幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 結構やりたかった話。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


七話 『妹VS妹』

 静雅が侠、天子と共に地底へ行ったその日の深夜の時間帯だろうか? 紅魔館のとある人物の寝室。彼は気持ちよさそうにぐーぐー寝ている。

 

 だが──彼の自室の扉が開かれる。普通に扉が開いた音で起きたのか、彼の部屋の主である──本堂静雅は寝ぼけながら上半身を起こし、扉を確認した。しかし……その扉はただ開いているだけ。そう考えた彼は──

 

「……ただの閉め忘れのようだ」

 

 能力で【閉まった】事にし、再び眠りについた。また、彼の気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。

 

 ──しかし──

 

 

 

 

 

『────♪』

 

 

 

 

 

 誰かが侵入していたとは、思わなかったようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。体内時計のサイクルか、本堂静雅は適度な時間に目を覚ました。上半身を起こし、脳の覚醒を促す──

 

「ふぁ〜……良く寝られたな……さっさと飯でも食いに──」

 

 

 

 

 

『おはよう、お兄ちゃん♪』

 

 

 

 

 

 彼の思考回路が一瞬にして止まった。紅魔館にいるはずの無い人物の声が聞こえたからだ。ましてや、彼のことを兄みたいな呼び方をする人物は一人しかいない。

 

 静雅はゆっくりと首を動かし、隣にいた人物を視界に入れると──すぐさま状況を把握した彼はベッドから飛び出して、驚いた様子を見せながらもその人物に声をかけた。

 

「な、何でオレの部屋にいるんだ──こいしっ!?」

 

「やだなぁお兄ちゃん? 昨夜はここに連れ込まれてあんなに激しかったのに──」

 

「そんな事象は認められていないっ! あれなのか!? 無意識でここに来たのか!?」

 

「うーん……どう思う?」

 

「小悪魔チックな質問返しで動揺を隠せないオレであるっ」

 

 ベッドに座っていた、地霊殿にいるはずの──古明地こいし。彼女が彼の部屋に勝手に入った侵入者でもある。彼女は彼の部屋に侵入しては……添い寝していた。そして彼女が先に目を覚まし、静雅の寝顔を観察していたのである。

 

 少しずつ冷静になっていく静雅だったが……こいしは彼に近寄り、またもや彼の体によじ登って──肩車の体勢になりながら静雅に話し掛けた。

 

「これから朝ご飯なんでしょ? 私、よその食卓で食べてみたい!」

 

「……まぁ、オレの客人っていう事で良いのか……? とりあえず向かってみるか──」

 

 そう行動しかけた時だった。静雅の自室の扉が開き──彼を誘おうと言葉を掛けている途中で──

 

『静雅ーっ! 一緒にご飯食べ──』

 

 ──彼の主でもある、フランドール・スカーレット。彼女は静雅の状態を見た瞬間……行動が止まった。

 

 一応、彼は気楽に彼女に声を掛けようとしたのだが──

 

「お? フラン嬢。ご飯の誘いか? そいつは嬉しいな──」

 

「…………私ノ場所ニ座ッテルソノ子、ダァレ?」

 

 静雅は凍りついた。その口調は明らかに機嫌が悪い──一時的に狂気に取り憑かれている時の口調と被ったのだ。

 

 冷や汗を流しているなか、こいしは気楽に静雅に情報を求めた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん? その子って誰?」

 

「お、オレの主でもあるフランドール・スカーレット嬢だが……こいし、今すぐ肩車から降りてくれ。ある意味大惨事になる──」

 

「…………オ兄チャン? 静雅ノ妹ナノ?」

 

 片言なまま、どこか威圧感のある声が静雅の頭に響く。

 

「いや、フラン嬢落ち着いて聞いてくれ。この子はオレの妹じゃない。それで地底の妖怪の──」

 

 彼が言いかけている途中で、フランのプレッシャーのある問いかけ。彼はゆっくりと説明していたのだが──

 

 

 

 

 

「えぇー? やだよ? この場所は私のマイポジションなんだから♪」

 

 

 

 

 

 こいしが静雅の申し出を拒否した瞬間──静雅の部屋のベランダが大きな音を立てて吹き飛んだ。静雅とこいしはゆっくり後方を見るが……とても大きすぎる穴が出来ていた。

 

 そして二人(未だに肩車状態)はフランに向け直すと──

 

「静雅ハ渡サナイ……! ダカラ──壊シテモイイヨネ?」

 

 今のフランの状態を悟った静雅は──能力で瞬間移動して逃げ出した。肩車していたこいしと共に。

 

 そして、フランはどう解釈したのか──

 

「アハハッ! 鬼ゴッコダネ! スグニ追イツクカラ!」

 

 周りを破壊しながら、静雅達を探し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

『……この感じ……フランが暴れてる? 静雅が来て以来無くなったはずなのに……!?』

 

『お嬢様! 妹様が周りを破壊しながらおそらく図書館に向かっています!』

 

『静雅は一体何をしているのよ……!? すぐに沈静化に向かうわよ咲夜!』

 

『(……妹様も気になるけど……静雅、あなたはどうしたの……!?)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──パッチェ! パッチェ! 助けてパッチェ!」

 

「……変な呼び方をしながら助けを求めるんじゃないわよ──ん? その肩のは──」

 

 変なSOSを言う静雅に図書館を管理する魔女、パチュリー・ノーレッジは呆れる声を出すが──肩車している妖怪に目を移した。そして騒ぎを駆けつけた彼女の使い魔である小悪魔も現状を確認。

 

「静雅さん? その肩車されている方は確か、地底の妖怪である覚り妖怪の方じゃないですか? それで静雅さんがこんな焦るとは珍しいと思いますが──」

 

「非戦闘向きの小悪魔はどこかに隠れてくれ! 久しぶりにフラン嬢がマジギレしたっ!! 支援を頼みたいっ!」

 

「「えっ!?」」

 

 二人は驚いた。静雅の出現により、フランは癇癪をすることがほぼ無くなったはず。それなのに暴れ出したと伝えられれば焦るだろう。小悪魔は彼の言う通りに従い、隠れ始めた。

 

 しかし、部外者でもあるこいしは分からない状態だ。詳しい概要を静雅に彼女は尋ねる。

 

「ねぇ……? どうしてあの子はあんなに怒ってるの? いまいち理由が分からないんだけど……?」

 

「……おそらくだが、オレは肩車をしていたのはフラン嬢だけだった。二人で出かけるときとか基本的に肩車して行動していたからな……オレをお前さんに盗られると思っているという可能性が高い……」

 

「あ、そうだ。静雅もう地霊殿に住まない? そうすれば万々歳だと思うし」

 

「お前さんは火に油を注ぐような案を言ってどうしたい!?」

 

「犯人は無意識──」

 

 

 

 

 

『ぎゅっとしてドッカーンッ!』

 

 

 

 

 

 こいしは決まり文句を言いかけていたところで──図書館の重い扉が盛大に壊れ砕けた。無論、そこにいたのは──

 

『──見ィツケェタァ……』

 

 ──悪魔の妹、フランドール・スカーレット。彼女は妖しく笑いながら……静雅の肩にいる【こいし】を見ている。

 

 さすがに今の彼女の状態を見てこいしは一言。

 

「……謝っても許して貰えそうに無いね」

 

「こいし。だから肩から降りてくれ──」

 

「だが断るっ!」

 

「ここで断るとかワケ分からん!?」

 

 何故かこいしが静雅の申し出を断る中、パチュリーは静雅に行動を促す。

 

「漫才は良いから静雅、禁制スペルで【攻撃】を封じなさい! あなたの能力で壊れた場所が直るといっても、まずは妹様を落ち着かせなきゃ意味がないわ!」

 

「了解した──禁制【天上天下唯我独尊──攻撃】!」

 

 彼女の指示通りに静雅はスペルカードを取り出し宣言。何かの違和感が図書館に広がると──弾幕を放とうとしていたフランだったが、不発。

 

「!? 弾幕ガ……ナラ能力デ──あれっ!? 能力も使えない……!?」

 

 弾幕の代わりに能力を彼女は使おうとしたが発動できない。そして──狂気も収まっていく。攻撃手段が無いと心のどこかで思ったのか、無意識に自我を取り戻していた。

 

 彼女の様子をみながら、パチュリーは歩み寄りながら話し掛ける。

 

「……意外にも早く癇癪が収まったわね──それより。妹様、どうして癇癪を起こしたのかしら?」

 

「うぅ……だって、知らない女の子が静雅の肩に乗ってるんだもん……私の好きな場所なのに──」

 

「今日からお兄ちゃんは私の物ー♪」

 

「頼むからこいし挑発しないでくれ!?」

 

 何故かこいしは静雅の所有権を強調し始めた。彼の声は届かなく、その発言を本気にしているのか、フランは神経を逆なでされたのか、不機嫌そうにしながらこいしに突っかかる。

 

「何なの!? さっきから静雅の事を【お兄ちゃん】って!? 静雅はあなたのお兄ちゃんじゃないよねっ!?」

 

「別に血が繋がって無くても、私がそう呼びたいから呼んでいるだけだし♪ あなたみたいな【他人行儀】な呼び方じゃなくて、身近に感じて欲しいからねー♪」

 

「……私と静雅が……【他人】……?」

 

 こいしの言葉でフランは顔をうつむく。何かをこらえているかのように。

 

 その事に誰もまだ気づいていない。静雅はこいしの言ったことに問いかけていたが──

 

「せめて他の言い方はなかったのか……?」

 

「だって私は【お姉ちゃん】がいるし、それだったらお兄ちゃんかなって」

 

「そんな安直な──」

 

「──違うもん」

 

 彼の率直な意見の途中に聞こえた……フランの声。注目が彼女に集まる中、パチュリーが再確認するように声を掛けた。

 

「……妹様?」

 

「…………静雅は……私の、私の──」

 

『──? もう癇癪が終わっている……? パチェ、静雅。これは──』

 

 フランが言いかけている途中で、彼女の姉であるレミリア、その従者である咲夜も図書館に入った来たが──それでも構わずフランは叫ぶように──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──静雅は、私の【お兄様】だもーーーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 涙を流しながら訴えるようなフランの声。静雅、こいし、パチュリー、何時の間にかにひょっこり戻っていた小悪魔の沈黙。しかし、今来たばかりのレミリアと咲夜は困惑するばかりだ。

 

「…………え? え? 何が起こっているの? 咲夜、わかる?」

 

「すみませんお嬢様……私も理解が……」

 

 事情を把握しきれていないレミリアと咲夜よそに、静雅はこいしを肩車から下ろして彼女の目線に合うようにして体勢をかがめ、優しく話し掛ける。

 

「……あのなフラン嬢? あくまでオレとフラン嬢は雇用の関係なんだ。主人でもあるフラン嬢にそんな呼び方をさせるには──」

 

「嫌だ嫌だーっ! お兄様とフランは他人じゃないもんっ! 家族だもんっ! お兄様が紅魔館以外の所に行くの嫌だーっ!!」

 

 彼女は離れないように静雅に抱きついた。嗚咽を交えながら、泣きながら。

 

「(……まさかここまで懐かれているとはなぁ……)」

 

 彼は彼女の頭を帽子越しに、ゆっくりとなで続けながら語るように話し掛ける。

 

「……大丈夫だフラン嬢。例え離ればなれになったとしても、なるべくすぐ駆けつけるさ。オレは紅魔館の住民だからな」

 

「……うん……」

 

 静雅の言葉でゆっくりとフランは泣き止んでいく。その光景に図書館組の二人は安堵し、紅魔館の主とその従者は複雑そうだが。

 

 その中──この騒動の発端の人物であるこいしはフランに近づいて──謝罪した。

 

「えっと……からかってゴメン。まさかここまでお兄ちゃんの事を慕ってると思ってなくて……」

 

「……ううん……私もカッとしちゃった……お兄様がいなかったらあなたの事を壊してちゃってたかも……」

 

「じゃあお互い様って事で。私は古明地こいしっていうんだけど……あなたは?」

 

「……フランドール・スカーレット。皆から【フラン】って呼ばれてる」

 

「フランちゃんね。わかった! フランちゃんとはお兄ちゃんの話題で盛り上がりそう♪」

 

「……お兄様を盗っちゃ嫌だよ?」

 

 段々と仲直り出来ている二人だったが……最後の発言は首を横に振るこいし。

 

「それはお兄ちゃん次第だねー♪ お兄ちゃんが私を好きになれば心が動かされて地霊殿に住んじゃうかもしれないよー♪」

 

「!? お、お兄様っ!? こいしちゃんより私の方が好きだよね!?」

 

「……え? 答えなきゃダメなのか?」

 

 静雅はこいしはともかく、このフランの【好き】のベクトルは分かっているつもりだ。しかし、この問いかけはどちらか傷つけてしまう発言。他に聞いている紅魔館住民もそういう意味で捉えている。

 

 静雅の逆の問いかけに、何故かこいしは静雅の背中に抱きつきながら妖しげに言葉を続ける。

 

「迷ってるんだね? 私とフランちゃんどちらかするのを……それでお兄ちゃんはどっちかな〜?」

 

「私だよねお兄様っ!」

 

「そ、それはだな──」

 

 正面には吸血鬼の妹が、背面には覚り妖怪の妹が抱きついておりサンドイッチ状態になっている。問いかけがなければ普段の彼は「人様の妹にモテるな、オレ」とでも言っていたところだろう。二人の妹は興味津々に答えを待っている。

 

 彼は周りを見渡し──咲夜に目を付けた。一瞬視線があった彼女は話し掛けようとするが──それよりも静雅が発言した。

 

「──二人よりランクが上で咲夜みたいな女が好きだなっ」

 

「静雅っ!? あなた──」

 

 咲夜まで会話に巻き込まれてしまった。言った言葉も内容なので、頬を染めながら抗議しようとしたが──こいしが静雅に詳細を求めた。

 

「……メイドさん? お兄ちゃんってメイド服が好きなの?」

 

「そういうわけじゃないんだが……咲夜は家事も出来て気遣いも出来るし、よくキッチンでする雑談は楽しく過ごせているし料理も美味いし長所はたくさんだからなっ。おまけに良く秘密スポットでサンドイッチまで持ってきてくれてマジで通い妻──」

 

「…………」

 

 咲夜は頬をさらに赤くしているが、頭の中では静雅が何故自分をべた褒めにしているかは理解している。二人を傷つけないため、二人より第三者を好きと公言した。少なくともこの【好き】をフランの問いかけた【好き】だと思っている。

 

 彼の言葉を聞いてかフランは咲夜に駆け寄っていき、あることを言う。

 

「私も咲夜になればお兄様は、咲夜以上に好きになってくれるかなっ?」

 

「…………おそらく、そうではないかと──」

 

「じゃあ私咲夜になるーっ! 家事も出来て気遣いも出来てサンドイッチも作るーっ!」

 

「…………お嬢様、いかがなさいましょう?」

 

 助けを求めるように主に尋ねる咲夜。紅魔館の当主であり、フランの姉であるレミリアは迷いながらも承諾の声を。

 

「えっと……まぁ……体験するのも良いんじゃないかしら? 咲夜の行動を見て学ぶことは良いと思うし。でもフラン……辛かったら止めても良いからね?」

 

「頑張るもん! 少なくともこいしちゃん以上に静雅に好きになって貰うもん!」

 

 フランの宣言に反応するようにこいしも負けじと言葉を返す。

 

「む。じゃあ私もフランちゃん以上に好きになってもらお」

 

「それで──」

 

「「咲夜(メイドさん)以上に!」」

 

 息の合ったそれぞれの妹二人の声。その光景を見てパチュリーと小悪魔は思う。

 

「(……ある意味良い影響なのかもね……静雅への呼称はともかく)」

 

「(二人そろって目標が咲夜さんなんですね……)」

 

 そしてフランとこいしは意気投合。フランはすぐに咲夜に覇気のある声で話し掛けて行動を促す。

 

「咲夜! 今すぐサンドイッチの作り方教えて! それでお兄様に認めて貰うんだ♪」

 

「は、はぁ……わかりました。お嬢様はどうなされますか?」

 

「……いろいろとフランに聞きたいことがあるから同行するわ。何がどうなって静雅の事を【お兄様】って呼ぶようになったのよ……」

 

 咲夜は一度静雅に何かを訴えるようにして視線を向けた後、スカーレットシスターズは咲夜と共に消えた。

 

 フランの意気込みを把握したのか、こいしも負けじと発言。

 

「私はお姉ちゃんにいろいろ教えてもらおーっと。じゃあお兄ちゃん、またね♪」

 

「……あ、あぁ……」

 

 静雅の返事を聞いたと共に、こいしはご機嫌そうに壊れた扉に向かって帰って行った。

 

 この少ない時間でいろいろ起きた出来事の張本人である静雅はというと。

 

「……咲夜に迷惑かけちまったなぁ……。何か詫びでもするか」

 

 その後の彼は紅魔館中を歩き回り、壊れている箇所の修復作業をし始めた……。

 

 

 

 

 




 次話はフラグ回です。

 ではまた。

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