撃を被弾し続けた所為か……他の攻撃を喰らっていなかった三人のフランドールの姿が消えた。本体へのダメージ許容量が超えてスペルブレイクしたのだろう。同時に彼もブレイクし、本物一人だけになってしまったが。

 

 この時点の戦況ならばまだ静雅の方が有利だ。彼は槍を彼女に向けながら牽制しながら言う。

 

「お前さんではオレには勝てないさ! その為のオレの役目でもあるんだからな!」

 

「勝負ハマダマダワカラナイヨ? 禁弾【過去を刻む時計】!」

 

 彼の言葉には耳貸さず、違うスペルカードを宣言するフランドール。彼の少し離れた両端の場所には円球状の弾幕が生成されては十字にレーザーが噴出。十字となった二つの弾幕は時計回りと逆時計回りの動きをしながら彼に近づいていく。同時に真正面にいるフランドールから散らばった弾幕を放ってきた。

 

 十字の弾幕とフランドールから直接放たれる弾幕に注意して躱す、または槍で弾幕をはじく。避けきれない弾幕に関しては手をかざしては【反れる】ことにして弾幕の軌道を捻じ曲げて対処していた。

 

「ドウシタノ? サッキマデ元気イッパイダッタノニ……マダ楽マセテクレルンダヨネ!?」

 

 彼女から単純な挑発を仕掛けてくるが……彼は一瞬苦い顔をしたの後、彼女の事を──

 

「オレ楽しかねぇよこんな弾幕ごっこ! お前さんをレミリア嬢が閉じ込めている理由がよくわかる! お前さんみたいな悪い子は閉じ込められて当然だ!」

 

 ──彼もまた、挑発をし始めた。その事が彼女が最も気にしている部分を。

 

「……違ウ! 私ハ悪イ子ジャナイ!」

 

「これが悪い以外に何があるってんだ!? 友好的に接しようとした人物に構わず弾幕をぶっ放すわ、一方的な攻撃をしかけてくるわ、他人を玩具みたいな扱いをしている奴が! そんなのは世間一般的に悪として捉えられるんだよ! お前さんみたいな外見だと【悪い子】が最も当てはまる! 街頭アンケートをしたって百人中百人がお前さんが【悪い子】って判断するに決まっているだろ! レミリア嬢は気の毒だろうな! こんな不出来でいらない愚妹を持った事を!」

 

 物理で一方的にフランドールが攻めたように、今度は静雅が言葉で彼女を責める。先ほどまでは悦びの表情だった彼女の顔が……どんどんと苦悶の表情へと変わっていく。攻撃を止め、目の瞳孔が狭くなりながら髪の毛を掻きむしって周りの音が聞こえないようにして、繰り返しの抗議の単語を並べる。

 

「違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ──」

 

「違くねぇっ! お前さんの行動は誰が見ても異端だ! 今まで行ってきた行動を悔い改めない限り、お前さんはずっと【悪い子】だ! 今の自分を鏡で見ろよ! いや、本当に自分のことを見れるのか!?」

 

 

 

 

 

 

「違ウ──私ハ悪クナイッ!!」

 

 

 

 

 

 

『あいつ──しても良いよなァ?』

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の姿に、違う人物の影が重なった。彼にとっては無二の親友でもあり、過去の陰湿な行為を続けられて──ある時を聞いてしまった親友。見てしまった。その時の彼の親友の姿に。信じていたモノが裏切られたみたいに。

 

 その姿に静雅は一瞬動きが止まった。その中、隙を見つけたと考えたのかフランドールはスペルカードを取り出す。

 

「アナタハ壊レチャエ──被弾【そして誰もいなくなるか?】」

 

 宣言共に、彼女の姿が蝙蝠となって消え……一つの弾幕が出現しては、彼を追いかけていく。その弾幕が動く度に、同じような弾幕が辺りにも散らばっていく弾幕だ。

 

「…………」

 

「ドウシタノ? 口ダケナノ? コノママ私ハアナタヲ──」

 

「……もう、終わりにしよう。お前さんのその姿は──見たくない」

 

 彼が顔を俯けて、呟くように言った瞬間──何かの波動が彼を中心として広がる。蝙蝠になって被弾しないようにしていたフランドールだが……蝙蝠状態が解除され、元のままの彼女がその場に現れる。

 

「!? 一体どうして……!?」

 

 先ほどの片言に近い言葉ではなく、言い方が普段のフランドールに戻った。しかし彼はお構いなく、彼女に歩み寄っていく。

 

「……もう、これ以上のお前さんを見るのが辛い。だから……終わらせる」

 

「っ!? 近づかないでっ!!」

 

 フランドールは近づいてくる彼に目がけて弾幕を放つ。しかし、その弾幕は彼に届く前に消えてしまった。

 

「! なら……ぎゅっとして──」

 

「無駄だ」

 

 彼女は自身の手のひらを出し、焦点を合わせて彼女の能力である【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】を使おうと、彼女は手を握ったのだが……何も起こらない。

 

「嘘っ……!? 壊せない!?」

 

「対策済みだ。オレは【壊れない】。これからオレにどんな攻撃をしても……無効化される。そして……自分がやった事をされる側になるんだ。そう──壊される側にな」

 

「ひっ!? こ、来ないでっ!?」

 

 攻撃しても勝てない事を悟ってしまったフランドールは、体の体勢を、胎児にように身を丸めた。壊されてしまう。何もかも逃げるように、視覚と聴覚を自ら封じて。

 

 彼女が未知なる恐怖に怯え、無意識のうちに言葉を漏らす。

 

「助けて……お姉様……!」

 

「…………助けは来ない。レミリア嬢がオレに一任しているからな。今更後悔しても──遅い」

 

「うっ……」

 彼の希望を壊す言い方に、彼女は泣き始めてしまった。そのような彼女になっても、彼は歩みを止めない。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、彼女の前に彼は片膝をついては──優しく、帽子越しに頭を撫で始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 攻撃されると思っていたフランドールは呆気にとられた。彼女は彼に顔に振り向いたが……静雅は前までは表情を読み取れなかったが──優しい、心配しているような表情をしながら彼女を撫で続けていた。

 

「……大丈夫さ。さっきまで言っていたのは嘘だ。でも……わかっただろ? 壊されるという恐怖が。狂気の所為にするのは違うと思うが……フラン嬢は自分の嫌な事を相手に強要させていたんだ。言っちゃなんだが、さっきまでのフラン嬢は話を聞いてもらえそうになかったからな……手荒に弾幕ごっこと呼べるかどうかわからないが、それを利用とした説得をさせてもらった。この事については……本当にすまない」

 

「……わ、私、悪い事をしてんたんだ……」

 

「まぁ、方向にもよるけどな。相手に純粋な怒りで振るうのはともかく……フラン嬢には明確な理由が無かった分、悪い事としてされていたんだよ」

 

「そ、それで、私の事……本当に、壊さない?」

 

 泣きじゃくりながら、第三者から見てもまだどこか怯えている様子を見せているフランドール。彼は心配を取り払うように、明るく振る舞う。

 

「心配すんなって! オレはお前さんの従者でもあるんだからな! 主が悪い方向に向かう事を修正するのも従者としての行動だ! それ以外なら嘘はつかないから安心しとけ!」

 

 先ほどの優しい頭の撫で方とは違い、今度は強く髪の毛をかき回すかのようにして撫でる。一見荒っぽく見える行動かもしれないが……それでも彼女は彼の行動に温かい優しさを感じていた。

 

「ご……ごめんなさい──うわぁあああんっ!!」

 

 彼女は溜まっていたものを吐き出すかのように、彼の胸に顔を当てて涙を流した。声を枯らしながら、つっかえながらも彼の存在を確かめるかのようにしがみつく。

 

 彼はさらに彼女を安心させるように、両腕で彼女を包み込むように抱き返したが……彼は心の中で思う。

 

「(……そう、フラン嬢はまだ間に合うんだ。お前さんを心配しているはずだからな、紅魔館のメンバー達は……)」

 

 彼は、彼女が泣くのを止めるまでその体勢で居続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランドールは泣き終わり。彼は改めて彼女に挨拶をしようかと思ったのだが、弾幕ごっこの影響で彼女の部屋は荒れていた。だから彼は能力を使っては綺麗にし、さらには模様替えを短時間で行った。現在の彼女がより女の子らしくしてもらうために。

 

 数十分かかって二人はフランドールのベッドに腰をかけた。彼女の様子を確認してから、話を振る。

 

「一応、改めて自己紹介するぞ。オレはここに雇われた外来人でもあり、お前さん──フラン嬢の従者になる本堂静雅だ」

 

「……うん。私はフラン……ん? 静雅って外来人なの?」

 

「おうとも。じゃあ外界のオレ視点での話をしてやろう。お互いの事を知ることが信頼関係にとって大事だからな」

 

 彼はしばらくの間、彼の過ごした外界について語った。途中でフランドールは興味を持って質問をしては、彼がそれに答えて。着々とフランドールの緊張はほぐれていく。

 

「──外界ってそんなところなんだ……。幻想郷と比べて自然が少ないって……それは嫌だな……」

 

「同感だな。中には無駄な企業──いらない奴らが環境破壊するのは困ったもんだ」

 

「そうなると……幻想郷って凄い自然が綺麗なところなの?」

 

「オレからの観点で言えばそうだな。まぁ、田舎とかそういう方面に行けば自然が残っているところもあるが……」

 

 話題は進み何故か【環境問題】について話しているが……それでも彼女は彼の話を真剣に聞いていたり。自分のいる世界とは違う価値観の所為か、興味を持っていた。

 

 話を続けていた静雅だが……途中、フランドールは少し重そうに口をひらく。

 

「……聞きたいことがあるんだけど……良い?」

 

「お? 何か?」

 

 そして彼女は──重い口を開きながら、彼の目を見ながら言った。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、静雅……お姉様って私の事どう思っているのかな……?」

 

 

 

 

 

「…………こりゃあ、難しい質問が来たもんだ」

 

 話の内容を察した静雅は先ほどの表情とは違い、真剣な顔つきに変わった。彼女は静雅にどこか不安を含めた声で話を続ける。

 

「……私はたまに狂気っていうのに振り回されて、それで地下室にいるのはわかっているの。それって……私が皆に迷惑をかけちゃうからでしょ?」

 

「…………それも含めるかもな」

 

「それで……お姉様はたまにここには来てくれるけど、話してわずかな時間で帰っちゃうの……。どこか、私を避けているみたいで──」

 

 

 

 

 

 ──嫌われているみたいで

 

 

 

 

 

「……フラン嬢からの視点だと嫌われていると思っているのか」

 

 確認するような彼の言葉に悪気はないのはわかっている。しかし、彼女は──頬に伝うモノを流しながら、話を続ける。

 

「どうしてなの……? 私とお姉様って姉妹なのに……どうしてこんなに扱いが違うの? お姉様はお外でいろんな人に出会ったりしているのに、私はここにいて。最近まではお外になんか興味はなかった。けど……魔理沙達にあって……興味が湧いたの。『お外ってどんなところなんだろう?』『どんな人がいるんだろう』って。でも……お姉様は紅魔館までしか許してくれない。それって……私の事が嫌いだから、閉じ込めているのっ……!?」

 

 彼女は泣き始める。今日で二回目の涙だ。この問題こそが──彼女にとっての問題。静雅はそう感じていた。

 

 そして──被る。勘違いしている。すれ違いをしてる事を。

 

 だから彼は……彼女に答え始める。

 

「オレからの見解ならよ──フラン嬢は嫌われていないぞ。むしろ逆に心配している」

 

「…………それも嘘? アイツがそう思っているなんて──」

 

「レミリア嬢はお前さんの話題に触れる度にどこか、心苦しそうにしていた。本当に嫌っているとなれば、その表情はありえない」

 

「え……?」

 

 彼の発言にフランドールは耳を疑う。

 

 ──淡白に触れ合っている姉が、私の事心配している?

 

 驚いたような表情を浮かべている彼女だが、彼は根拠を述べ始める。

 

「まず嫌っていたとしたらオレとは独占するんじゃないか? 自分の雇用者は自分の物とかな。しかし……レミリア嬢はわざわざオレのフラン嬢の従者になるようにって言っていた。咲夜がレミリアの従者である通りに、妹にも従者を付けたかったんじゃないのか? 少しでも、他人と親密になって欲しいという願いと共に。どこか、バツが悪そうにオレに仕事を押し付けたからな。『今の自分では話す資格は無い』みたいにな」

 

「…………」

 

 フランドールは黙って彼の話を聞き続ける。

 

「それによ……他の紅魔館住民だってそうだろ? 何年、何十年いて違和感を感じないはずはない。特にレミリア嬢の親友であるパチュリーはな。大体紅魔館当主の妹がこのような状態だ。関係に何かあるのかって思ってんだろうよ。ただ……レミリア嬢は踏ん切りがついていないだけなんだ。どうしてフラン嬢を紅魔館外に出さないでいるのかを」

 

「…………静雅は、私がここにいる理由がわかるの?」

 

 徐々に泣き止み、真剣な瞳で静雅に尋ねる。しかし、彼は先ほどの表情とは変わり、気楽そうに答える。

 

「大雑把はな。でも、まだ材料が足りないからわからない。このあたりについては……パチュリーにでもヒントをもらえればわかるかもな」

 

「わからなくても大体の見当がつくの?」

 

「あぁ、この件に関してはデジャブしているからな。大体の原因はわかる。だが……あえて教えないからな? もしもオレの推理が外れでもしてフラン嬢をぬか喜びをさせるわけにはいかない」

 

「……そういう事も、あり得るんだね」

 

 彼の遠回しの言い方に、フランドールは沈んだ表情を見せる。その様子を見て彼は、彼女を元気づけるように話の話題を変えた。

 

「んじゃ、もしもの場合は下剋上と行くか! 姉に喧嘩を吹っ掛けろ! それで紅魔館当主にフラン嬢がなればいい!」

 

「えっ!? それって弾幕ごっこって事!?」

 

「おう! お互いに言いたいことを黙り続けてたら埒が明かないからな! 案外お互いにぶつけ合うことで良い結果を生む可能性も無いとは言い切れないからな!」

 

「……それも良いかもね。お姉様にそれで伝わるのなら」

 

「あくまで最終手段としてな。明日にでもレミリア嬢がフラン嬢の事をどう思っているのか聞いて来てやるよ。まぁ、今はどうしようもないからお互いの事を知っていこう」

 

 そして、彼女にいろんな話を彼は聞かせていく。

 

 

 

 

 

 少年会話中……

 

 

 

 

 

「──でな、心理学とは面白いんだ。自分の知らないウチの心を知れるからな。今度オレが覚えているテストでも──」

 

 一時間ほどは経っただろうか。彼はフランドールと仲良くなるために色々な話を振った。彼の話は彼女にとっては新鮮なもので、最初は熱心に聞いていた。だが、精神的な疲れが来たのか──

 

「…………Zzz」

 

 彼女は静雅に体を預けて眠り始めた。どこか、やすらかにも見える、安心した表情。規則正しい寝息をしながら彼女は眠っている。

 

 フランドールの状態を確認してか、優しい笑みを浮かべながら彼は彼女の頭を撫でて、呟く。

 

「……お前さんは侠と比べればまだまだ良い方だ。あいつは……周りにいる奴らが悪かった。フラン嬢は……もう、きっと大丈夫だ」

 

 彼は自室に戻ろうと立ち上がろうとしたのだが……ズボンにどこか力が掛かった。彼は疑問に思い、ズボンに視線を移すと……フランドールの手は彼のズボンを掴んでいた。

 

「…………」

 

 彼はなるべく静かに取り外そうとするが……一向に離さない。能力を利用して今度は【離した】事にし、その場から帰ろうとしたのだが──

 

「……どこ……?」

 

 寝言と表現した方がいいのか。彼女は寝ながら手元を動かしていた。無くしたものを探す手のように。次第に、彼女の顔は不安に包まれるような、不安定な状態となっていく。

 

「……これは寝泊りするフラグか……? いや、別にオレはロリコンでもないし、やましい気持ちは無い。……仕方ないか」

 

 彼はベッドの近くに腰を預け、彼女の手を握る。寝ながらも何かが傍にあると分かったのか、安堵の表情の眠りへと変わった。フランドールの様子を見ながら静雅は、ゆっくりと意識を落としていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お兄様とそういう事があったの、こいしちゃん」

 

「……頑張るねぇ、お兄ちゃん。人の悩みを何とかしようとするなんて……」

 

 話し終えたフランドールはどこか照れくさそうに、こいしはどこか複雑そうに意見をした。彼女の話を聞いたこいしは、小さく呟く。

 

「(……もしも、私と一緒にいたのなら、心を閉ざす事はなかったのかな……?)」

 

「? こいしちゃん、どうかしたの?」

 

「ううん、何でもないよ。そろそろお兄ちゃんが来る頃かなって──」

 

 本当に彼女がそう言った時。フランドールの部屋に本堂静雅が出現した。彼の服装はどこかボロボロに見えなくもないが。

 

「……能力無しじゃとても勝てねぇ……。オレって非力に感じるな……」

 

「本当にお兄様が来た!? こいしちゃん凄いっ!」

 

「えっへん! 私のお兄ちゃんレーダーを舐めない事だね!」

 

「……仲がいいな、お前さん達……」

 

 どこか呆れ声を含めながら言う静雅に、フランドールは疑問そうに話しかける。

 

「お兄様、どこか疲れているように見えるんだけど……どうしたの?」

 

「怖い三人組の戦場へと逝ってきたんだ。それでいろいろあって能力を極力使わないで戦う事になったんだが──普通に考えて一対三で勝てるはずがないだろっ!?」

 

「弾幕ごっこしてきたの? だったら私もやりたい♪」

 

「あ! 向こうが三人というのなら、私達もやれば三対三でちょうど良いんじゃないっ!? 私ってば頭良いー♪」

 

「……呑気だな、妹達は……」

 

 ため息をしながら返事をする静雅の言葉の後に、フランドールの部屋の外から聞こえてくる声が。

 

『静雅ー? フランの部屋に逃げてないでこっちに来いよ? 私はまだマスパ放ってないぜ?』

 

『無駄な抵抗は止めなさい。速やかに出てくることをすすめるわ』

 

『怪我したというのなら私が診てあげるから──私の瞳を見て狂いましょ?』

 

「……相手はまだ戦う気満々である」

 

「お兄様を苛めるのは私が許さない!」

 

「じゃあお兄ちゃん、私達の力を見せてあげよう♪」

 

「(……さらに修羅場になるな、これ。社会的にも含めて生還できるか……?)」

 

 

 

 

 

 

 そして三対三の弾幕ごっこが始まったのだが……過程も含めて結末はどうなったのかは、当人達しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 




 後の話はご想像にお任せします。

 ではまた。

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