幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 戦闘はこれで終わり。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


五話 『振るう新しき力』

 侠が新しいスペルカードを宣言した瞬間──侠付近に青紫に近い紫電に染まった雷が落ちる。その一つの雷が侠に当たり……閃光の強さに天子、傍観していた衣玖までもが目を瞑る。

 

「!? 雷!? 何なのよそれ……!?」

 

『……あれが侠さんが私の【力】を使った姿ですか……』

 

 一足早く視界が戻った衣玖は姿が変わった侠を観察した。

 

 今の侠の姿は──髪の色が青紫に染まり、髪の毛も若干伸びている。彼の適合スペルは大概コートを羽織っているのだが……今回は違う。衣玖が羽織っている羽衣と似たようなものを体に纏わせている。目の色も青紫に染まり──侠の体からバチバチと紫電も纏っていた。同時に左手で持っていた剣も紫電を纏って、色も青紫へと変わっていたが。

 

 天子も視力を取り戻しては侠の姿の豹変ぶりを見ると無論、驚愕。

 

「っ!? 何で衣玖っぽい姿をしているのよ!? 衣玖っ! あんたさっきの閃光の間に何かしたの!?」

 

『いいえ……私はここから動いていませんし、何もしていません。まぁ、心当たりはあるんですけどね……』

 

「知っているの!? それって何よ!?」

 

『申し訳ありません……龍神様の事に関わってくるので言うことが出来ません……』

 

「龍神が関わっていることなの!? あんたは確かに龍神の先祖返りなんでしょうけど……先祖返りってそんなこともできるの!? 誰かの姿に似させることが!?」

 

 この場において龍神事情をしらないのは天子だけだ。衣玖はその場で四代目龍神の厚意を受け取り、事情を聞いた。

 

 実際には先祖返りだからというわけではなく、彼に憑りついている初代龍神の能力である【力を手に入れる程度の能力】で、戦闘以外のもう一つの入手条件で衣玖の弾幕の力を手に入れた。そしてその手に入れた【力】を侠に渡した。そして辰上侠の能力である【力を発展させる程度の能力】で手に入れた【力】を発展させ、【紫電を操る程度の能力】とした。スペルカード無しで行使することもできるが、その能力を特化させたスペルカードが適合【エレクトリカルオーバードライブ】である。

 

 侠は右手に紫電が走っていることを確認した後……改めて天子に向かい合った。

 

「悪いが、ご先祖様に悪いから負けてられないんでね。それ相応の力で行かせてもらう!」

 

 そして侠は左手振るい──紫電に染まった雷の弾幕を放つ。それに対して天子は継続していたスペルを利用し、光の玉を地面に落として要石を出現させて防御した。

 

「くっ……攻撃する際の閃光がうざったいのよ!」

 

 そう文句を言いながら天子は手元から要石を出現させ、その要石から多数のレーザーに似た弾幕を繰り出す。それに対して侠は白紙のスペルカードを取り出し──宣言。

 

「紫電【疾風迅雷】!」

 

 宣言し終えると侠の体から紫電に染まった強い光が放出され、周りの環境ごと光で包み込んだ。急な光の出現で天子は視界が奪われ、腕で隠しながら目を閉じる。

 

「眩し──」

 

「俺が言うのもなんだが、視線を外すのは感心しないな!」

 

 そういう言葉共に侠は風の力には及ばないものの、素早い速さで天子の懐に接近した。目くらましにより天子は攻撃態勢が崩れているのも加え、まともに防御態勢を取れなかった。

 

 そして侠は徐々に天子の丹田に徐々に動くようになった右手を置いて──ゼロ距離で紫電で攻撃!

 

「──きゃああああっ⁉ こ、このっ!!」

 

 数秒間、天子は攻撃を受けていたが……痺れる体に鞭を打ちながら緋想の剣で侠に攻撃しようとする。が、侠はそれを察知し、自分の剣で受け流して一気に後退。侠のスペルカードは単発のようでスペルブレイクしたが……同時に天子のスペルカードもブレイクした。

 

 体がまだ痺れているのかわからないが……天子は侠の事を真直ぐみて話しかけた。

 

「目くらましで不意打ちしてくるなんて……! しかも剣を使わないで、雷を使ってでの直接攻撃⁉」

 

「剣は防御にまわさせてもらった。お前は物理防御が高いようだから、そんな攻撃はあまり通用しないと思ってな。だが……こういう属性の弾幕攻撃ならどうだ? さすがに効いただろう?」

 

「まだ私は全然余裕よ! だってまだ本気出してないし!」

 

「……本気出せなくて終わるパターンじゃないか、それ?」

 

 思わず侠は言葉がこぼれたが……それは天子にも聞こえていたようで、強がるかのように言う。

 

「全然違うわ! まだ私がその気じゃないだけよ! このスペルを攻略できたら考えあげても良いわ!」

 

 そして天子は次のスペルカードを取出し、宣言した。

 

「天地【世界を見下ろす遥かなる大地よ】!」

 

 宣言すると天子は緋想の剣を地面に向けて構え、そのまま地面に突き刺すと──天子を中心として周りの地面が隆起し始める!

 

「当たると思うな!」

 

 侠は翼は出さずに──羽衣でのおかげなのか……軽やかに空を飛んだ。風の適合スペルみたいな速さ重視ではない。機動性を重点においた飛び方だ。素早い動きではなく、細かい動作で隆起する地面の柱を避けていた。

 

 まるで──空気の中を泳ぐように。

 

 攻撃が当たらなかったが、天子の足場は天高く上昇。スペルカード名のように天から見下ろすようにしながら、緋想の剣を天に向けて構える。

 

「これだけじゃ終わらないわよ!」

 

 掲げた緋想の剣から球状の弾幕が天から降りかかるように侠を襲う。それでもなお、侠は泳ぐように弾幕をグレイズ。

 

「どうやら、この適合スペルの方が相性がいいみたいだな……!」

 

 当たりそうな弾幕ももちろん存在するが、その弾幕の対処は雷の弾幕で相殺したり、剣で受け流す。

 

 そして彼は剣に弾幕の力を込めて──

 

「ゼアッ!」

 

 ──紫電を纏った素早い斬撃の弾幕が天子を襲った!

 

「ぐぅっ!? ま、まだ……!」

 

 天子は攻撃を耐えて、緋想の剣を構え、隆起した地面から飛び──自由落下の勢いで剣で斬りつけようとする!

 

「やぁあああっ!」

 

 兜割の要領での近接攻撃。天人の体でもある天子は有利に働く攻撃だ。

 

 だが……それを分析した侠は──近距離になる前に白紙のスペルカードを掲げ、宣言!

 

「紫電【エレクトリカルドラゴン】!」

 

 構えた侠の手から紫電の弾幕でできた龍の弾幕を放った。近距離圏内に入れたかった天子はそのまま、雷龍の弾幕を浴びることになる。

 

「きゃあああっ!?」

 

 声を上げながら、天子は空中で体勢を崩しては、手元から緋想の剣を放した。ここだけを見るなら明らかに天子の敗北だ。

 

 だが……侠は見逃さなかった。天子が落ちながら不敵に笑っていたのを。

 

「(絶対何かを仕掛けてくる! それで何故剣を離す必要があるんだ!?)」

 

 そして天子は落ちながら──有頂天になりながら思う。

 

「(確かにあんたは強いわ。それは認めてあげる! だけど……緋想の剣が地面についたとき、地面を隆起させて舞台を整えた後──【全人類の緋想天】で一気に片を付けてあげるわ!)」

 

 彼一人なら天子の策略は成功し、スペルカードを発動できただろう。

 

 

 

 

 

 しかし、天子は知らない。彼の体は一つだが──心にもう一人の住人がいることを。

 

 

 

 

 

 そのもう一人の住人──初代龍神であるティアーは素早く侠に行動を指示した。

 

『「主! 緋想の剣が地に着くまでに回収するのだ! そして主がそれを使い──天子の気質の弱点を突け!」』

 

「(! わかりました!)」

 

 すぐさま侠は緋想の剣の元へと飛ぶ。空中で落ちながらその光景を見た天子は信じられなかった出来事であった。

 

「(!? どうして緋想の剣に向かうの!? まさかあいつ、私が何をしようとしているのかわかっているの!?)」

 

 天子はその事に動揺しながら見ててしまい……侠は地面につく前に緋想の剣を動けるようになった右手で柄を掴んだ。そしてそれを振りかざし──天子に接近!

 

「!? どうして人間が緋想の剣を使え──」

 

「お前が何をするかはわからないが、このまま──蹴りを付けさせてもらう!」

 

 緊急回避できなかった天子はそのまま緋想の剣を扱った侠に──弱点を突かれてしまい──

 

「──きゃああああああっ!?(ピチューン)」

 

 ……侠は、緋想の剣でトドメを刺し……比那名居天子に勝利。そして地面に落ちる前の天子を素早く侠は腕で抱き止めた。

 

 その姿は……お姫様だっこである……彼としてはこの体勢の方が受け止めやすいためであるが。無論、その状態になれていないのであろうに天子は顔を赤く染め上げ、侠に抗議し始めた。

 

「ちょ、ちょっと!? 何でこんな姿勢に私はなっているのよ!?」

 

「この体勢が手っ取り早かったからな。少し待て。地上に降りる」

 

 天子を宥めながら侠は地上にゆっくりと着地。適合スペル、剣スペルを解除するのを忘れない。そしてすぐさま天子は侠が持っていた緋想の剣を奪うように取り戻し、距離を取った。

 

「な……何で天人じゃないあんたが緋想の剣を扱えるのよ!? 緋想の剣は天人にしか扱えない武器なのよ!?」

 

「まぁ……いろいろツッコミたいと思うが、俺は人間でありながら幻想郷で確認されている種族に当てはめることが出来るんだ。おそらく、それで天人にしか扱えない武器という限定されたものでも扱えたんだろうな」

 

「……何よ全ての種族に当てはまるって?」

 

「……言ってもいいか。俺はこの幻想郷の創造神であるティアー・ドラゴニル・アウセレーゼの先祖返りであり、その魂というか、思念というか……俺に憑りついているんだ」

 

 話が平行線になるであろうと察した侠は少し事情を話した。内容が内容なので……天子は驚愕しかできなかった。

 

「…………はっ!? それじゃあ今いる龍神は何なのよ!? それに初代って!?」

 

「……順序を追って話すか。永江さんもこっちに呼んで話そう」

 

 

 

 

 

 少年説明中……

 

 

 

 

 

「──と、いうわけ。すぐには納得してとは言わないけど……わかった?」

 

「外界の人間がもうすでに幻想郷側の人物じゃない。それで体を共有しているって……」

 

「総領娘様。できればこの事は内密にお願いしますね? 機密事項なので」

 

「あの妖怪はともかく、流石に龍神に喧嘩を売ろうとは思わないわよ……」

 

 【自分】口調に戻った侠の説明と衣玖の補足的な説明で天子は一先ず納得した。それならしょうがないと割り切るしかなかったからだ。

 

 そして……本来の目的の為、侠は天子に話を持ちかけた。

 

「それで……ちょうど天子の【力】がご先祖様の必要な【力】だったんだよ。今はご先祖様が能力発動を抑えているけど……あまりいい気はしないだろうけど、【力】の回収をして良いかな?」

 

「それが初代龍神の能力なら仕方ないんじゃない? 現に……というより次から本気を出す! それまでほかの奴に負けるんじゃないわよ!」

 

「えぇー……」

 

 露骨に嫌そうな表情をした侠だが、彼の心の中でティアーが気遣うように話しかける。

 

『「主よ。それぐらい許容してやらんか。天子のおかげで我の最低限の力が取り戻せるのだからな」』

 

「(……まぁ、時間のある時に)」

 

 ティアーの言葉を聞いて、侠は天子に返事をし──ティアーの能力を発動させようとする。

 

「できれば戦闘以外の奴だったら良いんだけどね……じゃあ、回収するよ」

 

 そう言うとティアーは抑えを外し――青に染まった光が天子の体から出てくる。

 

 現在行われた光景を見て衣玖は冷静に言う。

 

「……総領娘様は青なのですね? 私は青紫でしたが」

 

「衣玖はそうだったの? 何ていうかアレじゃない? 何となくのイメージカラー的な?」

 

 二人にしては呑気な会話をしているが……青い光は侠の体内へと入って行った。そして侠の体の中で──何かの波紋が広がるように感じた。

 

 その事に侠は疑問符を浮かべていたが、ティアーが解説。

 

『「気にすることはないぞ主。我に最低限の力が戻ったという証みたいなものだ。水、火、風、雷、土。この五つの力を揃える事が出来た。よって我の能力の制限が解かれる。これからはどんな能力を持った人物と戦い勝利すれば、その能力を手に入れることが出来るようになったのだ。他にも色々な補正が解禁される」』

 

「(そしてその能力を自分の【力を発展させる程度の能力】で強くするわけですね?)」

 

『「うむ。その通り」』

 

 侠はティアーの説明に納得すると……天子がどこか高揚しているような、そのような声で侠に話しかけた。

 

「ねぇ、あんたは外界出身ってわけだし、外の世界の事教えてくれない? 地上はあんたの友人が起こした異変以来変わりないし……いい暇つぶしになると思うのよね」

 

「ゑ? 自分としてはすぐ帰りたい気分何だけど──」

 

「あんたがそうだとしても私がつまらないのよ! せっかく他の奴とは全然違うんだから私の娯楽に付き合いなさい!」

 

 侠は拒否の意思を見せたが、天子は構わず侠の手を掴み、彼を強引に移動させようとしたが──彼の手を直に掴んだことで、天子の体に違和感が広がる。

 

「……? 何これ……凄い体の調子が良いわね……あんた、何かしたの?」

 

「自分で能力常時発動なんだよね……肌と肌が触れると発動するみたいで。調子が良くなったのは自分の【力を発展させる程度の能力】のおかげだと思う。それで天子の潜在的能力の一時的上昇、能力も発展していると思うよ。ただし肌を肌が触れ合っている時に限定だけど」

 

 そう侠は説明すると……天子は面白いものを見つけたかのような反応を示した。

 

「(さっきの弾幕ごっこといい、こいつの能力といい……この龍神の先祖返りが私の味方になれば──誰もがまた私の事を注目してくれて、この退屈な生活が終わるかもしれない……! そうなったら八雲紫にだって私に敵わなくなる!)」

 

「? 比那名居、どうかした?」

 

「別になんでもないわ。ここじゃあ景色があまり良くないから場所を移すわよ!」

 

 侠の疑問を一蹴し、天子は浮かび上がる。それに対して侠は反応し、即座に龍の翼を出した。

 

 急な天子の行動に異議を侠は申し立てようとしたが──

 

「ちょっ!? 自分飛ぶには適合スペルか龍化しないと飛べないし、行くとも一言も──」

 

「私の力をあげたんだからいいでしょっ! 黙って私の言う事を聞きなさい!」

 

 そのまま連れられるまま、天子と侠はその場を去って行った……。

 

 二人のその光景を見た衣玖は心配そうに一言。

 

「……問題が起こらなければいいのですが……」

 

 呟くように言って、二人を一時的に見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その中──

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

 ──不気味な空間から監視するように覗く妖怪がいたとは誰も知らなかった……。

 

 

 

 




 まだ天界で色々な話を。

 ではまた。

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