幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 表・第八章の後日談的なもの。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


共通・第十九章 閑話2
『咲かない妖怪桜』


 まだ辰上侠が一時的に白玉楼に居候していた頃。人里で魂魄妖夢と一緒に買い出しに行き、偶然会った本堂静雅とアリス・マーガトロイドと雑談を。そうして別れ──白玉楼に二人は帰還した。

 

「幽々子様ー。ただいま戻りましたー」

 

 妖夢が声を掛け、帰ってきたことを伝えると──白玉楼の主である亡霊、西行寺幽々子が出迎えた。

 

「お帰り〜。妖夢、おやつ何かある〜?」

 

「はい。人里で人気のおはぎを少々。それでも構わないですか?」

 

「構わないわ〜♪ じゃあさっそく用意してね〜♪」

 

 弾んだ声で幽々子は去って行く。おそらく居間で待機していることであろう。

 

 食欲に素直な主に妖夢は苦笑いをするも、彼女は気を取り直して侠に話し掛ける。

 

「侠さんもご一緒にいかがですか? それなりに量もありますし、余裕はあると思いますが……」

 

「じゃあ自分も貰おうかな? 自分は適度に食べるとするよ」

 

「わかりました。では侠さんも居間でお待ちください」

 

 妖夢は当然のように言ったつもりなのだが……彼は、彼女を気遣うように言葉を返した。

 

「もう腕は治っていることだし、手伝うよ。お茶は魂魄が淹れるにしても、配膳とかは普通に出来るんだし」

 

「……じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

「うん。自分の出来る事なら」

 

「はい! じゃあお任せしますね♪」

 

 妖夢は機嫌を良くし、侠と共に台所へと向かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 居間で間食を三人で食べ、幽々子が妖夢を弄り、恥ずかしがっている彼女のフォローをする侠。少なくとも、侠と妖夢が和解してからの限定の日常だ。少なくとも、妖夢は侠と関わったことで良い方向へと変わりつつあった。

 

 そして夕食を用意する時間帯までの間、魂魄妖夢は鍛錬をしている間──辰上侠は白玉楼の周りを散歩していた。

 

「……何だかんだ白玉楼に来た時は色々忙しかったなぁ……。魂魄にしょっちゅう勝負を申し込まれたり、ゆゆさんが魂魄をヒートアップさせたり。それで弾幕ごっこをしたり。本当に内容の濃い一週間だった……」

 

 彼は散歩の周りにある何故か咲いている桜に目を移す。桜が咲く時期ではないのだが……紫が境界を弄って咲かせているという事。

 

「……こうして見ると白玉楼って桜があっても何にも違和感がない……冥界なのに。それに白玉【楼】と桜だから風情があるように感じるのかな……?」

 

 足を進めていると、広い土地へと着き──そこには、何も咲いていない大木があったのを侠は見つけた。彼はその何も咲いていない大木へと近づき、思ったことを呟く。

 

「……? 何でこの木は何も咲いてないんだろう……? この木が何か咲かしたら盛大になると思うのに……」

 

 そう疑問を彼は抱いているとき──背後から女性の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「その【西行妖】は咲く事は無いのよ、侠」

 

 

 

 

 

 侠はその女性の声がした方向に振り返る。無論、そこにいたのは全体的に水色の服を着て、帽子には赤い渦巻きがある白玉楼の主、西行寺幽々子。

 

 彼は彼女の言葉に詳細を求める。

 

「【さいぎょうあやかし】? この木の名前ですか?」

 

「そうよ。昔は盛大で、美しい桜を咲かせていたらしいんだけど……今じゃ封印されているのよ」

 

「封印? 何故封印する必要が? ただの桜じゃないんですか?」

 

 侠からの当然の疑問。ただの桜なら封印する事は無いはず。それにも関わらず、封印されていたら気になることも必然だ。

 

 幽々子は懐かしむように話し始める。

 

「侠が幻想郷に来る随分前に、私は異変を起こしたのよ。【春度】を集めてこの桜を開花させようとしたわ。もちろん、妖夢にもその【春度】を集めて貰ってね。でも、冥界以外の幻想郷は私達が【春度】を集めていた副作用で、五月になっても冬が続いた。この事は【異変】とされて……異変解決者である霊夢、魔理沙、それで紅魔館の従者だったかしら? その三人が私達の元にやって来て解決。後もう少しで開花しそうだったけど……止められちゃったわ」

 

「十六夜ですね。それじゃあまだ未練があるんじゃ?」

 

 侠がそう問いかけるも、幽々子は首を横に振って否定。

 

「今はそう思ってないわ。過ぎたことはしょうがないし、またやったら霊夢達に退治されるもの……」

 

「……ようするにめんどくさいんですね。まぁ、仕方ないかもしれませんが……どのくらいから封印されていたんですか?」

 

 彼がそう問いかけると……幽々子は難しそうに、困ったように答える。

 

「う〜ん……少なくとも私が西行妖を知った当初から封印されていたわね。その時かしら? 西行妖の傍に初めて紫と会って、何か意気投合したわ」

 

「…………ゑっ? その時に初めて紫さんと会ったんですか?」

 

「そうなのよねぇ……。それで、紫はどういうわけか、泣いた跡があったわ。当時初対面の私の前にも関わらず」

 

「初対面で紫さんが泣いた跡……? それは何故……?」

 

「そんなこと、私が知りたいわよ〜。紫に何度も問いかけてもはぐらかして教えてくれないし〜……でも、人は何かしら理由があって隠しているわけだし。紫も私に言いづらい事か、恥ずかしい出来事で喋りづらいんじゃないかしら? それならしょうがないわよ」

 

 気にしてもしょうがないわよ、と幽々子は言い……彼女は侠に行動を促した。

 

「それより……侠、外界のお菓子について教えてくれないかしら? また紫にでも頼んで食べてみたいのよ〜……」

 

「……わかりました。じゃあ移動しましょう」

 

「それで良し♪」

 

 幽々子に促されて侠は移動するが……一度西行妖を振り返って見た後、彼女に着いていった……。

 

 

 

 




 ……。

 ではまた。

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