幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 重なる影。
 表主人公視点。
 では本編どうぞ。


六話 『話している中で』

 比那名居に強制に移動させられて、来たのは──視界には一面に広がる雲が見える絶景だった。雲の他に広がるのは青空のみ。そんな景色。

 

「……地上と違って独特な雰囲気だね……」

 

「そりゃあ天界はたいして面白いものがあまりないし。ここはつまんない場所よ、本当に」

 

 自分の言葉に反応して、比那名居は答えてくれた。

 

「つまらない? 天界には天界の独特な文化があるんじゃないの?」

 

「あったとしても堅苦しい風習だけよ。天人としての格を備えるための修行を積んだりとかそんなつまらないことばっかり。私は成り上がりだからそんな事はしてないけど」

 

「? 成り上がりという事は元々は天人じゃなかったって事?」

 

「そうよ。元々は私は地上人。親の功績が認められて天界に住むようになっただけ。でも……本当にここは何もないのよ。暇つぶしできる相手もいないし、退屈な生活。やってくるのは死神だけ。まぁ、相手にならないけどね」

 

 ……どうして退屈な生活をしているだけなのに死神がやってくるんだろう? でもある意味怖そうだから深く聞き入らないことにした。

 

 ……そういえば幻想郷に来た当初に霊夢が地震がどうか言っていたような──

 

「ねぇ、もしかすると何か異変を起こしたことある? 確か気質を集めてだの、地震を起こして博麗神社を倒壊させたのって……もしかして君?」

 

 そう問いかけてみると……平然な顔で比那名居は頷いて答えた。

 

「そうよ。あまりにも退屈過ぎたから私自ら異変を起こしたの」

 

「……退屈過ぎて異変を起こすって一体……?」

 

「始めは人の気質を集めて天気を操ってたのよ。それで一部の奴は感ずいたけど……肝心の異変解決者の反応が遅くてね。それで地震を起こして神社を倒壊させたの」

 

「そこはおかしい」

 

 他に気付かせる方法はあったと思うんだけど……?

 

 読めない行動に自分は心配気味にある事を尋ねた。

 

「まさかだと思うけど、そのまま神社放置ってことはしてないよね……?」

 

「それはちゃんと修繕させたわよ。その時はそれが目的だったし」

 

「……ゑ? 倒壊させることが?」

 

「えぇ。今更言うのも何だけど……その時は博麗神社を私の一族と結び付けようとしたんだけど……あのスキマ妖怪が邪魔してくれてね。おかげで計画が台無しになったわ」

 

「紫さんがねぇ……? それで怒るようなものだったのかな?」

 

 自分の言った言葉に、ここぞと言わんばかりに比那名居が同調してきた。

 

「でしょっ! ただ神社の下に要石を差し込んで、私が行き来する範囲を増やそうとしただけなのに……しかも私達天人が修繕した神社をぶっ壊したのよ!? どんだけ私の事が嫌いなのよ!」

 

 たまにだけど……紫さんは博麗神社によく現れるらしい。そんな頻度で自分は見ていないけど、霊夢との触れ合いの場を、幻想郷の大事な場所を汚されたと思って怒ったのかも……。

 

 でも……比那名居の言い分は理解できた。その事を口に出して言ってみる。

 

 

 

 

 

「つまりは天界の生活は退屈だから、気楽に地上の人物と触れ合える場所が欲しかったんだよね?」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

「…………ん?」

 

 あれ……何かおかしい発言でもしたんだろうか? 比那名居が凄い意外そうに自分の顔を見てきた。

 

 おそらく何を考えているのか察しで来たのか、天子は疑問を含めた声で話しかけてくる。

 

「あ……あんた……? 私のやった行動を否定しないの? まがりにも博麗神社に居候しているんでしょ? 怒らないの?」

 

「方法はアレだけど、もう過ぎ去ったことに怒ってもしょうがないし。それに壊したからといって放置じゃなくて、ちゃんと直したんだよね? もっと別な方法はあったと思うけど……結局は退屈な生活を終わりにしたかった。少なくても比那名居の気持ちは分からないでもないよ。人は基本、誰かと繋がりがなきゃ人生楽しくないもんね」

 

 ……自分で言っておいてなんだけど、言えたことじゃないけどね。

 

 でも……自分の発言の所為か、何かを考えているような感じを見せる比那名居。

 

「(え? 本当に? それで私がダメと言われたら適当にスキマ妖怪の悪口でも言おうと思っていたのに……? だったら尚更好都合ね)」

 

「比那名居? どうかした?」

 

「何でもないわ。それであんたに聞いてみたいんだけど──」

 

 そう言いながら、身を乗り出すようにして自分に接近してきて、言葉を繋げる。

 

「どうしたの?」

 

「──天界にあんた、住んでみない?」

 

 ……またもや居住について誘われた。一体これで何度目なんだろう?

 

 無論、断るつもりだけど……否定する前に詳細を尋ねてみる自分。

 

「一応聞くけど何で?」

 

「あんたと一緒なら退屈しないから」

 

 誘うように、自分の頬に彼女の手を当ててくる比那名居。その言葉に一瞬惹かれたけど……比那名居の手を下ろしながら自分は断り文句を言った。

 

「そんなことを言われても……自分はいつか外界に帰るつもりだから、どのみち一緒にいれないよ? それで博麗神社から動くつもりはないし」

 

「えぇー……? せっかく誘ってあげているのに?」

 

「外界に戻って確かめなきゃいけない事柄があるからね。仕方ないんだよ。まぁ幻想郷にいる間は、時間が空いていたら別に構わないけど……」

 

「外界に帰るって言ったってどうせあの胡散臭いスキマ妖怪でしょ? 具体的には何時ぐらいに帰るのよ?」

 

「外界で変な事が起こっているから、それが終わるまでだけど……」

 

 自分がそう言うと……比那名居はこの事柄について意見した。

 

「あのスキマ妖怪は信用しない方が良いわよ? 大体あんな奴が言うことは胡散臭いだけなんだから。実際に幻想郷に来て外界事情を聞いたことあるの?」

 

「…………そういえば無いような気がする」

 

 比那名居に言われて気づいた。一度も紫さんの口から今までの外界事情を聞いていない。今の外界はどうなっているか? もう少しで終わるのか?

 

 

 

 

 

 そして──何時になったら外界に帰れるのか?

 

 

 

 

 

 次々と浮かぶ疑念に比那名居は言葉を続けた。

 

「今博麗神社にあんたはいるって言ったわよね? 元々あんたは外来人なのかもしれないけど……龍神の先祖返りで、初代龍神が心の中にいる。その上異変解決者でもある。それであんたはこの幻想郷ではかなりの知名度を持っているのよ? そんな風になったあんたを外界に帰すつもりなんてあるかしら?」

 

「……でも、そういう約束事でこの幻想郷にいるわけだし──」

 

「じゃあこれで良いんじゃない? もしあんたが外界に帰れなくなったら天界に住む。これで問題はないでしょ?」

 

「……外界に……帰れない……」

 

 ……本当に紫さんは外界に帰してくれるんだろうか?

 

 その事についてご先祖様は……どう思いますか?

 

『「……今は何とも言えないの。我は心を読む悟り妖怪の力は持っておらんし……信じるしかないのではないか?」』

 

「……まぁ、帰るという前提で」

 

「ふーん……まぁ、いいけど」

 

 保留みたいな言い方になってしまったけど、これで良かったと思う。自分は外界の人物であり──戻って確かめなければならない事柄があるから。

 

 比那名居は自分の返答を流した後でも、言葉を続けた。

 

「さっき初代龍神がいる所為か、全ての種族に当てはまるって言っていたけど……何かの種族に固定できるの?」

 

「そうだと思うけど、自分は人間で生きていくつもりだよ。元々の種族が人間なわけだし、外界に帰る際も人間」

 

「いっそ、天人になるつもりはないの? その気になれば桃を食べる過程を飛ばしてでもなれるんだし?」

 

「別の種族は考えてないよ。ただ──」

 

 自分自身はそう思ってはいないのだけど──からかいも含めて──

 

「──比那名居と恋仲になるのなら話は別だけどね」

 

 適当に『順序をわきまえて出直しなさい』と言われて邪険に扱われると──

 

「……………………は? はぁ? はぁっ!? ななな──何言っているのよあんたはぁっ!?」

 

 あれ……予想とは違って比那名居は少し距離をとって、指をこちらに向けながら頬を赤く染めて言ってきた?

 

 まぁ、これはこれで面白い反応だったり。

 

「あれ? 永江さんが【総領娘様】って言っていたから良家なんだよね? てっきりそういうお家柄の付き合いがあるのかとてっきり──」

 

「ないわよそんなのっ!? 確かにそういうのも持ちかけられたこともあるけど、私の好みじゃないから一蹴したわっ! むしろ私じゃなくて家での結び付きを強くするためのやつだから論外よっ! 私は家柄じゃなくて私自身を見てくれる異性が良いのっ!」

 

「あぁ~……それは納得できるね。政略結婚じゃなくて恋愛結婚ということでしょ? やっぱりそういうのが良いんだ」

 

「そりゃそうよ……私自身を見てくれるような──って何言わせるのよーっ!?」

 

 いつの間にかに語っていた比那名居は、そんなに痛くはないが軽く殴って来た。少し痛いポカポカレベルで。

 

「冗談のつもりだったのにそこまで過剰反応されるとねぇ……もしかして初心?」

 

「…………っ!」

 

 あ、自分の言葉にさらに顔を赤くした。図星だったんだ。

 

 そして自分の言葉に踊らされているのが気に食わないのか……比那名居も負けじと自分を弄ろう(?)としたのだけど──

 

「じゃ、じゃああんたはどうなのよっ!? そういうのあるわけ!?」

 

「ううん、ないよ。自分もそういう経験はないし。ただ、身近にいる異性の所為で鈍くなっているんだと思う。義妹(いもうと)の所為で」

 

「妹で!? あんたの異性関係どうなってんのよ!?」

 

「……どうなっているんだろうね? どう思う?」

 

「私に聞かれても答えられないわよ!? 会って間もないんだしっ!」

 

「だよねー。無茶振りだったね」

 

「自覚しているなら言うなっ!?」

 

 何だろう……物凄い弄り甲斐があるような気がする。

 

 でも……これで──

 

「少しは空気が軽くなったかな? さっきから重い話ばっかりだったし」

 

「…………は? もしかして空気を換えるためにそういう冗談を私に?」

 

「ここ最近、自分はツッコミにまわっていたばかりだったからボケにまわろうと」

 

「いや知らないわよ!? あんたがツッコミかどうかはともかく!? だからって私を出汁にしないでくれるっ!?」

 

「何か比那名居との会話は楽しくてね。つい」

 

「え……私との会話が……楽しい?」

 

 何故か期待した目で自分を見てくる比那名居。それで自分はこう答えた。

 

「他の人に冗談を言うとマジ事と勘違いさせそうで。多分、自分の言う事は冗談が通じないと思う。でも比那名居は自分の冗談で面白い反応を見せてくれるから」

 

「……えっと、その……ありがとう……?」

 

「ゑっ? 今軽く弄ったんだけど、ありがとうって一体どういう事なの──」

 

「な、何でもないっ! それ以上変なこと言うなっ!」

 

 そう言うと比那名居は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 

 うーん……よほどこの天界で話し合える人がいなかったんだろうか? まさか比那名居自身がどう扱われようが、触れ合っていること自体が嬉しいのかな……?

 

『「……主、天子はその通り嬉しいのだと思うぞ?」』

 

 疑問を抱えていたところにご先祖様が話しかけてきて、会話を続ける。

 

『「天子の情報なのだが……こやつは寂しいのだ。成り上がりの天人の所為で親しい友がおらん。それで天界に来たまでは良かったのだが……多数の天人からの人気があまりないのだ。天子の行動は天人としての格がないからの。それに……元は地上人。おそらくその時にいた友人と離れ離れになったはずだ。そして地上の生物が羨ましくて、異変を起こしたのだ」

 

 ……そっか。一種の──【あの時】の自分に近いのか。

 

『「まぁ、主は竹馬の友である本堂の者がいるからともかく。天子はそういう存在がおらぬからな。例え自身が不遇な扱いをされようが……さっきの主との時間を楽しんでおるのだろう。天界云々の話は、主がいれば本当に退屈しないと思っているのだろうな」』

 

 自分はご先祖様のいう事に納得し、比那名居に話しかけようとしたが──

 

『またあの不良天人がいる……ここは僕らのデートスポットなのに』

 

『しかもあれ……地上人じゃないのあの男は?』

 

 どこか癪に障るような、神経を逆なでするような声が聞こえてきた。比那名居と共に振り返ってみると……多分、天人同士のカップルだ。何故か自分たちを見てどこか──嫌悪感を抱いているような感じだった。

 

 すぐさま天子はその二人に反応して言葉をかけた。

 

「何? ここは私達が先にいたんだけど? 邪魔だからどっか行ってくれる?」

 

『邪魔なのはお前たちだろ。成り上がりの不良天人の癖に……』

 

『それに……隣にいるのって天人じゃないわよね? 地上人とそういう関係だったというの? やっぱり成り上がりはそういう悪い付き合いしているのかしら?』

 

 

 

 

 

【何でお前が俺の息子より出来が良いんだっ!? 成り上がりで辰上家に入ってきたくせに生意気だっ!】

 

 

 

 

 

 …………。

 

 天人二人組が言ってきたのに反応してしまい、言葉を返してしまった比那名居。

 

「べ、別に地上人なんて関係ないじゃない! それだけなのに悪い付き合いってなんなのよ!?」

 

『だってお前、地上の妖怪達を挑発して異変を起こしたんだろ? しかも大した理由じゃなくて汚い理由で』

 

『やっぱり元地上人は汚らわしいわよ。何でそういう事をするのは意味不明だわ』

 

 

 

 

 

【どこの子もわからない、辰上家に汚らわしい血が混ざるだなんて……あの分家は一体何を考えているの!?】

 

 

 

 

 

 …………。

 

 言葉を返さない方が良いのに、比那名居はムキになって言葉を返す。

 

「! あんた達に地上の何がわかるわけ!? 一度も地上に降りたこともない、見たこともない癖に!」

 

『下等な生き物とその済む土地を見て何になるんだ? 地上人と天人なら、天人の方が格上だろうが?』

 

『まったくのその通りね。それに妖怪だって汚らわしい。襲うか襲われるの世界じゃない。それに天人より格上なのが龍神なんだから、地上の関わっていたってしょうがないじゃない。役に立つとすれば食料ぐらいしかないわけだし、そういう利用価値しかないのよ、地上人は』

 

「……! 何も知らない癖に……!」

 

 ──天子が悔しそうにしている。元は地上人の天子。大事な故郷を馬鹿にされて。

 

 

 

 

 

 何より……今の天子は──【あの時】の自分と同じようで。

 

 

 

 

 

 雑な扱いされて。

 目の敵にされて。

 蔑まれて。

 認めてもらえなくて。

 

 

 

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

『何でお前が天人なんだよ……お前がいなくても全然困らないのに』

 

【俺はあいつを辰上家とは認めない。精々俺の為に利用させてもらうだけだ】

 

 

 

 

 

 

 

 どこぞの天人が天子にそう言い放った時──俺の何かがキレた。

 

 

 




 ……。

 ではまた。

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