幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 彼の親友が寝てる合間に。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


『〜Ex side story〜』14

 侠達が地底に向かったその日の深夜。紅魔館ではとある人物が侵入している間、辰上侠は割り当てられた自室で規則性の正しい寝息をたてて眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし──彼の自室に現れる不気味な空間──スキマが出現。

 

 

 

 

 

 

 

 そのスキマから出てきた人物はもちろん、幻想郷の管理をしている八雲紫である。彼女はゆっくりと寝ている侠に歩みゆり、隣に座ったと思えば彼女の手を侠の額の上に乗せながら呟く。

 

「……あなたが霊夢にどれだけ心を開いているかどうかは知らない。でも──これだけは確実に言える。静雅、受け入れた【家族】の次に心を開いているのは──霊夢か不良天人。このどちらかは間違いないわ」

 

 そして彼女は──手に妖力を集めながら言う。

 

「──あなたの隣が不良天人じゃ、幻想郷に連れてきた意味が無い。不良天人以外ならそれでも良かったのだけど……。だから──あの不良天人との記憶は消させてもらうわ。悪くは思わないでね。あなたの為で有り、私の為。そして──霊夢の為でもあるんだから──」

 

 紫は能力で、【辰上侠との心と八雲紫の心の境界】を繋げ始める──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心の境界を繋ぎ、紫は白い空間の部屋にいた。そして紫は周りを見渡して現状確認。右側の赤紫の扉、左側は黒い扉。

 

「……過去に霊夢から聞いた話だと、赤紫は初代龍神の部屋。黒い扉は侠の部屋だったわね……」

 

 彼女は黒い扉に歩み寄る。そしてまずは無造作にドアノブを回してみるが……ガチャガチャと鍵が掛かっている音が響き、開かない。

 

「……まぁ、寝てるから無理はないわね。虚空に心を開けというのは無理難題。でも、鍵は──私の能力で創れる」

 

 紫は手に妖力を集め、【信頼の境界】を具現した──鍵を創った。

 

「心を閉ざしているだとしても……【鍵穴】があるのはわかりやすい。それならば私を対象とする信頼の境界を弄れば良い。静雅と同じ【完全に信頼された鍵】を、ね……」

 

 紫は鍵穴に鍵を差し込んだ。そして、その鍵をゆっくりと回し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その【創られた鍵】は砂のように崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? どういう事……!? 侠の信頼の境界を弄った鍵が……崩れた……!?」

 

 計算外の事だった。彼の親友、本堂静雅と同じ信頼された【鍵】を創ったはず。だが──鍵穴に合わなかったのか、その鍵は崩れた。

 

 八雲紫はその事柄について考えたいたが──

 

 

 

 

 

『騒がしいと思ったら……八雲紫。お主か。夜分に来ておいて騒ぐなど……常識外れであるぞ? ただでさえ、我は疲れておるのに……』

 

 

 

 

 

 紫の背中で扉が開く音が広がる。彼女は振り返り、その存在を確認すると一先ず謝罪をした。

 

「……ごめんなさいね。妖怪は夜分に行動するものなので」

 

「普段この時期冬眠している妖怪が何を言う。そこまでして主の存在が気になるか?」

 

「えぇ。だからこそ、来ましてよ」

 

 お互いの牽制。無論、そこにいたのは初代龍神、ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ。そして彼は紫に歩み寄りながら言葉を投げかけた。

 

「そして八雲紫……主の部屋に何か用か? 伝言なら我が伝えるが?」

 

「ご心配なさらず。言伝を頼みますのは恐れ多いので」

 

「……隠すな、八雲紫。覚り妖怪の力を失っている我でもわかる。主の部屋を──【心】をこじ開けようとしたのであろう?」

 

「……えぇ。そうですわ。少々このままいくと私にとっても、不都合が生じますので」

 

 どこからか紫は扇子を取り出して口元を隠そうとしたが──それよりも先に正面に来たティアーによって、はたき落とされる。その彼の顔の表情はどこか険しい。

 

「お主の不都合で主の心を弄るのか? それは感心いただけないの」

 

「これは厳しいですわ初代龍神様。私は幻想郷の事を思っての行動。どうかそれをおわかりになってはくれませんか?」

 

「……一つ、良いことを教えてやろう。我が主とリンクしている限り【負】に働く力は効かん。お主のような──偽善の信頼の【鍵】が最も主が嫌うものだ。主はそういう事は敏感というのもあるのであろう。拒絶反応か、我の龍神としての【力】を発動する前にそれとは関係なく拒絶したのであろうな」

 

「……正真正銘の【鍵】ではないと、この鍵は開けられない……ということかしら?」

 

「それ以外何がある。そして、主はお主に疑念を持つようになった。八雲紫──」

 

 侠の姿をしている──元々はティアー自身の姿なのだが──射貫いた視線で問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お主は本当に侠を外界に帰すつもりはあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 八雲紫の沈黙。その時間はほんの数秒だったが……彼女は答える。

 

「……外界の特殊な異変はまだ続いていますわ。さすがの私も、見当が付きません」

 

「…………まぁ、良い。この幻想郷で自分から外界の状況を確認できるのはお主だけ。だが──」

 

 ティアーはまだ言葉を続け──

 

 

 

 

 

「──精々、主に幻想郷に連れてきた本当の目的を聞かれぬ事だな。それを知った主は──八雲紫以上の実力行使で、どんな手段を使ってでもお主を引きずり落とすぞ」

 

 

 

 

 

「…………あの【侠】が? 龍神の先祖返りとはいえ、まだ私の実力以下の侠が? 確かに、天界で見せた姿になればわかりませんわ。しかし──その時の侠は頭に血が上り過ぎていた。その時の侠なら何も問題はないわ」

 

 

 

 

 

「──驕るな、スキマ妖怪」

 

 

 

 

 

 威圧的なティアーの言葉。表情もさらに険しくなり──怒りを感じさせる顔。瞬時に八雲紫は後すざりした。

 

 まだ、ティアーは言葉を続ける。

 

「……自我を持つ生き物とは善と悪の二つで構成されておる。例え善でも一パーセントは悪はあり、例え悪でも一パーセントは善はある。どちらか一方というのはあり得ない。それが例え【善】である辰上侠でも」

 

「…………言葉の真意が読み取れないのですが……それが何か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頭の回転が悪いお主に特別に答えを教えてやろう──あの時の主は【善】の行動だっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と同時に八雲紫の視界が黒く染まっていく──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 パチィッ、という音と共に──八雲紫は現実世界へと引き戻された。大きな音と共に体が後ろへ吹き飛び、柱にぶつかる。

 

「ぐっ……!? 初代龍神が無理矢理、侠と私の心の境界を壊した……!?」

 

『──!? 誰!? 盗人!?』

 

 さすがに今の八雲紫がぶつかった衝撃で家主である博麗霊夢が目を覚ました。走る音がドンドンと近づいており、侠の部屋に向かっているのだろう。

 

「……っ。目的は果たせなかったけど、退却ね……!」

 

 紫はすぐにスキマを作り、入り込んで姿を消した。そしてその後に侠の自室の襖を乱暴に開ける霊夢は状況を確認すると。

 

「……侠のカバンが落ちただけ? それで侠は……何でこんな状況で寝られるのよ……?」

 

 霊夢はちょうど傍にあったカバンが落ちたのと解釈した。単なる徒労だと知ると霊夢は欠伸をしながら自室へと戻っていった……。

 

 

 

 

 




 以上、フラグ回でした。

 ここで一つの報告があります。今回の話にてフラグ回でもある『『〜Ex side story〜』』は、終わりです。それに伴い、表主人公・辰上侠が主役の表章、裏主人公が主役の裏章として分けていたときがありましたが、以降は基本的に共通章になります。とはいっても、次話からは共通でもある閑話2の章が始まりますが。

 ……さすがに察していただいたと思います。

 ではまた。

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