三人称視点。
では本編どうぞ。
彼らは進み、旧地獄にきちんと近づいていっているおかげかどんどん明るくなっていく。侠は火を消し、静雅と天子で話し合っていた。
「旧地獄のちょっと先に地霊殿があるんだっけ?」
「そうだ。一応主である古明地さとりには地霊殿に入る許可を貰っているからな」
「……今更だけど私は大丈夫なの?」
「別に問題ないだろ。心配すんな」
そうこう話をしている内に──旧地獄へ到着した。道の両端には店が並んでおり、活気を見せている。静雅が訪れたときと同様だ。
騒がしい様子を天子は見て、どこか羨ましそうな声で言う。
「……ここの奴らは楽しそうね。毎日に飽きがなさそう」
「なんだかんだ地底の妖怪は能力とかが恐れられているだけで、根本的な人格でいえばまともだと思うぞ?」
静雅の考察に天子は聞いていたが……一緒に聞いていた侠は不機嫌そうに自分の考えを呟くように言った。
「……幻想郷は全て受け入れるなら、地底の妖怪も地上に出ても良いじゃない? 能力とかが嫌われるからといって住む場所を限定させるのは差別じゃないか……」
「そこが不思議なところだよな。まぁ、過去にいろいろ起きた結果、こうなったんだろ?」
「……ちょっとそこが気にくわないかな……」
侠には珍しく少し不服があるような反応をしていたが──豪快な声で、静雅を呼ぶ人物が一人。
『おーい静雅ーっ! また来たのかーっ?』
「……お? この声は勇義だな?」
「……誰よそいつ?」
「ナイスバディで友好的な鬼と言っておこう」
天子の疑問に静雅が答えているところで……杯を持った、額から星模様のついた一本の角がある星熊勇義が静雅達の目の前に現れた。
「久しぶりだな静雅! 前の宴会以来じゃないか……それで誰だその二人は? 帽子を被った女に──」
勇義は一度天子に目を通した後、侠に視線を移すと──何か確信を得たように笑い始める。
「──フフフ……成る程な。私が感じたあの【力】がお前だったという事か……人は見かけによらないと言ったところだ。これはこれで面白そうだ……!」
「? あの〜……自分に何か用でも?」
侠本人としたらどのような根拠で笑ったのかわからなかったのだろう。その詳細について侠は尋ねようとしたが、勇義は真顔で彼に話し掛け始める。
「……一つ言っておく。鬼は正々堂々を信条としている」
「……それが何か──」
「だから──お前に向かって一発ぶち込むぞっ!」
彼女がそう言った瞬間──目視が難しいレベルで侠に拳を放ち始めた!
「「っ!?」」
急な勇義の行動で静雅と天子は反応が遅れた。仮に静雅が反応できたとしたら、能力で簡単に侠を助けられたかもしれない。
しかし、彼は冷静に──
「──っ!」
紙一重に近かったが、勇義の拳を避けた。近距離だったのにも関わらず、彼は躱した。
すかさず天子は攻撃を仕掛けた勇義に怒りを含めた声で言葉を投げつける。
「あんたっ! 侠に何するのよっ!!」
「何、小手調べさ。本当にあの時に感じた【力】の持ち主かどうか……それに──」
勇義は侠に視線を向けるが──彼はすぐさま距離を取って警戒している。そして侠は無論、どうして仕掛けてきたのか警戒を込めて話し掛け始める。
「……君に何も怒らせるような事はした覚えは無いんですけど?」
「あぁ。してないさ。でもな……そんなダダ漏れの癖がある妖力を漏らしていたら気になるんだよ。私は思ったのさ──【力】の持ち主であるお前と戦ったらさぞかし楽しめるだろうなってなっ!」
豪快な言葉と共に、宣戦布告をし始める勇義。そして彼女のある言葉に静雅は反応。
「勇義!?【力】の持ち主は侠だというのか!?」
「あぁ、思うね。それにこいつは……静雅の親友なんだろう? それに龍神の先祖返り……他の奴とは気配が全然違う。静雅は確信ではなかったからあの宴会では言わなかったんだろう?」
「……鬼に隠し事は通用しないな」
「まぁ、親友の名前を出せば私が必ず突っかかると考えたんだろう? 鬼の性質を短時間の間でよく理解したよ、本当に」
静雅と会話を終えた勇義は再び侠へと視線を向けるが……【今】の侠を見てか、不満そうに言う。
「……その【目】じゃないな。さっきまでの攻撃を躱した【目】はどうした?」
「……言いたいことは分かりますが、自分は戦闘をするつもりはさらさらありませんよ?」
「よく言うね。自分を隠しながら生きていると見える。さっきまでは確実にお前自身だった。ならば──お前に全力を出させるまでっ!!」
言葉と共に勇義が持つ妖力が付近に溢れ出す。それを間近に見た静雅と天子は後すざり、何時の間にか出来ていたギャラリーが騒ぎ出す。
そして、勇義の言葉通りに侠の様子が変わろうとしたときに──侠の体自身が赤いぼやけに包まれ始めた。
「!? 何だそれは!?」
当然、目の前にいた勇義は驚く。無論静雅や天子、ギャラリーも驚いてざわついているが。
その赤いぼやけが侠の隣に集まっていき、人の形がどんどん作られていくと──
「──勇義よ。主はお主と戦う意思は無いようだの。仕方なく、嫌そうにしてお主と戦おうとしていたが……代わりに、我が相手をしよう」
──辰上侠と瓜二つの姿であり、黒みの掛かった赤髪、赤い目をした──初代龍神であるティアー・ドラゴニル・アウセレーゼが出現した。
勇義がイレギュラーな人物の出現に戸惑っている中、彼の出現に疑問を持った静雅がティアーに切羽詰まった声で彼に言葉を投げかける。
「初代龍神!? 実体化は出来ないんじゃ無かったのか!?」
「え!? 初代龍神!? 侠に滅茶苦茶似ているあいつが!?」
静雅の言葉に天子達が驚愕の表情を見せる。初代とはいえ、幻想郷の最高神が目の前に現れたら誰だって驚くだろう。
ティアーは静雅の疑問に答えながら、侠の胸に手をかざしながら言う。
「最低限、我に必要な力が戻ったからの。主にはさっき心の中で説明したばかりだが。五つの力があれば少し疲れるが、我は半永久的には実体化が出来るようになったのだ。まぁ……そこまで無理をするつもりはないがの」
そう言いながら彼の手が光り出すと──水色、朱色、緑色、青紫色、青色の光が侠の体から現れ、その五つの光がティアーの体の中へ入っていく。再確認するようにティアーは侠に言う。
「さすがに鬼の四天王と言われている勇義には保険もかねて、五つの力を一時的に借りるぞ、主よ」
「……わかりました。ご迷惑をおかけします」
「別に気にすることはない。ただ、我のリハビリだと変換して受け止めてくれ。それと【痛覚リンク】を切っておくからの。これで我が怪我を負っても主までダメージを負うことは無いはず」
「本当に五つの力を集めたら【制限】が無くなるんですね……」
少し呆れながら侠は言っていたが……ティアーは勇義へと体の向きを変えて改めて自己紹介をした。
「紹介が遅れたの、星熊勇義。我はこの幻想郷を創りし初代龍神【ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ】。今では実体化できる亡霊みたいなものだが……不足の相手では無いと思うぞ。仮に我に勝てたなら、主と戦う事を許そう」
勇義は目の前の現象にしばらく言葉を失いかけていたが……現状を把握すると、含みのある笑いをしながら、感情を高ぶらせながら言葉をティアーに返す。
「……フフ。まさか幻想郷の最高神が私の相手をしてくれるとはねぇ……。しかも見た感じだとその先祖返りに取り憑いている──面白い! 最高神と拳を交えるだなんてこれほど面白いことがあっただろうかねぇっ!!」
「最高神といっても、【今】を統治する龍神ではないがな。全盛期ではないとしても……さすがのお主でも苦戦になることは必然だと思うの」
「それは結構! 最高神の先祖返りとも戦いたかったが……勝てば戦えるんだな? その約束──破るんじゃないよ!」
勇義は持っていた酒を近くにいた鬼に預け、拳合わせながら戦闘対戦に入る。もう彼女はやる気に満ちあふれていた。
その中、ティアーは侠に行動を促す。
「主達は地霊殿へと向かうと良い。ここは気にすることはない。例え地形が変形したとしても、本堂の者の能力で直せるからの。ほれ、さっさと行けい」
「……お気遣い、感謝します」
侠はティアーの言う通りにし、静雅と天子の所へ駆け寄り、行動を促す。
「静雅、天子。行こう」
「……正直この戦いを見たいという気持ちがあるんだが……仕方ないか」
「さすがに私はこんなピリピリしている空気で見たくないわよ……」
三人は、勇義とティアーがスペルカードを宣言するのを聞きながら──
『──力業【大江山嵐】!』
『──適合【グラウンドオーバードライブ】!』
──地霊殿へと、足を進めた……。
侠達が進んでいる間は二人は戦っていますが、戦闘描写については……個人の想像にお任せします。
ではまた。