三人称視点。
では本編どうぞ。
一話 『疑問』
侠が龍界と天界に、静雅が地底に行ってから数日過ぎた日の事。侠が寺子屋に行っている間の霊夢は神社の外で掃き掃除しながら、数日前の事を思い返していた。
「(……紫が頑なにあの事を遠ざける理由がわからないわ……新しい異変の兆候じゃないの? でも、それならば紫は言葉を濁しながらでも伝えると思うんだけど……)」
一応だが侠、そして彼と一緒にいた萃香が博麗神社に帰って来た時も同じことを聞いてみた。しかし、会話の中で彼はこう答えている。
『──揺れ? あれって天界だけじゃなかったの?』
『……天界? 侠は龍界に行ったはずなのにどうして天界にいるのよ?』
『ご先祖様に天界に行くと言われてね……永江さんの誘導の元、天界に行ってきたんだよ』
『天界……あの不良天人のいるところだけど大丈夫だったの?』
『全然問題なかったけど……?』
『……ま、良いけど……』
『(これ黙ってた方が良いんだろうねぇ……侠が怒って幻想郷を震わせたことは……)』
……実際、彼と萃香は天界だけだと思っており、その揺れの心当たりは侠しかなかったので隠していた。言っても信じてもらえそうになかったためである。
そして──彼は大事な成果を霊夢に伝えた。
『そうそう博麗。とりあえずもう遠出することはなさそうだよ』
『……え? 必要ないって事は──もしかして!』
『うん。最低限必要な【力】が手に入ったからね。もうよほどの事がない限り、博麗神社から出ることは──』
『そうなの! じゃあさっそくバンバン手伝ってもらうんだから♪ じゃあ人里に一緒に買い出しに行くわよ♪』
『あ、うん……わかった……』
その時の霊夢は準備のために一度神社の奥に行った。侠の言葉で機嫌をよくした霊夢を見て萃香は彼に感慨深そうに話しかけている。
『……侠が来てから霊夢、感情の起伏が豊かになったよね……』
『そうかな……?』
『思う思う。侠がいれば霊夢の人間性がどんどんついていくよ。いっそ付き合えばいいのに』
『いや、自分は外界に帰るからそんな関係になれないし……』
『(……まぁ、多分今はぶっちゃけ霊夢よりも──)』
『――侠! 準備できたから行くわよ! 萃香は五徳と留守番しておいてちょうだい!』
『ちょ、博麗!? 手を引っ張らなくても──』
『引きずられて行っちゃったか。……紫は侠の事をどうするつもりで幻想郷に誘ったのかねぇ……?』
『──ナー?』
『……お前も飲むかい?』
──と、いうことがあり、現在に至る。萃香はいつの間にか神社からいなくなっており、今の神社には霊夢と五徳しかいなかったが……空から飛翔するものが再び二人現れる。その内の一人、半霊がいる――魂魄妖夢が霊夢に話しかけた。
「……霊夢さん、あの揺れについてわかったことがありましたか?」
「……ないわ。早苗はどう?」
「いえ……見当がつきませんでした……」
霊夢の言葉に反応したもう一人の巫女――東風谷早苗は残念そうに答えた。彼女達は聞き込み程度で揺れについて調べていたが……成果は上げられなかった。
その中で、妖夢は霊夢に彼の事について尋ねる。
「……侠さんも心当たりがないんですよね?」
「その事なんだけど……今思えば言葉が少しおかしいと思うのよね……」
「おかしい……ですか?」
「侠は天界に行っていて、揺れがある事は知っていたみたいだけど……『天界だけ』っていうのが少し気になったのよ。まるで【天界が発端】みたいな言い方に」
霊夢の言葉に、早苗が問いかける。
「侠君が隠し事ですか? 彼に問いかけてみればその事を教えてもらえたのでは……?」
「今さっき不自然に気が付いたのよ。まぁ、帰ってきたら聞くつもりだけど――」
霊夢が言いかけたところで――足場に影が出現する。その事を疑問に思った三人は見上げてみると――一見、岩が落ちてくるように見える。
「! あの岩……もしかして……!」
「……多分、霊夢さんの想像通りですね……」
「! あれがもしや――」
三人は当たらないようにその場をどいた。そしてその岩は霊夢達の近くに落ちたのだが……そこには見覚えがある大きな要石。そしてその上からとある人物が降りてきて――霊夢達に話しかける。
『着いた着いた――? 異変解決者の巫女とそうでない巫女と剣士のやつじゃない? 表に出て何してたのよ?』
「岩に乗りながら落ちてくるな!」
霊夢達の認識である天界の不良天人、比那名居天子が博麗神社にやって来た。それに続くように、羽衣を纏って淑女に見える女性──永江衣玖が申し訳なさそうに霊夢に謝罪した後、天子に注意するように言う。
「申し訳ありません、皆様……総領娘様、要石で降りるのは危険が生じるんですからやめてください。侠さんにはしたない女性だと思われますよ?」
「!? 衣玖、それと侠は関係ないじゃない! 現に侠いないようだし!」
「彼は寺子屋で学を教えているそうですからね……まだこの時間帯には帰っていなかったのでしょう」
「……少し来るの、早すぎたかしら?」
衣玖の言葉に悩むように言う天子。そして霊夢は話の中に聞き覚えがあり過ぎる名前が聞こえたので、それを含めて天子に問いかけた。
「何? 侠に用があるの?」
「別にこれと言って用はないわ。ただ、暇だから侠に迷惑を掛けようと思っただけよ」
「帰れ」
霊夢は追い返し文句を言うが、天子は気にしない様子で言葉を返す。
「別に霊夢に用はないわよ。ただ博麗神社の居候で【龍神の先祖返り】である辰上侠に会いに来ただけ。帰れと言われても侠はここで待っていれば会えるんだから別にいいでしょ? それと……そこの二人はどうなのよ? 私にそう言うんならその二人もそうじゃない」
天子は妖夢と早苗に視線を移す。そして各々の理由を答えた。
「……霊夢さんとはある情報のやり取りをしていたのです。幻想郷中に広がったと思われる【揺れ】について」
「聞き込みを行っているんですがこれとして成果はなく……ちなみに天子さん達は知っていたりしますか? どうやら【揺れ】は天界が発端ではないかと霊夢さんが予想しているんですが……」
「……揺れ……天界──あぁー。心当たりはあるわね、それ」
さらっと流すように言った天子に三人は耳を疑った。難航していた事実を天子本人が知っているとは思わなかったからだ。そして霊夢はその事柄について尋ねようとしたが──
「! だったら詳しく教えなさい──」
「衣玖……侠の為にも、これは教えない方が良いのよね?」
「そうですね……あの事実をむやみに広げてはなりませんし……」
「そういう事よ。残念ながら教えられないわ」
「はぁっ!? 知っておいて教えないってどういうことよ!? しかも侠が関係しているの!?」
天子の拒否の言葉、気になる情報を拒否された霊夢だが、妖夢と早苗も情報を集めようとするが──
「何故あなたがそのようなことを知っていらっしゃるのですか!? それに侠さんと関係している事柄だなんて──」
「そうですよ! ここは皆さんで情報で共有した方が──」
『何か見覚えがある要石……あれ? みんな集まってどうしたの?』
二人が天子に問いかけているところで上空から見覚えのある龍の翼を持った人物が降りてくる。そして翼をしまい、集まっているところへと歩いていく──辰上侠。
即座に反応したのは霊夢。すぐさま彼の傍へと駆け寄り問いかけた。
「侠! あの不良天人と竜宮の使いが【揺れ】はあんたが関係しているって言っているわよ!? どういうことなの!?」
「? 不良天人ってことは──」
少し侠は体を傾けて、今いるメンバーを確認しようとする。そして侠の疑問に答えるように、天子が侠に近寄り話しかけた。
「侠。約束通り迷惑を掛けに来たわよ」
「……本当に来たんだ……」
「ちょっ!? 何その反応!? 言ったじゃない! 近日博麗神社に行くってっ!」
「自分の中の近日は一日後なんだけど……てっきり忘れられたのかと」
「忘れるわけないじゃない! あんな事があったのに――ってあんた私に何言わせようとしているのよ!?」
「あんな事? それって君の想像の産物じゃないの?」
「あんたならいっそ任せても──はっ!? 何か急に会話がすり替わっているわよ!? し、しかも想像の産物って……あんたにとってはそのぐらいの認識だったの!?」
「確かに会話が成り立っていないね。自分はてっきり異性での関係の事ばかりだと」
「へ、変態っ! まさかあんたの中ではそういう前提の【あんな事】だったの!?」
「えー? 自分はそういう事を一度も口にしていないであくまで【あんな事】と言ったつもりなのに……君は『何言わせるのよ』と言っていたし……具体的に【あんな事】を説明してくれないとわからないよ」
「だから私が泣い──ってこんな人が多くいる場所で言わせないでよぉっ!?」
「はははっ。冗談だって。君は相変わらず面白い反応で返してくれるね。弄り甲斐があるよ」
侠の言葉に過剰に反応しながら、何時かのように少し怒りながら彼をポカポカと殴る天子。衣玖は微笑ましそうに見ているが──
「「「…………!?」」」
三人組は信じられない光景のようだった。三人は侠は冗談を言わない性格だと把握しているつもりだ。真面目で、他人が弄られている時はフォローをする。そのはずなのだが──その彼が他人を弄り、冗談と言っている。そして──彼が笑いながらで対応していたのは初めて見たのだ。普段は真面目の顔、困った顔、大事な場面での決意の顔ぐらいしか見たことがない。居候している霊夢でさえ、彼の違和感のない笑いを含めての対応は初めて見た。
そして何より思ったのが──二人の距離が近すぎる。
極めつけは──彼が最後に言ったこと。
「じゃあ一先ず人数分のお茶淹れてくるから待ってて。博麗、魂魄、東風谷に永江さん──自分は含めないとして天子で五人分っと。博麗、台所借りるね」
「「「――!?」」」
「あら、じゃあ頼むわ」
天子は三人の様子は気付いていないのか、そのまま侠の言葉に頷き。衣玖は彼に確認を取るようにして話を。
「侠さん、私も手伝いましょうか? お茶以外に手伝えることがあれば……」
「じゃあ永江さんはお茶菓子を用意してもらっていいですか? また貢物で、羊羹を貰って。それを切り分けて欲しいので」
「……初代龍神様の信仰でもらったのですか?」
「正直、ただでもらえるのは遠慮してしまうんですが、無理やり持たせてくるんですよ──」
三人の驚愕をよそに、侠と衣玖は博麗神社の中へと入って行った。そして何より驚いた事は――天子を名前で呼んだことだ。彼は恥ずかしいと理由で、強制は除いて呼ぶことがない。それを呼んでいるのだ。(ただし酒に酔った時は除くが)
そして霊夢より先に、早苗が天子に詰め寄るように話しかけた。
「天子さん!? 侠君から名前で呼ばれているのですか!?」
「名前……? そういえば何時の間にか名前で呼ばれているわね……初めて会った時は苗字呼びだったはずだけど……」
今気が付いたような反応を見せる天子。この事からわかる事は……名前呼びで強制させていないという事だ。
そして妖夢は何故侠が名前で呼んでいるのかを考える。
「(失礼ながら……天子さんは侠さんの外見的好みに入っていないはずです! ですがもしかして……内面的好みなのですか!? 天子さんは我儘であまり他人の事を考慮していない方だと思うのですが……何故そのような天子さんを侠さんは楽しそうに会話できるのですか!?)」
妖夢は唯一、侠の外見的好みと内面的好みを知っている。だが、天子の性格を考えてもそれは当てはまらないとしか考えられなかった。
霊夢もその事柄について考えていたが──誰かが一瞬のうちに現れる。その人物は友人の名前を言いながら霊夢達に近寄ったが──
「おーい、侠はいるのかー? 今日こそ――? どうしたんだこんな集まって? 見たことのない岩に、知らないやつもいるんだが……?」
現れたのは侠の親友である本堂静雅だった。彼は名前の知らない人物、天子に目を向けたが──静雅が声をかけるより早く、霊夢が彼の手を引っ張って人目がつかない場所へと誘導し始めた。
「お!? 霊夢!? 一体どうした──」
「黙ってあんたは私に着いてくる!」
そして少し入った木々の中へと、霊夢は静雅を誘導した後焦りがあるような声で問いかけた。
「静雅……! 侠がおかしいわ!」
「……どのようにおかしいんだ? 内容がないと分からないぞ?」
「あの天人との距離が近すぎるのよ!? 何か天子に冗談を飛ばしているわ、見たことのない笑顔を浮かべているとか――天子を名前呼びしている事とかよ!? 普段の侠ならあり得ないわ!」
「……侠が名前呼び? さっきの帽子に桃を乗っけている奴か? ちなみに苗字も含めた名前と情報、大雑把な性格を頼む」
「……天界に住む天人、比那名居天子。過去に私の神社を倒壊させたことがあるわ。それで性格は我儘、身勝手、構って欲しいっていうある意味自己中的な奴ね。それで侠は真面目な性格なのよ? どう考えても馬が合わなさそうなのに……あの二人の触れ合いを見ているとイライラしてくるのよ……!」
霊夢の言った情報を静雅は整理。彼は拳を顎に付けながら悩むような様子を彼の中での答えを探す。
「(……異性を名前呼び……聞いていた情報から強制ではないはず。自発的に侠が異性の名前を呼んだ? それで大雑把な性格と侠の性格は合わなそうだが……考えられる可能性としては――もしかして過去に共通点があって同情したのか? そうとしか考えられないが……?)」
考えを纏めている同時に……彼は思ったことを呟いた。
「……これは良い傾向かもしれない……」
「……はぁ? 侠と天子の状況が良い傾向? それってどういう事よ……?」
彼の言葉にさらにイラつく様子を見せる霊夢。だが、彼は気にしないように言って、移動を促す。
「とりあえず神社に戻るぞ。いろいろと話したいことがある」
「……わかったわよ」
渋々という感じだったが、霊夢は静雅の後に着いて行った。そして神社が見えたときは──お盆にお茶を乗せている侠と、菓子を乗せたお盆を持っている衣玖が静雅の視界に入る。そしてすぐさま声をかけたのは侠だ。
「魂魄達から聞いて、何か博麗と話しているようだけど……どうかしたの? 静雅?」
「ちょっくら霊夢から相談事をな。そして羊羹を持って……羽衣か? 侠の隣にいるのは誰だ?」
静雅にとってはまだ知らない衣玖に声をかけると、彼女はお盆を縁側において、会釈をしながら挨拶をした。
「これは初めまして。私は竜宮の使いである永江衣玖です。どうぞお見知りおきを」
「丁寧にすまない。オレは本堂静雅。侠と同じ世界から来た外来人兼親友だ。まぁ、荒人神という神様とでも言っておこうか」
「そうですか……侠さんの御友人ですか……」
そして話の中で興味を持ったのか、まだ彼との面識のない天子は静雅に話しかけ始めた。
「あんたが侠の親友?【日食】の天気の異変を起こしたのもあんたってわけね?」
「ご名答。ちなみに名前でも聞いておこうか」
「ふふふ……私の名前を聞いて光栄に思いなさい!【非想非非想天の娘】──」
「彼女は比那名居天子だよ。天界に住んでいる天人」
「そう、私は比那名居天子──って侠!? 今、私自己紹介しようとしたわよね!? どうして私の紹介の場を奪ったの!?」
「何となく。これといって深い理由はない」
「せめてちゃんと喋らせないさいよーっ!」
天子の言葉を遮って簡単に彼女を紹介した侠。見せ場を取られたのか天子は侠に向かって軽く怒っているが、それを気にすることはなく侠は静雅に話しかけた。
「それで? 静雅は何しに来たの?」
「……あ、あぁ。ちょっと地底にな。お前さんを誘いに来たんだ」
「……地底? 何故地底に?」
「何だ? 霊夢から聞いてなかったのか? 前にお前さんが龍界に行ったとかで留守のようだったからな」
「そうなの博麗?」
初耳だったのか、軽く驚いている様子を見せながら侠は真意を確かめるように霊夢に話しかけたが――霊夢の反応は不機嫌だ。
「……どうだったか忘れたわ」
「ゑ? 忘れた? 静雅の言い分だと霊夢に伝言を残したようなものだけど──」
「さぁね。そんなこともあった気がしないでもないけど」
「……もしかして博麗、機嫌が悪い?」
「別に……」
ぶっきらぼうの霊夢の言葉に侠は機嫌を察することはできたが、詳細まではわからなかった。
その中、妖夢が静雅に用事の詳細を尋ねる。
「そういえば咲夜さんが静雅さんは地底に行ったという事は聞いていましたが……」
「あぁ。咲夜にはちゃんと話していたしな。そうしなかったら咲夜はきっとパルっちまうから」
「……パル? それはどのようなことですか?」
「おっと、口が滑った。そこまで気にしなくていい。偶々咲夜が傍にいたから言伝を言ったようなものだからな」
話の内容にずれが生じているので、軌道修正するように早苗は本題について切り出す。
「話がずれているので戻しますけど……何故侠君と一緒に地底に?」
「……ちょっとな。それで侠、着いて来てくれるか?」
珍しく言葉を濁した静雅だが、それを気にするような様子はない侠だったが、静雅は説得するように話を続けた。
「うーん……今は天子が来ているし……」
「だったらその天子とやらも着いてくればいいんじゃないか? お前さんはどうだ? 侠と一緒に地底に来ないか?」
言葉を強調しながら静雅は天子に問いかけた。話題を振られた彼女は数秒考えていたが……決断。
「じゃあ……着いて行ってあげるわ。地底に入ったことないけど、そこには面白い事はあるのよね?」
「あぁ。(オレにとって)あるさ」
「よし! 衣玖、そういう事だからしばらく地底に行ってくるわ」
「はい。ですが、お二人に迷惑を掛けないようにしてくださいね?」
「じゃあ行くわよ侠!」
上機嫌に言いながら天子は彼らの傍に寄ったが……霊夢が声を掛けようとしたが──
「! 待ちなさい! それに静雅! 勝手に侠を持っていくな!」
「悪いな霊夢。これは大事なことなんだ」
静雅は侠と天子の肩に手を置くと、博麗神社から三人はその場から消えた……。
次話は地底へ移動。
ではまた。