幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 前の閑話に関連する話。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


『妖怪の山にて』

「…………」

 

「…………」

 

 妖怪の山にある滝が流れている河原の近く。そこには緑の帽子を被り、水色系統の服を着て近くには大きなリュックがおいてあり、その人物は河童の河城にとり。もう一人おり、その人物は赤い小さな頭巾のようなものを被ってお入り、上半身は白い服に霊夢に似た袖があり、スカートは上の色が黒、下が赤。彼女の近くには剣と椛の模様が入った盾が置かれている。その人物は白浪天狗の犬走椛である。

 

 その二人は向かい合って座り、何やら木でできた台の上にある、さらに木で作られた小さな物を交互に順番に動かしていた。

 

 そこに……とある人物が二人に話しかけた。

 

『……? 河城に犬走、何しているの?』

 

 当然二人にもその声は聞こえ、声の主がいる方向に体を向ける。その人物は──龍神の先祖返りである辰上侠だった。興味があるように二人が動かしていた【モノ】に視線を向ける。

 

 いち早く反応したのは椛。彼女は姿勢を正して彼に言葉を返した。

 

「! これは侠さん! こんにちは!」

 

「こんにちは……って、別に敬語じゃなくてもいいのに……」

 

「とんでもありませんっ! 侠さんと初代龍神様はこの幻想郷の権力者です! さらには我々の長である天魔様と親しい人物でもある! もうそのような失礼な事は出来ませんっ!」

 

「それはあくまで自分じゃなくてご先祖様なんだけどね……それで。これは──将棋していたの?」

 

 少し呆れたようにしながら侠は──将棋に視線を再び移した。将棋は外界でもあるものだ。彼の中ではこれが幻想郷にあるとは思ってなかったのだろう。

 

 彼の疑問に答えるように、にとりが答えた。

 

「そうだよ。ちょうど椛が休憩時間だからこうして休息をまじえているんだ。盟友は将棋を見るのは初めて?」

 

「ううん、初めてではないけど……やったことは無いかな。興味なかったし」

 

「どうせなら盟友もやってみる? 個人的にだけど……龍神様の子孫の頭の良さも見てみたいけど……ダメ?」

 

 彼女の問いかけに彼は少し悩むように頭を掻いた後……肯定。

 

「やれるならやってみようかと思うけど……ルールわからないんだよね……。だから説明しながらで良いからざっと説明してくれる?」

 

「わかった! じゃあ椛とこのまま続けながら説明するねっ」

 

 にとりは彼の言葉を聞いて椛に行動を促し始めようとしたところで……彼女は侠にある事と問いかけた。

 

「侠さん、初代龍神様に挨拶してもいいですか? やっぱり対面して挨拶をしたいので」

 

「あぁ~……ちょっと今、ご先祖様は都合が悪いんだよね……」

 

 バツが悪そうに答える彼に、椛は詳細を求める。

 

「? それは何故ですか?」

 

「『人に会ってくる』って理由で現在体を実体化させて、今出かけているんだよね……だから今自分の体にはご先祖様はいないんだよ……」

 

「実体化出来たのですかっ!?」

 

 意外な発言に驚きを隠せない椛だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。妖怪の山のとある場所の部屋の中に──天狗の長でもある天魔──一進が文書をまとめていた。

 

「……この業務は問題ないな……良し。これでそろそろ上がるか──」

 

 手を付けていた仕事を終わらせ、仕事場から離れようとしたのだが……扉の奥から、下っ端天狗の声が聞こえてきた。

 

『天魔様! お客人ですっ!』

 

「……何? 今日は客人と会う予定はないはずだぞ? 後日という事で帰ってもらえ」

 

『それが……その相手が辰上侠様なんですよっ! 天魔様に会いに来たと仰っています!』

 

 天狗の言った名前。彼は一瞬思考が停止しかけたが……冷静に考えを巡らせ、天狗に指示をした。

 

「…………ティアー様の子孫か。何時か来るかと思っていたが……なら、話は別だ。通せ」

 

『はっ』

 

 天魔の言葉に返事をする天狗。そして扉が開けられ……その人物が天魔の視界に入ってくる。

 

 ……しかし──その人物の聞いていた容姿が若干違う事に天魔は気づいた。服装は同じように見えるが……黒みの掛かった赤髪に赤い瞳。部下でもある射命丸文から聞いた情報が正しければ、『辰上侠』は赤みの掛かった黒髪で黒い瞳であるはずなのだ。

 

 ──そして色が違うその人物は、彼にとって馴染みのある名前で呼び始めた。

 

 

 

 

 

「──でかくなったの、一坊よ。成長しており何よりだ」

 

 

 

 

 

「────っ⁉ ティアー様っ⁉」

 

 天魔──一進の言う通り……そこにいたのは幻想郷の初代龍神、ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼだった……。

 

 

「──それにしても、どうして子孫の名前で私のもとに訪れるんですか……?」

 

「我が初代龍神と知ったら、社会の表れでもある天狗達はびくびくするであろう? 我よりも主──侠の名前の方が精神面的に楽であるからな。そこは気遣いなのだ」

 

「……それは確かに……」

 

 適当に出されたお茶菓子をつまみながら話すティアー。いろいろな雑談をしながら気楽な態度をとり続けている彼に、一進は悩んでいるような言葉を。

 

「……相変わらずですね。日常的には自分がどのような身分であっても気楽に接する態度。それで外界に移ると聞いたときはもう目から鱗ですよ。外界にいる人間の女子に惚れるなど……この幻想郷の創造神が……」

 

「恋は種族を超えるのだよ。お主はまたまだ未体験みたいだが……ビビッときたのだ。この女子は我の妻にしたいとな」

 

「それで寿命を人間に合わせた結果がこれじゃないですか。実体のある亡霊とか冥界の管理人で十分です」

 

「僅差で妻の傍にいたいという気持ちが勝ったからの。二アリーだった分、幻想郷の基盤を作った分……我の世界を愛して何が悪い?」

 

「……まぁ、そのおかげでこうして対面することが可能になったのは良い事かもしれませんがね……」

 

 机からお茶の入った湯呑を手に取り、一進は満更でもない様子でお茶で喉を潤す。

 

 そして……一進は気になっていたことをティアーに問いかけた。

 

「……どういう経緯でこの幻想郷に戻って来たんですか?」

 

「主のいた世界では不思議な事が起こっていての。主はまったく関係なかったのだが……どこかの童達が、運命を変えようと世界を構築しておるのだ。ほぼ無限ループで繰り返す一定の帰還。その時、我が少しでも力を取り戻していればそのループを壊すことが出来たのだが……我にはそんな力は残っていなくての。中途半端に我の影響、先祖返りとして生まれた侠はその違和感に苦しんでいたのだ。未来に行くことが出来ない現状にな」

 

 ティアーは手元に持っていたお茶菓子を食べ終えると、湯呑を持って、水面に移った自分の顔を見ながら言葉を続ける。

 

「そこで八雲紫が侠に目を付けたのだ。正体はわからなかったであろうが……主に違和感を感じたんだろうの。我が設定しておいた妖力、先祖返り、我の存在に。八雲紫は表向きは『無限ループが終わるまでの滞在』という事で主を幻想郷に招き入れたのだ。同時に行くのを渋った侠に、『はい』と言いやすくするために竹馬の友である本堂静雅も連れてな」

 

「……あのスキマ妖怪が、何も見返りもなく幻想郷に招き入れるというのはおかしくないですか? 妖怪のエサにするのならともかく……わざわざ博麗神社に住ませているという。どうしてわざわざ博麗神社に……?」

 

「それだけではない。本堂の者が起こした異変の後、白玉楼との関係性も持たせた。さらに言うならば……守矢神社までな。我がいるからというのもあるかもしれんが……奴は霊夢側のはず。だが、我達に接触してこなかった。わざわざ帰る前提の主に他者との関わりを持たせている。覚り妖怪の力を失ったのは痛いが……奴は、他に目的がある」

 

「……一体、何を考えている……?」

 

 彼の言った言葉を整理しながら考察する一進。そしてティアーはある情報を付け足す。

 

「だが……比那名居天子と関わるのはよろしくないみたいだの。以前、侠が寝ている時に奴が来て……天子との記憶を消そうとしていた」

 

「それは……奴が天人くずれを毛嫌いしているからでは?」

 

「……それも含めると思うが、それとは違う理由も含まれているかもしれん。詳しい事はわからぬがな」

 

「何か揉め事が起こらなければ良いが……」

 

「(一坊よ、それはフラグだ)」

 

 無自覚な一進の発言に呆れながら、ティアーは茶を飲み干す。飲み終えた湯呑をおいて、彼は座っていた椅子から立ち上がり、別れの挨拶を。

 

「では、我はこれにてお暇させてもらおうかの。久々に話が分かる相手で楽しかったぞ」

 

「最後の会話はともかくですが……少し、自身の存在を自重してください」

 

「衣玖に似たような事を言われたのう……ま、気が向いたら少しは考えるかの」

 

 ティアーはそう告げると、部屋から出て行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、辰上侠と犬走椛は将棋をしていた。にとりと椛は実際に対局を見せて侠に説明し、それを踏まえて侠は椛に勝負を申し込まれて、現在に至る。

 

 だが──侠は駒を動かし、告げる。

 

「──王手」

 

「……………………あの、侠さん? 本当に初めてなんですよね?」

 

「? そうだけど?」

 

 彼女の質問に当然のように答える彼だったが──たまっていた言葉が破裂してかのように、彼女はそもそもの疑問を投げかけた。

 

「ならば何故──私は初心者である侠さんに負け続けているのですかっ!?」

 

「だって正直、犬走の動かし方には隙がかなりあって。それを基づいて一手を何十以上も考えて動かしているだけだし」

 

 呼吸するかのように言う侠だが、二人の勝負を見守っていたにとりは感心するように、どこか呆れを含めて言う。

 

「……これで椛に9連勝。どちらが先攻でも後攻でも、盟友が勝っちゃうとは……。本当に初めて?」

 

「ルールがわかれば問題無いしね。むしろルールがわかるといろんな戦略が立てられて楽しいよ」

 

「くぅ……もう一度お願いしますっ!」

 

「また? まぁ良いけど──」

 

 椛の10回目の勝負の申し込みに答える侠だが──そこへ、赤い龍の翼を広げてくる人物が一人、当然、三人はどのような人物かは理解しているが。

 

 その人物は言うまでもなく──初代龍神であるティアーである。

 

「む。どうやら白浪天狗と主は将棋をしておるのか。そしてこの将棋の配置……主の王手で終わっておるみたいだの」

 

「! 初代龍神様、お疲れ様です!」

 

「……龍神様。ご無沙汰です」

 

 即座に椛はティアーに体を向けて挨拶を。にとりも挨拶を忘れない。

 

 子孫である侠は彼に確かめるように話しかけた。

 

「私用はもう終わったんですか?」

 

「うぬ。一坊とはきっちり雑談してきた。そして主……我はしばらく人里に向かって行くからな。適当な時間で博麗神社に帰るつもりだ」

 

「……実体化したまま人里に? まぁ……問題は起こさないようにお願いします」

 

「……童みたいな注意の仕方はどうにかならぬかの? まぁ、我は元龍神だから仕方ないかもしれぬが……我はこれにて失礼する(……いい加減酒を飲みたいしの)」

 

 最後にボソッと言った言葉は誰にも聞こえていなかったが……彼は再び飛翔して人里に向かって行った。しばらく三人はその方角を見ていた中……侠は椛に振り返り、行動を促す。

 

「じゃあまたやろうか。今度はどっちが先にやる?」

 

「そうですね……今度は後攻でいいですか? 侠さんがどのように動かした後で、戦略を練りたいので」

 

「ん。わかった」

 

 再び二人は将棋を始め、にとりはそれを見守っていた……。

 

 

 

 

 




 とりあえずこの二人の閑話は作らなくてはいけないという気持ちになった。

 ではまた。

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